戦争は生命肯定の正しさを証明する

                                2003年3月23日 寺岡克哉


 戦争が勃発して大勢の人が苦しむと、「生命の肯定」に対する疑惑が生じてしまう
かも知れません。というのは、
 「エゴや欲望のために殺し合うのが人間の本質だ!」
 「愛や優しさや平和などというものは、理想家の幻想に過ぎない!」
 「結局は、力と暴力が全てなのだ!」
という考え方が、説得力を持つ感じがするからです。

 しかしそれは、間違った考え方です。戦争や殺戮などの「生命を否定する行為」は、
「生命の肯定」に疑惑を生じさせるものではありません。そうではなく、「生命の肯定」
の正しさと重要性を、逆に証明するものなのです。
 なぜなら、「生命を否定する行為」を行えば、「苦しみ」が生じるからです。そして、
「生命を否定する行為」を続ければ続けるほど、苦しみがさらに増大して行くからで
す。
 まさにそのことによって、「生命の肯定」の正しさと重要性が、明確に証明されるの
です。

 戦争が勃発すれば、「苦しみ」が必ず生じます。この「苦しみ」は、怪我による肉体
の苦痛や、死への恐怖だけではありません。
 戦火によって、家や財産や仕事を失う苦しみ。
 戦争難民になった人々の、飢えや寒さの苦しみ。
 大きな怪我によって、自分の手足や目や耳を失う苦しみ。そして、その不自由な体
で一生を過ごさなければならない苦しみ。
 子供や家族、恋人や友人を失う苦しみ。
 今までの人生と、これからの人生を滅茶苦茶にされた苦しみ。
 戦闘に参加して、人を殺さなければならない苦しみ。
 ・・・等々。
 戦争には、およそ人間が経験する最悪の苦しみが、全て凝縮されているのです。
 そして、戦火が拡大すればするほど、また、戦争が長く続けば続くほど、戦争によ
る苦しみは大きくなり、耐えられないものになって行きます。
 まさにこのことが、「戦争が間違った行為であること」を明確に証明するのです。
 「人類にとって戦争は間違った行為である!」といえるのは、「大きな苦しみ」が生
じるからです。戦争は多大な苦しみと不幸を招くので、戦争は悪であり、間違った行
為であると、確かな根拠をもって主張できるのです。
 (ところで、「防衛のための戦争や、さらなる戦火の拡大を防ぐための攻撃は、どう
しても必要だ!」と、いう主張があるかも知れません。確かにそれはその通りです。
しかしそれは、そもそも、まずはじめに戦争を起こすこと自体が間違いなのです。だ
からこれによって、「戦争は間違った行為である!」という主張を、くつがえすことは
出来ません。)

 ところで、生命が「苦しみ」を感じるのは、どのような状態の時かを考えてみると、
 生命にとって具合の悪い状態のとき。
 生命にとって好ましくない状態のとき。
 生命にとって避けるべき状態のとき。
 生命にとって間違った状態のとき。
 生命にとって正すべき状態のとき。
などが挙げられます。つまり生命が苦しみを感じるのは、生命にとって無理の伴う
不自然な状態のときです。

 例えば、「悪は必ず滅びる!」という言葉がありますが、これは生命現象の真実を
良く表していると思います。
 というのは、悪を為せば、「大きな苦しみ」が必ず起こるからです。つまり「悪」は、
生命にとって無理の伴う不自然な状態なのです。だから「悪」は長続きできずに、必
ず滅びるのです。
 しかしながら、「悪」はいつでもどこにでも存在しているので、「悪は必ず滅びる!」
というのは、間違いのように思えます。しかし、一つひとつの悪に着目してじっくりと観
察すれば、生じた悪は必ず滅びることや、悪が長く続いたためしがないことが分かり
ます。

 同様に、「戦争」も絶対に長続きすることが出来ません。戦争は必ず終結します。そ
れは戦争が、生命にとって無理の伴う不自然な状態だからです。
 戦火が拡大すればするほど、外部からの非難や圧力や攻撃が強くなります。そして
戦争が長引いて国民が苦しめば、政権の崩壊やクーデターが起こります。国の内部
からも外部からも、戦争を終わらせようとする動きが起こるのです。
 これは、生命の不自然な状態から正常な状態に戻そうとする、生命の強力な是正
作用が働くからです。

 ところで戦争が起こると、
 「人間は所詮、エゴと欲望のために殺し合う動物なのだ!」
 「それが人間の本質なのだ!」
という考えが、一見すると説得力を持つ感じがします。しかしそれは、明らかに間違
っています。
 なぜなら、もしもエゴと欲望のために殺し合うのが「人間の本質」ならば、全ての人
間がお互いに殺しあって、人類はとっくに滅亡しているはずだからです。
 人類の圧倒的な多数は、殺し合いなど大嫌いなのです! だから人類は今ま
で存続できたのです。この当たり前中の当たり前のことを疑問に思えるのが、戦時
状態の異常で危険なところです。
 人類のほとんどの人たちは、平和と平穏な日々を望んでいます。優しさと安らぎを
望んでいます。人類の社会は、そのような動機の下に成り立っているのです。

 生命は、生命の否定を嫌い、生命の肯定を望みます。それが生命の真理だから
です。
 この地球に「生命」が発生して以来、「生命を肯定する生物」が、より多く生き残っ
て来たのだと思います。なぜなら、「生命を否定する生物」がより多く生き残るとは、
とても考えにくいからです。
 だから現在生き残っている生物にとっては、「生命の肯定」が生命の真理となって
いるのです。そしてこれは、人類といえども例外ではありません。
 景気が悪くなって犯罪や自殺が増加したり、戦争が起こったりして世の中がどんな
に悪くなろうとも、「生命の肯定が正しい!」という生命の真理は、絶対に揺るぎませ
ん。

 世の中が悪くなればなるほど、「生命の肯定」の正しさが証明され、その重要
性がますます大きくなるのです。




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