温暖化による食料への影響 1
                            2013年5月12日 寺岡克哉


 今回から、

 文部科学省、気象庁、環境省が合同で公表した、

 「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」という、統合レポートの
中の、

 「食料に対する影響」について記述されている部分を、紹介して行き
たいと思います。



 ところで・・・ 

 地球温暖化による「食料への影響」は、ただ単に、日本だけで閉じた
問題ではありません。

 たとえば2012年。アメリカやカナダが、広範囲の厳しい干ばつに
見舞われましたが、

 特にとうもろこしの収穫量が大きく減少したことから、他の作物も収穫量
が減少するとの見通しが生じて、

 とうもろこしや大豆の国際価格が、8〜9月にかけて史上最高値を記録
したのです。



 これによって、

 飼料産業にも影響が波及したほか、それに付随する形で小麦の価格も
上昇しました。

 幸いにして、日本における消費者への影響は限定的であったものの、
一部作物の輸入価格が値上げされ、

 とくに飼料価格の高騰は、畜産農家にとって大きな負担となりました。



 しかし・・・ 

 さらに地球温暖化が進んで、気候変動がもっと激しくなり、農作物の収穫
量が、あまりにも減少してしまったら、

 価格の高騰だけでは済まず、「輸出禁止の措置」をとる可能性も、十分
に考えられるでしょう。



 事実、

 2010年にロシアが大規模な干ばつに見舞われて、ロシア全土における
作付面積の4分の1が壊滅したとき、

 ロシアは8月15日〜12月31日まで、小麦など穀物の輸出を禁止する
措置をとっています。



 やはり、

 自国の食料が不足してくれば、外国に食料を売るのを止めるのは当然
でしょう。

 なので、さらに地球温暖化が進んでしまったら、

 「お金さえあれば、いつでも海外から食料が調達できる」という、これ
までの日本の常識が通用しなくなるでしょう。


 だから日本は、将来に向けて、食料自給率を上げて行かなければ
なりません!




 最近、

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の問題で、日本の農業が衰退して
しまう懸念がありますが、

 日本の食糧自給率(近年は、カロリーベースで39%)を、この先さらに
下げてしまったら、

 将来に向けて、重大な禍根を残すことになるでしょう。



 そしてまた、

 日本の食糧を、これ以上、放射能で汚染させる訳にはいきません!

 たとえば将来、とくに西日本で、もういちど福島のような原発事故が起こっ
たら、日本の食糧自給は壊滅してしまうでしょう。

 そんなリスクを抱えるぐらいなら、もう原発は止めて、再生可能エネルギー
を大々的に普及させていく方が良いのです。


                * * * * *


 さて、

 「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」という統合レポートの、

 「食料に対する影響」について記述されている部分の紹介ですが、

 はじめに、日本の農作物でいちばん重要な「米」から見て行きましょう。



 まず、「高温障害」に関する調査などから、

 白未熟粒(注1)は、稲の穂が出てから後のおよそ20日間に、1日の
平均気温が26〜27℃以上になると発生が増加し、

 胴割粒(注2)は、穂が出てから後10日間の最高気温が、32℃以上
になると発生が増加するなど、

 登熟期(注3)の気温が高くなりすぎると、米は大きな悪影響を受け
ことが知られています。

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(注1)白未熟粒: 成熟が不十分なために、米の粒が白く濁(にご)って
           いるもの。

(注2)胴割粒: 米の粒に亀裂が入っているもの。

(注3)登熟期: 籾殻(もみがら)の中で、米の粒が成長する時期。
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 このような「高温障害」の実例として、

 記録的な高温になった2010年は、登熟期の平均気温が各地とも
平年を上回り、28〜29℃に達した地域が多くありましたが、

 そのために、米の内部が白く濁る「白未熟粒」が多く発生し、各地で
一等米の比率が著しく低下しました。



 下の表は、2010年における、米の品質の状況です。

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 2010年における各地の一等米の比率と、過去5年の平均
との差

        一等米の比率    過去5年の平均との差

 北海道     88.0%         +0.9%

 東北       76.1%        −14.1%

 関東       75.0%        −14.9%

 東海       25.2%        −32.5%

 北陸       43.0%        −40.1%

 近畿       35.6%        −32.4%

 中国・四国   36.1%        −18.5%

 九州       35.2%         +0.1%

 沖縄       44.0%        +23.8%

 全国       62.0%        −17.6%
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 この表を見ると、

 北海道を除いた地域で、一等米の比率が著しく低下しているのが
分かります。

 とくに、北陸、東海、近畿地方は、過去5年の平均に比べて、大きく
低下しています。

 また、沖縄や九州は、一等米の比率が増加していますが、もともと
の比率(過去5年の平均)が非常に低くなっています。



 ちなみに、2010年の作況指数(注4)は、

 群馬県が82、埼玉県が86の、「著しい不良」となっており、

 秋田県が93、佐賀県が94の、「不良」

 その他の都道府県は、95〜104の、「やや不良」〜「やや良」となって
います。

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(注4)作況指数:

 その年に予想される10アール(1アールは10メートル×10メートルの
面積)当たりの収穫量を100として、その年の10アール当たりの実際の
収穫量を表した指数。

 つまり、作況指数=(実際の収穫量/予想した収穫量)×100

 ちなみに、作況指数が106以上で「良」、102〜105で「やや良」、
99〜101で「平年並み」、95〜98で「やや不良」、91〜94で「不良」、
90以下では「著しい不良」と判定されます。
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               * * * * *


 つぎに、統合レポートでは、

 米についての、さらに地球温暖化が進んだ「将来」に関する知見として、

 以下のような実験結果が載っていました。



 つまり、

 空気中の二酸化炭素濃度を、現在よりも約200ppm高くした(平均
584ppm)「実験区」と、

 現在の二酸化炭素濃度である「対照区」において、水稲を栽培した
ところ、

 収穫量は16%増加したものの、

 整米率(未熟米や、割れた米を除いた、整った米粒の割合)が、44%
から27%へと17ポイント低下し、多数の白未熟米が発生したのです。



 この実験によって、地球温暖化による米への影響は、

 気温の上昇による品質の低下、つまり高温障害だけでなく、

 大気中の二酸化炭素が増えると、その高温障害を、さらに悪化
させることが明らかになりました。



              * * * * *


 以上、

 「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」という統合レポートの、

 米に関する記述について見てきました。



 ところで、ごく単純に考えると、

 大気中の二酸化炭素が増えて、地球温暖化が進み、気温が高くなれば、

 そして「洪水」や「干ばつ」などの自然災害が起こらなければ、

 一般的に、農作物の成長が良くなるのではないかと思ってしまいます。



 しかし統合レポートを見ると、

 稲には「高温障害」というのが存在して、気温が高くなりすぎると、反って
米の品質が低下すること。

 また、

 大気中の二酸化炭素が増えると、おなじ高さの気温でも、高温障害は
さらに悪化すること。

 が、記述されていました。



 つまり米の場合、

 単純に、二酸化炭素が増えて、気温が高くなれば、成長が良くなる
と言うわけではないのです。




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