中国の大気汚染 2
2013年3月3日 寺岡克哉
2月21日。 国立環境研究所は、
中国の大気汚染で問題になっている微小粒子状物質「PM2.5(注1)」
の濃度が、
1月31日に、日本国内にある155の測定局のうち、その31%にあたる
48の測定局で、
国の環境基準値(注2)を超えていたと発表しました。
これについて国立環境研究所は、(中国に近い)西日本で広域的に
高濃度の「PM2.5」が観測されたことや、
九州西端の離島(長崎県の福江島)でも、高濃度の微小粒子状物質
が観測されたこと、
さらには、シミュレーションモデルの結果も総合して判断すると、
(中国など)大陸からの「越境大気汚染」が影響していた可能性が高い
と結論づけています。
今回は、
2月21日に国立環境研究所が公表した、
「日本国内での最近のPM2.5高濃度現象について(お知らせ)」
という資料(以下、「国立環境研究所の資料」と言うことにします)
の要点と、
それに関連したマスコミの報道について、レポートしたいと思います。
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(注1)
「PM2.5」というのは、直径が2.5ミクロン(1ミクロンは1000分の1
ミリ)以下の、微小な粒子状の物質のことです。
石炭や石油を燃やしたときに出る「硫黄酸化物」などが原因で、中国では
今でも多く残っている石炭火力発電所や、ディーゼル自動車の排気ガスが、
「PM2.5」のおもな発生源になっています。
「PM2.5」は、直径が小さいために、吸い込むと肺の奥まで侵入して、
ぜんそくや気管支炎を発症させ、肺がんや循環器系疾患のリスクを高める
とされています。
(注2)
日本における「PM2.5」の環境基準は、2009年の9月に定められま
した。
1年間の平均で、大気1立方メートルあたり15マイクログラム。1日の平均
で、1立方メートルあたり35マイクログラムとなっています。(1マイクログラム
は、100万分の1グラム)
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早速ですが下の表は、
「国立環境研究所の資料」に載っていたグラフから読み取った、
有効測定局(注3)の数と、超過測定局(注4)の数、そして超過割合です。
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月日 有効測定局 超過測定局 超過割合(%)
1月 7日 140 1 0.7
1月 8日 144 5 3.5
1月 9日 146 3 2.1
1月12日 144 2 1.4
1月13日 148 40 27.0
1月15日 147 3 2.0
1月16日 148 3 2.0
1月17日 148 2 1.4
1月21日 144 11 7.6
1月22日 140 2 1.4
1月24日 142 1 0.7
1月30日 158 19 12.0
1月31日 155 48 31.0
2月 1日 161 34 21.1
2月 2日 147 9 6.1
2月 4日 162 4 2.5
(注3)有効測定局とは、1日に20時間以上の「PM2.5」の測定が
行なわれた局のことです。
(注4)超過測定局とは、環境基準値(1日の平均で、1立方メートル
あたり35マイクログラム)を超過した値が測定された局のこと
です。
なお、分析の対象となった期間は、1月1日〜2月5日です。
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この表をみると、
全国の測定局において、1月1日〜2月5日の期間のうち、1つ以上
の超過測定局があった日数は、16日であることが分かります。
また、マスコミ報道によると、
おなじ期間中に超過測定局があった場所は、山形から鹿児島までの
17府県に上っています。
いちばん状況が酷(ひど)かった1月31日では、
全国の有効測定局155のうち、超過測定局が48となっており、その
割合が31%にもなっています。
この日だけで、超過測定局があった場所は、西日本を中心に12の府県
に及んでおり、
とくに熊本県内では、最高値の1立方メートルあたり70マイクログラム
を観測しています。
ちなみに、環境省の専門家会合は2月27日。
1日の平均値が、1立方メートルあたり70マイクログラムを超えると予想
される場合、
・必要でない限り、外出は自粛する。
・野外での激しい長時間の運動は避ける。
・屋内の換気を必要最小限にとどめる。
・肺や心臓に病気のある人や高齢者、子どもは特に慎重に行動する。
などの注意を喚起するという、「暫定指針」を決定しています。
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つぎに下の表は、
「国立環境研究所の資料」に載っていたグラフから読み取った、
日本の8地域における「PM2.5」の濃度の、2013年1月5日〜
1月31日の期間の平均値です。
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実測値 シミュレーション
九州 21.5 15.2
四国 18.2 12.1
中国 16.5 14.2
関西 15.7 14.0
中部 13.0 5.7
関東 12.7 4.8
東北 9.3 3.5
北海道 10.5 2.0
単位は、マイクログラム/立方メートル
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この表をみると、
実測値とシミュレーション(注5)ともに、西高東低の分布を示しており、
(中国など)大陸からの「越境汚染」の影響が示唆されています。
しかしながらシミュレーションは、実測値よりも、5〜10マイクログラム
/立方メートル ていど過小評価になっており、
今後、シミュレーションモデルを改良した上で、越境汚染の影響について
のさらに詳しい解析が必要であるとしています。
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(注5)
国立環境研究所が所有する、東アジアスケールの大気シミュレーション
モデル(WRF-CMAQ)を使用しているために、
空間分解能が60キロメートルと粗く、都市汚染を表現できない場合が
多くみられるとしています。
しかしながら、超過測定局が多かった1月13日、30日、31日、2月1日
におけるシミュレーション結果では、
大陸(中国)で発生したと考えられるPM2.5の高濃度気塊が、北東アジア
の広域を覆い、その一部が日本列島の一部にも及んでいる様子が、明確
に表現されています。
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とにかく「国立環境研究所の資料」では、その結論として、
・西日本で広域的に高濃度のPM2.5が観測されたこと。
・九州西端の離島(長崎県福江島)でも、高濃度の微小粒子状物質が
観測されたこと。
・東アジアスケールのシミュレーションの結果によって、北東アジアに
おける広域的なPM2.5汚染の一部が、日本にも及んでいること。
・これらを総合的に判断すると、今年1月から2月初めのPM2.5の
高濃度現象には、大陸からの越境大気汚染による影響があった
ものと考えられること。
・また、東海や関東(など西日本以外)でも、都市域スケールにおいて、
高濃度のPM2.5が観測されたこと。
以上により、今年1月から2月初めのPM2.5高濃度現象は、
大陸からの広域スケールの越境汚染と、大都市圏スケールの都市汚染
が、複合して発生した可能性が高いと考えられるとしています。
ただし、その影響の割合は、地域と期間によって大きく異なる可能性が
高いため、今後、詳細な解析が必要だとしています。
ちなみに、マスコミの取材にたいして、
国立環境研究所・地域環境研究センター長である大原さんは、
「都市部では局所的に(PM2.5が)高くなる傾向がある。すべてが中国
由来ではなく、国内対策も重要」
「日本国内で発生した汚染物質と、大陸から越境してきた汚染物質が、
どんな割合なのかさらに分析したい」
と話しています。
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