原発事故による死者
2012年8月12日 寺岡克哉
原発の維持派や推進派の人々から、
「福島第1原発の事故が、直接の原因で死んだ人は、まだ一人も
いない」 とか、
「福島第1原発の放射能が、直接の原因で死んだ人は、まだ一人
もいない」
というような言論が、よく聞かれます。
おそらく、彼ら(原発の維持派や推進派)は、
「原発事故によって死んだ人は、まだ一人もいない」と、広くたくさん
の人々が「勘違い」をするように、
わざと仕向けている(つまり印象操作をしている)のではないかと
思われます。
たしかに、
福島第1原発の事故が「直接の原因」で死んだ人は、
おそらく現在のところ、まだ居ないのでしょう。
しかしながら・・・
原発事故による避難のために、疲労やストレスが溜まり、体調が
悪化して死亡したり、
事故前から病気などで入院していた患者が、避難先で十分な医療
を受けられずに死亡したり、
不自由な避難生活によるストレスや、悲惨な現状、将来への不安
などから、精神的に追い詰められて「自殺」をしたり・・・
これらの人々は、
原発事故が、直接的な死因ではなくても、
原発事故さえ起こらなければ、死ななくても済んだわけで、
その意味では、「原発事故による死」と言えるのです!
そして、このような、
「原発事故による死者」は、けっして少ない数ではありません!
今回は、そのことについて、あらためて確認しておきたいと思い
ました。
* * * * *
まず、
2012年7月23日付けの毎日新聞に、以下のような記事があり
ます。
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(政府事故調の)報告書によると、福島第1原発から南西4キロに
ある双葉病院には約340人の患者が入院していた。
昨年3月12日に大熊町が用意したバスで患者209人と鈴木市郎
院長を除く職員が先に避難。
鈴木院長は残された患者約130人の救助を自衛隊や警察に求め
たが、避難を待たずに患者4人が死亡、1人が行方不明になった。
14日午前、自衛隊が患者34人と隣接する老人保健施設の利用者
98人を避難させ、残る患者全員も15日午前9時から16日午前0時
半に救出した。
避難先の県立いわき光洋高(いわき市)に運ばれた患者も十分な
医療を受けられなかった。
双葉病院によると、昨年3月末までに患者40人、老健施設利用者
10人の計50人が死亡。
当時、治療していた双葉病院の男性医師は「避難してほっとしたの
に運ばれてきた患者が死んでいく。絶望的で、この世の終わりに思え
た」と話す。
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この記事を見れば明らかなように、
上のような理由で亡くなった方々は、原発事故さえ起こらなけれ
ば、まず間違いなく死ななくても済んだわけで、
やはり、「原発事故による死」だと言わざるを得ません!
* * * * *
そしてまた、
「原発事故による自殺」も、「原発事故による死」だと言うことが
できるでしょう。
たとえば、2012年5月10日付けの毎日新聞に、以下のような
記事があります。
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福島県双葉地方8町村(※注1)の町村会と、南相馬、いわき両市
が、東京電力福島第1原発事故による避難などを原因にして自殺し
た人を、災害弔慰金の支給対象になる「震災関連死」と認定していた
ことが10日、分かった。
復興庁によると、東日本大震災の影響で体調を崩すなどして死亡
した震災関連死者数は福島県内で764人(3月末現在)に上る。
今月9日までに双葉地方町村会は381人、南相馬市は295人、
いわき市は83人を関連死と認定。
取材に対し、いわき市は認定した中に自殺者が1人含まれること
を明らかにした。南相馬市と町村会は、該当者が含まれることを
認めたが、人数は明らかにしなかった。
同県内ではこのほか相馬市、鏡石町、飯館村が、震災関連死に
当たるかどうかを判断する審査機関を設置している。
自殺者を認定したケースがあるかどうかについて、相馬市と鏡石町
は「申請そのものがない」としている。飯館村は「あった場合に個人
の特定につながる可能性がある」として回答しなかった。
災害弔慰金は異常な自然現象による死亡に対し、500万〜250
万円が支給される。
国は昨年5月、福島第1原発の避難に伴う死亡も対象に含められ
ると同県に通知した。
だが詳細な基準はなく、自殺を認定するかどうかは各自治体の判断
に委ねている。
※注1 浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、葛尾村、
川内村の8町村。
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上の記事から、
福島県の、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、
葛尾村、川内村、南相馬市、いわき市が、
東京電力福島第1原発事故による避難などを原因にして「自殺」
した人を、
災害弔慰金の支給対象になる「震災関連死」と認定していたこと
が分かります。
災害弔慰金とは、
異常な自然現象による死亡に対して至急されるものですが、
国は昨年5月に、「原発事故の避難に伴う死亡」も、対象に含め
られると福島県に通知していました。
つまり、
原発事故による避難などを原因にした「自殺」は、
明らかに、原発事故が原因となった死亡(つまり原発事故による
死)であると、
複数の公の機関(自治体)が認めたことになります。
* * * * *
ところで、ここまで話してきましたような、
「原発事故による死者」は、いったい何人ぐらい居るのでしょう?
じつは、これらの人々は、「震災関連死」というカテゴリーに入れら
れてしまい、
原発事故とは関係のない、東日本大震災のみによる関連死と
混ざっており、
その内の何人が「原発事故による死者」なのか、直接には分から
ないようになっています。
しかしながら、たとえば7月12日に、
復興庁の「第2回震災関連死に関する検討会」が、東京都の同庁
で開かれましたが、
その検討会に、震災関連死の死者数が282人で全国最多だっ
た、南相馬市の村田副市長が出席し、
東京電力福島第1原発による住民避難が、南相馬市の震災関連
死の主要因だと主張しました。
村田副市長は、南相馬市の震災関連死282人のうち、その96
パーセントにもあたる272人が、原発事故で避難していた実情を
指摘しています。
とくに市内の病院や介護施設に、入院や入所していた寝たきりや
要介護度の高い高齢者が、
長時間かつ長距離の移動を余儀なくされ、死期を早める原因と
なったケースが多いとしています。
さて、ここから私の推論ですが、
上に挙げた、2012年5月10日付の毎日新聞の記事によると、
浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、葛尾村、川内
村の、双葉地方の8町村は、
5月9日までに、381人を「震災関連死」に認定したとなっています。
ところで、双葉地方の8町村地域の大部分は、
福島第1原発から20キロ圏内の「警戒区域」や、あるいは「計画
的避難区域」に入っています。
だから南相馬市と同じように、
震災関連死のうちの、およそ96パーセントていどが、原発事故で
避難していたと考えても、そんなに不自然ではないでしょう。
つまり、381×0.96≒366人の震災関連死者が、原発事故の
ために避難していた可能性が考えられるのです。
この366人と、原発事故で避難していた南相馬市の震災関連死者
の272人を合わせると、
およそ638人ていどが、原発事故のために死亡したのでは
ないかと考えられます。
しかしながら、この638人というのは、
南相馬市と、双葉地方の8町村のみについての見積もりなので、
福島県全体では、原発事故による死者数が、さらに増えるかも
知れません。
* * * * *
以上、ここまで見てきましたように、
「原発事故による死者」は、かなりの数に上っている可能性が
あり、けっして少ない数ではありません!
たしかに、原発の維持派や推進派が言うように、
「福島第1原発の事故が、直接の原因で死んだ人は、まだ一人も
いない」のかも知れません。
しかしながら、それは、
多くの人々に、誤解や、間違った印象を与えかねない、とんでもない
言いぐさなのです
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