中国の大気汚染 1
2013年2月10日 寺岡克哉
近年、中国の「大気汚染」が、ものすごく深刻になっています。
しかし、それだけでなく、
中国で発生した大気汚染物質は、偏西風によって日本にも運ばれ
るため、
日本への影響も、すごく懸念されています。
今回は、そのことについてレポートしたいと思います。
* * * * *
2月4日。中国の環境保護省は、
ぜんそくなどを引き起こす「微小粒子状物質(PM2.5)」を含んだ
濃霧が、
1月24日までに国土面積の4分の1(日本の国土面積の約6.3倍)
にあたる範囲で発生し、
全人口の5割弱にあたる「6億人が影響を受けた」と発表しました。
「PM2.5」というのは、
直径が2.5ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)以下の、微小な
粒子状の物質のことです。
石炭や石油を燃やしたときに出る「硫黄酸化物」などが原因で、
中国では、今でも多く残っている石炭火力発電所や、ディーゼル自動
車の排気ガスが、PM2.5のおもな発生源になっています。
「PM2.5」は、直径が小さいために、吸い込むと肺の奥まで侵入して、
ぜんそくや気管支炎を発症させ、肺がんや循環器系疾患のリスクを
高めるとされています。
ところで「PM2.5」にたいする日本の環境基準は、
1日の平均で、大気1立方メートルあたり、35マイクログラム以下と
なっています。(1マイクログラムは100万分の1グラム)
ところが・・・ 今年1月の北京では、
アメリカ大使館が「危険」としている、1立方メートルあたり250マイクロ
グラムを超えた日が15日を越えており、
1月12日には、1立方メートルあたり900マイクログラムを記録して
いるのです。
これはまさに、「殺人的」な大気汚染といえます!
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ちなみに、
「PM2.5」による健康への影響については、アメリカでいちばん研究
が進んでおり、
1982年から全米の50州で、およそ120万人の男女を対象にして
行なわれた疫学調査により、
PM2.5の大気中濃度が、1立方メートルあたり、25マイクログラム
上昇するごとに、
肺がんによる死亡は37%増加、心疾患による死亡が25%増加、
全死亡は16%増加することが分かっています。
このような調査に基づいて、アメリカでは1997年には、
PM2.5の大気中濃度が、年平均で1立方メートルあたり15マイクロ
グラム、日平均で1立方メートルあたり65マイクログラムという、環境
基準が設定されました。
そして2006年の9月には、さらに規制が強化されて、
年平均はそのままですが、日平均が1立方メートルあたり35マイクロ
グラムと厳しくなったのです。
日本におけるPM2.5の環境基準は、2009年の9月に定められまし
たが
年平均で1立方メートルあたり15マイクログラム、日平均で1立方メー
トルあたり35マイクログラムとなっており、
2006年にアメリカが定めた基準とまったく同じです。
またWHO(世界保健機関)も、2006年の10月に、PM2.5に関する
指針値を示していますが、それによると、
年平均は1立方メートルあたり10マイクログラム、日平均が1立方メー
トルあたり25マイクログラム
と、なっています。
* * * * *
上の、アメリカで行なわれた疫学調査の結果を見ますと、
中国の大気汚染がいかに深刻であるのか、あらためて分かりますが、
中国の研究者たちは2月7日までに、
大気汚染が人体に与える影響についての調査結果を、相次いで発表
しています。
中国工程院の医師は、
「北京市の肺がん患者は、過去10年で60%増えた」と指摘しました。
また、呼吸するたびに汚染物質が血液に流入するため、「呼吸器系に
留まらず、脳や心臓の疾患も増加する危険が高い」としています。
北京大学公共衛生学院の教授は、
今年の濃霧を念頭にして、「深刻な汚染の7〜8年後に、肺がんによる
死亡率は明らかに上昇する」と警告しました。
北京大学腫瘍病院の専門家は、
「2033年に中国の肺がん患者は1800万人に達する」と予測してい
ます。
* * * * *
ところで!
中国で発生した大気汚染物質は、偏西風によって日本にも運ばれる
ため、
日本への影響が、ものすごく心配になります。
事実、たとえば福岡市では、
1月24日、30日、31日の3日間において、PM2.5の測定値が
日本の基準値を超えました。
その中でも、とくに1月31日は、福岡市内にある6ヶ所の観測所の
すべてで基準値を超えており、
最高で1立方メートルあたり53マイクログラムを記録しています。
これに関連して環境省は、
「たとえ基準値を超えても、ただちに健康に影響が出るわけではない。」
「ただ、呼吸器に疾患をもつ人は外出を控えたり、マスクをするなどの
対応を取った方がいい。」
「(PM2.5の環境)基準は、国内外の研究をもとに、統計学的に導き
出したもの。」
「年齢や持病の有無など、個々の事情までは配慮されていない。」
などと、しています。
また、中国などからの越境大気汚染を研究している、九州大学応用
力学研究所の竹村俊彦准教授は、
「多くの健康な人には問題ないかもしれないが、循環器や呼吸器が弱い
人にとっては、影響がないとは言えない。」
「疾患のある人には、深刻な結果をまねく引き金になりかねない。」
と、指摘しています
兵庫医科大学の島正之教授(公衆衛生学)によると、
重いぜんそくで長期入院する8〜15歳の患者19人を対象にして、
5ヶ月間の調査をした結果、
PM2.5の数値が日平均で1立方メートルあたり24マイクログラム
を超える日は、ぜんそくの症状の出る割合が1割弱ほど増えたといい
ます。
島教授は、「あまり過敏になる必要はない」としながらも、
ぜんそくなどの持病をもつ人は、PM2.5の数値が高い日の外出を
控えるように勧めています。
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以上、見てきましたように、
中国では、まさに「殺人的」な大気汚染が起こっています!
ちなみに、外務省の海外在留邦人数調査統計によると、
中国における在留邦人の数は、13万1534名(2010年)となって
いますが、
これらの人々の健康被害についても、たいへん心配になります。
しかし、それにしても、
どうして、ここまで、中国の大気汚染は放置されてきたのでしょう?
次回では、それについて考えてみたいと思います。
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