原発事故は防げたのに防がず
2013年4月7日 寺岡克哉
東京電力は3月29日。福島第1原発の事故について、
「原因を天災として片づけてはならず、事前の備えによって防ぐ
べき事故を防げなかった」
と総括した、原子力部門改革の最終報告書を公表しました。
この報告書は「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」
という題名になっており、
東京電力の原子力部門を中心とした作業チームである、「原子力改革
特別タスクフォース」が作成し、
アメリカ原子力規制委員会(NRC)のデール・クライン元委員長をトップに
据(す)えた東電内外の有識者でつくる、第3者機関の「原子力改革監視
委員会」によって了承されたものです。
クライン元委員長は、都内で行なわれた記者会見で、
「(東京電力の)経営陣が津波の高さなど、より詳細な事柄について
吟味することができれば、事故は防ぐことができたはずだ」と強調し
ています。
* * * * *
ちなみに東京電力は、昨年の2012年6月20 日にも、
「福島原子力事故調査報告書」(つまり社内事故調による報告書)を
公表しています。
ところが、
「事故を防げなかった原因に関して十分な分析結果が示されて
おらず、社内調査を中心とした自己弁護に終始した報告書である」
という、厳しい批判を受けてしまいました。
そのため東京電力は、2012年の9 月から「原子力改革特別タスク
フォース」を設置し、
「原子力改革監視委員会」の監督の下、福島原子力事故の技術面
での原因分析に加えて、事故の背景となった組織的な原因についても
分析を進めてきました。
それを取りまとめたものが、このたびの報告書となったわけです。
この報告書の総括では、
設計段階から外的事象(地震と津波)を起因とする共通原因故障へ
の配慮が足りず、全電源喪失という過酷な状況を招き、安全設備の
ほとんどが機能喪失した。
運転開始後にも米国のテロ対策に代表される海外の安全強化策や
運転経験の情報を収集・分析して活用したり、新たな技術的な知見を
踏まえたりする等の継続的なリスク低減の努力が足りず、過酷事故
への備えが設備面でも人的な面でも不十分であった。
とした上で、
今回の事故を天災として片づけてはならず、事前の備えによって
防ぐべき事故を防げなかった。
と結論しています。
また、東電組織内の問題として、
原子力部門には「安全は既に確立されたものと思い込み、稼働率
などを重要な経営課題と認識した結果、事故の備えが不足した」ことが
あった。
そして、これを助長する構造的な問題として「負の連鎖」が原子力部門
に定着していた。
しかし、それだけでなく、原子力発電という特別なリスクを扱う企業とし
て、経営層全体のリスク管理に甘さがあった。
と、いうことが挙げられています。
さらに報告書では、
新たに明らかになったリスクを表明すると、立地地域や規制当局から
過剰な対策を求められ、更には長期間の原子炉停止を余儀なくされる
という「思いこみによる思考停止」に陥っていた。
と、いうことも認めています。
* * * * *
上で挙げた事柄の要点を抜きだして、整理すると、以下のようになり
ます。
(1)原発のリスクを表明すると、過剰な対策が求められて原子炉の停止
を余儀なくされるという、「思い込みによる思考停止」に陥っていた。
(2)そのため、安全は既に確立されたものと思い込み、事故の備えが
不足した。
(3)このため、過酷事故への備えが、設備面でも人的な面でも不十分
であった
(4)その結果として、事前の備えによって防ぐべき事故を防げなかった。
上の文には、
「思い込み」とか「思考停止」などの、まだ「責任逃れ的な表現」が見ら
れますが、
要するに、分かりやすく「ズバッ」と言ってしまうと、以下のようになるで
しょう。
原発のリスクを表明すれば、原子炉の停止を余儀なくされる。
だから、「原発は絶対安全である」として(安全神話の創造)、事故へ
の備えを、故意的に(わざと)行なわなかった。
(もしも、事故への備えを行なったら、原発のリスクを表明することに
なり、安全神話が崩壊して、原子炉の停止を余儀なくされる。)
その結果、事前に防ぐことが可能であった事故を防げなかった。
つまり、
事前に防ごうと思えば防げたのに、
故意的に(わざと)防ごうとしなかったために、
福島第1原発の事故が起こった!
ということを、東京電力は暗に認めたことになります。
* * * * *
これまで東京電力は、福島第1原発事故が起こった原因を、巨大津波
という「想定外の天災」で済ませようとしてきました。
が、しかし、
防ぐことが可能だった事故を、故意的に(わざと)防がなかったので
あれば、
東京電力の「過失責任」は、ものすごく大きなものになります!
そうなれば、今後の訴訟問題などにも大きく影響していくことは、まず
間違いないでしょう。
このたびの、
「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」という報告書
の、最後の締めくくりでは、
「私たちの決意」と銘(めい)うって、
「福島原子力事故を決して忘れることなく、昨日よりも今日、今日よりも
明日の安全レベルを高め、比類無き安全を創造し続ける原子力事業者
になる」
と、声高々に宣言していますが、冗談ではありません!
原発を推進することより、もっと他にやるべきことが、たくさんある
でしょう。
除染の問題・・・
原発事故の終息、廃炉の問題・・・
放射性廃棄物の最終処分場の問題・・・
そして、被災者の方々の健康管理や、生活保障の問題・・・
これらの問題をすべて解決するまでは、原発の推進など、言語道断
です。
皮肉なことに、おなじ報告書の中で、
「当社を取り巻く現状を正しく理解できず、立地地域や社会の皆様
の心情への感度が鈍く、社会の皆様の不安を招いている(福島第一
原子力発電所停電事故の対応など)」
と、明言している部分があるのですが、まったくその通りです。
いま現在においてさえ、東京電力は、
立地地域や社会の人々の心情を、ぜんぜん理解していません!
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