大量流出の時限爆弾
2013年9月8日 寺岡克哉
いま現在・・・ 福島第1原発は、
「高レベル汚染水」を大量に流出させる、「時限爆弾」を抱えて
いるようなものです。
なぜなら、
鋼板をボルトで締めて作った、「フランジ型」と呼ばれるタンクには、
大量の「高レベル汚染水」が貯蔵されているのですが、
その「フランジ型」のタンクは、接合部の樹脂製パッキンが劣化しやす
いため、
「耐用年数が5年しかない」と言われているからです。
ちなみに、
その「フランジ型」のタンクは、1基の容量が1000トンありますが、
およそ300基もの、そのようなタンクに、「高レベル汚染水」が貯蔵され
ています。
つまり、それら300基のタンクすべてが満タンだとすれば、
30万トンの「高レベル汚染水」が、「フランジ型」のタンクに貯蔵されて
いることになるのです。
そして今後、
そのような大量の「高レベル汚染水」が、次から次へと漏れ出す
可能性があるわけです。
* * * * *
しかも!
「耐用年数が5年」というのも、すべてのタンクで確実に保障されている
訳ではありません。
その事実として、すでに汚染水が漏れ出したタンクが、いくつもあるの
です。
たとえば8月20日には、
「フランジ型」のタンク1基から、およそ300トンもの高レベル汚染水が、
漏れ出していたことが判明しました。
それによって流出した放射性物質は、24兆ベクレルにも上り、
INES(原子力事故の国際評価尺度)における、「レベル3(重大な異常
事象)」であると、正式に決定されています。
さらには9月2日までに、
汚染水の漏出や、高い線量が確認された「フランジ型」のタンクは、
7基にも上っています。
そしてさらに、9月3日には、
「H3エリア」と呼ばれる場所にある「フランジ型」のタンクで、毎時2200
ミリシーベルトという、ものすごく高い放射線量が計測されました。
こんなに高い線量だと、1時間49分浴びれば(4000ミリシーベルトの
被ばくをすれば)、被ばく後30日までに50%の人が死んでしまいます。
さらには、3時間11分浴びてしまったら(7000ミリシーベルトの被ばく
をすれば)、100%の人が死んでしまうのです。
以上のように、
「フランジ型」のタンクは、設置してから5年後ではなく、
すでに今現在において、深刻な危機に直面しているのです!
* * * * *
ところで、
「フランジ型」のタンクが脆弱(ぜいじゃく)であることは、
現場での作業に詳しい人々からの証言も、いくつか得られています。
たとえば、
300トンの「高レベル汚染水」が漏出したタンクの設置に携わった男性
作業員は、9月1日までに共同通信の取材に応じ、
「次から次へとタンクを作らなければならなかった。品質管理よりも
造ることが優先で、”漏れるのではないか”との心配はあった」
と証言しています。
この男性は、2年前に下請け会社の作業員として、「H4エリア」と呼ばれる
タンク群の設置に携わりました。
タンクは、ボルト締めの「フランジ型」で、増え続ける汚染水対策のため、
東電や元請け会社から工期を守るように指示され、3日に1基のペースで
設置し続けました。
資材は大急ぎで調達されたためか、数日分の資材が一度に届いたり、
その逆に1日の作業に必要な量が届かなかったりの繰り返しでした。
さびたボルトが混ざっていたこともあったと言います。
この男性は、「タンクは全て仮設。劣化が進み、これからもっと漏れる
のではないか」と懸念しています。
また、これより先の8月25日までに、
廃炉作業に参加している東電協力会社(福島県いわき市)の会長(72歳)
は、毎日新聞の取材に応じ、
「タンクは工期が短く、金もなるべくかけずに作った。長期間耐えられ
る構造ではない」と証言しています。
この東電協力会社は、事故前から原発プラントの設計や保守などを東電
から請け負い、
事故後の復旧作業では、汚染水を浄化して放射性物質を取り除く業務に
携わっています。
そのため、この東電協力会社の会長(72歳)は、汚染水を貯蔵している
タンクを設置したゼネコンともやり取りがあり、内部事情に詳しい人物です。
その会長(72歳)が、東電幹部やゼネコン関係者から聞いた話では、
300トンの汚染水漏れを起こしたタンクは、設置工事の時間が短かった
うえ、東電の財務事情から安上がりにすることが求められていました。
タンクは「フランジ型」で、猛暑によってボルトや水漏れを防ぐパッキンの
劣化が、通常より早まる可能性も指摘されていたといいます。
さらに、この会長(72歳)は、
「野ざらしで太陽光線が当たり、中の汚染水の温度は気温より高い
はず」
「(タンクの)構造を考えれば水漏れは驚くことではなく、現場の感覚
では織り込み済みの事態だ」
「現場の東電の技術スタッフも心配はしていた」
と明かしています。
* * * * *
以上、ここまで見てきて、私は思ったのですが・・・
たとえば、パッキンの「放射線損傷」を考えに入れると、
「フランジ型」のタンクの寿命は、さらに短くなってしまうのでは、
ないでしょうか。
つまり、
1リットルあたり8000万ベクレルという、ものすごい放射能をもつ
「高レベル汚染水」が、
水漏れを防ぐための「樹脂製のパッキン」を、放射線で侵食しながら
タンクの外側へ外側へと滲(し)み出していき、
思ったよりもずっと短時間のうちに、パッキン全体をぼろぼろに損傷
させてしまうのでは、ないでしょうか。
その昔、
シリコン半導体における「放射線損傷」の研究(注1)に携わったこと
のある私には、
そのようなことが、ものすごく気になってしまいます。
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(注1) いちおう、学術誌に掲載された論文もあります。
Katsuya Teraoka et al.
"Radiation damage test of position sensitive silicon detectors"
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A324
(1993)276-283
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