COP18 その1
                           2012年12月2日 寺岡克哉


 11月26日。

 COP18(国連気候変動枠組み条約 第18回締約国会議)が、
カタールの首都ドーハで開幕しました。

 12月7日までの日程で行なわれますが、本サイトでも、この会議に
ついてレポートして行きたいと思います。



 ところで、COP18の最大の焦点は、

 中国もアメリカも、すべての国が参加する、2020年以降の温室効果
ガス削減に関する「新たな法的枠組み」について、

 2015年までの交渉完了(つまり採択)に向けた、作業計画をつくる
ことができるかどうか
です。



 また、次に大きな焦点として、

 京都議定書は、2008年〜2012年を「第1約束期間」としていますが、

 2013年以降における「第2約束期間」の長さを、5年にするのか8年
にするのかと、
 EU(欧州連合)、スイス、ノルウェーなど、第2約束期間に参加する
国々における、温室効果ガスの削減目標を、

 今回のCOP18で「確定」しなければなりません。

 (ちなみに日本は、第2約束期間に参加しないことを、昨年までに決定
しています。)



 この日の開会式で、

 フィゲレス事務局長は、「いかに(削減目標)の野心を引き上げるか、
すべての国が参加する将来枠組みをいかに作るかという課題に直面
している」と述べました。

 また、

 アティーヤ議長(カタール行政監督長官)は、「次の世代により良い
未来をもらたせるよう、真剣に論議しなければならない」と述べて、
各国に合意に向けた努力を求めました。



 同11月26日。

 今回のCOPでは初めてとなる「化石賞」が、日本に贈られました。

 「化石賞」とは、世界各国のおよそ700の環境NGOで作るグループ
がCOPの会期中、「最も交渉に後ろ向きな対応をした」と判断した国
や地域に、皮肉をこめて毎日贈るものです。

 日本に化石賞を贈った理由として、京都議定書の第2約束期間に
参加しないことを挙げており、「唯一の法的枠組みに参加するチャンス
はまだある」というメッセージを日本に送りました。

 化石賞の受賞について日本政府は、「議定書の継続に参加しない
ことは2年前にすでに表明している。議定書で削減義務を負っている
国の排出量は少なく、今後も態度は変えない」としています。

 この日の化石賞は、日本のほか、アメリカ、カナダ、ロシア、ニュー
ジーランドにも贈られました。
 すでにアメリカは2001年に議定書を離脱しており、カナダは議定書
からの離脱を表明しています。ロシアやニュージーランドは、日本と同じ
ように第2約束期間に参加しないことを決めています。



 同日。

 オーストラリア政府は、京都議定書の第2約束期間における温室効果
ガスの削減目標を、事務局に提出しました。
 第2約束期間を8年とすることなどを条件に参加し、2013〜2020年
に1990年比で0.5%削減するということです。

 一方、ニュージーランドは、この日、第2約束期間に参加しない方針を
改めて示しました。


               * * * * *


 11月27日。

 政府が、「地球温暖化問題に関する閣僚委員会」を開き、COP18
に向けた日本政府の対応を決めました。

 野田首相は会議の冒頭で、「温暖化防止へすべての国が参加し、
公平で実効性のある法的枠組みの構築が急務だ」と述べ、
 2020年以降の「新たな法的枠組み」への議論を、COP18で前進
させる必要があるという認識を示しました。

 閣僚委員会では、まず、「温室効果ガス排出量を2020年に1990
年比で25%削減する」とした国際公約を維持したまま、COP18での
交渉に臨む方針を決定しました。
 これについて長浜環境相は、会見で、「新たな目標は来年以降の
計画の中で作っている最中のために今は表明できないのであって、
25%を維持し続けるわけではない」と述べています。

 また閣僚委員会では、日本政府として3年前の会議で公約した、
途上国に150億ドルの資金支援を行なうことについては、
 すでに174億ドルの支援を実施し、達成したことを、COP18で表明
する方針を決めました。



 同日。

 COP18の会場で、日本政府が初の記者会見を行ないました。

 会見では、堀江・地球環境問題大使が、「2010〜2012年に計150
億ドル」とした途上国への支援目標を上回る、174億ドル(およそ1兆
4000億円)を10月末までに拠出したことを報告し、2013年以降も
切れ目なく支援すると説明しました。

 また、再生可能エネルギーの導入などで温暖化対策を進めている
ことを紹介したうえで、「新たな法的枠組みの構築に向けて努力したい」
と訴えました。

 しかし海外メディアからは、「温室効果ガスを2020年に1990年比
で25%削減」の取り扱いについて質問が出され、
 堀江大使は、「撤回したわけではなく、今、見直し作業を進めている」
と述べるにとどまりました。

 およそ400席ある会見場は空席が目立ち、温暖化交渉での日本の
存在感の薄さを、浮き彫りにしています。
 堀江大使は、「もう少したくさんの人に来てもらえれば良かったが、
日本の政策についてはしっかりと伝えられたと思う」と話しました。

 会見後、日本政府の関係者は、「日本は資金も出しているし排出量
削減努力も進めていくと言っている。なのに温暖化対策に後ろ向きな
ように見られるのは納得がいかない」と話しています。



 同日。

 途上国への温暖化対策支援で、先進国が2010〜2012年に拠出
した資金の額が、10月末時点で合計336億ドル(およそ2兆7000億
円)に達し、当初計画していた300億ドルを上回ったことが分かりました。

 このうち日本は133億ドルと約4割を占めて最多であり、EUの92億
ドル、アメリカの75億ドル、ノルウェーの19億ドル、カナダの10億ドル
と続いています。

 とくに日本の場合は、民間資金を合わせた「鳩山イニシャチブ」として
の支援額が174億ドルに上っています。



 同日。

 京都議定書における、2013年以降の「第2約束期間」を、何年間継続
させるかという議論が始まりました。

 EUやオーストラリアが、2020年に始まる「新たな法的枠組み」までの
「8年間」と主張したのに対して、
 島国やアフリカなどの途上国は、先進国が厳しい排出削減を続ける
には「5年間」にすべきだと反論しました。

 ちなみに日本は、京都議定書の第2約束期間には参加しないことを
表明していますが、
 途上国に資金や技術の支援を行なって、そこで削減した分を日本の
削減分に組み込むという、京都議定書の「CDM(クリーン開発メカニズ
ム)」を、来年以降も取り入れたいとしています。
 しかし、この日の会議では、新興国や途上国が、京都議定書の継続に
参加しない国には、CDMを使わせるべきではないと強く主張しました。
 今後の交渉次第では、日本にとって不利な状況になる恐れもあり、
議論の行方を注視する必要があります。


               * * * * *


 11月28日。

 WMO(世界気象機関)は、2012年の世界の気候が、平均気温を
下げるラニーニャ現象があったにもかかわらず、過去9番目の暑さに
なり、各地で極端な異常気象による災害が多発したと、COP18の会場
で発表しました。

 1月〜10月のデータを分析した暫定報告によると、今年の世界の
平均気温は、1961〜1990年の平均にくらべて0.45℃高くなり、
記録のある1850年以降のおよそ160年間で、9番目の高さになりま
した。

 異常気象については、10月にアメリカを襲ったハリケーン「サンディ」
のほか、9月の台風16号は、日本だけでなくフィリピンや朝鮮半島にも
深刻な被害をもたらしました。
 アメリカやヨーロッパでは3月〜5月に熱波が襲い、オーストラリア
では4月〜10月の降水量が例年より31%も少なくなりました。
 1月〜2月にはヨーロッパやロシアで記録的な寒波となり、ロシア東部
では−45℃〜−50℃になりました。
 北日本が8月〜9月に厳しい残暑に襲われ、北極海の海氷面積が9月
に最小記録を更新しています。

 WMO(世界気象機関)は、これらを温室効果ガスによる地球温暖化の
影響とみており、COP18での交渉の加速を促しています。



 同日。

 中国政府代表の蘇偉・副団長は、COP18開催国のカタールで、メディ
アのインタビューに応じ、
 「2020年以降の国際枠組みの議論でも、公平性と”共通だが差異ある
責任”の原則は必要だ」と述べて、中国は「途上国の一員」であることを
強調しました。

 一方、日本が京都議定書の第2約束期間に参加しないことに関して
蘇偉・副団長は、
 「排出削減と途上国への資金・技術支援の義務がなくなったわけでは
ない」と指摘し、「条約・議定書の締約国として削減目標を約束する義務
は持ちつづける」と語りました。

 ちなみに中国は、経済成長とともに温室効果ガスの排出が急増し、
現在では世界第1位の排出国になっています。
 累積の排出量でも、先進国と肩を並べはじめており、「歴史的排出の
責任」を問う声も出ています。



 同日。

 京都議定書の「CDM(クリーン開発メカニズム)」について、日本政府
が2013年以降の活用を、断念する可能性が出てきました。

 新興国や途上国は、日本などの第2約束期間に参加しない国が、
CDMを利用することに反対していますが、
 日本政府の関係者は28日までに、「本当に認めないのであればしょう
がない」として、反対意見が強い場合は、それを受け入れる考えを示し
ました。



 同日。

 来年のCOP19の開催地が、ポーランドのワルシャワに決まりました。

 しかしポーランドは、EUの一員でありながら、EUが第2約束期間の
削減目標を引き上げることに、強く反対しています。
 そのため交渉関係者からは、「議長がきちんと務まるのか」という懸念
の声が漏れています。

 ポーランドが削減目標の引き上げに反対するのは、二酸化炭素が多く
排出される「石炭火力発電」に、エネルギーを依存しているためです。


               * * * * *


 11月29日。

 COP18は、2020年の温室効果ガスの削減レベル引き上げに関する
作業部会を開きました。

 この場でアメリカやEUは、民間企業の活動や航空分野の排出抑制など、
これまで気候変動枠組み条約では対象としてこなかった分野も、議論の
対象にして削減対策の幅を広げるべきだと主張しました。

 というのは、同条約の締約国は、産業革命以降の気温上昇を2℃以内
に抑えることで合意していますが、
 各国の2020年の削減目標をすべて合計しても、それを実現するには
削減量が足りないからです。

 アメリカやEUの発言は、削減の余地が大きいとされる航空分野や民間
との連携を強化して、足りない分を補完しようというものです。

 しかしながら、一部の途上国からは、「国別の削減目標の位置づけを
あいまいにする」という批判も出ています。



 同日。

 日本、アメリカ、オーストラリアなどの「先進国グループ」は、2013年
以降の排出枠の「市場メカニズムに関する枠組みづくり」を求める文書
を、条約事務局に提出していたことが公表されました。

 日本が提唱している「2国間クレジット制度」を含めて、温室効果ガス
の排出枠を融通する際の透明性を確保し、複数国による二重計上の
防止につなげる考えです。

 2国間クレジット制度などの「市場メカニズム」は、共通のルールがなく、
透明性や信頼性の確保が課題となっていました。
 そのため先進国グループは、「共通のルール(枠組み)」が必要だと
判断したのです。



 同日。

 環境NGOの「CAN]は、ポーランドに「化石賞」を贈りました。

 ポーランドは、来年のCOP19の開催国に決まりましたが、EUの削減
目標引き上げに反対するなど、後ろ向きな姿勢が目立っています。

 そのためNGOからは、「議長をやるのは態度を改めてからだ」という
批判が出ています。

 ちなみにEUの2020年の目標は、1990年比で20%の削減ですが、
条件付きで30%に引き上げる方針になっています。
 しかし、エネルギーを石炭火力に頼るポーランドは、それに反対して
いるのです。


               * * * * *


 11月30日。

 COP18は、2020年以降の温室効果ガス削減の「新たな法的枠組み」
に関する作業部会を開きました。

 この場で日本は、現行の京都議定書では中国やインドなどの新興国が
削減義務を負っていないことを念頭に、
 「新たな枠組みではすべての国が確実に参加しなければならない。メリッ
トを設け参加を促すべきだ」と述べて、
 新興国も含めて、すべての国が責任を負う仕組みにするべきだと主張
しました。

 アメリカは、条約が採択された20年前との状況の変化を、反映させな
ければならないと指摘しました。
 また、先進国と、新興国や途上国では責任の度合いが異なるという、
「共通だが差異のある責任」の原則については、
 「新たな枠組みでも適用されるだろう」としながらも、「解釈は当然変わる
べきだ」と強調しています。

 中国は、自国や途上国と、温室効果ガスを長年にわたって排出してきた
先進国を、同じ扱いにするべきでないと主張しました。


              * * * * *


 以上、11月26日〜30日までの経過について見てきました。


 最大の焦点である、2020年以降の温室効果ガス削減の「新たな法的
枠組み」については、

 まだ議論が始まったばかりで、2015年までの交渉完了(つまり採択)
に向けた作業計画をつくることができるかどうか、

 現時点では分からない状況です。



 ところで日本は、京都議定書の第2約束期間に参加しないので、CDM
(クリーン開発メカニズム)が利用できなくなる可能性があります。

 おそらく、そのためかも知れませんが、日本は「2国間クレジット制度」と
いうものを、国際社会に認めさせようとしているみたいです。

 しかしこれも、上手く行くかどうか、まだまだ不透明な状況だと言わざる
を得ません。



 次回も引きつづき、COP18の経過について見て行きたいと思います。



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