日中関係も悪化 5
2012年9月30日 寺岡克哉
9月11日に、日本政府が尖閣諸島を国有化してから、
日中関係は、国交正常化以降、最悪の状態になっています。
前回に引きつづいて今回も、
さらに緊張が高まってきた、日中関係の動向について見ていきま
しょう。
* * * * *
9月17日。
昨日の夜、日本に到着したアメリカのパネッタ国防長官は、この日
の午前に玄葉外相と会談し、反日デモが中国各地で続いていること
について意見を交わしました。
会談で玄葉外相は、大局的な観点から冷静に対処していくという、
日本の方針を説明したのに対して、
パネッタ長官も理解を示し、日中関係が大きく損なわれないように、
日米が協力していくという認識で一致しました。
その上でパネッタ長官は、このあと訪れる中国にたいして、自制を求め
る考えを示しました。
会談後の記者会見で玄葉外相は、「中国国内では反日デモがこれまで
にない規模で拡大し、一部が暴徒化して日系企業に損害が出ていること
は遺憾だ。中国政府には適切な対応を求めたい。法と秩序を守るよう
重ねて要請したい」と述べています。
この日。パネッタ国防長官は、森本防衛相とも会談しました。
会談では、北朝鮮などの弾道ミサイルに対処するため、国内で2ヶ所目
となる米軍の早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)の配備に向けて、調整
を続けることで一致しました。
このレーダーは、中国のミサイルもにらみ、沖縄県以外の南方の島へ
の配備が検討されています。
会談後の記者会見でパネッタ長官は、緊張する日中関係について、
「主権に関する紛争は、いずれの国の肩も持たない」と強調しました。
その上で、「平和裏の解決を望んでいる」と述べ、事態の沈静化へ日中
双方に冷静な対応を求めました。
その一方でパネッタ長官は、米国の対日防衛義務を定めた、日米安全
保障条約第5条に関して、「条約の義務を遂行する立場は変わっていない」
と語り、尖閣諸島も対象になるとの米国の立場をあたらめて示しました。
また、早期警戒レーダーの配備についてパネッタ長官は、「弾道ミサイル
の脅威から同盟国を守る意図があることを、中国にも伝える」と述べてい
ます。
同日。
中国国営の中央人民ラジオは、沿海部の浙江省や福建省などから漁船
1万隻あまりが出航し、そのうち1000隻が、この日の午後に尖閣諸島の
周辺海域に到達する見通しだと報じました。
さらに漁業当局が、「海上での漁船の保護や法の執行などの準備を整え
ている」と伝え、中国政府の漁業監視船が漁船に同行していることを示唆
しています。
これを受けて、日本の海上保安庁は、防衛省など関係省庁とも連携し、
尖閣諸島周辺の領海警備と警戒監視を強化しています。
その一環として自衛隊は、哨戒機など航空機による監視を続けるととも
に、海上警備行動の発令など不足の事態に対応できるように、準備を進め
ているとみられます。
同日。
中国外務省の洪磊・副報道局長は、定例会見で、9月16日までの反日
デモで日系企業などへの放火や略奪行為が行われたことについて、
日本の尖閣国有化の動きを強く非難したうえで、「責任は日本側にある」
と述べました。
その上で、満州事変の発端となった柳条湖事件から81年目となる、明日
の9月18日に、中国全土で反日デモが呼びかけられていることについて、
「中国の国民は理性的に法に基づいて、みずからの要求を表現してほし
い」と述べ、参加者に自制を求めたものの、デモを行うことには容認する
姿勢を示しました。
また、洪・副局長は、「日本は中国政府の要求を正視すべきだ」として、
日本政府が尖閣諸島の国有化を撤回するなどの対応を取るように、あら
ためて強く求めました。
同日。
「日中経済協会」は、9月22日から大手企業トップらによる、過去最大
規模の訪問団を中国に派遣する予定でしたが、
中国側から「安全の確保ができない」という連絡があり、一部の予定を
見送ることを決めました。
日中経済協会は毎年、中国に訪問団を派遣していますが、今年はおよ
そ170人に上る過去最大規模の訪問団が、上海や山西省、それに北京
を訪れる予定でした。
* * * * *
9月18日。
満州事変の発端となった柳条湖事件が発生してから81年目を迎えた
この日。
瀋陽(遼寧省)、北京、上海、広州(広東省)など、中国の少なくても
125の都市で、反日デモが起こりました。
北京の日本大使館や、各地の日本総領事館前などに、1万人以上の
若者らが集結するなどして、この日の午後も大規模なデモが続きました。
中国当局は、各地でデモが暴徒化した先週末を上回る大量の武装
警官を動員しました。その結果、日系企業が襲撃されたり、日本人が
被害に遭ったりしたという報告はなく、極端な暴徒化を抑え込んだ形
です。
この日のデモで被害が大きかったのは、柳条湖事件の舞台となった
瀋陽市です。およそ1万5000人が日本総領事館の前に集まり、投石
などで窓ガラス67枚が割られました。
広州のデモでは、日系スーパーのジャスコを目指しましたが、数百人
の武装警官に侵入を阻止されました。
上海では、日本総領事館前のデモ参加者が、のべ1万7000人に拡大
しましたが、よく統制されたデモとなりました。
同日。
中国の海洋監視船10隻と、漁業監視船2隻の合わせて12隻が、日本
の領海のすぐ外側にある「接続水域」を航行し、このうち海洋監視船3隻
が、一時、領海を侵犯しました。
第11管区海上保安部(那覇市)によると、このうち海洋監視船10隻と、
漁業監視船1隻の合わせて11隻が、午後8時20分すぎまでに接続水域
を出たということです。
一方、中国国営の中央人民ラジオが、1000隻の漁船が尖閣諸島の
周辺海域に到達する見通しだと報じていましたが、海上保安部は、多数
の漁船は確認していないとしています。
同日。
中国外務省の洪磊・副報道局長は、定例会見で、「島(尖閣諸島)は
中国固有の領土であり、その周辺海域は中国の直轄化にある」と述べ、
中国の海洋監視船と漁業監視船が、日本の領海のすぐ外側にある
「接続水域」に入ったことを正当化しました。
その上で「中国の主権を守り、すべての不法な主権侵害をおさえる」
と述べ、今後この海域で、中国の監視船によるパトロールを定期的に
行っていく考えを強調しました。
また、中国国営の中央人民ラジオが、1000隻の漁船が尖閣諸島の
周辺海域に向かっていると伝えたことについては、
「中国の漁民にとっては伝統的な漁場であり、中国の漁船が関連海域
で漁をするのは当たり前だ」と述べています。
一方、この日も中国全土で、大規模な反日デモが行われていることに
ついては、
「日本側は、中国政府の要求と中国人民の声を聞き入れて誤りを正す
とともに、主権侵害を直ちにやめ、話し合いによって解決すべきだ」として、
日本政府にたいし、尖閣諸島の国有化の撤回など、具体的な対応を
重ねて求めました。
同日。
この日の午前9時半ごろ、尖閣諸島の魚釣島に、日本人男性5人が
乗った漁船が近づき、このうち2人が泳いで島に上陸しました。
2人は魚釣島に1時間ほど滞在し、「日の丸」を掲げるなどしました。
その後、2人は漁船にもどり、午後6時すぎに石垣港に帰港しました。
午後8時すぎから八重山警察署で、上陸した理由などについて事情を
聞かれています。
上陸した男性は港にもどった際、報道記者にたいし、2人は鹿児島市
に本部がある政治団体のメンバーだと明かしたうえで、
上陸した理由については、「太平洋戦争中に尖閣諸島近くで撃沈され
た疎開船の犠牲者を弔うために上陸した。島に上陸することを前から
決めていた。中国の問題は自分には関係ないと考えている」と話しました。
この日。中国外務省の洪磊・副報道局長は、日本人2人が尖閣諸島に
上陸したことについて談話を発表しました。
談話では、日本側に厳正な申し入れを行うとともに、「中国側はさらなる
措置を講じる権利を保留する」と述べて、さらなる報復措置を示唆しました。
また、洪・報道副局長は、「日本の右翼分子が不法に中国の領土である
釣魚島に上陸したことは、中国の領土・主権に対する重大な挑発行為だ」
と強く反発し、
「日本側に右翼分子の行為をなすがままにすることに対する説明を要求
する」とした上で、
「有効な措置を取り、事態と矛盾を激化させる一切の行動を停止する」
ように求めています。
同日。
アメリカのパネッタ国防長官は、中国の北京で、梁光烈・国防相と会談
をしました。
会談後の記者会見でパネッタ長官は、日中間の対立が深まっていること
について、「東アジアの海洋の安全が保たれなくなることを懸念している。
現在の緊張状態については、すべての当事国が冷静に対応し、外交的、
平和的な解決を求める」と述べて、日本と中国の双方に冷静な対応を呼び
かけました。
これに対して中国の、梁・国防相は、「平和的な話し合いを通じて、この
問題を適切に解決したいという希望を持っている」と述べる一方、
「今回の騒ぎを起こした責任は完全に日本側にある。われわれは、事態
の進展を注視しており、さらなる行動を取る権利を有している」と述べ、
対抗措置を取る可能性もあることを強調しました。
中国国営の新華社通信によると、9月17日にパネッタ長官が、「尖閣
諸島は日米安保条約の適用範囲内」という考えを示したことについて、
梁・国防相は、会談のなかで「断固反対する」と述べるとともに、尖閣諸島
の主権については「立場を明らかにしないという方針をアメリカが守ること
を希望する」と、述べたとしています。
また会談では、米中双方の軍事交流拡大についても意見交換し、パネッ
タ長官は、ソマリア沖のアデン湾で最近、米中の海軍艦船が海賊対策の
ための合同演習を行ったことを評価しました。
さらにパネッタ長官は、ハワイ沖で米海軍が主催する環太平洋合同演習
(リムパック)への中国海軍艦船の参加を招請し、米中の軍事交流拡大は、
アジア太平洋地域の平和と繁栄にも有益だと訴えました。
* * * * *
9月19日。
北京を訪れているアメリカのパネッタ国防長官は、次の国家主席になる
ことが確実視されている習近平・国家副主席と会談をしました。
中国国営の新華社通信によると、会談の中で、習・副主席は、日本政府
による尖閣諸島の国有化について、
「日本国内の一部の政治勢力が”茶番”を演じている」と述べて、強く批判
しました。
その上で、「日本は踏みとどまって中国の主権を損なう一切の誤った言動
をやめるべきだ」と述べ、日本政府は国有化の撤回をすべきだという考え
を示しました。
さらにパネッタ長官にたいし、「アメリカは言動を慎み、島の主権をめぐる
争いに介入すべきではなく、事態をエスカレートさせ複雑化させるようなこと
をすべきでない」と述べて、尖閣諸島を日米安保条約の適用範囲内とする
アメリカの立場に強く反対する姿勢を示しました。
一方、アメリカ国防総省の高官によると、パネッタ長官は、これに対し、
日中の対立が深まっていることに懸念を伝えたということです。
その上で、「アメリカ政府は、どちらの側にも立っておらず、日本政府と
話し合いを続け、両国の間で外交的、平和的に問題を解決すべきだ」と
述べたということです。
また、会談では習・副主席が、米中の軍事交流が今年に入ってから拡大
し、発展の勢いを見せていると評価しました。
そして「障害を克服して、相互信頼を増進していくことを希望する」と語り、
期待を示しました。
それに対してパネッタ長官は、アジア太平洋を重視する米国の新たな
国防戦略について、地域の安定促進が目的だと説明しました。
建設的な米中関係の構築が、目的達成のための重要な条件となると
指摘し、中国側の懸念の払拭(ふっしょく)に努めました。
同日。
中国の華僑向け通信社の中国新聞社は、尖閣諸島からおよそ235キロ
付近の海域で、浙江省の漁船700隻以上が操業していると伝えました。
このうち23隻は、尖閣諸島からおよそ110キロ以内で操業しているといい
ます。
この日も尖閣諸島の周辺海域で、中国の監視船が航行しました。昨日
よりも4隻多い、計16隻が確認されています。
海上保安庁は、巡視船や航空機などで周辺海域の警戒監視活動を続け
るとともに、領海に入らないように警告しました。
第11管区海上保安本部によると、「接続水域」を航行したのは13隻で、
夜までに大半が域外に出ました。周辺海域で、多数の中国漁船団は確認
されていないといいます。
同日。
警察庁は、総務省統計局や東北大学病院など、政府機関や民間企業
の19サイトがサイバー攻撃を受け、ホームページの改ざんや閲覧障害の
被害を確認したと発表しました。
警察庁によると、日本政府が尖閣諸島の国有化を決定した9月11日
以降、中国最大のハッカー集団「紅客連盟」が、日本の政府機関や金融
機関などおよそ300組織を名指しして攻撃を予告しており、同庁は警戒
を強めています。
これまでに被害を受けたのは、防衛省や東京工業大学世界文明セン
ター、最高裁が管理する裁判所HPなどの19サイトで、
システムへの不正侵入や、大量のデータを送り付けて機能をマヒさせる
攻撃を受けたとみられ、HPが閲覧しにくくなったほか、中国国旗が掲示
されるなどしました。
東工大では、8月に開催した小中学生向けイベントの参加申込者の
氏名や住所など、延べ1068人分の情報が流出しました。
同日。
玄葉外相は記者会見で、東京にある各国の大使館の担当者に、尖閣
諸島は日本固有の領土だと説明するなど、国際社会に日本の立場を
アピールする取り組みを始めたことを明らかにしました。
玄葉外相は、「日本は領土権の問題は存在しないという立場だが、中国
が独自の主張を行っており、わが国も国際社会に対して、歴史的にも
国際法上も、尖閣諸島は日本固有の領土だと説明することが必要だ」と
述べました。
その上で玄葉外相は、東京にある各国の大使館の担当者を外務省に
呼んで、日本の立場を説明する取り組みを始めているほか、
来週、野田首相が国連総会で行う演説でも、領土問題について、何らか
の形で言及することを検討していることを明らかにしています。
野田首相は、夜のテレビ朝日の番組で、日中関係の改善に向け、「政界、
経済界を含めてコミニュケーションを図っていきたい。特使(の派遣)も
含めて検討したい」と述べました。
野田首相は、反日デモの拡大について、「尖閣諸島の国有化によって、
一定のハレーション、摩擦は起こるだろうと考えたが、規模などは想定を
超えている」と指摘しました。
そして、「(中国には)再三いろんなルートを通じて説明してきた。しかし、
残念ながら十分理解されなかった」と語りました。
同日。
中国の対日交流団体である「日中友好協会」は、9月27日に計画して
いる日中国交正常化40周年の大規模式典を、予定通りに開催すると、
この日までに日本側に通知してきました。
(しかし後日、この大規模式典は、事実上中止されることになります。)
同9月19日。
羽田国土交通相は、閣議後の記者会見で、日本人2人が尖閣諸島に
上陸したことに対し、
軽犯罪法違反の疑いで、海上保安庁から警察に、同日中にも被害届を
出す考えを明らかにしました。
羽田国土交通相は、「尖閣諸島については、政府方針であらかじめ認め
られた場合を除き上陸を禁止している。今回は、この方針に反したもの
で、軽犯罪法違反で処罰する意志を被害届という形で表したい」と述べて
います。
また羽田国土交通相は、昨日につづき、この日も中国当局船が、尖閣
諸島沖の「接続水域」を航行していることについて、
「警備には万全を期していきたい。しっかりと警備体制をとっているが、
緊張感を持って対応していきたい」と述べました。
* * * * *
9月20日。
アメリカのキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、尖閣諸島
をめぐる日中関係の悪化に関して、
「尖閣諸島は日本の施政下にあり、(米国の対日防衛義務を定めた)
日米安全保障条約第5条が疑いなく適用される」と明言しました。
これはアメリカ上院の、外交委員会東アジア太平洋小委員会の公聴会
で証言したものです。
キャンベル次官補は、この公聴会で、「(日米安保適用という)米国の
立場は実質的に1997年に明確化された」と説明しました。
その上で、「現在の状況下では(主権問題という)非常に複雑な問題では
なく、平和と安定の維持に向けて重点的に取り組みたい」と述べています。
同日。
第11管区海上保安本部によると、この日の午前11時前、尖閣諸島の
久場島沖の接続水域内で、
中国の漁業監視船「漁政204」が、ゴムボートを使って中国漁船への
立ち入り検査を行いました。
尖閣諸島周辺の「接続水域内」においては、日中漁業協定により、両国
の漁船がそれぞれの国の法律に基づいて操業することが認められてい
ます。
しかしながら中国当局船が、中国漁船への立ち入りを行うなど、自国の
法律を執行することは、主権の侵害にあたり、日本としては認めていま
せん。
海上保安庁によると、日本の巡視船が、漁船への立ち入りを行った中国
当局船にたいし、「不当な主権の行使は認められない」と呼びかけると、
「正当な業務を行っているだけなので、そちらの方が直ちに現場から離れ
てください」と答えたということです。
海上保安庁は、「この海域に(中国の)主権が及んでいる」と、主張する
ねらいがあるものとみています。
この日。藤村官房長官は午前の記者会見で、中国海軍のフリゲート艦
2隻が、尖閣諸島からおよそ150キロ離れた海域を航行しているとの一部
報道に関して、
「接続水域以外についても、中国の船舶の動向は関心を持って情報
収集している」と述べました。しかしながら、政府が把握している情報の
内容については言及していません。
尖閣諸島周辺で、中国当局船が「接続水域」への出入りを繰り返している
ことについては、引きつづき警戒監視に万全を期す考えを強調しています。
同日。
EU(欧州連合)のファンロンパイ大統領と、ヨーロッパ委員会のバローゾ
委員長は、ベルギーのブリュッセルで、中国の温家宝首相と首脳会談を
行いました。
EUの高官によると、この会談でEU側は、日本政府が尖閣諸島を国有化
して以降、中国全土で広がった激しい反日デモに懸念を表明し、地域の
緊張の緩和に向けて外交的な対応をとるように求めました。
これに対して温家宝首相は、中国の基本的な立場を説明したうえで、
外交的な手段で事態の解決に当たる方針を示したということです。
この日。温家宝首相はブリュッセルで、地元の華人・華僑と懇談した際、
尖閣問題に関して「頑強不屈を保持し、少しも譲歩しない」と述べるととも
に、「われわれは有力な措置を取る」と強調し、日本に対して、より一層の
対抗措置を講じることを示唆しました。
温家宝首相は、尖閣諸島の国有化に関して、「日本当局が最近演出
した釣魚島に関する茶番」と批判し、
その上で「全世界が知らなければならないのは、釣魚島は中国の神聖
な固有の領土ということであり、われわれは国家の主権と領土の保全を
維持しなければならない」と訴えました。
さらには、「1つの民族にとって尊厳、自主、独立以上に重要なものは
ない」と強調しました。
同日。
経済産業省は、日本企業関連の中国への輸出入に関し、中国当局に
よる通関手続きの一部で、通常よりも時間がかかっているとの情報が
あることを明らかにしました。
一般に世界各国の税関当局は、製品や部品・材料の輸出入の際に、
一定数を抽出して仕様や規格などを検査していますが、
経済産業省は、中国の一部で抽出する数を引き上げ、検査に時間を
かけるようになったとの情報を得ているとしています。
日本の尖閣国有化にたいする、中国の対抗措置の可能性もあるため、
経済産業省は情報収集や事実関係の確認を急いでいます。
同日。
先日の9月8日に、ロシアのウラジオストクで開かれたAPEC(アジア
太平洋経済協力会議)における首脳会議の夕食会の場で、
玄葉外相が、中国の楊外相と短時間、意見交換をしましたが、その内容
が明らかになりました。
政府関係者によると、まず玄葉外相は、「自分は日中関係は非常に大事
だという考えで対応してきており、そのことだけはくれぐれも誤解のないよう
に理解してほしい」と述べました。
その上で、尖閣諸島の国有化について「自分や野中元官房長官のよう
に、日中関係のことを真剣に考えている人はこの方法しかないと考えてい
る」と、中国との関係が深い政治家の名前えを挙げ、
「日本政府による島の購入が、東京都の石原知事による購入を阻む
唯一の方法だ」と述べて、中国側の理解を求めました。
これに対して楊外相は、「いかなる形であれ、中国の領土主権を害する
行為を中国政府は受け入れられない。中国は断固たる措置を取る。日本
政府によるこのような行為は、一部の日本国民、とくに右翼の関心に応え
るために行っているものだ」などと、繰りかえし主張したということで、両者
の溝は埋らなかったといいます。
同9月20日。
ロシア外務省のルカシェビッチ報道官は、日中間の対立が深まっている
ことについて、
「ロシアの隣国である日本と中国が、対話を通じて解決し、アジア太平洋
地域の安全保障に、脅威をもたらさないでほしいと考えている」と述べま
した。
ロシア政府が、この問題について公式にコメントするのは初めてのこと
ですが、ロシアとしては、日中間の問題について関与せずに、事態の推移
を見守る姿勢を示しています。
* * * * *
9月21日。
アメリカ国防総省の高官が、NHKに対して明らかにしたところによると、
アメリカのパネッタ国防長官が、9月19日に訪問先の中国で、習近平・
国家副主席と会談した際、
尖閣諸島は、日米安保条約の適用範囲内だと、直接説明したということ
です。
そして、「アメリカは安全保障条約の責任がある」として、仮に軍事的な
衝突に発展すれば、アメリカも関与せざるを得ないという認識を伝えたと
いうことです。
パネッタ長官は、中国の梁光烈・国防相らにも、こうした考えを伝えたと
いうことで、
アメリカとしては、中国が挑発的な行動に出ないように、釘を刺したもの
とみられます。
同9月21日。
玄葉外相は閣議後の記者会見で、尖閣諸島をめぐる中国との対立を
ICJ(国際司法裁判所)で争うかどうかについて、
「尖閣は国際法上、歴史上疑いのないわが国固有の領土だ。現時点に
おいて必要性は考えていない」と述べました。
日本政府は、尖閣諸島において領有権の問題は存在しないという立場
で、裁判は不要との認識を示したものです。
中国国内の反日デモに関して、玄葉外相は、「まだ予断できないが、
やや収束されている感もある」と指摘しました。
また、中国の漁業監視船が、尖閣諸島の「接続水域内」で、中国漁船
の立ち入り検査を行いましたが、
それについて玄葉外相は、外務省から中国側に抗議したことを明らか
にしました。
同日。
海上保安庁によると、尖閣諸島の周辺海域では、この日の午前も中国
の監視船がとどまり、日本の「接続水域」への出入りを繰り返しました。
第11管区海上保安本部によると、この日、新たに中国漁業局の漁業
監視船3隻が確認され、
午前10時現在、周辺海域では海洋監視船を含む13隻が航行しており、
うち3隻が一時、接続水域に入りました。
午前10時半ごろには、新たに台湾の抗議船が尖閣諸島の周辺海域
で確認されました。海保は巡視船で警戒を続け、日本の領海内に入ら
ないように警告しています。
この抗議船は、正午前に同水域を出て、同海域をはなれました。
午後8時20分ごろ、尖閣諸島の魚釣島西側の「接続水域内」で、台湾
の海上保安庁に相当する海岸巡防署所属の巡視船「和星101」が航行
しているのを、海保の巡視船が確認しました。
第11管区海上保安本部によると、和星101は、海保の巡視船に対し、
「台湾漁船の操業を守るために来ている。ここは台湾の領海だ」と無線
で応答しました。
午後10時50分ごろ、和星101は同水域を出ました。付近では少なく
とも1隻の台湾漁船が確認されていました。
尖閣諸島の周辺海域にとどまり続けている中国の監視船は、この日の
夜も、日本の「接続水域」への出入りを繰り返しました。
第11管区海上保安本部によると、午後9時現在、周辺海域には海洋
監視船を含む11隻がおり、うち4隻が接続水域を航行しています。
ちなみに、尖閣諸島をめぐる海上保安庁の巡視船と、中国当局船との
激しいにらみあいは、この日で4日目を迎えました。
中国側は、過去最多となる10隻以上の監視船を投入し、離れた海域
では数百隻の中国漁船が操業しているのも確認されています。
海上保安庁は、全国から巡視船数十隻を投入し、中国の監視船と1対
1で対応しています。しかしながら、国連海洋法条約により、外国公船には
実力行使ができず、退去要請のほか、伴走や追跡で圧力をかけるに留ま
ります
中国政府が保有する船は1000隻以上とみられ、対する海保の巡視船
は357隻です。
海上保安庁のある幹部は、「長期化し総力戦になれば、少ないこちらの
方が状況は厳しい」と苦慮しています。船や乗員の交代も必要で、別の
幹部は、「士気を維持し、常駐数が減らないようにする。やるしかない」と
語気を強めました。
同9月21日。
中国国営の新華社通信によると、中国の国家海洋危局と、民政省は、
尖閣諸島にある山や岬など、合わせて26ヶ所に独自の名前をつけて
公表しました。日本政府の尖閣国有化に対抗して、領有権を主張する
ための措置とみられます。
同日。
全日本空輸は、日中間の団体旅行のキャンセルが、9〜11月搭乗分
でおよそ3万7000席に達したと発表しました。
日本航空でも、同期間の団体客のキャンセルがおよそ1万2000席発生
しており、両社だけで、およそ5万席の予約が吹き飛んだ形です。
* * * * *
9月22日。
尖閣諸島の周辺海域にとどまり続けている中国の監視船は、この日も、
日本の領海のすぐ外側の「接続水域」への出入りを続けました。
午前には、新たに漁業監視船「魚政310」が接続水域に入るのが確認
され、周辺海域でこの日に確認された監視船は、12隻となりました。
午後には、海洋監視船2隻が接続水域に入り、午後5時半現在で、漁業
監視船7隻も含めて9隻が、「接続水域内」を航行しているのが確認されて
います。
同日。
中国外務省の洪磊・副報道局長は、この日の夜、尖閣諸島をめぐる
談話を発表しました。
この談話で、日本側が9月21日、台湾活動家の上陸阻止を名目に、
多くの当局者を上陸させたとして、日本側に強く抗議したことを明らか
にしました。
洪・副局長は、「(日本側の上陸は)中国の領土主権への重大な侵犯
であり、日本側は直ちに侵害行為をやめるべきだ。中国側は引きつづき
領土主権を守る措置を取る」と表明しています。
日本の海上保安庁によると、9月21日に台湾の抗議船が、尖閣諸島
の周辺海域に現れたため、
海上保安官と警察官の合わせて十数人が、魚釣島に上陸し、警戒待機
をしたということです。
* * * * *
9月23日。
中国側は、9月27日に計画していた日中国交正常化40周年の大規模
式典を「中止する」と、北京の日本大使館などに連絡してきました。
中国側は「記念式典は、当面の間、延期したい」と説明していますが、
いつまで延期するのか明らかにしておらず、関係者は、事実上の中止だ
としています。
また、その理由についても、中国側は「諸般の事情によるものだ」と説明
し、詳しいことは明らかにしていません。
先日の9月19日には、中国の対日交流団体「日中友好協会」の幹部が、
大規模式典を「予定通り行う」と明言していただけに、
「突然決まった」(日中関係筋)この中止には、胡錦濤指導部の判断が
あったとみられます。
中国国営の新華社通信によると、日中友好協会の責任者は、「日本
政府は、中国側の断固とした反対にもかかわらず、島の購入に固執し、
国交正常化40年の雰囲気を壊した。中国の各界は、激しく怒っている」
と述べており、
大規模式典の中止は、日本政府の尖閣国有化が原因だとしています。
日本側の日中友好7団体の1つである、「日中協会」の理事長 白西
紳一郎さんは、大規模式典の中止について、
「非常に残念だ。50年にわたって中国を600回、訪れているが、こう
いう事態は初めてだ。尖閣諸島の国有化をめぐり、これほどまでに日中
の政府間の関係がぎくしゃくしていることに驚いている」と話しています。
そして日中両国にとって、民間交流の重要性を指摘したうえで、
「日本にとって中国はなくてはならない存在だ。互いの国が好き嫌いで
はなく、その重要性を考えて理性的につきあうべきだ。国民感情の悪化
が叫ばれているが、政府間の関係が改善されれば国民感情はよくなる
はずだ」
と述べて、今後の交流事業にさらに影響が広がらないよう、日中両国
の政府に対して、速やかに関係を修復するように求めました。
同日。
台湾で、日本政府の尖閣国有化に抗議する、デモが行われました。
この抗議デモには、尖閣諸島の領有権を主張する活動家や、中国との
統一をめざす政治団体の支援者など、およそ1200人が参加し、
「島は、われわれのものだ」とか、「台湾と中国が、連携して島を守れ」
などと書かれた横断幕を掲げ、台北中心部の繁華街を行進しました。
そして、日本政府の台湾との窓口機関である「交流協会」が入ったビル
の前で、尖閣諸島の国有化に抗議するシュプレヒコールを上げました。
この日のデモは、台湾において、これまでで最大の規模となりましたが、
「交流協会」の前の道路には、防護フェンスが設けられたうえ、およそ
300人の警察官が警戒に当たり、大きな混乱は起こりませんでした。
同日。
第11管区海上保安本部によると、尖閣諸島沖の「接続水域」では、
昨日の夜から中国当局船3隻が航行を続けていましたが、本日の午前
8時前までに、すべて外に出たということです。
午後5時現在でも、「接続水域」で航行している中国当局船は、確認
されていません。
しかし、周辺の海域には依然として中国の漁業監視船9隻がとどまっ
ており、時折、動きを止めるなどしながら航行を続けていて、今のところ
中国に戻るような様子は見られません。
中国当局船は、これまでも「接続水域」への出入りを繰り返していること
から、海上保安本部は、ふたたび「接続水域」に入ってくる可能性がある
とみて警戒を続けています。
* * * * *
以上、9月17日〜23日までの動きについて見てきました。
中国国内で、最大規模の反日デモが予想されていた9月18日に、
大きな被害が出なかったのは何よりでした。
ところで9月20日に、アメリカのキャンベル国務次官補(東アジア・
太平洋担当)は、アメリカ上院の外交委員会東アジア太平洋小委員会
の公聴会で、
「尖閣諸島は日本の施政下にあり、(米国の対日防衛義務を定めた)
日米安全保障条約第5条が疑いなく適用される」と明言しました。
また、9月21日にアメリカ国防総省の高官が明らかにしたところでは、
パネッタ国防長官が、訪問先の中国で、「尖閣諸島は日米安保条約
の適用範囲内だ」と直接説明し、
「アメリカは安全保障条約の責任がある」として、「仮に軍事的な衝突
に発展すれば、アメリカも関与せざるを得ない」と釘を刺しました。
なので、おそらく、
中国が軍事行動に出るような事態は、そう簡単には起こらないだろう
と思います。
しかしながら、
尖閣諸島の周辺海域では、中国が過去最多となる10隻以上の監視船
を投入し、海上保安庁の巡視船との激しいにらみあいが続いています。
海上保安庁は、全国から巡視船「数十隻」を投入するという、ものすごく
大規模な対応を取っており、
もしかしたら尖閣の周辺海域は、「一触即発」の緊張状態になっている
のかも知れません。
また、
日中国交正常化40周年の大規模式典も、突然中止されることになり
ました。
このように、日中関係は最悪の状況になっており、この先も、まったく
予断が許されません。
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