COP18 その2
2012年12月9日 寺岡克哉
前回に引きつづき、
COP18(国連気候変動枠組み条約 第18回締約国会議)の経過
について、
見て行きたいと思います。
* * * * *
12月1日。
会議前半の最終日を迎えましたが、2020年以降の温室効果ガス
削減に関する「新たな法的枠組み」の交渉に、進展はありませんで
した。
この日の作業部会でも、来年以降の行程を決める作業計画に関す
る協議は、物別れに終わっています。
このため、12月4日から始まる「閣僚級会合」も、難航することが
予想されます。
* * * * *
12月2日。
2020年以降の「新たな法的枠組み」に関する作業部会の、共同
議長が、
「2014年のCOP20までに、新たな法的枠組みの骨子をまとめる」
とする作業計画のたたき台を示しました。
この「たたき台」は、共同議長が、会期前半の1週間の議論を踏ま
えて、非公式にメモにまとめたものです。
今後さらに協議をつづけて、この会議での最終決定をめざします。
* * * * *
12月3日。
中国政府の代表で、閣僚級でもある解振華・副主任が、初めて
スピーチを行ないました。
この中で解振華・副主任は、今年の1月〜9月までのGDP(国内
総生産)に対する中国国内のエネルギー消費量が、前年の同じ時期
にくらべて3.4%減っているとして、中国で実施されている温暖化
対策の成果を強調しました。
(これは、対GDP比におけるエネルギー消費量の話なので、中国
の温室効果ガス排出量が減っている訳ではないことに、注意して
ください。)
また解振華・副主任は、温室効果ガスの削減義務について、「公平
の原則が重要である」と述べ、
先進国と途上国は、それぞれの能力に応じて責任を負うべきだと
いう考えを、改めて示しました。
中国としては、これまでと同じように、途上国としての立場を強調し
て、先進国とは異なる扱いを求めて行くものと思われます。
* * * * *
12月4日。
COP18の「閣僚級会合」が始まりました。
ちなみに、これまでの会議では、
日本をふくむ先進国側が、温室効果ガスの削減を先進国だけに義務
づけた京都議定書に代わって、
2020年以降からすべて国が参加する、「新たな法的枠組み」につい
ての議論を進めようとしてきました。
しかし途上国側は、「その前に、まず具体的な資金援助を約束する
べきだ」と主張しています。
それに対して先進国側は、「世界的な不景気のなか、具体的な支援額
を打ち出すのは難しいと」反論しており、このようは厳しい対立が続いて、
交渉が難航しています。
閣僚級会合の前に記者会見をした、長浜環境相は、
「資金について議論になる。日本は資金支援で世界に貢献している」
と述べて、交渉の前進に向けて各国に働きかける考えを示しました。
ちなみに長浜環境相は、閣僚級会合の前に、オーストラリアとの2国間
交渉も行なってます。
その場で、「最大の課題は資金問題。長期的にしっかり援助を続ける
という意思表示が大切」という認識を、オーストラリアと共有しました。
また、先進国が途上国に資金や技術の支援を行なって、そこで削減
した分を、先進国の削減分に組み込むという「CDM(クリーン開発メカ
ニズム)」について、
京都議定書の第2約束期間に参加しない国(つまり日本など)も、引き
つづき利用できるようにするべきだとの認識でも、オーストラリアと一致
しました。
長浜環境相は、「CDMは途上国の対策を支援する仕組み。アクセスを
認めないということは理解できない」と述べています。
閣僚級会合の開幕に合わせて、国連の潘基文(パン・ギムン)事務
総長が演説を行ないました。
まず、潘基文・事務総長は、温暖化の影響で異常気象が世界各地で
起こるなど、「人類の生存が脅かされている」と訴えて、つよい危機感を
示しました。
その上で、「気候変動問題の解決は持続的な発展が不可欠。すべての
参加国にたいし、このドーハで妥協の精神を持ち、長期的な視点に立っ
て、協調して行動するよう求める」と要請しました。
また、潘基文・事務総長は、途上国に気候変動対策として2020年まで
に年間1000億ドル(およそ8兆1900億円)を拠出する計画を、
どのように実行するかについて、先進国がその詳細を提示するように
呼びかけました。
(この、年間1000億ドル拠出の計画は、2009年のCOP15で策定
されています。)
潘基文・事務総長は、記者団への説明会で、「これ(年間1000億ドル
の拠出)は、参加国の信頼性に関わる問題だ。15年までに法的拘束力
のある温暖化対策の枠組みを構築するために極めて重要になるだろう」
と述べています。
この日に始まった閣僚級会合で、先進国側は、
2010年〜2012年に実施した途上国への資金援助が、合計で336億
ドルに上り、300億ドルという目標を達成したと報告しました。
ところが途上国側は、
「温暖化を引き起こした先進国の当然の義務だ」と主張し、「2020年に
年間1000億ドルの支援」の確約を求めました。
このため、先進国が拠出した資金の4割を負担している日本の交渉官
が、「感謝の言葉もない。日本の納税者は国際社会の反応を気にして
いるのに、これでは援助を続けられない」と、反発する場面があったほど
でした。
* * * * *
12月5日。
長浜環境相が、COP18の閣僚級会合で演説を行ないました。
しかしながら、「温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%
削減する」とした国際公約には触れず、
「2050年までに1990年比で80%削減する」という長期目標を
述べるに留まりました。
しかしそれでも、日本が京都議定書の第1約束期間(2008年〜
2012年)で約束した削減率は、達成できる見通しとなったことや、
途上国への資金支援を、来年以降も切れ目なく行なっていくこと
など、
日本が温暖化防止に向けて、真剣に取り組んでいることを強調して
います。
2020年以降の「新たな法的枠組み」については、2015年の採択
に向けて、「明確なメッセージを世界に示すことが必要だ」と強調しま
した。
その上で、来年以降の交渉スケジュールを盛り込んだ作業計画を、
今回の会議で策定するように訴えました。
また、長浜環境相は原発事故に触れて、「厳しい状況にあっても、
気候変動問題に積極的に取り組む意欲を失っていない」と主張しま
した。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度や、地球温暖化対策
税を導入したことを挙げて、温暖化対策に前向きな姿をアピールして
います。
また、世界で唯一の温室効果ガス観測衛星「いぶき」と、その後継機
を例に出して、「気候変動科学の進展や国際的な温暖化対策に貢献
していく」と述べました。
日本が唱えている、排出枠を融通する仕組みの「2国間クレジット
制度」については、
「人材育成などを組み合わせ、途上国の低炭素成長を後押しする」
と話しました。
この演説で、長浜環境相が「温室効果ガスを2020年までに1990年
比で25%削減する」という国際公約に触れなかったことについて、
各国から厳しい意見も出ています。
たとえば、マラウイのゴメズカニ・ハラ環境気候変動大臣は、「日本の
ような先進国には排出削減の約束を守ってほしい。排出しているのは
日本のような大国だが、苦しんでいるのは我々のような小さな国だから
だ」と述べて、日本の削減目標が低くなることに懸念を示しました。
一方、イギリスのデイビー気候変動大臣は、「福島の事故によって
日本が困難に直面していることは理解しているので、日本政府が次に
出そうとしているものを待つべきだ」と述べて、新たな目標に期待する
考えを示しています。
同日。
この日の「化石賞」の2位に、日本が選ばれました。
その理由として、長浜環境相の演説で、「温室効果ガスを2020年
までに1990年比で25%削減する」という国際公約に触れなかった
ことや、
今後の発展途上国への資金援助について、「来年以降も切れ目なく
行なっていく」と述べるに留まり、具体的な内容を示さなかったことなど
が、挙げられています。
これについて、日本政府の代表幹部は、「先進国の4割を占める
日本の資金援助が、正当に評価されていない」と反論しています。
同日。
複数の交渉筋が明らかにした所によると、京都議定書の第2約束
期間を、2013年〜2020年の8年間にすることで、合意する見通し
になりました。
EU(欧州連合)やスイスなどは、京都議定書の第2約束期間に参加
することを表明したうえで、その期間は2013年〜2020年の8年間に
することを提案していました。
これに対して途上国は、参加国が掲げる削減目標は低いという考え
を示し、短期に見直すことができるように、2013年〜2017年の5年
間にするべきだと強く主張しています。
この日に提示された議長案では、8年間と5年間が併記されていま
したが、
各国が事務レベルでの調整を続けた結果、第2約束期間を8年間と
し、期間の途中段階で削減目標を見直すことで、歩み寄ることができ
ました。
今後の閣僚級会合で決定する見通しです。
* * * * *
12月6日。
京都議定書に関する議論で、第2約束期間に参加しない日本などに
対して、
「CDM(クリーン開発メカニズム)を利用させるべきではない」という
意見が相次ぎ、最終日の7日まで結論が持ち越されました。
交渉に臨んでいる経済産業省の赤石審議官は、「予断を許さない状況
で、今後の閣僚どうしの交渉が大きなポイントとなる」と話しています。
同日。
温暖化対策のために、先進国から新興・途上国に行なう資金援助に
ついて、閣僚級会合での交渉が続けられました。
しかしながら、新興・途上国が2015年まで3年間の資金の確保に焦点
を絞って、先進国に具体的な回答を要求しているのに対し、
日本やアメリカなどは、具体的な額の提示には応じない姿勢を崩して
いません。
このように先進国と、新興・途上国の主張は、依然として平行線をたどっ
ており、最終日の7日を前にして交渉が厳しさを増しています。
同日。
日本とモンゴルの両政府は、日本の低炭素技術とモンゴルの温室効果
ガス排出枠を交換する、「2国間クレジット制度」の導入で合意しました。
日本は、アジアやアフリカ諸国と「2国間クレジット制度」の協議を進めて
いますが、モンゴルとの合意が初めてとなります。
この制度は、日本が温室効果ガス排出削減につながる新技術やイン
フラなどを途上国に提供する一方、削減貢献分に応じた排出枠を日本
が得ることになります。
来年の4月以降から、モンゴルの老朽化した石炭火力発電所の更新
など、具体的なプロジェクトに着手する予定です。
同日の夜。
長浜環境相が、COP18の会期が残っているにもかかわらず、帰国の
ために会場を後にしました。
COP18での交渉が正念場を迎え、発展途上国への資金援助など
事務レベルで解決できない問題について、政治決着を目指す動きが
本格化するさなかでの帰国です。
環境省によると、帰国直後に公務があるわけではなく、対応に疑問の
声が出ています。
日本代表団のある幹部は、「会期延長のためではなく、もとから最終日
の参加を予定しない例は覚えがない」と話しています。
また、環境NGO「気候ネットワーク」の平田・東京事務所長は、「日本は
自国のアピールに来ただけで、交渉をまとめようとは考えていないという
こと。悲しくなる」と話しました。
長浜環境相は記者団にたいし、「大臣レベルで話はしたし、日本国チーム
としてスタッフも一生懸命やっている」と述べ、交渉で日本の存在感が薄れ
る懸念はないと強調しています。
ちなみに、長浜氏の事務所によると、12月の8日と9日に民主党候補の
応援があるといいます。
* * * * *
12月7日。
COP18の最終日になりましたが、途上国への2013年以降の資金
支援をめぐり、各国の意見が対立して、この日には「合意決議」が出来
ませんでした。
同日の午前。先進国に「増額の約束」を促す決議案が示されましたが、
意見の集約が出来なかったのです。
このため同日の夜に、「増額の確実な努力継続の約束」を促す案に
修正されましたが、
しかし途上国側、とくにアフリカ諸国が、「2015年までの間の具体的
な支援額をあくまでも提示するべきだ」などとして、妥協する姿勢を見せ
ていません。
* * * * *
12月8日の朝。
議長国のカタールが、「最終合意案」として妥協案を示しました。
議長を務めるカタールのアティーヤ副首相は、いったん会合を中断
して、各国にこの案を持ち帰り、合意するように呼びかけました。
しかし、この時点では、会合再開の見通しが立っていませんでした。
同日の夜になり、やっと、
COP18において、「ドーハ合意」というのが採択されました。
この合意は、2020年以降の「新たな法的枠組み」の交渉スケジュー
ルを盛り込んだ、「作業計画」が柱となっています。
その作業計画は、2013年に締約国から「新たな法的枠組み」につい
ての意見を募って本格交渉に入り、2014年に交渉文書の素案を作成
します。2015年の5月までに交渉文書をまとめ、同年12月のCOP21
で合意することになっています。
また、京都議定書の「第2約束期間」は、2013年〜2020年の8年間
となりました。
CDM(クリーン開発メカニズム)の利用について、日本などの第2約束
期間に参加しない国の場合は、自国の削減分としてCDMを利用できま
すが、削減分を転売する目的での利用はできません。
難航していた資金援助の問題は、2013年〜2015年の3年間の援助
資金の規模について、少なくても2010年〜2012年までに拠出された
水準(336億ドル)を目指して努力するように、先進国に対して促すこと
で決着しました。
また、民間の資金なども導入して、「2020年までに年間1000億ドル
の資金援助」の達成に向けて、努力を続けることも盛り込まれています。
「ドーハ合意」の採択後、議長を務めたカタールのアティーヤ副首相は、
「合意に向けたすばらしい意思と真剣な作業に感謝する」と述べて、
COP18が閉幕しました。
次回では、このたびのCOP18について、私の思ったことや考えたことを、
お話したいと思います。
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