日中関係も悪化 6
                          2012年10月7日 寺岡克哉


 前回に引きつづき、

 いま緊張が高まっている、日中関係の動向について見ていきましょう。


               * * * * *


 9月24日。

 中国の新聞各紙は、中国側によって、日中国交40周年の大規模式典
が中止されたことを、大きく報道しました。
 大きな見出しをつけるとともに、「日本政府は中国側の断固とした反対
にもかかわらず、島の購入に固執し、国交正常化40周年の雰囲気を
壊した」などと、9月23日に新華社通信が伝えたのと同じ記事を掲載して
います。

 中国共産党系の「環球時報」は、中国人学者の分析として、「記念式典
の暫定的な中止は、中国の日本に対する制裁措置の一つと言える。
もし必要なら、中国はさらに多くの策を打ち出す」などと伝えて、中国側が
さらなる対抗措置を検討していることを示唆しました。

 北京市民の間には、「今回の(式典中止の)決定は日本側に責任があ
る。日本が島を国有化したことは、中国人の心を傷つけたので、中国側
の反応は当たり前のことだ」と、中止を支持する意見が多かったですが、
 一部には、「中国も日本も熱くなっているので、冷静になってから友好
の式典は開くべきだ」と、両国政府に冷静な対応を求める意見もありま
した。


 この日。中国外務省の洪磊(こうらい)・副報道局長は、大規模式典が
中止されたことについて、
 「ことしは日中国交正常化40年で、本来ならば両国関係を発展させる
大事なチャンスだった。しかし、日本政府は不法に島を購入し、中国の
主権を侵害するとともに中国の国民の感情を傷つけ、日中関係をひどく
損なった」と述べました。
 その上で、「日本は、これによって生じたすべての結果について、責任を
負わなければならない」と述べ、原因は日本政府の尖閣国有化にあると
強く非難しました。
 しかしながら洪・副局長は、「双方の友好協会が記念式典など関連の
活動を適当な時期にずらして行う決定をした」と述べて、関連行事の年内
実施に含みを持たせています。

 また、中国の税関で、日本製品の検査が強化されていることについて
は、「(日本の尖閣国有化による)深刻な影響が双方の経済・貿易協力
分野に及んでいる。これは見たくなかったものだ」と述べて、日本側に
中国主権への侵害行為の停止と、交渉を通じた問題解決を求めました。



 同日。

 この日から予定されていた、中国共産党高官の日本訪問が、急きょ
中止になったことが分かりました。
 中国共産党の中央対外連絡部が、この日の午前に、日本側の関係者
へ通知してきました。理由は「諸般の事情」としていますが、日本政府の
尖閣国有化に反発して、対抗措置を取ってきたのは確実です。

 訪日する予定だったのは、対外連絡部の楊燕怡・部長補佐(次官級)ら
です。
 政党間交流の一環として、東京で民主党や自民党など与野党の幹部と
会談し、民主党代表選や自民党総裁選を迎えた日本の政局を探るととも
に、尖閣国有化による日中間の緊張関係の緩和に向けた、意見交換を
する予定でした。
 楊・部長補佐は、外務省アジア局長などを歴任し、対日政策にも携わっ
たことがある人物です。



 同9月24日。

 中国当局船4隻が、一時、日本の領海に侵入しました。

 第11管区海上保安本部によると、尖閣諸島沖でこの日、中国の海洋
監視船2隻と、漁業監視船2隻の合わせて4隻が、魚釣島や久場島など
の沖合いの接続水域から、相次いで日本の領海に侵入しました。
 中には、日本の巡視船の警告にたいし、「ここは中国の領海だ」と反発
したうえで、巡視船に領海から出るように求めた船もあったということです。

 その後、4隻とも領海の外に出たのが確認されましたが、すぐ外側の
「接続水域」には、午後9時の時点でも、中国当局船8隻が依然として
とどまっています。
 海上保安本部は、中国当局船がふたたび領海に入る恐れがあるとみて、
巡視船を出して警戒を続けています。


 この日の夜。中国国営の新華社通信が、漁業監視船を管轄する中国
農業省の責任者の話として伝えたところによると、
 尖閣諸島の周辺海域には、およそ200隻の漁船が操業しており、漁船
の活動を保護するため、この海域で10隻の漁業監視船が活動を続けて
いるとしています。
 そして、東シナ海と尖閣諸島の周辺海域では、中国の漁船を保護する
ために、今後も常時、漁業監視船を派遣するとしています。

 また、中国国営の中国中央テレビは、夜のメインニュースで、日本の
領海に侵入した2隻の海洋監視船について、
 「島の周辺海域で、中国の法律に基づいて、巡視のために航行した」
と伝えて、監視船の活動を正当化するとともに、尖閣諸島に対する主権
を内外にアピールしようとしています。



 同日。

 外務省は、河相事務次官が、この日から25日まで北京を訪問し、中国
の張志軍・筆頭外務次官と会談すると発表しました。
 尖閣国有化後に、日中両政府の次官級が協議するのは初めてのこと
です。日本政府としては、緊迫化している日中関係の打開に向けて意見
交換したい考えです。

 日本時間の午後7時ごろ、河相事務次官が北京に到着しました。
 到着後、河相事務次官は記者団にたいして、「率直に日本側の考えて
いることを説明し、中国側の考えていることを聞く。両国の関係の前進に
努力したい」と述べています。

 中国外務省の洪磊・副報道局長は、この日の会見で、張志軍・筆頭
外務次官が25日に予定されている河相事務次官との会談について、
 「あくまでも日本の求めに応じたものだ」と強調した上で、中国側の厳正
な立場を説明し、日本側が「誤った決定を改め、日中関係の改善に向け
て努力するように求めていく」ことを明らかにしました。



 同9月24日。

 外務省は、この日までに、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も、日本
の領土であることは明らかで、中国側の主張は受け入れられない」と
反論する文書を、国連に提出しました。

 これは、9月13日に中国政府が、尖閣諸島周辺で独自に定めた領海
基線を記した海図などを国連に提出し、受理されたことを受けたものです。

 外務省が国連に提出した反論文書は、正式に受理された後、国連の
ホームページで公開される予定です。外務省は、今後も尖閣諸島が日本
の領土であるという日本の立場の正当性を、国際社会で主張していくと
しています。



 同9月24日。

 この日の午後、野田首相は国連総会に出席するため、羽田空港の政府
専用機でニューヨークに向けて出発しました。
 野田首相は26日の午後(日本時間27日未明)に、総会で一般討論演説
を行います。
 首相は出発前に先立ち、記者団にたいして、「法の支配の考え方にのっ
とって、紛争を予防し、平和的解決を図ることの重要性を、一般討論演説
や2国間会談で伝えたい」と語りました。
 しかしながら、「基本的に、個別の案件を演説で扱うことはない」として、
中国や韓国を刺激しないため、尖閣諸島や竹島には直接言及しない方針
を改めて示しました。



 同9月24日。

 日中経済協会は、25日〜28日に予定していた訪中代表団の北京派遣
を、中止すると発表しました。1975年に派遣をスタートして以来、中止した
のは初めてのことです。

 ただ、経団連の米倉会長と、日中経済協会会長の張富士夫トヨタ自動車
会長は、協会代表として北京入りし、27日の日中友好7団体と唐家セン・
中日友好協会会長(前国務委員)の会談には参加する予定です。

 日中経済協会は当初、大手企業トップら170人による過去最大の訪問団
を派遣する予定でしたが、
 9月17日に、中国側から「安全の確保ができない」という連絡があった
ため、日程を短縮して規模も20人に縮小し、中国側に働きかけていました。
 しかし中国側から、温家宝首相や経済閣僚との会談を実施できないと
いう連絡が入ったため、このたびの訪問は断念しました。



 同9月24日。

 日本政府の尖閣国有化に抗議するため、台湾の漁船およそ60隻、
約300人からなる船団が、この日の午後に宜蘭県蘇澳鎮の南方澳漁港
から、尖閣諸島に向けて出航しました。
 台湾の海岸巡防署(海上保安庁に相当)は、船団を護衛するため、11
隻の巡視船や巡視艇を派遣しています。
 船団は、日本時間の25日午前6時ごろ、尖閣諸島の周辺海域に到達
する予定です。

 抗議に向かった漁民らは、「釣魚台(尖閣の台湾名)周辺はわれわれの
伝統的な漁場。日本による国有化で漁ができなくなる」として、国有化の
撤回を要求します。
 島の近くを周回して領有権を主張するということで、日本の領海に入る
ことを目指すとしています。
 主催者の地元漁民は、「島への上陸も排除しない」とも述べており、
実際に行動に移した場合、日本の海上保安庁とのトラブルが起こる可能
性があります。



 同9月24日。

 日本政府の台湾との窓口機関である「交流協会」(東京)は、同協会トッ
プの今井理事長が、25日に台湾を訪問すると発表しました。
 今井理事長は、楊進添・外交部長(外相に相当)と面会し、尖閣国有化
について改めて説明し、理解を求める方針です。
 また今井理事長は、楊・外交部長との会談で、日台間で3年以上中断
している尖閣周辺海域の漁業権に関する交渉についても、早期再開を
台湾側に働きかける見通しです。


               * * * * *


 9月25日。

 第11管区海上保安本部によると午前6時ごろ、尖閣諸島の魚釣島
沖合いで、台湾の漁船およそ50隻と、台湾の巡視船10隻が、日本の
領海のすぐ外側にある「接続水域」に入りました。
 このうち、漁船およそ40隻と巡視船6隻が、午前7時40分すぎから
午前8時ごろにかけて日本の領海に侵入し、その後、べつの巡視船2隻
も領海に侵入しました。
 多くの漁船には、「魚釣島は台湾のものだ」などと書かれた旗が掲げら
れ、海上保安本部は、日本政府による尖閣国有化に抗議することが目的
だとみています。

 NHKのヘリコプターが、午前10時すぎに魚釣島の西南西およそ8キロ
の領海内で撮影した映像によると、
 台湾の漁船と巡視船、そして、それに対応する海上保安庁の巡視船の、
たくさんの船が入り乱れています。
 日本の海上保安庁の巡視船が、台湾の漁船に向けて放水し、漁船の
甲板から水しぶきが揚がると、台湾の巡視船が漁船を守るように間に
割って入っていました。
 また、台湾の巡視船が放水しながら前進するのに対して、海上保安庁
の巡視船が後退しながら放水して対応している場面も見られます。

 この日は結局、台湾の漁船およそ40隻と、台湾の巡視船12隻が、
日本の領海を侵犯しました。
 これらの船は、午前11時40分すぎまでに、すべて日本の領海を出て
おり、午後8時すぎまでには「接続水域」も出て、台湾の方角に向かい
ました。


 日本政府の台湾との窓口機関である「交流協会」は、「尖閣諸島は
日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。日本の領海への侵入
は極めて遺憾であり、容認できない」などと、台湾当局に電話で抗議
したうえで、日本の領海の外に出るように求めました。

 これに対して台湾側は、「尖閣諸島は日本の領土ではなく、領海侵犯
には当たらない」などと主張したということです。


 藤村官房長官は、この日の記者会見で、「台湾側に領海の外に出る
よう申し入れを行った。尖閣諸島周辺の警備について、引きつづき緊張
感をもち、関係省庁が連携して情報収集に努めるとともに、警戒監視に
万全を期していきたい」と述べました。
 その上で、「日本と台湾との良好な関係の中で解決すべきだというの
が日本側の姿勢で、冷静に対応したい」と述べています。

 森本防衛相は、「日本の領海に他国の公の船が入ることについて、
防衛省と自衛隊として、艦艇や航空機を使って広域の情報収集を行っ
ている。政府内で緊密に連携しつつ、日本周辺の情報収集に努める
任務についている」と述べました。

 郡司農林水産相は、「日本の領海内で漁業を行えば違法操業に当た
り、事実が確認できれば、しっかりと規制をしていく」と述べました。
 このたびの台湾漁船の領海侵入については、「魚が取れる状況になっ
ておらず、漁業目的から向かっているとすると、常識的にはふさわしくな
い」と述べた上で、
 「日本の領海内で漁業を行うということがあれば、それは当然違法操業
に当たるわけで、そういう事実が確認できれば、農林水産省としてもしっ
かりと規制をしていく。それ以外の目的ならば、海上保安庁としっかり連携
を図っていきたい」と述べています。



 同日。

 外務省の河相事務次官と、中国の張志軍・筆頭外務次官との会談が、
午前10時すぎから北京の中国外務省で始まりました。

 会談の模様は、冒頭で、張・筆頭外務次官がテーブルを挟んで向かい
側に座った河相事務次官に対し、
 「日本の外務次官が島の問題を話し合うために中国に来たので注目され
ている。先にメディアに撮影してもらう」と発言した部分だけが、取材を許さ
れました。

 この会談は、4時間あまり行われました。その後の記者会見で河相事務
次官は、「内容は差し控える。中国側は中国の立場を、日本側も日本の
立場と考えを説明した。事態打開のため、引きつづき意思疎通をしなけれ
ばいけないということで一致した」と述べるに留まりました。

 一方、中国外務省によると、張・筆頭事務次官は会談で、「日本が、中国
の再三の抗議にも関わらず、公然と島を購入するなど不法な行動をした
ことは、中国の13億人の国民感情をひどく傷つけた」と、日本側を厳しく
批判したといいます。
 また、「世界の反ファシズム戦争勝利の結果を公然と否定したものであり、
戦後国際秩序に対する重大な挑戦だ」と訴えました。
 その上で、「日本は深刻に反省して、実際の行動で誤りを正し、両国の
指導者が達していた”共通認識と了解”(つまり尖閣問題を棚上げすると
いう原則)にもどって、中国側と共に両国関係が早期に健全で安定的に
発展する正しい道にもどるべきだ」と、強調したということです。


 藤村官房長官は、この日の記者会見で、「次官級の会談のみならず、
さまざまなレベルやチャンネルで、大局的な観点に立って収束に向けて
いく必要があり、地道な努力を重ねていく。」
 「会議の中身はそれぞれ双方のことがあるので、日本側から何か言う
ことはない。河相事務次官は、きょう夜遅くに日本に到着するので、あす
直接報告を受けることになると思う。」
 「今後は、日中両国の外相レベルのコンタクトがあってもいいが、中国
側がどう考えるかということで、今日のところは結論が出ているわけでは
ない」と述べています。



 同9月25日。

 中国国務院新聞弁公室は、尖閣諸島(中国名・釣魚島)に関して、
「釣魚島は中国固有の領土」と題する白書を発表しました。
 この白書では、日本政府による尖閣国有化にたいして、「中国の主権
を侵犯し、日中関係を損なった」と非難し、「中国には主権と領土を守る
自信と能力がある」と訴えています。

 中国政府が領土問題で白書を発表したのは初めてのことです。白書は
全文およそ7000字で、
 日本が1895年に島を領土としたことについて、「日本は日清戦争を
利用して、島を盗み取った」などとしています。
 そして、1945年のポツダム宣言を引用しながら、「島は無条件に中国
に返還されるべきで、日本による占有は戦後秩序に対する挑戦だ」として、
領有権を主張するとともに、日本を強く非難しています。
 さらには、中国の海洋監視船がパトロールしていることや、海洋観測
予報を始めたことも挙げて、「中国は釣魚島と周辺海域に対して管轄権
を行使している」と主張しています。



 同日。

 森本防衛相は、この日の午前に、オーストラリアのスミス国防相と防衛省
で会談をしました。
 装備や技術分野など両国の防衛協力を強化する方針を確認し、緊迫す
る日中関係についても意見交換しました。

 会談後の共同記者会見で森本防衛相は、「日中関係を長期的にどうして
いくべきか、わが方の考え方を伝えた」と説明しました。
 一方、スミス防衛相は、「豪州としては特定の当事者の肩を持つことはし
ない。事態が友好的、平和裏に国際秩序にのっとった形で解決されること
を望む」と述べています。



 同日。

 EU(欧州連合)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)は、日本政府
の尖閣国有化をめぐって中国や台湾との緊張が高まっている問題で、
 事態の沈静化に向けた方策を講じるよう「全ての当事者」に呼びかける
声明を発表しました。
 この声明では、「平和的かつ強調的な解決策を模索するよう強く求める」
としています。



 同日。

 日本政府の台湾との窓口機関である「交流協会」トップの今井理事長
が台北を訪れ、楊進添・外交部長(外相に相当)と会談をしました。

 会談の冒頭で、楊・外交部長は、「島をめぐる争いが生じているなかで、
台湾を訪問されたことを前向きに受け止めている。この問題をめぐる我々
の厳正な立場を理解してほしい」と述べました。

 会談は、およそ2時間半にわたって行われました。終了後、日本側の
説明によると、
 今井理事長は、台湾の漁船団と巡視船による領海侵犯に厳重に抗議
し、再発防止を求めたほか、尖閣諸島の国有化は島を安定的に維持管理
するためだとする日本の立場を説明したということです。

 また、日台間で3年以上中断している尖閣周辺海域の漁業権に関する
交渉については、具体的な進展がなかったということです。


                * * * * *


 9月26日。

 日本の領海を侵犯した台湾の漁船が、前日の夜から本日の未明にかけ
て、次々と宜蘭県の港にもどりました。

 港では、船が到着するたびに花火が打ち上げられています。

 港に到着後、漁協のトップの陳・理事長らが記者会見し、「生きていくため
に漁業の権利を守らなければならない」と述べて、
 今後も、尖閣諸島の周辺海域で操業する権利を訴えていく姿勢を強調
しました。



 同9月26日。

 国連総会に出席するためニューヨークを訪れている玄葉外相と、中国
の楊潔チ外相との会談が、日本時間の午前(現地時間25日夜)に、国連
本部でおよそ1時間ほど行われました。

 この会談で、玄葉外相は、
 日中双方は東アジアの平和と安定に責任があり、大局的な観点を見
失うことなく意思疎通することが重要だという日本側の考え方を、あらた
めて説明しました。
 その上で、中国各地の反日デモについて、「日本系の企業の被害が生じ
ているなか、適切な対応を取るべきで、いかなる場合でも暴力は認められ
ない」と述べました。
 そして、「日本は最大限の自制をしている。中国側も自制してほしい」と
求めました。

 これに対して(中国国営の新華社通信によると)、楊外相は、
 「中国の厳正な申し入れと断固たる反対も顧みず、日本は島のいわゆる
”国有化”を行った。このことは中国の主権をひどく侵害しただけでなく、
第2次世界大戦後の国際秩序に対する重大な挑戦でもある。13億の中国
国民は強く憤慨している」と述べ、日本の尖閣国有化を厳しく非難しました。
 また、「中国は日本の一方的な行動を絶対に容認できず、引きつづき
主権を守るための断固たる措置を取る」として、さらなる対抗措置を取る
可能性を示唆しました。
 さらに楊外相は、「日本は現実を直視して誤りを正し、中国の主権を損ね
る行為を一切やめるべきだ。そうして初めて、両国関係は健全で安定した
発展の道にもどる」と述べて、日本政府が島の国有化を撤回するなどの
譲歩をしなければ、冷え込んだ日中関係は打開できないという認識を示し
ています。

 新華社通信は、玄葉外相の発言を一切紹介していませんが、両外相が
尖閣諸島と両国関係について「今後も引きつづき話し合いを続けると表明
した」としています。


 この会談について、藤村官房長官は記者会見で、「会談はなかなか厳し
い雰囲気だったが、双方が、それぞれの立場を話し合い、今後、事務レベ
ルを含め、意思疎通を継続していくことで一致したと聞いている」と述べま
した。

 また藤村官房長官は、今後、日中首脳会談を行うかどうかについて、
「今回の国連総会には、中国側の首脳が来ていない。今後は、さまざま
考えられるだろうが、具体的な予定が決まったわけでも、今回の外相会談
で確認したわけでもない」と述べています。



 同日。

 全日空の伊藤社長は、日中関係の悪化にともなって、今月から11月末
までの日本と中国を結ぶ便で、合わせて4万席のキャンセルが出ている
ことを明らかにしました。

 伊藤社長は、「当面は使用する飛行機の小型化でしのぐことができる。
しばらく様子をみるのが正解だと思う」と述べて、中国便で、減便や運休
などの対応をとるかどうかは、今後の状況を注意深くみながら、慎重に
判断したいとしています。



 同日。

 日中友好7団体の幹部らが、日本時間で正午ごろから、北京の空港
に相次いで到着しました。
 翌27日には、唐家セン・中日友好協会会長(前国務委員)と、会談を
する予定です。

 日中国交40周年の大規模式典は、事実上、中止となりましたが、
主催者である中国側の友好団体が、日本側の友好7団体の幹部や、
中国と関係が深い国会議員を招待したのです。


               * * * * *


 9月27日。

 日本時間の未明(現地時間26日午後)、野田首相は、国連総会で
一般討論演説を行いました。
 尖閣諸島や竹島の問題を念頭に、領土や海域をめぐる紛争に関して、
「どのような場合であっても国際法に従い平和的な解決を図る」という
立場を表明しました。
 中韓両国を刺激しないように、尖閣や竹島に直接言及することは避け
ましたが、「自らの主義主張を一方的な力や威嚇を用いて実現しようと
する試みは、国連憲章の基本的精神に合致せず、決して受け入れられ
ない」と述べて、中韓両国をけん制しました。

 また首相は、紛争の平和的な解決に向けて「法の支配は不可欠だ」と
強調し、ICJ(国際司法裁判所)の強制管轄権を受け入れるように促し
ました。
 強制管轄権を受諾すれば、他国から訴えられた場合に応訴する義務
が生じます。国連加盟国193ヶ国のうち、日本をふくむ67ヶ国が受諾
していますが、ロシア、中国、韓国は受け入れていません。
 日本は、竹島問題についてICJ提訴の準備を進めていますが、韓国は
裁判に応じる義務がないため、提訴しても裁判開始の見通しは立ってい
ません。

 ちなみに野田首相は、「2030年代に原発に依存しない社会を目指し、
あらゆる政策資源を導入する」という政府の新エネルギー戦略を、国際
社会の場で初めて表明しました。これは、事実上の「国際公約」として
います。


 この日、野田首相はニューヨークのホテルで記者会見し、尖閣国有化
に中国が反発していることについて、
 「歴史上も国際法上もわが国固有の領土であることは明々白々だ。
領有権問題は存在しない。そこから後退する妥協はありえない」と述べ
て、国有化撤回など中国に譲歩しない考えを強調しました。

 首相は尖閣国有化について、「もともと日本国民が持っていたものを
国が買うことにした。あくまで所有権の移転の問題だと再三中国に説明
したが、いまだに理解されていない」と表明し、
 「全体に悪影響を及ぼさないよう理性的で冷静な対応を堅持していき
たい」と述べています。

 また、「中国国内で在留邦人や日系企業に対し、攻撃、略奪、破壊
行為が行われている。どんな理由があろうとも暴力は許されない」と、
非難しました。



 同日。

 中国の楊潔チ外相は、国連総会で演説を行い、尖閣諸島について
「中国固有の領土で、争う余地のない歴史的な根拠がある。日清戦争
末期の1895年に日本が盗み取った」と述べ、中国独自の主張を展開
しました。
 そして、日本政府による尖閣国有化について、「日本の一方的な行動
は、中国の主権を著しく侵し、第2次世界大戦後の国際秩序と国連憲章
への重大な挑戦だ」と述べて、日本を名指しで非難しました。

 これに対して、日本国連代表部の児玉次席大使は演説終了後、見解
が異なる演説に議場で反論できる「答弁権」を直ちに行使し、
 「尖閣諸島を日本に編入した際には、中国側の支配が及んでいない
ことを確認している。中国の主張は論理的に成り立たない」と主張しま
した。
 そして、「中国政府と台湾当局が尖閣諸島の領有権を主張し始めたの
は1970年以降になってからだ」と指摘した上で、
 「両国の意見の相違を過去の戦争に安易に結びつける姿勢は説得力
がないばかりか、非生産的だ」と批判しました。

 一方、中国の李保東・国連大使も、「公然と歴史をわい曲するものだ。
中国13億の国民は憤慨しており、断固として争う」などと反論し、厳しい
やりとりが繰り返されました。

 日本と中国が「答弁権」を行使し合うのは、「きわめて異例」のことで、
尖閣諸島をめぐる日中対立の根深さを、国連の場で強く印象づける結果
となりました。



 同日。

 国連は、中国政府が国連に提出した、尖閣諸島で独自に定めた領海
基線を示した「海図」などと、
 これに対して日本政府が提出した「反論文書」の、両方を公表しました。

 国連が公表した海図は、中国政府が9月13日に国連に提出したもの
で、尖閣諸島周辺の2ヶ所に領海基線を示し、その周りを囲んで領海線
を記しています。
 領海基線は、領海の幅を測定する根拠となる基線であり、国連海洋法
条約によって国家の主権が及ぶ範囲は、基線から最大12カイリ(およそ
22キロ)と定められています。
 中国政府は、尖閣諸島とその周辺の海が、中国の領土・領海である
ことを改めて主張しています。

 これに対して、日本政府の国連代表部は、9月24日付けで国連に文書
を送り、
 「中国が領海基線を示した海図などを提出した行為は受け入れがたく、
法的効力はないものだ。尖閣諸島は、歴史的事実からも国際法に照らし
合わせても、日本の領土であることに疑いはなく、領土の主権について
解決しなければならない問題はない」と反論しています。



 同9月27日。

 アメリカのクリントン国務長官はニューヨーク市内で、中国の楊潔チ外相
と会談をしました。

 会談でクリントン長官は、尖閣問題をめぐり日中の緊張が高まっている
ことについて、「事態収拾に向け対話に取り組む必要がある」と指摘しま
した。日本側にも同様の対応を求めるとしていて、中国側に挑発的な動き
を取らないように促したもようです。

 一方、楊外相は、日本政府による尖閣国有化について、「中国の領土
主権への重大な侵犯であり、中国は断固反対する。日本は誤りを正さな
ければならない」と強調しています。

 会談ではこのほか、南シナ海の領有権問題、北朝鮮やシリア情勢、
中国の人権状況も議題になり、
 クリントン長官は、とくにチベットの人権問題を取りあげて、改善を求め
ました。



 同日。

 河野洋平前衆議院議長、高村正彦元外相をふくむ日中友好団体会長
らが、
 北京の人民大会堂で、中国共産党序列4位の賈慶林・全国政治協商
会議主席と、会談をしました。
 日本政府による尖閣国有化後に、中国の最高指導部のメンバーが
日本側の関係者に会うのは初めてのことです。

 この会談は、日中国交40周年の大規模式典が中止になった代わりに、
急きょ、規模を縮小して設定されたものです。
 日中友好7団体の会長や、「親中派」とされる田中真紀子元外相のほか、
米倉弘昌経団連会長らが招請されました。
 会談には、日本側から江田五月元参議院議長、加藤紘一自民党元幹事
長、野田毅元自治相らも含めて、12人が出席しています。
 しかし7団体のうち、日中経済協会会長の張富士夫トヨタ自動車会長は、
中国当局が「天津上空での軍事演習」を理由に飛行ルートの変更を要求
したため、社用機の離陸許可が下りずに北京訪問を断念しました。


 中国外務省によると、会談で賈氏は、
 日本政府による尖閣国有化が「日中関係をかつてない厳しい局面にした」
と、つよく非難しました。
 そして日本側に、「釣魚島の争いを直視し、誤りを迅速に正し、日中関係
にさらに大きな損害を与えないようにしなければならない」と要求しました。
 9月18日に100万人近くが反日デモに加わり、憤慨の意を表明したと
して、「日本政府は事態の深刻さを認識し、両国関係を健全な発展の道に
もどすべきだ」と訴えています。

 その一方で賈氏は、
 「この40年間で大きな発展を遂げ、両国の国民に巨大な利益をもたらし
た」と強調し、
 「中国政府は日本との友好関係発展を高度に重視している。友好政策を
進めるという基本方針は変わっていない」と述べて、今の局面を早く終結
させるべきだとの考えを示しました。


 河野氏は、会談後の記者会見で、「会談は極めて緊張感に満ちたもの
だった」と述べました。
 賈氏が、「日本政府が島の購入という間違った決定を行い、深刻な局面
にある」と、日本を非難したうえで、
 「日中関係の友好を高度に重視するという基本方針は変わっていない。
今の局面が続かないようにしてほしい」と述べて、尖閣国有化の撤回を
日本政府に促すように求めたことを明らかにしました。

 これに対して河野氏は、尖閣国有化について日本の立場を説明したうえ
で、「両国の指導者が辛抱強く冷静に話しをすることが、状況を解決する
ために最も必要で、経済関係は一刻も早く正常な形にもどさなければなら
ない」と、述べたということです。


 経団連の米倉会長は、北京での記者会見で、悪化した日中関係につい
て「解決への糸口がつかめたのではないかと思う」という認識を示しました。
 中国の賈慶林・全国政治協商会議主席との会談を踏まえたもので、帰国
後、野田首相に具体的な改善策を進言するといいます。

 また米倉会長は、野田首相が「領土問題は存在しない」と言及し続けて
いることについて、
 「中国がこれほど問題視していることで、日本側が問題ないというのは
非常に理解しがたい。民間の交渉なら通らない。あまりおっしゃってもらい
たくない」と述べました。米倉氏が、この問題で「日本政府を公に批判した」
のは初めてです。

(この発言に対して岡田副首相は、翌28日の記者会見で、「国家間の
シビアな交渉の問題だ。責任ある立場の人の発言は慎重であってほしい」
と述べて、米倉氏を批判しました。その上で、米倉氏の帰国後に会って、
改めて政府方針の理解を求める考えを示しています。)



 同日。

 藤村官房長官は午前の記者会見で、野田首相が国連総会で行った一般
討論演説を、中国外務省が批判したことについて、
 「日本があたかも第2次世界大戦の結果に挑戦しているかのような主張
は全く的外れ、不適切なコメントだ」と強く反論しました。
 尖閣諸島について、「わが国の立場はこれまで繰り返している通りだ」
と、日本固有の領土であることを改めて主張しました。
 その上で「共に東アジアの平和と安定に責任をもつ国家として、大局的
観点から戦略的互恵関係を深化させていくことの重要性は強調したい」と
述べて、中国側に冷静な対応を求めました。

 また藤村官房長官は、同日の記者会見で、「尖閣諸島は歴史的にも
国際法上も疑いのない我が国固有の領土で、現に有効に支配している。
この点に一片の疑いもなく、国際司法機関で争いをする必要性は全く感じ
ない」と述べて、国際司法裁判所を活用する必要はないという考えを示し
ました。



 同日。

 中国国防省の楊宇軍・報道官は、記者会見で、中国海軍のフリゲート艦
2隻が尖閣諸島近くの海域を航行していたとの報道について、
 「釣魚島は中国固有の領土であり、中国海軍の艦艇が管轄海域で定例
の巡視や訓練を行うことは正当かつ合法だ」と述べて、正当性を強調しま
した。
 その上で、「中国軍は領土主権と海洋権益を守る職責を担っており、海洋
監視や漁業などの部門と密接に協力し、海上取締りや漁業生産のため、
安全を提供する」と述べて、海上での突発事案に対して積極的に対応する
考えを示しました。

 また、最近就役した中国初の空母「遼寧」の配備先については、「試験や
訓練の進展状況に基づき確定する」として、具体的な場所には言及しませ
んでした。

 しかしながら、この日付けの香港紙「星島日報」は、中国軍消息筋の話
として、空母「遼寧」は北海艦隊に配備され、青島(山東省)を母港にすると
伝えています。
 同筋によると、フィリピンなどと領有権を争っていることから、当初は
南シナ海を管轄する南海艦隊に配備される予定でした。
 しかし、日本との対立が激化したため、配備先が日本に近い艦隊に変更
されたということです


               * * * * *


 9月28日。

 藤村官房長官は記者会見で、中国の楊潔チ外相が国連総会で、
「(尖閣諸島は)中国固有の領土であり、日本が盗み取った」などと述べ
たことについて、
 「中国独自の主張には、全く根拠がない。この点は、今後、反論の機会
が出てくるので、しっかりと反論をしたいと思う」と述べました。

 また日本政府が、国連総会の場などで、尖閣諸島をめぐり日本から
の発信を強めていることに関して、
 「これまで領土問題は存在しないことを、国際的な広報で声高に発信
してきた訳ではなかったが、今後は、国際広報をしっかりやり、積極的に
発信するということに方向転換した。ただ、領土問題は存在しないという
前提に変わりはなく、現時点で国際司法の場で争う必要はないと考えて
いる」と述べています。

 悪化している日中関係については、「何より意思疎通を維持・強化しな
がら、両国が対極的な観点から、お互いに冷静に対応していくことが必要
だ」と述べて、中国側に冷静な対応を求めました。

 さらに、明日の29日で、ちょうど日中国交正常化40周年になることに
ついては、「1972年以来、日中関係は、戦略的互恵関係という形で大き
く発展してきた。時々に難しい問題があったが、大局的な見地から冷静に
話し合いで解決していくべきだ」と述べています。



 同日。

 玄葉外相と、アメリカのクリントン国務長官が、ニューヨークのホテルで
およそ20分にわたって会談をしました。

 会談で玄葉外相は、クリントン長官にたいして、尖閣諸島をめぐる現在
の情勢を説明しました。
 そして日本としては、「譲れないものは譲れない」としながらも、日中関係
の大局的な観点を見失うことなく、冷静に対処して行くと説明しています。

 一方、アメリカ国務省の高官によると、クリントン長官は、
 「注意深く、慎重かつ効果的に」行動するように、日本に要請したという
ことです。
 日中の緊張緩和に向けて、アメリカ政府の閣僚が強い言葉で注文を
付けたのは、異例のことです。



 同9月28日。

 この日付の、米紙ニューヨーク・タイムズと、ワシントン・ポストに、
「釣魚島は中国領」と題する広告が掲載されました。
 広告主は、中国の英字紙「チャイナ・デーリー」で、中国共産党と中国
政府が強い影響力を持つとされています。


 広告は、タイムズ紙は見開きの2ページすべて、ポスト紙は大部分を
使って、

 尖閣諸島のカラー写真を掲載し、

 1403年の文書に島の存在が記録され、明の時代(1368〜1644年)
には施政権下にあったと断定しています。

 また、「中国は日清戦争の敗戦によって、島を無理やり強奪されたが、
第二次世界大戦後に中国に返還された」と主張しており、

 1972年の沖縄返還時に、「アメリカは日本と密室で取り引きし、(尖閣
諸島の)行政上の権限をすべて日本に引き渡してしまった」として、
 「中国人はこうした取り引きを非難する」としています。

 さらに、このたびの日本政府による尖閣国有化は、「中国の主権を激し
く侵し、反ファシスト戦争(第二次世界大戦)の勝利を踏みにじるものだ」
と訴えています。


 これを受けて、在米日本大使館と、在ニューユーク日本総領事館は、
ワシントン・ポストと、ニューヨーク・タイムズの両社にそれぞれ、
 「事実に反する一方の主張を載せるのは不適当だ」と申し入れました。

 ワシントン・ポスト社は、「広告の内容は社の立場を反映していない」と
回答したといいます。

 藤崎駐米大使は、この日の記者会見で、「日中間で大きな問題になって
いる時に誤解を与える。看過できない」と語りました。



 同日。

 沖縄県警は、尖閣諸島の魚釣島に国の許可なく上陸したとして、
鹿児島市の会社役員の男性(60)と、東京都の自営業の男性(45)を、
軽犯罪法違反容疑(立ち入り禁止区域への侵入)で、那覇地検石垣
支部に書類送検しました。

 沖縄県警によると、尖閣諸島に上陸した日本人の同法違反容疑での
立件は、初めてのことです。
 送検容疑は、「9月18日午前9時20分ごろから25分ごろにかけ、国が
管理する魚釣島に漁船で接近。2人が海に飛び込み、泳いで島に上陸
した」というものです。



 同9月28日。

 中国外務省の洪磊・副報道局長は、この日の記者会見で、「日中国交
40周年のことし両国の友好関係を発展させるきっかけにしようとしていた
が、日本の不法な島の購入によってすべてが壊された」と述べ、
 多くの記念行事が中止や延期になって両国で祝えないのは日本の責任
だとして、日本政府による尖閣国有化を、あたらめて批判しました。

 そして、「日本が誤りを認めて正し、中国の主権を侵す一切の行為を
停止して、日中関係を健全で安定した道に戻すように希望する」と述べて、
尖閣国有化の撤回を重ねて求めています。


               * * * * *


 9月29日。

 日中の国交が正常化してから、ちょうど40周年となりました。

 しかし日本でも、記念行事や交流イベントの中止や延期が、全国の40
道府県に広がっていることが、共同通信の調べで分かりました。
 253件の事業やイベントのうち、中止は51件、延期は49件で、およそ
4割に当たる計100件が、中止や延期となりました。
 その中には、政府による「日中国民交流友好年」の記念行事に認定
されているものも含まれています。

 このように、日本政府による尖閣国有化は、両国関係の基盤である
「草の根交流」にも、深刻な影響を与えています。



 同日。

 民主党の前原政調会長は、神戸市で講演し、中国が尖閣諸島の領有
権を主張していることに対して、
 「きわめて事実をゆがめている。中国は自分たちの歴史を ”つくって
きた” 国だ」と批判しました。

 また、尖閣諸島周辺で、中国当局船が領海への侵入を繰り返している
ことに関しては、
 「中国は、海上警備行動が発令されて自衛隊が(尖閣周辺に)出ること
を狙っている」と指摘し、
 「挑発には乗らず、粛々と海上保安庁が処理することが大事ではない
か」と語っています。



 同日。

 日中国交正常化40周年に際しての、野田首相と温家宝首相との祝電
交換が見送られたことが、この日分かりました。
 日中外交筋は、「現下の日中関係の情勢に鑑(かんが)み、外相間の
祝電交換となった」としています。

 日中の首相は、5年ごとに、国交正常化を祝うメッセージを送りあって
いますが、
 たとえば30周年のときは、小泉首相の靖国参拝で、両国の関係が冷え
込んでいたにもかかわらず、それでも中国の朱鎔基・首相との間で、祝電
が交換されました。
 なので、このたびの祝電交換の見送りは、ものすごく異例の事態であり、
尖閣国有化による日中関係の悪化が、非常につよく表れた形となって
しまいました。

 中国共産党の機関紙である「人民日報」も、30周年や35周年のときは、
国交正常化を記念する特集ページや広告が組まれていましたが、
 40周年目になる今年9月29日付の紙面には、祝賀の記事がありませ
んでした。
 その一方で、尖閣問題に関する中国側の座談会や白書などの記事が
掲載され、
 国交正常化を実現した故田中角栄元首相の娘の、田中真紀子元外相
が、9月28日の北京での記者会見で、
 「(尖閣問題の)棚上げは日中両国の重要な共通認識」と、発言したと
紹介しています。


               * * * * *


 9月30日。

 台湾東北部の、宜蘭県頭城鎮(町)で、日本政府による尖閣国有化に
抗議するデモがありました。
 尖閣諸島の領有を主張する台湾当局は、登記上、尖閣を頭城鎮の管轄
下に置いています。
 デモは頭城鎮役場が主催しましたが、地元住民らを中心に600人ほど
が参加し、当初予定していた3000人を大きく下回りました。デモは、比較
的和やかな雰囲気で進められたといいます。

 ちなみに台湾当局は、尖閣諸島を1971年に「国有化」しており、所有権
は「中華民国」に帰属すると主張しています。公示価格は、11億6000万
台湾ドル(およそ30億8600万円)としています。



 同日。

 自民党の石破幹事長はフジテレビの番組で、尖閣国有化について、
 「中国で政権が変わろうとし、貧富の差の拡大で(同国民の)不満が
鬱積(うっせき)しているときに、国有化が本当によかったのか」と述べ
て、決定のタイミングに疑問を呈しました。


 また、この日。民主党の前原政調会長は、午後のTBSの番組で尖閣
諸島に関し、
 「中国が国際司法裁判所(ICJ)に提訴すれば考慮する」と述べて、
応訴もあり得るという考えを示しました。
 しかしながら、「われわれは実効支配している。われわれから(ICJに)
持っていくのはおかしな話だ」と述べて、日本側からの提訴は否定して
います。


              * * * * *


 以上、9月24日〜30日までの動きについて、見てきました。


 中国国内における反日デモは、いちおう終息したみたいです。

 しかしながら、尖閣諸島の周辺海域や、国連総会などの国際社会の
場では、厳しい対立と緊張が続いているのが分かります。



 中国側は、尖閣諸島周辺における日本の「接続水域」や「領海」に、

 海洋監視船や漁業監視船といった「中国当局船」を、随時侵入(中国
側からすればパトロール)させて、

 この海域における「実効支配」の、「既成事実」を作ろうとしています。



 また中国側は、国連総会の場や、ニューヨーク・タイムズ紙やワシン
トン・ポスト紙などの海外メディアを使って、

 尖閣諸島は「中国固有の領土であり、日本が盗み取った」とか、

 日本政府の尖閣国有化は、「反ファシスト戦争(第二次世界大戦)の
勝利を踏みにじるものだ」

 というような、日本側からすれば「ある種のデマ」としか思えないような
中国独自の主張を、世界中に喧伝(けんでん)しています。



 そのような状況なので、

 もしも日本側が、何もせずに手をこまねいていれば、

 どんどん中国側の思うツボに、嵌(はま)ってしまうでしょう。



 それなのに経団連の米倉会長は、9月27日の北京での記者会見で、
野田首相が「領土問題は存在しない」と言及し続けていることについて、

 「中国がこれほど問題視していることで、日本側が問題ないというのは
非常に理解しがたい。民間の交渉なら通らない。あまりおっしゃってもら
いたくない」と述べて、日本政府を公に批判しました。

 米倉氏が、このような批判をしたことには、ものすごく疑問を感じます。



 また、9月29日付の人民日報では、

 田中真紀子元外相(現文部科学相)が、9月28日の北京での記者
会見で、

 「(尖閣問題の)棚上げは日中両国の重要な共通認識」と、発言した
としていますが、

 もしも、これが本当なら、田中真紀子氏は現閣僚でありながら、日本
政府と異なる見解を持っていることになります。



 たしかに、日中間の対話を途絶えさせることなく続けて、緊張緩和に
向けた努力をしなければなりません。

 しかしながら、何でもかんでも中国側の言うことを受け入れれば良いか
と言えば、

 それは2国間の対等な外交として、すこし間違っているのではないか
と思います。

 ではありますが、もちろん、軍事衝突にまで発展させるような対立の
激化は、

 外交政策として明らかに間違いであり、完全に失敗だと言えるでしょう。



 これから先、

 日中関係のバランスをどのように取りながら、外交政策を進めて行く
のか、

 ものすごく重大であり、また、とても興味深い問題であると思います。



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