温暖化なのになぜ寒い 2
                           2013年1月20日 寺岡克哉


 近年では、地球温暖化が進んでいるにもかかわらず、

 「暖かい冬」ではなく、「厳しい冬」になることが多くなっています。

 つまり、「温暖化しているのに寒くなる」という、

 ちょっと理解に苦しむような現象が、たびたび起こっているわけ
です。



 ところが最近の研究によると、その理由として、

 地球温暖化により、「北極海の海氷が減少」すると、北半球では
厳しい冬になる


 と、いうことが分かってきました。



 さらに、

 「北極海の海氷が減少すると、厳しい冬になる」理由については、

 (1)「北極振動」と呼ばれる現象が、「負の状態」になる。

 (2)バレンツ海を発生源とする低気圧の進路が、北寄りになる。

 という、2つのことが分かってきました。



 前回では、上の2つの理由うち、(1)の「北極振動」についてレポート
しました。

 今回は、その続きです。


              * * * * *


 (2)バレンツ海の低気圧


 独立行政法人・海洋研究開発機構の研究によると、

 「バレンツ海」の海氷が減少すれば、そこを発生源とする低気圧の進路
が、通常よりも北側(つまり、より北極点に近い側)を通過するようになり、

 その結果、シベリア高気圧が北極域まで張り出して、強い寒気を南方
に押し出すことが分かってきました。

 つまり「海氷の減少」が、「厳しい冬」をもたらしている訳です。



 ちなみに「バレンツ海」というのは、ノルウェーの北部にある、北極海の
一部ですが、

 この海域では、地球温暖化の影響により、2000年ごろを境にして、
冬季に結氷する面積の減少が目立ってきました。

 以前では、毎年12月の平均で、バレンツ海域の50〜60%が氷に
覆われていたのですが、

 2000年以降になると、大半の年において、同海域の30〜50%に
まで結氷面積が減少しています。



 海洋研究開発機構の、地球環境領域・寒冷圏気候研究チームの
井上淳(国立極地研究所准教授)リーダーらが、

 バレンツ海域での結氷面積と、周囲の気圧配置を調べたところ、

 通常はシベリア沿岸北部を東に移動する低気圧が、氷が少ない年
ほど、北極点に近い北寄りの進路をとる傾向があることを発見しま
した。

 これは、氷が無くなったことで、地表付近の気温が変化した影響で
あると見られています。



 バレンツ海で発生した低気圧が、通常よりも北側を進む結果として、
シベリア高気圧が「北極域」まで張り出すようになります。

 その高気圧が、北極域の「強い寒気」を南へ押しやっていたことが、
研究チームによって確認されました。

 この「強い寒気」は、さらに「偏西風」に乗って、数日後になると日本に
到達し、

 「強い寒波」を日本にもたらしていたのです。



 2005年〜2006年にかけての、日本各地が豪雪に見舞われた冬や、

 2011年〜2012年にかけての、日本を襲った厳しい冬は、

 いずれも、バレンツ海における氷の面積が著しく少なく、北極域におい
て、上で話したような気候状態が目立っていたといいます。


              * * * * *


 ところで、今回(2012年〜2013年にかけて)の冬も、

 バレンツ海の結氷が遅れており、氷の面積は、昨年12月の下旬で
さえ、平均13%に留まっていました。

 このため研究チームは、「昨年(2011年〜2012年にかけての冬)と
同じような気候変動が生じている可能性が高い」と話しています。



 そして一方、気象庁によれば、

 今回(2012年〜2013年にかけて)の冬は、ユーラシア大陸の広い
範囲が「異常低温」に襲われています。

 ちなみに、北半球の中緯度地帯では、

 (前回でレポートした)「北極振動」などが、厳冬か暖冬かを決める大き
な要因になっていると考えられています。

 が、しかし、今回(2012年〜2013年にかけて)の冬は、

 北アメリカの気温が平年よりも高くなっており、「北極振動による
影響では説明がつかない」と言います。




 なので、

 今回の冬に、ユーラシア大陸〜日本を「異常低温」が襲った理由として
は、

 やはり、このたびレポートしたような「メカニズム」が、働いていた可能性
が高いのでしょう。


               * * * * *


 以上、前回のレポートと合わせて、ここまで話してきましたように、

 「北極海の海氷が減少」すると、北半球で厳しい冬になる理由として、

 (1)「北極振動」と呼ばれる現象が、「負の状態」になる。

 (2)バレンツ海を発生源とする低気圧の進路が、北寄りになる。

 という、2種類の要因によって、「北極域の強い寒気が、南方に押し
出される」
ことが、最近の研究によって分かってきました。



 ここで、最後に確認したいと思いますが、

 北極海の海氷が減少するのは、「地球温暖化」が進んでいるから
です!




 なので、 近年に「厳しい冬」が多くなったからと言っても、

 地球温暖化が止まったり、ましてや地球が寒冷化しているわけでは、
決してありません。

 北極域から、つよい寒気が押し出された分(つまり、北極域の寒気が
外に漏れ出した分)、その地域は暖かくなるので、

 「北極域の温暖化」は、ただでも地球全体の平均より速いペース
で進んでいますが、それがさらに加速されるわけです!




 これを、たとえば身近な例で言うと、

 冷蔵庫のドアを開ければ、中の冷気が外に漏れ出して、冷蔵庫内の
温度が上がってしまうのと、まったく同じような現象なのです。



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