4京5080兆円の被害
                            2013年8月18日 寺岡克哉


 毎年のことながら・・・ 

 「地球温暖化の深刻さ」が、実感される季節になりました。



 総務省の消防庁によると、

 5月の末から8月11日までに、熱中症で病院に運ばれた人は、

 全国で3万9944人に上り、

 昨年の同じ時期よりも、30%近く増えているそうです。



 消防庁は、とくに「高齢者」は暑さを感じにくい人も多いことから、

 室内にいても水分をこまめに取り、エアコンを使って室温が28度
を超えないようにして、

 「熱中症の予防に努めてほしい」と呼びかけています。


 皆さんも、熱中症には、くれぐれもご注意ください。


             * * * * *


 さて、

 オランダ・ロッテルダムのエラスムス大学と、イギリスのケンブリッジ
大学の研究グループが、

 北極圏の温暖化が進むと、海底から大量のメタンガスが放出する
ことによって、地球温暖化をさらに加速させ、

 今世紀における世界の被害額が、およそ460兆ドル(約4京5080
兆円)に上るとの研究結果を、

 イギリスの科学誌ネイチャーに、7月25日付の論文で発表していま
した。



 4京5080兆円の被害といえば、

 日本の国家予算(2013年の一般会計92兆6115億円)の、
487倍にもなります。

 つまり、およそ500年分の国家予算に匹敵するような、ものすごく
大きな被害なのです!




 私は、このことをマスコミの報道で知ったのですが、

 しかしながらマスコミの記事を見ただけでは、今ひとつ判然としない
ところがありました。

 そのため、原論文である、

 「Vast costs of Arctic change, Nature 499, p401-403 (25 July 2013)」

 にも、当たってみることにしたのです。



 以下、

 原論文も参照して、このたびの研究結果の要点について、レポートして
いきたいと思います。

 (しかし原論文の和訳ではなく、私なりに要点をまとめたものであり、必要
と思われる場合には、私なりの説明も加えています。)


               * * * * *


 北極海の北東ロシア沖200万平方キロを覆う「東シベリア海」の海底は、
永久凍土層になっています。

 その永久凍土層には、温室効果が二酸化炭素の21倍もある「メタン」が、
氷のように固まった「メタンハイドレート」の形で埋っています。

 しかし近年、そのメタンが、大気中に漏れ出していることが判明してきま
した。

 夏に北極海の海氷が覆わなくなり、海水や海底が暖まって、永久凍土が
融けているためと見られています。

 さらに一部の科学者には、すでにメタンガスの煙(プルーム)が、大量に
噴出している証拠があると言う者さえいるのです。



 そこで、オランダとイギリスの研究チームは、

 海底に埋っている500億トンのメタンが、2015年から2025年まで
の10年間をかけて、大気中に放出された場合の影響をシミュレーション
しました。

 その結果、温室効果ガスの排出シナリオが「A1B(注1)」である場合、

 「産業革命前に比べて2℃の気温上昇(注2)」が起こる時期が、

 メタンの放出が無い場合には、2050年ごろだったのに、

 500億トンのメタンが放出することによって、2035年ごろに早まると
しています。

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注1 A1Bシナリオ:
 2100年の時点で、大気中の二酸化炭素濃度が710ppmに達する
という未来シナリオ。
 原論文に載っている図では、このA1Bシナリオによる2100年の気温
上昇が、産業革命前にくらべて3.8℃ぐらいになっています。

注2 産業革命前に比べて2℃の気温上昇:
 科学的な知見によって、この気温上昇を超えると、「避けなければなら
ない温暖化の危険なレベル」に突入してしまうとされています。
 2011年に行なわれたCOP17(気候変動枠組み条約 第17回締約
国会議)の合意文書には、抑制するべき気温上昇の大きさとして、
「産業革命前の気温に比べて2℃もしくは1.5℃」と明記されています。
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 このような、メタンの放出による「地球温暖化の加速」によって、

 異常気象や干ばつ、洪水など、温暖化が原因となる今世紀の世界
の被害額は、

 これまで考えられていた(メタンの放出が無い場合の)400兆ドル
(およそ3京9200兆円)に加え、

 さらに60兆ドル(およそ5880兆円)が、上乗せされるとしています。



 そして、この追加被害(およそ5880兆円)の「8割」が、

 アフリカやアジア、南米などの、発展途上国にのしかかると指摘して
います。


              * * * * *


 メタンの放出が無い場合でも、400兆ドル(約3京9200兆円)
の被害!


 原論文の主題ではなかったのですが、そのことに私は、ものすごく
驚きました。

 温室効果ガス排出の「A1Bシナリオ」というのは、とくに大げさな予想
をしたシナリオではなく、

 いまの状況があまり改善できずに、このまま進んで行けば、まず
間違いなく到達してしまうような未来シナリオです。



 なので、もしも、

 温室効果ガスの「精力的な削減」を、世界規模で実行することが出来
なければ、

 その報(むく)いとして、異常気象、干ばつ、洪水などの甚大な被害が、

 世界中で発生することを覚悟しなければならないでしょう。



 しかも、

 そのような被害は、今世紀の末に急に発生し、それまで全く発生し
ないという類(たぐい)のものではありません。

 すでに現在においても、温暖化による被害は発生していますが、

 今世紀の終わりに近づくほど、どんどん大きな被害が発生するよう
になるでしょう。

 ものすごく大ざっぱな平均としては、10年間あたり40兆ドル(およそ
3920兆円)の被害が、

 これからずっと、今世紀の全体にわたって、発生して行くことになる
と言えます。



 つまりこれは、

 100年後に起こる問題ではなく、すでに始まっている問題なの
です!


 中国やアメリカも含めた、世界規模による温室効果ガスの精力的
な削減が、

 まさに、「まった無しの状態」になっているのです。



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