北極の海氷 最小記録を更新
2012年11月4日 寺岡克哉
すこし前になりますが、
9月19日に、NSIDC(アメリカ雪氷データセンター)や、NASA(アメ
リカ航空宇宙局)は、
今年の北極海の海氷面積が、9月16日に341万km2にまで縮小し、
1978年に観測を開始して以来の最小記録を、更新したと発表しま
した。
NSIDCの観測によると、これまでの最小記録は2007年の417万
km2であり、
今回の記録は、それよりさらに、日本列島2つ分も海氷面積が小さく
なっています。
一方、
9月20日付けの、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のプレリリースに
よっても、
今年の北極海の海氷面積は、同じく9月16日に、349万km2にまで
縮小し、
観測史上の最小記録を、更新したとなっています。
JAXAによると、これまでの最小記録は、2007年の9月に観測された
425万km2であり、
やはり今回の記録は、それよりさらに、日本列島2つ分の面積の海氷
が失われています。
ところで、
上のNSIDCやNASAの観測値と、JAXAの観測値では、すこし数字が
違っています。
これは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の説明によると、
観測に使った衛星のセンサーの違いや、データの処理方法の違いが、
その原因だということです。
* * * * *
また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の、9月20日付けプレリリース
によると、
北極海の海氷縮小の背景には、
1980年以降増加傾向にある北半球の気温上昇に伴い、海氷厚が徐々
に薄くなり、
大気場(気温や風)や海水温の影響を受けやすい状態に、海氷が変化
してきていることがあるとみられています。
とくに今年は、春の段階で北極海のほぼ半分の海域が薄い「一年氷」
(前年の夏以降に生成した氷)で広く覆われていたこと。
また、夏期には大型の低気圧が北極海上空に発生して、海氷域を襲って
いる様子が衛星画像でも捉えられており、
海氷の融解縮小を促進する効果があったものと推定されています。
* * * * *
ところで、
このように北極の海氷が縮小してくると、「北極海航路」というのが
使えるようになり、
日本とヨーロッパを船で結ぶ距離が、今まで東南アジアからインド、
そしてスエズ運河を経由していたのよりも、ずっと近くなります。
また、北極の海氷が縮小してくると、
北極海の海底に眠っている、石油や天然ガスなどの地下資源が、
開発できるようになります。
このような、「短絡的で近視眼的なメリット」は確かにありますし、
国土が北極海に面している国々では、
そのような利権をめぐる争いが、すでに起こっているみたいです。
* * * * *
ところが!
北極の海氷が縮小すると、そのような「短絡的で近視眼的なメリット」
では、とうてい埋め合わせることができない、
「ものすごく大きなデメリット」があります。
それは、「地球温暖化をさらに加速させてしまう」ことです。
つまり北極の海氷は、地球に降りそそぐ太陽の光を、宇宙に反射させ
ることによって、地球が温まり過ぎるのを防いでいるのです。
しかし海氷が縮小すると、表面にむき出しになった「海水」が、太陽光
を吸収するようになり、地球を暖めてしまいます。
そうすると、ますます海氷が縮小し、ますます海水がむき出しになって
太陽光を吸収し、ますます地球を暖めてしまうのです。
このような「悪循環」(正のフィードバックと言われます)が、形成される
ことにより、地球温暖化がどんどん加速してしまうわけです。
* * * * *
実際、このような「正のフィードバック」が、すでに起こっていると主張
する研究者もいます。
たとえば、オーストラリア・メルボルン大学の、ジェームズ・スクリーン
博士と、イアン・シモンズ教授は、
海氷の急速な融解によって、北極の温暖化の度合いが、この20年
で劇的に高まったとする論文を、
2010年4月28日に、イギリスの科学誌「ネイチャー」で発表してい
ます。
当時のマスコミ取材にたいして、ジェームズ・スクリーン博士は、
「海氷は、北極海をきらきらと覆う蓋のような働きをしており、入って
くる日光のほとんどを宇宙に跳ね返す」
「海氷が融けると、より多くの熱が海水に吸収される。そうなると、
温まった海水が、上空の大気を暖めることになる」と説明しており、
「(今回の研究で、)この自己強化型のフィードバック(正のフィード
バック)が、これまでよりも速いスピードで、大気を暖めていることが
分かった」と述べています。
また、イアン・シモンズ教授は、
今回の発見は「意義深い」として、「これまで、海氷の損失がさらなる
温暖化を引き起こすと考えられてきたが、それが既に起こっていること
が確認された」と語っています。
* * * * *
ところで・・・
北極の海氷が縮小することによって、「ホッキョクグマの絶滅」が危惧
されています。
確かに、それも大きな問題ですが・・・
しかしそれだけでなく、海氷が縮小して、地球温暖化が加速すれば、
「大規模な洪水」や「長期の干ばつ」などの甚大な自然災害が、
(もうすでに世界各地で起こっていますが)さらに多発するようになる
でしょう。
そうなれば、
世界中で、何千万人、何億人もの人々が、大きな被害を受けることに
なってしまいます。
だから海氷の縮小は、ただ単に北極圏だけの問題ではなく、
世界全体にとって、人類全体にとっての、ものすごく大きな問題だと
いえるのです。
そのことに比べれば、
北極海航路が使えたり、北極海の地下資源が開発できるというのは、
ほんとうに目先だけの、とても小さなメリットにしか過ぎないと、言わざる
を得ません。
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