日中関係も悪化 2
                          2012年9月9日 寺岡克哉



 香港の活動家らが、尖閣諸島に上陸したのを発端にして、日中関係
がどんどん悪化して行き、

 中国駐在の丹羽大使の公用車が、襲撃される事件まで発生してしま
いました。

 今回は、前回に引きつづき、

 悪化の一途をたどる日中関係について、見て行きたいと思います。


              * * * * *


 8月28日。

 玄葉外相は午前の記者会見で、丹羽駐中国大使の乗った公用車が
襲撃され、中国人と見られる男に「日の丸」が奪い去られた事件につい
て、「大変遺憾だ」と述べました。
 その上で、「国旗は国の威厳で尊重しなければならない。(外交官の
権利などを定めた)ウィーン条約上も、外交官の身体の自由などは
守っていかなければならない」と述べています。

 藤村官房長官は記者会見で、「大変遺憾だ」と表明しました。27日の
夕方に、駐中国の日本大使館を通じて、中国外務省に厳重抗議を申し
入れ、再発防止と刑事捜査を要求したと説明しました。
 中国側からは、「極めて遺憾で、再発防止に全力を尽くしたい。在留
邦人や日本企業の安全も確保する。法に基づき厳正に対処したい」
との回答があったといいます。

 安住財務相は記者会見で、「中国当局はしっかりした捜査をして、
法令にのっとった対応をしていただきたい」と要請するとともに、
 「いたずらに日中間の関係悪化を招くような事態をぜひ避けてもらい
たい」と述べました。

 一方、自民党の石原幹事長は、この日の記者会見で、「先進国では
あり得ない。警備体制が万全だったかなど厳重抗議すべきだ」と批判
しました。



 同日。

 日中関係筋によると、丹羽駐中国大使は、今後も日の丸を付けて
公用車を利用することを決めました。
 同筋は、「他の国の大使も国旗を付けており、外す必要はない」と
述べています。

 また同筋によると、日本大使館の斉藤公使がこの日、北京市公安
局を訪れて、在留邦人の安全確保や再発防止のほか、大使の警備
強化も要請しました。
 公安局は「万全をつくす」と表明したといいます。



 この日までに、

 中国政府が釣魚島(尖閣諸島の中国名)をめぐり、日本政府にたい
して、
 (1)上陸させない、(2)(資源や環境を)調査しない、(3)開発しない
(建造物を作らない)、
 という3条件を策定し、現状維持を求めていく方針を内部決定したこと
が分かりました。これは複数の中国政府筋が明らかにしています。

 同筋は、反中国派として警戒している石原東京都知事の主導で、
都が尖閣諸島を購入した場合、「現状維持は難しく、日中関係は最悪
の状態になる」と懸念しています。
 「国有化したとしても現状を維持してほしい」として、野田政権が表明
している国有化を、事実上黙認するという一定の理解も示唆しています。

 しかしながら、日本政府が国有化を正式決定した際には、中国外務省
はとくに国内向けとして、強い反対声明を出す予定です。
 一方、現時点では、国有化決定だけの場合、日本との他の交流に
影響を与える「強行対抗措置」をとることは控え、3条件が守られなかっ
た際に、強行対抗措置を本格化させる方針だといいます。

 これに対して、「尖閣諸島で領土問題は存在しない」という立場をとる
日本政府は、
 中国が3条件を提案してきても、そのような条件に基づいた外交交渉
の受け入れは、拒否する方針とみられます。



 同8月28日。

 野田首相は、尖閣諸島をめぐって中国との対立が深まっていることを
受けて、さらなる関係悪化を避けるため、胡錦濤国家主席宛に「親書」
を送ることを決めました。
 同日中にも、山口外務副大臣が中国を訪問し、中国政府の高官に
親書を手渡す予定です。

 藤村官房長官は会見で、親書の内容は、今年が日中国交正常化40
周年に当たることを踏まえて、
 「大極的な観点から日中関係を安定的に発展させていく」ことの必要
性を強調するものに、なっていると説明しています。
 親書では、戦略的互恵関係の進展を訴えるとともに、尖閣諸島につい
ては冷静な対応を呼びかけています。



 同日。

 山口外務副大臣は、野田首相の親書を携えて、中国入りしました。
31日まで滞在し、中国政府の高官と会談する予定です。

 玄葉外相は会見で、山口外務副大臣を中国に派遣する目的につい
て、「現下の日中の情勢、朝鮮半島を含めた地域全体の情勢を踏まえ
た意思疎通を図らないといけない」と述べています。



 同日。

 尖閣諸島に政府の許可なく上陸した、鈴木東京都議、小坂荒川区議、
和田兵庫県議の3人が記者会見しました。

 3人は、香港の活動家らによる尖閣諸島の不法上陸事件が、自分ら
が上陸した「トリガー(引き金)」になったと説明し、日本政府の対応を
「犯罪的不作為」などと批判しています。

 鈴木都議は、香港の活動家らを強制送還したことについて、「法治国家
としていけない対応だった、日本は滅ぶ」と指摘しました。
 また、政府が東京都の尖閣上陸申請を不許可としたことを挙げて、
「こうした、ちぐはぐな対応が隙を生む」と述べています。



 同日。

 衆院決算行政監視委員会の新藤委員長(自民)は、この日の理事懇談
会で、委員会による尖閣諸島への上陸調査を、近く政府に申し入れる
考えを示しました。

 自民、新党「国民の生活が第一」、公明の3党は賛成しましたが、民主
党は「現時点では認められない」と反対しました。

 新藤委員長は記者会見で、「尖閣諸島には国民の税金が毎年2500
万円ていど投下されている。その中でどのように島が管理されているの
か、立法府の行政監視委員として把握しなくてはならない」と強調してい
ます。

 新藤委員長は、政府・民主党と事前調整し、許可の見通しが立てば
委員会として政府に正式に申請する考えです。



 同8月28日。

 アメリカ国務省は、クリントン国務長官が9月4〜5日の2日間、北京
を訪問して中国側と幅広い問題について協議を行うと発表しました。

 国務省のヌーランド報道官は記者会見で、「東シナ海の問題について
も協議することになる」と述べ、尖閣諸島をめぐる中国の対応などについ
ても協議するとしています。
 その上で、尖閣諸島は日米安保条約の「適用対象」だとする考えを、
あらためて示しました。



 同日。

 アメリカ国務省のヌーランド報道官は定例記者会見で、中国が「釣魚
島」と呼び領有権を主張している尖閣諸島について、
 アメリカ政府は公式名称として、日本語読みの「センカク」を採用して
いることを明らかにしました。
 英語で「尖閣諸島」を意味する複数形の「SENKAKUS]と表記して
います。

 また、ヌーランド報道官は尖閣諸島について、「1972年の沖縄返還
以来、尖閣諸島は日本の施政権下にある」と明言しました。
 尖閣諸島は日米安保条約の適用対象としていますが、しかしながら
領有権に関しては、特定の立場をとらず「中立」であることを、改めて
述べています。


             * * * * *


 8月29日。

 丹羽駐中国大使の乗った公用車が襲撃され、日の丸が奪われた
事件で、
 北京公安局は、この日までに容疑者を割り出して事情聴取を進めて
おり、捜査は詰めの段階に入っているみたいです。

 容疑者は、尖閣諸島に上陸した香港の活動家が逮捕・強制送還
されたことや、「尖閣は日本固有の領土」と明言した野田首相の記者
会見などに、不満を持っているとみられます。

 日中関係筋によると、北京市公安局は日本大使館に対し、捜査結果
についてまだ正式に通報していません。同筋は、「一定の結論が出て
から通報するだろう」という見方を示しています。



 同日。

 丹羽駐中国大使は、北京で行われた日中国交40周年を記念する
シンポジウムに出席し、講演をしました。

 丹羽大使は、このたびの事件について直接言及しませんでしたが、
「両国の間には意見の違いや摩擦があるが、引っ越すことのできない
永遠の隣国であり、個別の問題を日中関係の大局に影響させては
ならない」
 と述べて、両国の関係をこれ以上こじらせてはならないという考えを
強調しました。

 一方、同シンポジウムに出席した日中友好会会長の、唐家セン
元外相は、今回の事件について、
 「(丹羽)大使に対して非常に失礼で、決して愛国的な行為とはいえ
ない。現在、関係部門が徹底した捜査を進めている」と述べて、中国
政府としても深刻に受け止めていることを示しました。



 同日。

 参院の本会議で、韓国の李明博大統領の竹島上陸と、香港の活動
家らによる尖閣諸島上陸に抗議する決議を、民主、自民、公明3党
など与野党の賛成多数で採択しました。

 この決議で、

 李明博大統領が竹島に上陸したことについては、
 「強く非難するとともに、韓国が竹島の不法占拠を一国も早く停止
することを強く求める。また、政府は断固たる決意ときぜんとした姿勢
で、韓国政府にしかるべき対応を取り、わが国が一丸となって、効果
的な政策を立案・実施すべきだ」などとしています。

 李明博大統領が「天皇陛下が韓国を訪問するなら独立運動の犠牲
者に謝罪すべきだ」と発言したことについては、
 「極めて非礼な発言で、決して容認できないものであり、発言の撤回
を求める」としています。

 尖閣諸島については、
 「わが国は有効に支配しており、解決すべき領有権の問題はそもそ
も存在しない」と強調し、
 香港の活動家らによる上陸を踏まえて、「政府は法改正などの警備
体制の強化を含め、あらゆる手だてを尽くすべきだ」と指摘しています。



 同日。

 遠く離れた島で起きた犯罪について、海上保安官が、現在は認めら
れていない「陸上での捜査」も行うことが出来るなどとした、「改正海上
保安庁法」が参議院で可決・成立しました。

 海上保安官は、海上における犯罪は捜査することができますが、陸上
で起きた犯罪の捜査は認められていないため、遠く離れた島で犯罪が
あっても、警察官の到着を待たなければなりませんでした。

 このたびの「改正海上保安庁法」では、遠く離れた島に限って、海上
保安官に、容疑者の逮捕をふくむ陸上での捜査を認めることなどが、
盛り込まれています。
 この法律は、近く、対象となる離島をどこにするか海上保安庁と警察庁
が決定し、今年の9月下旬から施行される見通しです。

 また、この日、「改正外国船舶航行法」も可決・成立し、今後、立ち入り
検査を行わなくても、退去命令に従わず領海侵犯した船の乗組員を逮捕
することが出来るようになります。


               * * * * *


 8月30日。

 東京の中国大使館の楊宇報道官は記者会見で、丹羽駐中国大使が
襲撃されて日の丸が奪われた事件について、中国側の捜査の進捗(しん
ちょく)状況については具体的に明らかにしなかったものの、
 「中国の警察が北京の日本大使館の担当者に速やかに通知するだろ
う」と述べ、捜査のめどがつきしだい、速やかに日本側に伝える方針を
示しました。

 楊報道官は、「これは偶発的な事件だ。日本側には冷静に対応してほ
しい」と述べ、犯行は極端な反日行動を取る一部の者によるものだとする
見解を示しました。
 また、中国人の学者が、「犯行に使われた車のナンバープレートは、
偽造されたものだ」と述べたことについては、この学者は捜査情報を知り
うる立場にはないとして、否定的な見解を示しています。


 この日の夜。中国外務省は、容疑者をすべて割り出し、現在捜査を進め
ていると、日本大使館に通報しました。
 北京の日本大使館では、中国外務省からの連絡を受けて、日本時間の
午後10時半ごろ、担当者が中国外務省を訪れて、直接説明を受けたと
いうことです。

 日本大使館によると、中国外務省は「中国の警察当局が容疑者全員を
割り出し、現在捜査を進めているところだ」と伝えたうえで、容疑者は複数
の中国人の男女であることを明らかにしたということです。
 しかし中国外務省は、容疑者の身柄の扱いについて、逮捕していない
ことは伝えたものの、拘束しているかどうかなど、詳しいことは明らかに
しなかったといいます。
 日本大使館は「密接に連絡を取り合って、捜査の進展を見守りたい」と
伝えたのに対し、中国側は「捜査の進展がありしだい、速やかに連絡す
る」と答えたということです。
 日本大使館は、中国政府にたいし、引きつづき徹底した捜査と、中国の
法律に基づいた容疑者の適正な処分を求めていく方針です。

 日本の外務省は、「中国側が真剣に捜査を進めていることの表れだ」と
受け止めており、
 「これ以上、日中関係を悪化させないために、迅速に対応したのではな
いか」という、肯定的な見方が出ています。
 外務省は、容疑者の身柄の速やかな確保と再発の防止を、引きつづき
中国側に求めていくことにしています。



 同日。

 中国を訪問している山口外務副大臣は、中国外務省で傅瑩外務次官
(アジア担当)と会談しました。

 中国外交筋によると、双方は、丹羽駐中国大使の公用車が襲撃された
事件をふくめ、日中間のさまざまな問題を協議し、冷静に対応することで
一致しました。

 山口副大臣は、胡錦濤国家主席あての野田首相の親書を携えて訪中
していますが、この日の会談では中国側に手渡しませんでした。
 副大臣は、戴秉国国務委員(外交担当、副首相級)らとの会談を希望
しており、このようなハイレベルの外交責任者との会談が31日にも実現
すれば、親書を手渡す見通しです。



 同日。

 海上保安庁は、那覇市にある第11管区海上保安部の組織を改変
して、尖閣諸島周辺の警備体制を強化する方向で調整を進めている
ことが分かりました。

 第11管区海上保安本部は、沖縄本島の沿岸で水難事故の救助
などに当たる一方で、尖閣諸島の警備にも当たっています。

 そこで海上保安庁は、「那覇海上保安部」を新しく設け、水難事故
の救助を専門に当たらせることにしました。
 これにより、第11管区海上保安本部は、尖閣諸島の警備に集中
できるようになります。

 海上保安庁は、関係省庁と調整したうえで、早ければ来年の4月
にも海上保安部の業務を開始したいとしています。



 同日。

 自衛隊トップの岩崎統合幕僚長は、この日の会見で、「現時点では
(尖閣諸島に)自衛隊が出ていく段階にないと考えている。一義的に
は警察や海上保安庁が対応するもので、これらの機関と連携を取って
いきたい」と述べました。

 その一方で、

 陸上自衛隊が、西太平洋のテニアン島などで、沖縄のアメリカ海兵隊
と共同で、離島の防衛を想定した上陸訓練をおこなうほか、
 防衛省が、来年度予算案の概算要求で、部隊を離島に上陸させる
「水陸両用車」の購入費などを要求する方針を固めています。

 これらについて、陸上自衛隊トップの君塚陸上幕僚長は、「西南諸島
の防衛態勢の強化が求められるなか、陸上自衛隊の上陸能力は十分
とは言えない。装備品を整備し、海兵隊との訓練などを通じ、技術を
向上させることが重要だ」と述べています。


              * * * * *


 8月31日。

 丹羽駐中国大使の公用車が襲撃された事件で、北京市公安局が
容疑者として特定したのは、中国人の男3人と女1人の計4人である
ことが、関係者の話で分かりました。

 公安局は4人について逮捕せず、任意で事情聴取を進めています。
当局は本格的な刑事責任を追及せず、行政処分が下される予定です。



 同日。

 中国を訪問している山口外務副大臣は、中国外交を総括する戴秉国
国務委員(副首相級)と3時間近くにわたって会談し、野田首相から
預かった胡錦濤国家主席あての親書を手渡しました。

 親書は、国交正常化40周年を迎え、戦略的互恵関係の深化とともに
「日中間で政治レベルを含むハイレベルで緊密な意思疎通を行っていく
ことが極めて有意義である」と促しています。

 会談のあと、山口外務副大臣は記者団にたいし、「はっきりと決まって
いるわけではないが、来月8日にはAPEC(アジア太平洋経済協力会議)
での首脳会談もある。日中間でいろいろな機会にあらゆるレベルで話を
していこうという話はあった」と述べ、
 来月、ロシアのウラジオストクで開かれるAPECの首脳会議を機会に、
日中首脳会談を行えないか、中国側と調整を進めていることを明らかに
しました。

 ちなみに複数の中国政府筋によると、尖閣問題について「現状維持」
を求めている中国側は、野田政権が表明している尖閣諸島の国有化
よりも、
 それ以上に、反中国派とみる石原東京都知事が主導して都が買い
取る計画の方に、警戒を強めています。
 このたびの会談では、日中双方は尖閣問題についても、それぞれの
立場を話し合ったとみられます。



 同日。

 石原東京都知事は記者会見で、8月19日に野田首相と極秘会談を
した際に、
 尖閣諸島の実効支配を強めるため、国が島の近くに漁船が避難する
施設を作るのであれば、国が尖閣諸島を購入するのを認めると提案し
ていたことを明らかにしました。

 石原都知事は、そのほか島に電波の中継基地を作ることや、有人の
気象観測所を作ることなども提案しています。
 その上で、国が最低限、漁船が避難する施設を作るのであれば、国
が尖閣諸島を購入するのを認める考えを伝え、8月31日までに回答
するように、野田首相に求めました。

 ところが、この日になっても返答はなく、野田首相側から国会議員を
通じて、「週明けまで待ってほしい」という連絡があったということです。
 石原都知事は、「中国を気にしてか、たぶん返事は来ないだろう。こう
したこともできないようでは日本人の政府とは言えない」と述べています。

 また、東京都の調査団が9月2日に、尖閣諸島の現地調査を船の上
から行うことについて、
 石原都知事は、「漁船が避難する施設を作れるかどうかは専門家が
間近から眺めたら分かるだろう。10月にはもう1回、私が行きます。
行って逮捕されましょう」と述べました。


              * * * * *


 9月1日。

 この日付の香港紙「明報」によると、8月15日に尖閣諸島に活動家を
上陸させた、香港の民間団体「保釣(釣魚島防衛)行動委員会」の抗議
船について、
 中国本土で修理する予定だが、香港政府海事局に阻止される可能性
があると伝えました。

 抗議船が、海上保安庁の巡視船と接触して破損したため、保釣行動
委員会は、修理費が香港より安い珠海(中国広東省)での修理を計画
しています。
 しかしながら、香港海事局がその前に船の検査を受けるように求めて
おり、保釣行動委員会は「さまざまな規制を理由に珠海行きを阻むつも
りではないか」と懸念しているといいます。

 強制送還された活動家の1人は、「来月初めに尖閣諸島に向け出航
したいので、今すぐ修理したい。香港政府には止めないでもらいたい」
と話しています。



 同日の夜。

 尖閣諸島の購入を計画している東京都の調査団が、現地調査のため
チャーター船(2474トンの海難救助船「航洋丸」)で、石垣港を出航しま
した。

 調査は、購入を計画している魚釣島、北小島、南小島の3島が対象と
なっており、各島の資産価値の算定や活用策を検討するためのデータ
収集が目的です。
 平坦な土地の割合など地形の把握や、動植物の観測、避難港の整備
が可能かどうか沿岸の水深などを調査します。

 調査団は、都の職員、不動産鑑定士、海洋政策の専門家ら計25人
で、尖閣諸島に到着後、チャーター船に積み込んだゴムボートに分乗し
て、可能なかぎり島に近づいて観測などの作業にあたります。

 出航を前にして、調査団の団長である東京都の坂巻担当部長は、
「残念ながら国から上陸許可を得られなかったが、小型のボートを使う
など、できるかぎり島に近づき、沿岸線の様子などをつぶさに調べたい。
粛々と確実に、そして平穏に実施したい」と話しました。

 また、調査団のメンバーで、海洋政策に詳しい東海大学の山田教授は、
「人が暮らせる島なのか、また、将来活用するためにも今どのような状況
に置かれているのかを見てきたい」と語っています。

 チャーター船は、午後10時に石垣港を出航し、170キロほど離れた
尖閣諸島に向かいました。
 2日の午前5時ごろには尖閣諸島周辺の海域に到達する予定で、調査
は夜明けを待って午前6時半ごろから始まることになっています。

 海上保安庁は、中国側の反発が広がる中、不測の事態に備えて、周辺
海域に巡視船などを増やして警戒に当たる方針です。


              * * * * *


 9月2日。

 尖閣諸島の現地調査が、午前6時15分ごろ始まりました。

 上空を報道機関のヘリが旋回し、巡視船2〜3隻が警戒にあたるなど
緊張感も漂う中、
 調査員ら合わせて15人が、チャーター船から小型の船やボートに
乗り移り、午前中は魚釣島の周囲を回りながら沿岸の地形などを調査
しました。

 魚釣島では、地元でもほとんど知られていない島の南側に、洞窟が
見つかりました。奥行き70メートル、水深2メートルほどあったということ
です。調査員は「こんなものがあるなんて知らなかった」と驚き、同行
した地元の漁業関係者は「南側は思っていたイメージと違う。有効利用
すれば観光資源になる」と期待をこめました。

 動植物の生息調査も行われ、鳥のアジサシやアマサギが確認された
ほか、海岸近くではヤギがいるのが確認されたということです。岩を伝っ
て水が流れているのも確認されました。
 調査団のメンバーで、離島を活用した海洋政策に詳しい東海大学の
山田教授は、「美しい島だ。見ただけで12頭のヤギが確認できた。ヤギ
が植物を食い荒らしているので対策が必要だ。水が多いことも分かった」
と話しています。


 午後からチャーター船は、北小島や南小島に向かい、2つの島の間に
ある浅瀬部分に漁船が避難する施設を整備することができないか、周辺
の水深を測るなどして調査を進めました。
 漁船の避難施設の整備は、石原東京都知事が、その必要性を強く
主張しています。
 狭い両島の間を、小型のボートで通過し、水深がおよそ3メートルある
ことなどを確認しました。
 調査団の団長である、東京都の坂巻担当部長は、「上陸できないこと
で砂浜や平らの土地の調査はできなかったが、おおむね思っていた調査
ができた。石原知事が整備の必要性を主張している漁船の避難施設に
ついては、今回のデータを持ち帰って可能性を検討してみたい」と話して
います。

 尖閣諸島の現地調査は10時間近くにわたって行われ、午後3時45分
ごろに終わりました。
 昼間は肌が焼けるような暑さで、ヘルメットと救命胴衣を着用した調査
員らは汗びっしょりでしたが、体調不良になった人は無かったといいます。


 この日の午後10時20分ごろ、チャーター船は石垣港にもどり、その
あと記者会見が行われました。

 調査団長である東京都の坂巻担当部長は、「絶好の条件の中で計画
的に基礎的な調査をすることができた。今回の成果を都庁に持ち帰り、
島の購入・活用という次のステップにつなげたい」と述べました。

 その上で坂巻担当部長は、「平らな土地が思ったより多かったが、
どのていど奥行きがあるのかや、ヤギの食害の影響など、中に入らない
と見ることができない」と述べ、十分な調査を行うためには、島に上陸
する必要があるという考えを示しました。

 調査メンバーの、離島を活用した海洋政策に詳しい東海大学の山田
教授は、「この島の自然の重要性を再確認した。今回の調査は意義深く、
全体としては大きな一歩だ」と述べています。



 同9月2日。

 中国国営の中国中央テレビは、日本時間で午前8時のニュースの
トップ項目で、「東京都の調査団が不法な調査のため、島に向かった」
と伝えました。
 しかしその一方で、日本政府が島への上陸を許可しなかったことも
強調しており、日本に対する強行世論がこれ以上高まるのを抑えたい
という、中国政府の思惑がうかがえます。

 また、国営の新華社通信は、日本時間で午前10時半。日本の報道
を引用する形で「不法な調査を始めた」と伝えるとともに、尖閣諸島に
ついて中国政府の主張を改めて伝えました。


 この日、中国外務省は声明を出し、日本側に「厳正な申し入れ」をした
ことを明らかにしました。

 日本大使館の関係者によると、中国外務省の担当者が、北京の日本
大使館の担当者にたいして、尖閣諸島をめぐる中国側の立場について
申し入れ、抗議したということです。

 抗議が、どのレベルで行われたのか明らかにされていませんが、日本
側は、この場で、中国側の主張は受け入れられないと改めて主張したと
いうことです。


 この日、中国のインターネット上では、内陸部の重慶などいくつかの
都市で、反日デモの呼びかけが書き込まれましたが、いずれも削除され
たうえ、デモの発生は伝えられておらず、押さえ込まれた形です。

 しかしインターネット上には、東京都の尖閣調査が伝えられたあと、
「中国政府は軟弱で無能だ」などという過激な書き込みも目立つように
なっており、
 中国政府は、日本への対応に加えて、中国国内の世論も考慮しなが
ら、対応を決めていくものと思われます。



 同日。

 石原東京都知事は、フジテレビの討論番組に出演し、都が進めている
沖縄県石垣市の尖閣諸島の購入計画について、
 近いうちに沖縄県の仲井真知事と会い、石垣市を含めた3者での購入
も検討する意向を明らかにしました。

 石原知事は8月19日、野田首相にたいし、漁船の避難場所などの
整備を条件にして、尖閣諸島の国有化を容認する考えを伝えていました。
 しかし、これまでに国からの返事はなく、石原知事は「私はもう政府を
相手にしないことにした」と述べています。

 また石原知事は、東京都が10月に尖閣諸島の調査を再び行う際に、
知事自身も同行して上陸する意向を示していることについて、
 「(国の上陸許可が得られなくても)やりますよ、逮捕されて監獄に入っ
てもいいから」と述べ、あらためて強い決意を示しました。



 同日。

 政府は、石原都知事が尖閣諸島の国有化を認める条件としている、
漁船の避難港整備などに、応じない方針を固めました。

 政府内で検討した結果、避難を理由にした上陸を拒むのは難しく、
「港を使うのが中国など外国船ばかりとなりなねない」(政府筋)ことから、
避難港の整備は困難だと判断しました。
 さらには中国や台湾が、日本の実行支配を強める動きとして警戒して
いることも考慮しました。

 また同日。

 政府は、尖閣諸島を平穏かつ安定的に実行支配していく責任は、あく
まで国にあるとして、地権者側と交渉を進めてきた結果、
 国が島を20億5000万円で買い取ることで、大筋合意したことを明らか
にしました。

 購入対象は、魚釣島、北小島、南小島の3島となっています。

 政府は、今月中にも島の国有化を実現したいとしており、今後、契約書
作りなど詰めの調整を急ぐことにしています。

 東京都に対しては、国有化後の島の管理のあり方などを説明して、理解
を求めたい考えですが、石原都知事が今後、反発を強めることも予想され
ます。



 同日。

 自民党の石原伸晃幹事長は、鹿児島県の鹿野市で講演し、政府による
尖閣諸島の購入方針について、
 「何のために買うか言っていない。漁船の避難港や、山の上に無線の
灯台を建てるというのなら国が買う意味はある」と批判しました。

 また、実父の石原慎太郎東京都知事と、9月1日に電話した際、
 「野田首相に”待ってくれ”と言われて2週間待っているが、何の返事も
ない。見切った。尖閣諸島は都が買う。10月には尖閣諸島に行って上陸
する。逮捕してもらおう」と語ったことも明かしました。


              * * * * *


 以上、8月28日〜9月2日までの動きについて見てきました。


 まず、私がいちばん驚いたのは、

 尖閣諸島が日本の領土であるのに、島の地形や、周囲の水深、
動物や植物などの自然環境が、

 「これまで、ほとんど調べられていなかった」という事実です。



 今後おそらく、国は尖閣諸島を購入することになると思いますが、

 しかし尖閣諸島の国有化によって、中国での反日感情が高まる
のは必至でしょう。



 これから先・・・ 

 日中両国の政府が、この事態をどのように収拾させて行くのか、

 あるいは日中関係の悪化を、さらにエスカレートさせてしまうのか、

 ここで対応を誤ると、ものすごく大変なことになってしまいます。



 現在まさに、日中関係は「歴史的な分岐点」にあり、

 今それを私たちは、目の前で目撃しているのではないでしょうか。

 私には、そんなふうに感じられてなりません。



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