地球温暖化による健康への影響
                             2013年5月5日 寺岡克哉


 今回は、

 文部科学省、気象庁、環境省が合同で公表した、「日本の気候変動と
その影響(2012年度版)」という、統合レポートの中の、

 「人間の健康に対する影響」について記述されている部分を、紹介
したいと思います。



 統合レポートによると、

 健康への影響としては、「熱中症」「感染症」について採り上げられ
ていました。

 以下、それらについて、すこし詳しく見ていきましょう。


              * * * * *


(1)健康に対する「熱中症」の影響

 まず下の表は、国内における死亡分類の方法が変更された
1995年以降の、熱中症による年間死者数の推移です。


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   熱中症による年間死者数の推移(注1)

       年       死者数
      1995      310
      1996      160
      1997      150
      1998      190
      1999      200
      2000      210
      2001      400
      2002      300
      2003      200
      2004      430
      2005      330
      2006      400
      2007      900
      2008      580
      2009      240
      2010     1730
      2011      950

(注1)
 死者数は、「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」の
52ページ、図3.2.37のグラフから読み取った値。
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 この表を見ると、

 熱中症による死者数は増加傾向にありますが、とくに2007年
以降の近年において、急激に増えていることが分かります。

 その中でも、記録的な猛暑となった2010年には、過去最多の死者
数となりました。

 このように、

 地球温暖化による「熱中症」の影響は、すでに現れています!



 つぎに下の表は、

 熱中症による死者数を、年齢別に見たものですが、1995〜
2011年までを累積しています。


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      年齢別の熱中症による死者数(注2)

    年齢      男性    女性      計
   0〜  4     60     30      90
   5〜  9      5      0       5
  10〜 14     20      0      20
  15〜 19     50      5      55
  20〜 24     40     10      50
  25〜 29     60     10      70
  30〜 34    110     10     120
  35〜 39    130     30     160
  40〜 44    150     30     180
  45〜 49    230     40     270
  50〜 54    300     60     360
  55〜 59    330    110     440
  60〜 64    380    100     480
  65〜 69    350    160     510
  70〜 74    410    280     690
  75〜 79    490    540    1030
  80〜 84    540    700    1240
  85〜 89    390    690    1080
  90〜 94    220    380     600
  95〜 99     50    140     190
 100〜104     10     30      40

(注2)
 「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」の52
ページ、図3.2.38のグラフから読み取った値。
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 この表を見ると、

 まず、4歳以下の小さな子どもは熱中症に弱いので、周りの大人が
注意しなければ、ならないことが分かります。

 あと、5歳以上になると、年齢とともに熱中症による死者が増えていく
ので、

 やはり、高齢の方々は注意しなければなりません!



 それにしても・・・ 

 0〜74歳にかけて、男性と女性を比べると、男性の方が圧倒的に死者
が多いのは、いったい何故(なぜ)なのでしょう?



 そのことに関して、べつの資料によると、

 15〜24歳の熱中症による死亡は、「運動中」に発生することが多いと
分かっています。なので恐らく、女性よりも男性の方が、スポーツをやる人
が多いのでしょう。

 また、30〜69歳の熱中症による死亡は、「労働中」に発生することが
多いと分かっています。なので恐らく、女性よりも男性の方が、冷房の無い
屋外での肉体労働などが多いからなのでしょう。



 0〜14歳と、70〜74歳で、男性の死者が多い理由は分かりませんで
したが、恐らく女性よりも男性の方が、生物学的に弱いのかも知れません。

 ちなみに、

 75〜104歳で、逆に女性の死者が多くなるのは、女性の方が寿命が
長いので、男性よりも、もともとの絶対数が多いからだと思います。


              * * * * *


(2)健康に対する「感染症」の影響

 この項目で、おもに採り上げられていたのは、

 「デング熱」を媒介する蚊として知られる「ヒトスジシマカ」の分布が、
東北地方を北上していることについてでした。



 下の表は、「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」の53ペー
ジ、図3.2.39の左図に示されていた、ヒトスジシマカのおおよその
分布です。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
               ヒトスジシマカの分布の北限


    年    日本海側       中央部      太平洋側


 〜1950   新潟県南部    栃木県北部    福島県南部


  2000   秋田県北部    宮城県中部    宮城県北部
                    (山形県中部)


  2010   青森県南部    岩手県中部    岩手県中部
                    (秋田県中部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 この表を見ると、1950年以降から、たしかにヒトスジシマカの分布が
北上しているのが分かります。


 とくに岩手県では、

 2009年と2010年の調査で、北限地点がおよそ30キロメートルも
北上したことが確認されており、これには、「気温の上昇」が関係して
いるという報告があります。


 ちなみに、

 ヒトスジシマカの分布拡大は、直ちに「デング熱の流行」に結びつく
ものではありませんが、

 流行のリスクを有する地域が拡大していくことを、示唆していると
いえます。



 ところで、

 ヒトスジシマカは、年間の平均気温が11℃以上の地域で、生息が
可能になることが分かっています。

 そのような地域の広がり具合を、シミュレーションで予測した結果、

 2035年には、本州の北端でも、ヒトスジシマカの生息が可能になり、

 2100年には、北海道の北端でも、生息が可能になると考えられて
います。



 ところでまた、

 「ネッタイシマカ」という蚊も、「デング熱」を媒介し得る蚊ですが、現在は
まだ国内に分布していません。

 しかし、シミュレーションの予測によると、

 2100年には、平均気温の上昇にともない、沖縄や奄美大島に加えて、

 九州から関東地方の太平洋沿岸でも、ネッタイシマカの生息が可能に
なると考えられます。


              * * * * *


 以上、

 「熱中症」と「デング熱」のリスクについて見てきましたが、

 統合レポートには、具体的な死者数や患者数の予測が載っていな
かったので、とても残念に思いました。



 おそらく、具体的な死者数や患者数を予測するのは、

 医療体制の充実度や、予防意識の広がり具合など、社会的な条件が
複雑に絡んできて、ものすごく難しいことなのでしょう。

 今後の、さらなる研究が待たれます。



 しかしながら、現在すでに、

 地球温暖化による「熱中症」への影響は、明確に現れていますし、

 「デング熱」のリスクを有する地域が、秋田県中部や岩手県中部
にまで広がっているのです。


 これは、「かなり深刻な事態である」と、言わざるを得ません!



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