原発事故は継続中 3
2013年3月31日 寺岡克哉
政府の「産業競争力会議」は、3月25日に会合を開き、
甘利明 経済再生担当相らの関係閣僚たちと、
佐藤康博 みずほフィナンシャルグループ社長らの民間議員たちが、
早期の原発再稼動の重要性について「方向性は一致している」
という確認をとりました。
このように、原発を復活させようとする動きが、まったく後を絶ちません。
そのため本サイトでは、福島第1原発の事故処理をめぐり、さまざまな
問題やトラブルが発生するたびに、
「原発事故は継続中」であることをアピールし、問題意識を呼び起こし
ていきたいと考えています。
* * * * *
さて、前回の「エッセイ579」で触れましたが、
福島第1原発で、3月18日の午後6時57分〜3月20日の午前0時
12分にかけて、
1号機、3号機、4号機の、使用済み燃料プールの冷却システムや、
1号機〜6号機の使用済み燃料を専用に保管する「共用プール」の
冷却システム、
そして、放射能汚染水を浄化するための「セシウム吸着装置」など、
合わせて九つの設備が、同時多発的に機能停止しました!
1号機、3号機、4号機、そして共用の、4つのプールには、合計で
8500本あまりの使用済み燃料が入っていますが、
「使用済み核燃料」は、いま現在でも発熱し続けているため、
冷却システムが停止したままだと、プールの水温がだんだんと上がって
いき、
最悪の場合は、プールの水が蒸発して、使用済み核燃料が「むき出し」
になり、「メルトダウン」が起こる可能性さえ考えられたのです。
幸いにして、そのような重大な事態には至らず、
危険な状態とされる、水温が65℃に達する前に、復旧を完了すること
が出来ました。
しかしながら、このたびのトラブルには、たいへんな問題点が多々存在
していたのです。
今回は、それについてレポートしたいと思います。
* * * * *
まず第一に、
このたびのトラブルで、いちばん深刻な問題だと考えられたのは、
九つもの設備が、「同時多発的」に機能停止したことです!
このように多くの設備が、同時多発的に機能停止したのは、
2011年3月11日の「原発事故発生」以来のことです。
とくに、1号機、3号機、4号機、そして共用の、4つの燃料プールの
冷却システムが停止したこと、
つまり、「複数の冷却システムが同時多発的に停止した」という
のは、
まさに「3.11原発事故の再来」を、どうしてもイメージしてしまいます。
さらには、復旧作業がすごく手間取り、なかなか冷却システムが稼動
しませんでした。
これに対して東京電力は、「点検作業が多く、設備の状況確認に時間
を要した」と説明しています。
現場は、廃炉作業のために仮設した機器や配管などが入り組んでいて、
重機などを入れられず、重装備の作業員が「手探り」で復旧作業に
あたったといいます。
なんと言うことでしょう!
九つもの施設が同時に停止した「大トラブル」にたいして、
こんなに貧弱で、「綱渡り的」な対応しか出来ないのであれば、
また再び、「水素爆発」や「メルトダウン」というような最悪の事態
が、起こってしまうのではないか!
そして大量の放射性物質が、まき散らされてしまうのではないか!
そのような恐怖心に駆られた人々は、
とくに福島県など「原発の近隣」において、けっして少ない数では
なかったと思います。
やはり、このたびのトラブルが、
「ものすごく大変な非常事態」であったことは、絶対に間違いあり
ません。
* * * * *
ところが!
こんな「ものすごく大変な非常事態」が起こっていたのに、
そのことが地域住民や一般国民へは、なかなか公表されませんでした。
福島第1原発で「停電」が発生した(つまり、燃料プールの冷却システム
が停止した)のは、3月18日の午後6時57分でしたが、
東京電力が、国の原子力規制庁に連絡したのは、その12分後の、
午後7時9分で、
東京電力が、福島県や地元市町村に連絡したのは、40分後の、午後
7時37分でした。
それなのに、
東京電力が、報道機関へメールで連絡したのは、3時間11分後の、
午後10時8分であり、
緊急時の記者会見を開いのは、15時間以上が経過した、19日の
午前10時20分ごろだったのです。
原子力規制庁も、停電が起こった12分後に東京電力から連絡を受け
ていたのに、
それを報道機関に公表したのは、およそ3時間後の午後9時48分で
あり、
東京電力に対して、すぐさま公表させるような指示も出していません
でした。
福島県に至っては、東京電力から連絡を受けていながら、復旧と原因
究明を指示しただけで、「状況を見ながら対応を考えていた」といいます。
つまり結局、
原発の近隣住民が、「停電」や「冷却システムの停止」を知ったのは、
3時間以上経ってからのマスコミ報道を通してなのでした。
これでは遅すぎます!
なぜなら、2011年6月6日に原子力安全・保安院が発表した分析結果
を基にすると、
福島第1原発事故が発生したときに「1号機」の場合では、
炉心の露出が開始したのは、3月11日の16時40分ころ(全交流電源
喪失からおよそ1時間後)。
炉心の損傷が開始したのは、同日の18時ころ(全交流電源喪失から
およそ2時間後)。
圧力容器に破損が生じた(つまり完全にメルトダウンした)のは、同日の
20時ころ(全交流電源喪失からおよそ4時間後)だったからです。
こんなことでは、
これから先、メルトダウンが起こるような「シビアアクシデント」が発生
したとき、
住民の避難が間に合うように、早急に公表してくれるのかどうか、もの
すごく不安になってしまいます。
国や地方自治体には早急に知らせるけれど、近隣住民や一般国民
には、なかなか知らせない・・・
このたびの停電トラブルには、
そのような「隠蔽体質」が存在していたのではないかと、どうしても疑っ
てしまいます。
* * * * *
3月25日に東京電力は、このたびの停電トラブルについて、
仮設した配電盤の中に侵入した「ネズミ」が、配電盤の高圧部分に
触れて「ショート」させたことが原因だと、
「断定」しました。
仮設配電盤の中から「ネズミ屍骸」が見つかり、その屍骸の腹部には
「感電による傷跡」があったからです。
また、
仮設配電盤の中では、ネズミの屍骸があった床の上の端子や側面
だけに「焦げ跡」が残っていましたが、
ほかの電源設備には、異常や損傷などが見つかりませんでした。
これらのことから、
侵入したネズミによって仮設配電盤がショートし、
周辺の回路に「過剰電流」が流れたために、複数の「遮断機」が働き、
また、一部の設備は電圧の変化によって「自動停止」したため、
仮設配電盤とは直接につながっていない設備をふくむ、九つの設備に、
影響が波及したものとみられています。
* * * * *
たった一匹のネズミが原因で、
四つの燃料プールの冷却システムをふくむ、九つもの設備が、
同時多発的に機能停止!
こんなに脆弱(ぜいじゃく)で、不安定なシステムでは、
また何時、どんな些細(ささい)なことが原因で、大きな問題やトラブル
が発生してしまうのか、
まったく分かったものではありません。
さらには、
地震や台風などの自然災害や、あるいは「テロ」による人為的破壊行為
など、
一匹のネズミなどより、もっと大規模なトラブルに見舞われたらと思うと、
心の底から「ゾッ」としてしまいます。
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