日中関係も悪化 3
                          2012年9月16日 寺岡克哉


 今回も引きつづき、

 緊張が高まっている日中関係の動向について、見ていきたいと思い
ます。


              * * * * *


 9月3日。

 丹羽駐中国大使の公用車が襲撃された事件で、容疑者が中国公安
当局の事情聴取にたいして、
 尖閣問題への日本政府の対応に不満をもち、「走行中の公用車が
掲げる日の丸を見て犯行に及んだ」と供述していたことが、この日まで
に分かりました。

 北京市公安局は、刑事責任を追及せず、罰金・拘留などの行政処分
に当たる「治安管理処罰法」を適用する方針で、慎重な捜査を進めて
います。

 中国政府は、正式処分の時期について、東京都による尖閣諸島の
現地調査を受けた、日中関係や国内世論の推移を見ながら、「タイ
ミングを見て決める」としています。



 同日。

 この日付の中国各紙は、東京都による尖閣諸島(中国名は釣魚島)
の現地調査について、「違法」などと1面で大きく報じました。

 新京報は1面のトップで、「中国は日本の釣魚島調査に厳正な申し
入れを行った」という見出しを掲げ、

 環球時報は「日本の調査団は限りなく釣魚島に近づいた」と伝えま
した。

 京華時報は、専門家の見解として「日本の右翼分子は日本政府に
対して釣魚島の事実上の占有を緩めるなと要求しており、石原(慎太郎
都知事)も将来、釣魚島購入の茶番を推し進め、(日本)政府に絶えず
圧力をかけ続けることも排除しないだろう」と紹介し、石原東京都知事
への警戒心を前面に出しています。



 同日。

 中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長が、定例記者会見を行い
ました。

 この中で、

 東京都が尖閣諸島の現地調査を行ったことについて、「すでに日本側
には厳正な申し入れを行った」としてうえで、「日本側の一方的な行動は、
いかなるものであれ不法で、無効だ」と批判しました。
 これに関連して、今週末にロシアのウラジオストクで行われるAPEC
(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に合わせて調整が進められ
ている、野田首相と胡錦濤国家主席の会談への影響については言及
せず、
 「日本側が中国の主権を侵す行為を停止し、対話と交渉で問題を解決
する軌道にもどり、日中関係の発展の大局を守るよう要求する」と日本
政府に注文をつけました。

 日本政府が、尖閣諸島の国有化を進めていることについては、「日本
が国有化を通して主権を強めようとしていることは、むだだ」と批判し、
日本の出方をけん制しました。

 丹羽駐中国大使の乗った公用車が襲撃された事件については、「関係
部門の捜査が進展し、中国側はすでに日本側に状況を通報した」と述べ
るにとどまり、その後の捜査の進展などについては明らかにしませんで
した。

 また、9月4日から訪中する、アメリカのクリントン国務長官と中国側との
会談で、尖閣問題を取り上げるかどうかについて、直接には触れなかった
ものの、「アメリカは地域安定の大局から出発し、釣魚島問題で立場を
主張しない態度を取るべきだ」と述べて、日本側を支持しないよう、アメ
リカに釘を刺しました。



 同日。

 この日付けの中国共産党機関紙・人民日報によると、中国国家海洋局
は、同国が領有権を主張する尖閣諸島などを、レーダー精度の高い海域
動態監視観測システムの範囲内に組み込んだことを明らかにしました。

 中国の海洋権益を保護するのが目的で、尖閣諸島周辺海域を警備す
る日本の海上保安庁の巡視船や、漁船、航空機などの動きの把握にも
活用されるものとみられます。



 同日。

 藤村官房長官は記者会見で、尖閣諸島の地権者との交渉状況につい
て、「さまざまなレベルで、地権者や東京都との接触をしているが、地権者
とのやり取りは、民間人である地権者自身の権利や利益に関わることな
ので、内容には一切お答えできない」と述べました。

 その上で、「今は国が島をお借りしている状況のうえで、地権者が売り
たいという意向を持っているようだが、いつまでということでない。どちらに
せよ、さまざま交渉していく」と述べ、
 地権者側が島の売却を望んでいるとして、国有化の実現を目指して、
地権者側との交渉を急ぐ考えを重ねて示しました。


 これについて、国に先だって島を購入する意向を明らかにした石原東京
都知事は、
 「尖閣諸島の購入を国に譲る条件を提示したことへの回答を週明けに
すると言っていたのに、返事はなく、一方的に発表するのは無礼というか
卑劣というかペテンだ。国として尖閣諸島を買いますと言ってくるのが仁義
なのではないのか」と話しました。
 (※「尖閣諸島の購入を国に譲る条件」については、前回のエッセイ551
  の8月31日のところを参照してください。)

 また9月2日には、東京都が行った尖閣諸島の調査結果について、
「南小島は比較的岩盤も平らで、ブロックを積んで波を防げば小さな漁船
の船だまりを作れるのではないか。あすかあさってに詳しく報告を聞く」
と述べたほか、
 尖閣諸島の購入について話し合うため、近く沖縄県の中井真知事と
会談する方向で、調整していることを明らかにしました。


 これについて沖縄県の中井真知事は9月3日。幹部らと対応を協議し、
石原知事側から申し出があれば、会談に応じる意向を示していること
が関係者の話で分かりました。

 中井真知事は、領土をめぐる問題は政府が主導権を発揮すべきとしな
がらも、会談自体を断る理由はないとして、会談が行われれば、沖縄県
の立場を説明することにしています。


               * * * * *


 9月4日。

 丹羽駐中国大使の乗った公用車が、襲撃され、日の丸が奪われた
事件で、
 中国政府は、事情聴取を受けていた男2人について逮捕・起訴は
せず、軽犯罪を処罰する「治安管理処罰法」を適用して、行政処分に
すると発表しました。

 処罰するのは、公用車の日の丸を略奪したBMW車に乗っていた
黒竜江省出身の25歳の男と、河北省出身の23歳の男で、5日間の
行政拘留の処分となりました。

 公用車の前方に停車して、BMW車とともに公用車の走行を妨害した
アウディ車に乗っていた男女については、公安当局は偶発的とみて
警告処分で済ませています。

 このように行政処分が決定されたことで、国家の象徴である国旗が
略奪されるという事件は、刑事責任を追求されることなく、捜査が終結
しました。これについて中国政府は、「法にのっとって適正に処理した
結果だ」としています。

 ちなみに中国政府は、決着に時間がかかる司法上の手続きを避け、
早期の幕引きを狙ったとみられます。
 また、中国国内では犯人を支持する声も多く、外交問題であることを
理由に厳罰を科せば、かえって中国国内の反日世論を刺激し、ひいて
は政府批判につながりかねないとの判断もあるようです。

 中国のインターネット上では、「愛国者を拘留すべきではない」などの
当局批判が相次いでおり、「日本にへつらってばかりの外務省は弱腰
だ」といった中国政府への批判も目立っています。



 同日。

 民主党や自民党などの超党派でつくる議員連盟が会合を開き、尖閣
諸島に香港の活動家らが上陸したことや、竹島に韓国の李明博大統領
が上陸したことを受けて、政府に領海の警備体制の強化などを求める
声明をまとめました。

 この声明では、

 政府にたいし、8月29日に成立した「改正海上保安庁法」などに基づ
いて、領海の警備体制の強化をはかることや、
 香港の活動家らが逮捕されるまでの記録映像を、すべて公開すること
などを求めています。

 また、竹島に対する日本の領有権の根拠を国内外に示すことや、日韓
両政府が、金融面での協力の一環として、通貨を融通し合う仕組みの
拡大を凍結することなども求めています。

 議員連盟の会長をつとめる、たちあがれ日本の平沼代表は、「尖閣諸島
や竹島だけでなく、北方領土についても、事態はまったく前に進んでいな
い。外交上、屈辱的な問題を解決するためには、自主的な正しい憲法を
つくることが必要だ」と述べました。

 このあと平沼氏らは、首相官邸を訪れて、藤村官房長官に声明の内容を
実現するように求めました。
 これに対して藤村官房長官は、「政府としてしっかり対応したい」と答えて
います。



 同日。

 台湾総統府は、馬英九総統が、台湾北部の基隆沖にある離島、彭佳嶼
(ほうかしょ)を、9月9日に視察する計画を明らかにしました。

 馬総統の同島訪問は、2008年に就任して以来初めてのことで、およそ
140キロ離れた尖閣諸島の領有を主張するものとみられます。

 彭佳嶼は、基隆沖およそ56キロに位置する、尖閣から最も近い台湾の
離島で、軍も駐留しています。視察当日は警備のため、艦船を同島周辺
に派遣するもようです。

 馬総統は尖閣諸島について、主権問題を棚上げにして共同開発する
ことを日本側に提案する一方で、「領有権は一歩も譲らない」との強硬な
発言を繰り返しています。



 同日。

 アメリカのクリントン国務長官は、中国を訪問し、北京で楊潔チ外相と
会談をしました。

 会談の具体的な内容は明らかにされていませんが、米中関係のほか、
尖閣諸島や南シナ海の問題、シリア情勢、北朝鮮の核問題などについて
意見交換したものとみられます。

 クリントン長官は会談で、「中国と良好なパートナーシップの構築に力を
尽くしてきたが、これはアジア太平洋地域で新たなバランスを取るカギと
なるものだ」と述べて、米中のバランスの重要性を強調しました。

 一方、楊外相も、「アメリカとともに両国のパートナーシップをさらに進め、
新たな大国関係を模索するため努力したい」と述べています。

 クリントン長官は5日に、胡錦濤国家主席や温家宝首相のほか、次期
の国家主席に内定している習近平国家副主席とも会談する予定で、中国
との緊密な連携をアピールするものとみられます。


              * * * * *


 9月5日。

 アメリカのクリントン国務長官は、胡錦濤国家主席と会談をしました。

 同長官は、「米中関係で最も重要なのは国民同士の交流で、より積極
的な協力関係をつくるための基礎となる」と述べ、双方が両国関係を
発展させることを確認しました。

 胡主席は、「中国は米国との対話、意思疎通を続け、さまざまな妨害を
排除し、中米関係が常に正しい方向に進むことを確実にしたい」と、双方
の連携の重要性を強調しています。


 胡主席との会談終了後、クリントン国務長官は、楊潔チ外相との共同
記者会見を行いました。

 この中でクリントン長官は、中国とフィリピンやベトナムなどが対立して
いる南シナ海の島々の領有権問題について、「領有権の争いがあるもの
については、特定の立場はとらない」と述べ、アメリカの従来の立場を
あらためて示しました。
 ただ、平和的な解決に向けた公的拘束力のルールとなる「行動規範」
の策定については、「緊張を緩和するために、協議を進めるべきだ」と
述べ、今年11月にカンボジアで予定されている東アジアサミットに向け
て、協議が進展することに期待を示しました。

 これに対して楊外相は、「関係国は、策定に向けた協議を行うという
意見で一致している」と応じましたが、
 「南シナ海における中国の主権を明確にする歴史的な証拠は豊富に
ある」とした上で、「南沙諸島や周辺海域の争いは当事国同士が直接
対話で解決するべきだ」と強調し、アメリカの介入をけん制しています。


 この日、クリントン国務長官は、温家宝首相とも会談しました。

 温首相は、「米国は中国の主権と領土の一体性を切実に尊重し、中国
の核心的利益と国民感情に配慮するべきだ」と述べました。
 「国民感情」を含めたのは、アメリカが「主権について特定の立場は
取らない」(クリントン長官)とする一方で、尖閣諸島を日米安保条約の
対象としていることに、中国国内で反発があることを念頭に置いたものと
みられます。


 ところで、この日に予定されていた、習近平国家副主席との会談は、
キャンセルされました。
 アメリカのメディアは、「習氏が背中を負傷したため」とする米当局者の
話を伝えています。
 アメリカの外交筋によりますと、習氏は会談取り消しをわびる直筆の
手紙をクリントン長官に伝達しました。さらに中国側は、「次期指導部とも
会いたいでしょう」として、李克強副首相との会談を急きょ設定しました。


 一連の会談で、尖閣問題については、米中両国側ともに、深入りを
避けました。
 中国人民大学の時殷弘教授は、「釣魚島はあまりにも敏感な問題。
党大会を前に中国側は妥協したと見られたくなく、やりとりを伏せる
ことで米側と合意したのだろう」と分析しています。

 一方、シリアやイラン問題などに関しては、双方が従来の見解を述べ
るに留まり、歩み寄りはありませんでした。



 同日。

 石原東京都知事は記者団にたいし、政府高官が9月4日に石原知事
を訪ね、政府が尖閣諸島を買うことに理解を求めたことを明らかにしま
した。
 しかしながら、その際には政府高官側から国が島を購入しようと地権
者に示している金額については説明がなく、石原知事が求める漁船の
避難施設の整備についても、明確な回答がなかったということです。
 その上で石原知事は、政府が尖閣諸島を20億円余りで買い取ること
で地権者と大筋合意したことについて、「私は聞いていないが、政府と
折り合ったんでしょう。私たちが口を挟むべき問題ではない」と述べてい
ます。

 尖閣諸島を購入するために東京都に寄せられた14億円余りの寄付金
については、「政府が国有化したらそのために使うべきだ」と述べて、国
に譲渡してもよいという考えを示しました。

 これについて藤村官房長官は、この日の記者会見で、「石原知事の側
でも、さまざまな考えがあるということだと思う。もし、そういう方向に行く
なら、譲渡が可能なのかどうかも含め、事務レベルでの検討が必要だと
は思っている」と述べて、
 寄付金の譲渡に関して都側から提案があれば、事務レベルで対応を
検討する考えを示しました。



 同日。

 中国外務省の洪磊・副報道局長は記者会見で、日本政府が尖閣諸島
を購入することで地権者と合意したことについて、
 「日本側の一方的な措置は違法かつ無効だ。事態を注意深く見極めて
おり、必要な措置を取って自国の領土主権を守る」と述べて、日本が国有
化すれば対抗措置を取ることを示唆しました。

 洪報道副局長は、「日本側は中国側の反対を顧みず、国有化を進め、
中国の領土主権を侵して民族感情を傷つけた」と、激しく批判していま
す。しかしながら、日本が国有化した場合の措置について具体的な言及
はありませんでした。

 ロシアのウラジオストクで9月8日〜9日に開かれるAPEC(アジア太平
洋経済協力会議)の首脳会議に合わせた、野田首相と胡錦濤国家主席
との会談については、「調整を続けている」と述べるに留めています。

 また、丹羽駐中国大使の公用車が襲撃された事件で、男2人が行政
拘留の処罰を受けたことについては、
 「中国の関係部門が犯人を割り出し、法に基づいて処理した。中国側
は条約を順守し、外国の駐在公館と人員の安全を守っている」と強調
しました。


               * * * * *


 9月6日。

 日本による尖閣諸島の国有化の動きにたいして、中国がさらに反発を
強めました。

 中国外務省の洪磊・副報道局長は、この日の定例会見で、「マイナス
の影響が出ている。日中関係の鍵は、日本側が中国の主権に損害を
与える行動を停止するよう自主的な対応を取ることだ」と改めて求めま
した。

 国営の新華社通信も、「一方的に公然と他国の領土の売買契約を宣言
することは完全な”強盗行為”だ」とする論評を伝えています。
 日本について「表裏を使い分け世間をだましている。数日前に、山口
副外相が野田首相の親書を中国指導部に渡し”問題を冷静に処理した
い”と表明した数日後、いわゆる売買協議をした」としています。

 華僑向け通信社の中国新聞社は、「日本が釣魚島の開発をしないこと
が中国側の許容限度となる」とする、北京大学国際関係学院の梁教授
の見解を伝えています。
 梁教授は日本の国有化の対抗策として、「さらに多くの漁業監視船を
釣魚島に派遣する可能性がある」と指摘しています。



 同日。

 日系の自動車メーカーとして、中国で最大の販売シェアをもつ日産
自動車の、志賀COO(最高執行責任者)は、
 訪問先である中国四川省の成都で記者団にたいし、尖閣諸島をめぐ
る中国での抗議活動が、現地での車の販売に影響を及ぼしていると
いう見解を示しました。

 志賀COOは、「先月の販売結果はよくなかった。大々的なキャン
ペーン活動など、とくに野外でのキャンペーンが打ちづらい状況にあり、
それが販売促進に影響したという報告を受けている。日系のメーカー
がマイナスでドイツ車が増えている背景には、そういうことがあるのか
と想像している」と述べています。

 その上で志賀COOは、「領土の問題は非常に難しい問題だが、速や
かに友好的に解決することを民間の立場としては望んでいる」と述べ
ました。



 同日。

 石原東京都知事は、視察で訪れた福井県の敦賀市で記者団にたいし、
「地権者が(尖閣諸島を)東京に売ろうが、国に売ろうが勝手に決めたら
いい」と述べた上で、
 島の活用について、次の衆議院選の争点にするのが望ましいという
考えを示しました。

 また、東京都が島を購入するために集めた14億円余りの寄付金に
ついて、「都が集めた寄付の目的に島の活用に資することも入っている
ので、漁船が避難できる船だまりや無線の中継基地を作るほうが寄付
してくれた人に納得してもらえる」と述べ、国が島を購入した場合でも、
島の活用のために使ってもらいたいという考えを示しました。

 ちなみに、東京都への寄付金は9月5日現在で、14億6851万5147
円になっています。
 石原都知事が寄付金を国に譲ってもよいという考えを示して以来、東京
都には、寄付をしたいという人から「知事が寄付金を国に譲るといったの
は本当なのか」とか、「東京都が買うと言うから寄付をした」などという意見
が、多く寄せられているということです。


               * * * * *


 9月7日。

 海上保安庁は、領海警備をふくむ海洋権益の保全を強化するため、
2013年度予算の概算要求に382億円を計上しました。
 香港の活動家らが尖閣諸島に不法上陸したことなどを受けて、警備
体制を充実させます。
 要求の規模は、本年度の当初予算281億円を大きく上回り、人員の
の増強や、監視能力に優れた巡視船などの投入を急ぎます。

 人員については、およそ150人増を目指します。新設する「那覇海上
保安部」にも一部配置し、尖閣諸島周辺での領海警備強化につなげ
ます。

 巡視船や航空機などの整備では、特別重点要求として82億円を
計上しました。老朽化した巡視船などとの切り替えを順次進めます。
 巡視船は夜間の監視能力にも優れた最新鋭の1000トン級4隻と、
小型の漁船などを追跡するのに適した30メートル級3隻を導入します。
 また、悪天候でも飛行できるヘリコプター3機も、新たに配備します。

 1000トン級の巡視船を一度に4隻も要求するのは2007年以来の
ことです。
 通常は、要求から配備まで約4年を見込みますが、領海警備強化の
必要性が高まっていることから、3年ほどに短縮する考えです。



 同日。

 野田首相は記者会見で、ロシアのウラジオストクで9月8日〜9日に
開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の、首脳会議の場では、
 中国の胡錦濤国家主席や、韓国の李明博大統領との首脳会談を
見送ると、正式に表明しました。
 韓国とは竹島、中国とは尖閣諸島をめぐり、首脳会談で対立が決定
的になるのを避ける狙いがあります。

 野田首相は、中韓首脳との「正式な会談は予定されていない」と説明
しました。
 しかしながら、「立ち話などの機会があれば、わが国の立場を改めて
伝えることもある」と述べて、夕食会などでの接触は調整を続ける考え
を示しています。



 同日。

 台湾の馬英九総統が、尖閣諸島の近辺にある台湾の離島、「彭佳嶼
(ほうかしょ)」を視察しました。
 軍のヘリコプターで島に上陸したあと、馬総統は、尖閣をめぐる問題
について「日中台が共同で協議すべきだ」との談話を発表し、
 日本政府の尖閣国有化の動きに対抗して、領有権を主張する一方、
資源の共同開発をアピールしました。

 馬総統は、日本の尖閣国有化について「認められない」と強調しました
が、その一方で、
 8月の上旬に発表した資源の共同開発などを呼びかける「東シナ海
平和イニシャチブ」を、2段階で進めることを提案しました。
 まず日台や中台などでの枠組みで話し合い、徐々に3ヶ国・地域での
共同開発に移行すべきだとしています。

 馬総統は、最近は日台関係に配慮して、活動家の動きを抑える姿勢
も見せてきました。
 しかしながら、最近の日本の動きを受けて、台湾域内では強硬論が
噴出しています。一部では、尖閣諸島に上陸して、領有権を主張する
べきだという意見も出ているほどです。

 このたびの彭佳嶼の視察は、台湾域内の強硬論に配慮し、「弱腰」
との批判をかわすパフォーマンス的な意味合いが強いものです。
 それと同時に、尖閣諸島上陸などの過激な行動を抑制し、日台関係
の悪化を避ける狙いがあると見られます。

 尖閣諸島は豊かな漁場でもあり、日本への配慮を見せて2009年
以降中断している、日台漁業交渉の復活につなげたいとの思惑もにじ
ませています。



 同日。

 中国外務省の洪磊・副報道局長は、この日の記者会見で、台湾の
馬英九総統が離島を訪れて、尖閣諸島の領有権を主張したことにつ
いて、
 「釣魚島は中国固有の領土であり、海峡両岸(中台)の中国人と中華
民族の子孫全員が釣魚島の主権を守る責任がある」と述べ、「1つの
中国」として領有権を主張する立場を強調しました。



 同日。

 石原東京都知事は記者会見で、「自民党総裁選挙に公開質問状を
出して、尖閣諸島についてどのような責任を取るか具体的に聞きたい」
と述べて、
 9月26日に行われる自民党の総裁選挙の立候補者に対して、尖閣
諸島をめぐる対応をただしていく考えを明らかにしました。

 尖閣諸島に、漁船の避難港などのインフラ整備が必要だと主張する
石原都知事は、「政権はまもなく代わる。自民党が核になった新政権が
できるだろう」と指摘し、
 都が募集している寄付金の国への譲渡に関連して、「(尖閣に)物を
造らないで国有化しても、献金(寄付)した人は是としないし、安心も
しない」と述べて、各候補の意思を確認するため、質問状を出すとして
います。

 また、石原都知事みずから参加して、来月にも尖閣諸島の調査を
行いたいとしていることについて、
 「あの島に作るべきものを作り、零細な日本の漁民を守ってほしいと
して寄付が集まっているので、都が島の現状を調査して国に提言した
い」と述べ、
 野田政権が尖閣諸島を購入したとしても、今の段階では、東京都と
して調査を行いたいとする考えを示しました。



 同日。

 尖閣諸島の地権者の男性が、この日の夜に石原都知事と直接会い、
国との交渉の状況について説明していたことが、関係者の話から分か
りました。
 その際、地権者の男性は石原都知事に対して「申し訳ない」とした上
で、東京都ではなく、国への売却を決めたことを伝えたということです。
 しかしながら、売却金額など詳しいことは、伝えられていないという
ことです。



 同日。

 沖縄県石垣市の中山市長は、およそ100人の職員と会合を開き、
職員にたいして「石垣市の行政区域として、(尖閣諸島は)日本が実効
支配してきたことを今いちど確認してほしい」と述べました。

 その上で中山市長は、「政府の方針が変わり、漁業者のための港
が整備できなくなったのは納得がいかない。今後、国が購入した場合
でも港の建設などは強く要望していく」と述べて、
 尖閣諸島が国有化された場合でも、その周辺では漁業活動を続け
るため、国に対して引きつづき港を整備するように、要望していく考え
を示しました。


              * * * * *


 9月9日。

 野田首相は、この日の午前に、APEC(アジア太平洋経済協力会議)
首脳会議の場で、
 中国の胡錦濤国家主席と、およそ15分間にわたり、立ち話の型式で
言葉を交わしました。

 野田首相は、9月7日に中国の雲南省で起こった地震被害へのお見
舞いを述べたうえで
 「日中関係、中国の発展はわが国や地域社会にとってのチャンスだ。
戦略的互恵関係を、ちょうど国交正常化40周年なので深化させて行き
たい」と述べて、中国との関係を進展させる考えに変わりがないことを
強調しました。

 一方、中国外務省によると、胡錦濤主席は日本の尖閣国有化方針
にたいして、「日本側が取るいかなる方式の”島購入”も違法かつ無効
であり、断固反対する」と表明しています。
 その上で、「事態の重要性を十分に認識し、誤った決定を行わず、
中国側と共に中日関係の大局を維持する」べきだとして、方針撤回を
求めました。


              * * * * *


 以上、9月3日〜9日までの、日中関係の動きを見てきました。


 尖閣諸島の問題に、中国だけでなく台湾も絡んできて、話がさらに
複雑になってきました。

 一方、尖閣諸島を東京都が買うのか、国が買うのかという問題は、
どうやら国が買うことに決着したみたいです。

 この先、国が尖閣諸島を購入して、「国有化」することになるのです
が、そのことによって、日中関係はさらに悪化していきます。

 その経緯については、次回で詳しく見て行きたいと思います。



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