福島県民の怒り
2012年8月19日 寺岡克哉
8月1日。
東京電力 福島第1原発の事故をうけた、今後のエネルギー・環境
政策について、
政府が直接国民から意見を聞く「意見聴取会」が、福島市で開かれ
ました。
政府は今後のエネルギー政策について、2030年の原発比率を
0%、15%、20〜25%とする、3つの選択肢を策定していますが、
福島市の意見聴取会では、発言をした30人のうち、28人もの人
が「原発ゼロ」を訴えました。
ところで、
この政府による「意見聴取会」は、7月14日〜8月4日にかけて、
さいたま、仙台、名古屋、札幌、大阪、富山、広島、那覇、福島、高松、
福岡の、全国11ヶ所で行われました。
しかし、この意見聴取会は当初から、いかにも「いわくありげ」で
した。
序盤の仙台、名古屋会場では、電力会社の幹部が出席して「原発
の維持」を訴えたのです。
このことに批判が高まり、政府が慌てて、発言者から電力関係者を
除外しました。
しかし、「いわくありげ」なのは、それだけではありませんでした。
会場での発言者は、福島会場を除いて、
0%、15%、20〜25%の各選択肢ごとに、「発言者を同じ人数」
とするように、あらかじめ決められていたのです。
これも批判を受けて、4回目の札幌会場より以降は、「0%」の割合を
増やしています。
このように、ものすごく「いわくありげ」な意見聴取会ですが、
原発事故で大きな被害をうけた福島では、少しはまともに行われた
みたいです。
まず第1に参加者を、福島県民と、県外に避難した人に限定しました。
意見聴取会には、福島県民216人(※注1)から応募がありましたが、
このうち発言を希望した95人から、無作為抽出で30人の発言者を
選んでいます。
その30人の男女別の内訳は、男性が21人で、女性は9人です。
自己紹介に基づく居住地(避難者は出身地)の内訳は、福島市13人、
郡山市3人、田村市3人、須賀川市2人、伊達市2人、富岡町2人、
浪江町2人、会津若松市1人、相馬市1人、矢吹町1人でした。
発言者の居住地や氏名、年齢を明らかにするかどうかは、本人の
意思に委ねられています。
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※注1
狭い会場のうえに、告知もインターネットのみとあって、発言者を含めた
参加者はおよそ160人であり、「これで国民の声を聞いたといえるのか」
という声も出ています。
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* * * * *
さて、
上記のように選ばれた発言者の方々の、おもな意見としては、
およそ以下のようなものがありました。
福島市の会社員、穴沢明子さん(54)。
(野田首相が「国民の生活を守るために再稼動すべきだというのが
私の判断」と述べたことを指摘したうえで)
「事故から1年半たつのに除染も進まない。福島県民は”国民”では
ないのか。これでは棄民だ。」
「原発反対と言うと経済を知らないとか感情論だとか言われるが、私は
放射能が本当に恐い。国民を守る原発再稼動という政府の論理は福島
県民の犠牲の上に成り立っている。」
福島市の小学校の女性教諭。
(名古屋で7月16日に開かれた聴取会での「放射能の影響で直接
亡くなった人はいない」という中部電力の社員の発言にたいし)、
「原発事故で避難した人たちの気持ちを全く考えていない。原発事故
のため津波避難者を助けることが出来なかった。病院からの搬送途中
で亡くなった入院患者や避難生活を苦に自殺した人。避難者が体調を
崩して亡くなった例も数多く報告されている。この方たちは原発事故で
亡くなったことになるのではないか。」
福島市の女性。
「野田首相は、大飯原発の再稼動にあたって国民の生活のためにと
いったが、私たちは国民ではないのか。」
「私は娘が2人いて、ここで生活させて、子どもを産ませて、ずうっと
ここに置いていいものかどうか、親として切実に考えています。」
福島市の男性会社員。
「意見を聞いてもらえるのは感謝するが、本当に国民の声は届くのか。
次の事故まで侮辱され続けるのか。」
福島市の男性会社員。
「原発は事故がなくても、作業員は被ばくして命を削って仕事している。
被ばくが前提のエネルギーとは何だ。」
福島市の男子大学生。
「原発はできる限り早期になくした方がいい。会場に空席があり、世間
の関心が予想外に低いのか。残念だ。」
福島市の女性。
「0%を望む。この意見聴取会で広く県民の声を聞いたとアリバイ工作
にしてほしくない。」
福島市の男性。
「最終処分場を日本で引き受ける所があるとは思わない。」
田村市の女性。
「原発ゼロは福島の声、再稼動は福島にとって失礼なことだ。事故が
起きたのだから、逆に世界をリードしてまっ先に原発をやめるべきだ。」
田村市の男性。
「事故原因はまだ解明されていないことが多く、データがそろって初め
て(原発の将来について)討論できるはずだ。」
田村市の男性(50)。
「核廃棄物をどこでどう処分するか国民的議論がないまま、なし崩し的
な再稼動があってはならない。」
須賀川市の飲食店経営、有馬克子さん(53)。
「(再稼動で)野田首相は”私が責任をとる”と豪語したが、福島の事故
で誰が責任をとったのか。原発を廃止することが事故の本当の責任の
取り方だ。」
須賀川市の男性。
「悲しくて悔しい思いで生活している。事故の責任者は厳罰に処せられ
るべきだ。現実を直視すれば、原発0%以外の選択肢はあるのか。」
「核廃棄物をどこにも持って行きようのない状態は歴史的な過ちだ。」
富岡町から避難し転々としたという男性(38)。
「がれきの処理も決まっていないし、燃料棒処理の仕方も決まっていな
い。そして原子炉建屋の中さえいまだ正確に分からない状況なのに、
なぜか結論ありきで原発再稼動され、(福島原発の)避難区域再編など
も進められている。」
「明らかに負担が多いのは原発推進。原発ゼロから議論を始め、そこ
に向かって何ができるかを話し合うべきだ。」
富岡町から避難している男性。
「ここで意見を述べるきっかけは”事故の直接的な影響で亡くなった
人はいない”という(名古屋市の聴取会での電力会社社員の)発言を
聞いたから。避難中、避難後にたくさんの人が亡くなって悲しい思いを
している。いつ帰れるか分からない避難生活の中、人生を否定された
気持ちになった。」
浪江町から桑折町の仮設住宅に避難する農業松田孝司さん(60)。
「あの海・・・ あの山・・・ あの人・・・ できることなら元に戻して
ほしい。古里を失った悔しさが分かるか。」
「意見聴取会を11ヶ所でやってもアリバエ作りだ。再稼動の問題は、
国民投票で問うべきだ。」
浪江町から福島市に避難した会社員男性。
「国民に原発比率を選択させる前に、政治の責任で最終処分問題を
解決すべきだ。」
会津若松市の男性。
「福島の声を聞いたというアリバイに利用されるのではないか。(2030
年の原発比率として示された3つの選択肢について)並列に置き、あた
かも”脱原発は難しいですよ”というやり方ではなく、知恵を絞るのが政府
の責任だ。」
「グリーンエネルギーを柱にすることが原発事故で世界を震え上がら
せた日本の責務だ。原発ゼロが県民の99.9パーセントの心底からの
願いだ。」
相馬市の団体職員杉岡信也さん(36)。
「おいしい相馬の魚も食べられなくなった。原発はいらない。先の世代
にごみを残していいのか。」
「原発事故で福島県は数え切れない被害を受けた。除染して住めるなら、
政府、東京電力の人は住んでほしい。」
「安全対策が不十分なまま再稼動を認めた人は脳がメルトダウンして
いる。」
発言をした30人中ただ1人、15%案を支持した福島市の男性。
「福島県の再稼動は100パーセント反対だが、すべての原発を動かす
のではなく、安全性を保障した上で何基か動かしていいのではないか。
原発0%だと代替エネルギーを確保できない。」
原発を完全には否定しなかった男性2人のうちの1人。
「原発依存度は消費者が決めるべきだ。」
* * * * *
ところで、
細野豪志原発事故担当相は、この福島で行われた聴取会の冒頭で、
「これまでで最も重要な意見聴取会だ」と強調し、
「県民1人1人の声に耳を傾けたい」と、あいさつをしました。
ところが・・・
意見聴取会の終了後には、傍聴者およそ20人が、細野原発事故
担当相に詰め寄って、
「この悲しみ、怒りを思ったら再稼動なんてあり得ない。」
「事故も収束できないで何が再稼動だ。」
などと、怒号をぶつける一幕もあったほどでした。
細野原発事故担当相は意見聴取会の後、記者団にたいし、
「事故被害の大変さをあらためて実感した。福島の方の思いを、しっ
かりと受け止める責任がある。」
「”政府がアリバイ作りのためにやった”と思われないように、政府と
して取り組んでいく。」
などと述べましたが、3つの選択肢のどれが望ましいかなど、具体的
な政策への言及は避けています。
* * * * *
以上、
ここまで見てきて、私の思ったことですが・・・
(当然といえば当然ですが)やはり福島県の人々は、
原発事故に対して、「ものすごく大きな怒り」を持っていることが、
たいへん良く分かりました。
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「事故から1年半たつのに除染も進まない。福島県民は”国民”
ではないのか。これでは棄民だ。」
「原発事故で福島県は数え切れない被害を受けた。除染して
住めるなら、政府、東京電力の人は住んでほしい。」
「あの海・・・ あの山・・・ あの人・・・ できることなら元に
戻してほしい。古里を失った悔しさが分かるか。」
「悲しくて悔しい思いで生活している。事故の責任者は厳罰に
処せられるべきだ。現実を直視すれば、原発0%以外の選択肢は
あるのか。」
「この悲しみ、怒りを思ったら再稼動なんてあり得ない!」
「事故も収束できないで何が再稼動だ!」
「原発ゼロが(福島)県民の99.9パーセントの心底からの願い
だ!」
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これらの意見は、
まったくその通りだと思いますし、心の底から支持したいと思います。
そして前回のレポートで触れましたが、
原発の維持派や、推進派の人々が好んで使う、
「福島第1原発の事故が、直接の原因で死んだ人は、1人もいない」
という言論にも、福島の人々は大きな憤りを感じていることが分かり
ます。
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「ここで意見を述べるきっかけは”事故の直接的な影響で亡くなっ
た人はいない”という(名古屋市の聴取会での電力会社社員の)発言
を聞いたから。」
「避難中、避難後にたくさんの人が亡くなって悲しい思いをしている。
いつ帰れるか分からない避難生活の中、人生を否定された気持ちに
なった。」
「原発事故で避難した人たちの気持ちを全く考えていない。」
「原発事故のため津波避難者を助けることが出来なかった。」
「病院からの搬送途中で亡くなった入院患者や避難生活を苦に
自殺した人。避難者が体調を崩して亡くなった例も数多く報告され
ている。」
「この方たちは原発事故で亡くなったことになるのではないか。」
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このような、福島の人々の切実な意見を聞くと、
「福島の原発事故が、直接の原因で死んだ人は、1人もいない」
などという言葉を、平然と言ってのける者の神経が、
ほんとうに信じられなくなるのです。
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