安倍政権に思うこと
                           2012年12月23日 寺岡克哉


 12月16日に行われた衆議院選挙で、自民党が294議席を獲得して
圧勝しました。

 衆議院の定数は480議席ですから、自民党は単独で、過半数を占め
ることになります。

 さらには連立を組むことが決まっている、公明党の31議席を合わせ
ると325議席になり、
 定数の3分の2(320議席)を上回って、参議院で否決された法案で
あっても、衆議院で「再可決」できる議席数となります。


 12月26日にも、自民党の「安倍晋三政権」が発足するわけですが、
この安倍政権について、私が思っていることや感じていることを述べて
みましょう。


               * * * * *


 まず第一に、原発政策を強力に推し進めて、日本に50基以上もの原発
を作ってきたのは、歴代の「自民党政権」です。

 つまり、「地震列島」とか「地震の巣」といわれる、原発にきわめて不向き
な日本の国土に、異常なほどたくさんの原発を設置して、
 いつの日にか、福島第1原発のような大事故が起こってしまう、潜在的な
危険を作ったのは自民党政権なのです。

 だから、福島第1原発の大事故が起こったことに対して、ほんとうに
責任があるのは自民党です。


 安倍政権は、そのことを十二分に認識して、被災者の保障や、除染作業、
廃炉作業、放射性廃棄物の処理などについて、
 前の民主党政権のときより、さらにもっと親身になって、精力的に取り
組まなければなりません。



 福島第1原発の事故が、あまりにも甚大だったため、日本国民の中には、
「もう原発は止めた方が良い」と考える人が、とても増えています。

 そのため民主党政権は、「2030年代に原発稼動ゼロ」を掲げたので
した。



 ところが自民党の「安倍政権」は、

 この「2030年代に原発ゼロ」の方針を見直して、原発維持を前提に、
最適な電源構成を10年以内に確立する方針です。

 原発の新増設も視野に入れており、脱原発依存への動きが弱まる
ものと見られます。



 こんなことで安倍政権は、

 福島第1原発の事故が起こったことを、自民党の責任として捉えて、
本当に心から反省しているのでしょうか?


 まず、このことが、ものすごく疑問に感じてなりません。


              * * * * *


 ところで自民党の安倍総裁は、「尖閣諸島に公務員を常駐させる」
と言っています。

 しかしながら、もしも、そんなことを本当にやったら、日中関係はどうなっ
てしまうのでしょう?

 これは、ものすごく心配なところです。



 民主党の野田政権のときに、尖閣諸島を「国有化」しただけでも、
日中関係がこれほど悪化しているのです。

 この先さらに、尖閣諸島に港や灯台などの施設を作ったり、いわんや
公務員を常駐させたりすれば、

 日中関係がさらに悪化するのは、火を見るより明らかです。



 もしも、そうなったら、

 中国に進出している日系企業は、どうなってしまうのでしょう?

 さらには日本と中国の貿易が、一体どうなってしまうのでしょう?

 そして安倍政権は、もしも事が起こったら、どのように対処するので
しょう?



 たしかに日本は、中国に対して、これまでよりも、もう少し強い態度
で臨まなければならないとは思います。

 が、しかし、対応をすこし誤っただけで、一体どんな事態が発生して
しまうのか、

 やはり、ものすごく心配でなりません。


            * * * * *


 ところで安倍政権は、「憲法改正」をやろうとしています。


 その中で気になるのは、自民党の「政策パンフレット」に書かれている
公約を見ると、

 「わが国は、日本国の元首であり、日本国および日本国民総合の
象徴である天皇陛下を戴く国家であることを規定」

 とあり、天皇を国家元首に定めようとしていることです。


 一方、現行の日本国憲法の、第一章の第一条では、

 「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この
地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」

 となっており、天皇を国家元首とは定めていません。



 また、自民党の憲法改正についての公約には、

 「平和主義は継承しつつ、自衛権の発動を妨げないこと、国防軍を
保持することを明記
」とあります。



 さらには、

 「憲法改正の発議要件を衆参それぞれ過半数に緩和

 とあり、憲法改正へのハードルを低くしようとしています(現行の憲法
では、改憲発議には定数の3分の2が必要)。



 これら自民党による憲法改正案が、良いのか、悪いのか、さまざまな
意見があるとは思いますが、

 なんとなく「右翼化」というか、「軍国主義化」の方向へ進んでいるような
気がして、心安らかではありません。


              * * * * *


 ところで経済問題に関して、自民党の安倍総裁は、

 「大胆な金融緩和を無制限で行なうために、日本銀行の輪転機を
ぐるぐる回してお金を刷らせる」
と、語ったとされています。

 また、自民党の「政策パンフレット」に書かれている公約には、

 「明確な”物価目標(2%)”を設定、その達成に向け、日銀法の改正も
視野に、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行い
ます」と、あります。



 上の2つを合わせて考えると、

 現行の日銀法では、輪転機をぐるぐる回して、無制限にお金を刷ること
は出来ないのですが、

 どうやら安倍政権は、日銀法を改正して、

 物価が2%上昇するまで(2%のインフレが起こるまで)、どんどん無制
限に、お金を刷ろうとしているみたいです。



 ちなみに、もしもお金を、どんどん無制限に刷ったら、

 お金の価値が下がって(つまり、お金がただの「紙切れ」になって)、
物価がどんどん上昇します。

 その実例として、ドイツでは1913年〜1923年の10年間に、流通貨幣
高を820億倍に増加させたため、物価が1兆2000億倍にもなりました。

 つまり、どんどん無制限にお金を刷って、お金の量を820億倍に増やし
たら、1兆2000億円という大金が、たった1円の価値に下がってしまった
わけです。



 そのように極端な例はナンセンスですが、2%のインフレが起こるまでは、
制限することなくお金を刷り、

 貨幣の価値を下げることによって「円安」を誘導し、海外への輸出が有利
になるようにして、

 日本経済を活性化させようというのが、安倍政権の考えていることだと
思います。



 しかし、これには心配なことがあります。

 まず1つ目は、計画通り2%のインフレで、それを止めることが出来るか
どうかと言うことです。

 たとえば、お金を刷る量の「さじ加減」をちょっと間違えただけで、想定外
に大きなインフレが起こってしまう恐れは、まったく無いのでしょうか?

 そしてそもそも、その「さじ加減」自体が、確実に分かっているのでしょう
か?


 「物価」などというものは、どうしても「人間の心」が関与してしまいます。

 だから物理法則のような厳密な法則が、「お金の刷る量」と「物価」の
間の関係に、存在しているようには思えません。

 たとえば、もしも日本中の人々が、「お金を大量に刷ったので、すごい
インフレが起こって大変になる!」というような強迫観念にとらわれて、
精神的な恐慌に陥ってしまったら、

 日本経済が大混乱になってしまうのでは、ないでしょうか。



 そして2つ目の心配は、

 インフレによって物価が上昇しても、労働者の賃金が上がるとは、限ら
ないということです。

 もしも物価だけが上昇し、賃金が上がらなければ、人々の生活が苦しく
なるばかりです。


 ふつう円安になれば、日本企業の業績は、たしかに上がると思います。

 が、しかし、企業の業績が上がったからと言って、労働者の賃金が上がる
とは限らないのです。

 その証拠に、近年では、サービス残業、休日出勤、非正規雇用、ブラック
企業などが横行し、労働者の立場がものすごく弱くなっています。

 その一方で、日本のGDP(国内総生産)は、2009年〜2010年では
9.0%も伸びており、2010年〜2011年でも6.9%伸びています。

 このように日本経済は、順調に成長しているのですが、しかしそれが実感
できるほど、労働者の賃金は上がっているでしょうか?

 とても多くの人々が、日本経済は不景気だと思い込まされており、賃金の
上昇なんか夢のまた夢だと、暗黙に納得させられているのではないでしょう
か?

 そんな「社会的な雰囲気」を肌で感じるので、インフレで物価が上昇しても、
労働者の賃金が上がるとは、とても思えないのです。


 そしてまた、

 高齢者社会が進んで、これから増えて行く「年金生活」の人々も、インフレ
で物価が上がれば生活が苦しくなるでしょう。



 お金をどんどん刷って、インフレを生じさせることに対しては、以上のような
心配や恐れが、けっして払拭できないように思います。


               * * * * *


 ところで安倍政権は、「教育」にも、かなり力を入れて行くみたいです。

 しかしながら、自民党の「政策パンフレット」に書かれている公約を見る
と、以下の記述が気になりました。

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 「教育基本法が改正され、新しい学習指導要領が定められましたが、
いまだに自虐史観や偏向した記述の教科書が多くあります。子どもたちが
日本の伝統文化に誇りを持てる内容の教科書で学べるよう、教科書
検定基準を抜本的に改善し、あわせて近隣諸国条項(注1)も見直し
ます。


 「今すぐできる対策(いじめと犯罪をはっきり区別、道徳教育の徹底、
出席停止処分など)を断行するとともに、”いじめ防止対策基本法”を
成立させ、統合的ないじめ対策を行ないます。」

(注1)
 「近隣諸国条項」とは、日本国の教科用図書検定基準に定められて
いる、「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際
理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。」という規定
のことです。
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 これらの記述から連想される心配は、

 いじめ問題を理由に「道徳教育」を徹底させ、愛国教育というか、「教育
の右翼化」を行なうとしているのでは、ないかということです。



 たしかに現代の日本人は、道徳心が低下しているようにも思えますし、

 あまりにも行き過ぎた自虐史観や、中国や韓国が当然の権利のように
日本の教科書の内容に口を出してくるのにも、疑問を感じずにはいられま
せん。

 しかしながら安倍政権は、憲法を改正して、天皇を国家元首に定めよう
としたり、国防軍を保持することを明記しようとしているので、

 それらも考え合わせると、安倍政権は「教育の右翼化」を目指している
のではないかという疑惑が、ぜんぜん払拭できないのです。


              * * * * *


 以上、

 これから発足する安倍政権について、とくに心配に思ったことについて
述べてみました。


 ところで自民党は、公明党と連立を組むことになっているので、公明党
の意見によっては、政策に若干の変更があるかも知れません。

 しかし基本的には、やはり、安倍首相の意向がとても強く影響するの
でしょう。


 なので今後、

 安倍政権については、「国民による監視の目」を、つねに光らせて
いなければならないと思っています。




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