アルジェリアの人質事件 2
                            2013年2月3日 寺岡克哉


 私は、本サイトの、とくに初期の方で書いたエッセイで、

 「生命」とか「人の命」というものについて、ずいぶん考察してきました。

 そんな私にとって、このたびの「アルジェリア人質事件」は、いろいろと
考えさせられるものがありました。



 その中でも、いちばん考えさせられたのは、

 アルジェリア政府やアルジェリア軍、つまりアルジェリア当局が、

 武装犯行グループとの一切の交渉を拒絶し、

 人質を取られていたのに武器の使用をためらわず、

 日本政府が要請したような「人命優先」の解決の道が、かなり早い段階
から閉ざされていたことです。



 日本時間で1月18日の午前0時に、安部首相がアルジェリアのセラル
首相にたいし、「軍事作戦の中止」を要請したにもかかわらず、

 「人質の救出作戦」というよりは、むしろ「テロリストの掃討作戦」といえる
ような軍事作戦が強行され、多くの人質が犠牲になったのです。

 こんなところ、日本国内で起こるような「人質立て篭もり事件」とは、ずい
ぶん対応が違います。

 それは私だけでなく、多くの日本に住む方々も、同じように感じたこと
でしょう。



 人質の命の重さは、その国によって、日本とはずいぶん違う!

 私が、「アルジェリア人質事件」から目が離せなくなったのは、

 このような衝撃を、とても大きく受けたからでした。



 そしてまた、

 やはり日本人は、「平和ボケ」しているのだろうか?

 アルジェリアにはアルジェリアの常識があり、日本の常識なんか、まった
く通用しないのだろうか?

 と、いうような疑問も出てきました。

 それで、「アルジェリア人質事件」の背景などについて、もうすこし調べて
みようと思ったわけです。


               * * * * *


 1990年代・・・ アルジェリア政府とアルジェリア軍(アルジェリア当局)
は、イスラム過激派との泥沼の内戦によって、15万人もの犠牲者を出し
ました。

 そんな苦い経験をしたアルジェリア当局にとって、「テロに屈しない」と
いうのが「大原則」
になっており、

 このたびの人質事件でも、それによってべつの模倣事件をまねく事態
を、とても強く警戒
していました。



 そのため、

 きわめて厳しい報道管制を敷き、軍や犯人側を含めたすべての動静が
外部に漏れないようにした上で、

 アルジェリア軍の特殊部隊が、事件現場である天然ガス関連施設を
包囲したのです。



 そしてアルジェリア当局側は、

 投獄されているイスラム過激派の釈放や、

 フランス軍による、マリ(アルジェリアの南部〜南西部で接している国)
への軍事介入の中止など、

 武装犯行グループ側が出した交渉の要求を、一切拒絶しました。


              * * * * *


 このように、アルジェリア当局の方針が、

 テロには絶対に屈せず、模倣事件の再発を抑えるのが大前提である
ならば、

 武装犯行グループの要求を一切認めないというのは、アルジェリア
当局側として、当然の対応だったのでしょう。



 しかしながら、アルジェリア当局側が一切の交渉を拒絶する前に、

 武装犯行グループの態度を軟化させるための懐柔(かいじゅう)や、

 人質の解放を実現するための努力を、少しでも行なったかどうかと
言うのが、

 すごく疑問に感じるところです。



 これについて、

 アルジェリアの与党「民族解放戦線」のナンバー2で、ブーテフリカ大統領
の側近である、ベルハデム書記長(注1)は、

 「アルジェリア当局側は、人質の安全確保のため投降を促したが、犯人
グループがイスラム過激派の服役囚の解放などを要求したため、ブーテ
フリカ大統領が、これ以上の交渉は不可能と判断した」

 と、後日に説明しています。


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(注1)
 上の説明は1月26日にされたものですが、その後1月31日にアルジェ
リア民族解放戦線は、中央委員会の投票によってベルハデム書記長の
解任を決めました。
 ベルハデム氏は自派を偏重して、党内を二分する対立をまねいたのが、
その理由だとされています。
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               * * * * *


 ところで、

 アルジェリア当局は、人質事件が発生すると、すぐその翌日に、軍の
特殊部隊を突入させました。

 もし、もうすこし時間をかけて、部隊の早急な突入を避けていれば、人質
の命が助かったかも知れません。



 これについて、アルジェリアのサイード情報相は、

 「武装(犯行)勢力が施設全体を爆破しようとしたため、軍の特殊部隊
が突入作戦を行なった。」

 「もし素早く動いていなかったら、数百人が犠牲になっただろう」

 と述べて、アルジェリア政府の判断に誤りはなかったと強調しています。



 また、このことに関連して、アルジェリアのセラル首相は、

 「(武装)犯行グループは、駐在員を人質に取り、彼らをマリ北部に移送
して、
 マリ政府による北部地域のイスラム過激派グループの制圧に、介入して
いるフランス軍との、交渉材料に利用する計画だった。」

 「しかし、それが失敗に終わったため、計画を(天然ガス)プラントの
爆破に切り替えたのだ」と、話しています。



 しかしながら一方、アルジェリア軍の高官(匿名)は、

 政府軍が強攻策に踏み切る際、武装(犯行)勢力の装備が対戦車用
地雷など過剰であることを根拠に、軍幹部が全員一致で決めたと証言
しました。

 「単に人質事件を起こすにしては武装が過剰だ。当初の要求はフランス
軍のマリ侵攻停止だったが、最終的な狙いは人質を巻き込んで自爆し、
施設全体を破壊することだった」と、しています。



 上のセラル首相の話と、軍の高官(匿名)の証言では、すこし内容が
食い違っている所があります。

 が、しかしどちらにしても、武装犯行グループが天然ガス施設を爆破
しようとした時点で、軍の特殊部隊を突入させなければ、

 さらに何百人もの犠牲者が出る可能性があったわけです。



 最初の方でも書きましたが、このたびの「アルジェリア人質事件」は、

 きわめて厳しい報道管制を敷き、軍や犯人側を含めたすべての動静が
外部に漏れないようにした上で、軍の特殊部隊が、天然ガス関連施設を
包囲したわけです。

 なので、この件に関しては、

 「アルジェリア当局の判断が正しかった」という証拠や結論しか、出て
来ようがないように思えてなりません。


              * * * * *


 ところで・・・ 

 1月17日にアルジェリア軍が実施した、ヘリコプターによる空爆など
の軍事作戦で、人質が犠牲になった可能性が指摘されています。


 これに関してベルハデム書記長は、

 「具体的な戦術は、現地の司令官ら軍幹部が判断して実施した」と
述べており、

 空爆などの軍事作戦によって、人質が犠牲になった可能性を、
否定しませんでした。



              * * * * *


 また・・・ 

 犠牲になった人質は、最終的に38人となりましたが、

 このうち、アルジェリア人は警備員の1人が犠牲になったのに対して、

 外国人の犠牲者は37人にも上っています。



 その中でも、

 とくに日本人は10人もが犠牲になっており、日本が最も多くの犠牲者
を出しました。



 これについて、アルジェリアのサイード情報相は、

 「事件が起きた時にその場所にいた日本人が多かったということで、
とくに日本人が狙われたのではなく、外国人が狙われたのだ」

 と、述べており、

 武装犯行グループは、特定の国籍ではなく、外国人全体を標的
にした
という見方を示しています。


             * * * * *


 以上、ここまでレポートしてきて、私は思ったのですが・・・ 


 やはり日本は、ものすごく平和な国です!


 もしも日本国内で、「人質を取った立て篭もり事件」が発生したならば、

 人質の命を、最優先で守ろうとするのは当然として、

 犯人の命でさえも、極力尊重されており、

 警察当局が、問答無用で犯人を殺害することはありません。



 しかし世界には、

 人質にされてしまった時点で、それが即(すなわ)ち「死」を意味
する国が、実際にあるのです!


 そのような厳しい現実を、このたびの「アルジェリア人質事件」では、
まざまざと見せつけられた思いがしました。



 アルジェリアには、今なお1000人近くの日本人が在留していますが、

 私たち日本人は、このことを肝に銘じて置かなければならないでしょう。



 最後に、私のまったく個人的な考えを、遠慮なく言わせてもらえば、

 もし、どうしても、アルジェリアのような国に滞在しなければならない
ときは、

 日本の民間人であっても、拳銃の所持を認めて、定期的な射撃訓練
を義務付ける(注2)。

 それぐらいのことが絶対に必要ではないかと、思えてなりませんでした。



 自分の命は、まず第一に、自分で守らなければなりません。

 やはり、これは、「生命」というものの大原則なのだと思います。



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(注2)
 「自衛隊の海外活動を強化すれば良い」という考えも、あるかも知れ
ませんが、
 このたびの人質事件でアルジェリア政府は、オバマ政権による米軍
の支援申し出を拒否しています。

 アメリカ軍でさえ介入できないのだから、いわんや日本の自衛隊が
人質救出作戦に参加することなど、とうてい不可能です。

 なので、このような国においては、やはり自分の命は、最終的には
自分で守るしかないと、私は考えるわけです。
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