再稼動は人災の再開始
                             2012年7月22日 寺岡克哉


 前回のレポートで紹介しましたように、

 国会事故調による報告書(ダイジェスト版)では、以下のように明言
しています。


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 今回の事故(福島第1原発事故)は、これまで何回も対策を打つ機会が
あったにもかかわらず、歴代の規制当局及び東電経営陣が、それぞれ
意図的な先送り、不作為、あるいは自己の組織に都合の良い判断
行うことによって、安全対策が取られないまま 3.11 を迎えたことで発生
したものであった。

 何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、今回の
事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である。

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 ところが・・・ 

 ここで今いちど、大飯原発の再稼動における経緯を思い出してみると、

 上の太字で示した「意図的な先送り」や、「自己の組織に都合の良い
判断」
が相変わらず行われており、

 いま現在まさに、「ふたたび人災が始まっている」ように思えてなりま
せん。

 今回は、そのことについて見ていきましょう。


              * * * * *


 まず以下は、私が以前にレポートした記事からの抜粋です。


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        6月17日付け「エッセイ539」からの抜粋


 6月10日。

 福井県の原子力安全専門委員会は、福井市の県庁で会合を開き、
政府の暫定的な安全基準を妥当と認めたうえで、大飯原発3・4号機
の安全性を確認できたとする「報告書案」をまとめました。

 出席した関西電力の担当者は、大飯原発付近の斜面崩落の危険性
や、制御棒の挿入時間などについて、安全上の問題はないと改めて
説明しました。

 経済産業省原子力安全・保安院の担当者も、原発付近の「破砕帯」
は活断層と連動しない
と報告しました。

 県の専門委は、いずれも妥当と判断し、議論を打ち切りました。


 事故時の災害拠点となる免震重要棟の建設や、フィルター付き
ベント(排気)の設置、津波を防ぐ防潮堤の整備など、2015年度
に先送りした抜本策
は、「計画の進み方を確認する」と触れたのみで、
問題視しませんでした。
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 上の抜粋をみると・・・ 


 関西電力の担当者が、「大飯原発付近の斜面崩落の危険性に
ついて、安全上の問題はない」
と改めて説明していますが、

 これは、「自己の組織に都合の良い判断ではない」ということが、第三
者などによって、しっかりとチェックされたのでしょうか?



 また、

 経済産業省原子力安全・保安院の担当者が、「原発付近の”破砕帯”
は活断層と連動しない」
と報告していますが、

 これは、(後述しますが)「自己の組織に都合の良い判断」である
疑いが濃厚です。




 さらには、

 「免震重要棟の建設や、フィルター付きベント(排気)の設置、津波
を防ぐ防潮堤の整備など、2015年度に先送りした抜本策を問題視
しない」


 というのは、明らかに「意図的な先送り」です。



 このように、大飯原発の再稼動にあたっては、

 「意図的な先送り」が公然と行われており、

 「自己の組織に都合の良い判断」が行われている疑いも濃厚です。



 つまり、

 原発事故への反省が見えず、それが「人災」であったとの教訓が、

 ぜんぜん生かされていないどころか、まったく無視されているの
です!



              * * * * *


 7月17日。

 経済産業省原子力安全・保安院の専門家会議が開かれて、

 福井県の大飯原発と、石川県の志賀原発の、敷地内を走る「断層」
について検討されました。



 その結果・・・ 

 委員から、現地での再調査を求める意見が続出して、

 「再調査が避けられない状況」となったのです。



 このうち大飯原発に関して、上で話した原発付近の「破砕帯」に
ついては、

 「活断層の可能性を否定できる情報が出されていない」として、

 活断層かどうか判断するための、再調査を求める意見が、相つぎ
ました。



 大飯原発で問題になっているのは、「F−6破砕帯」と呼ばれるもの
で、1・2号機と、3・4号機の間を、ほぼ南北に走っています。

 この破砕帯について、6月に東洋大学の渡辺教授(変動地形学が
専門)は、

 「近くの活断層と連動して地表がずれる恐れが否定できない」
と指摘していました。

 地盤がずれると、原発施設そのものを変形させたり、破断させる
ため、原発をどんなに丈夫に作っても壊れてしまうのです。



 そんな経緯があるなか、原子力安全・保安院は7月17日の
専門家会議で、

 大飯原発3・4号機を増設した時の、安全審査に使った資料や、

 最近になって関西電力が新たに提出した「破砕帯の写真」を

 提示しました。



 しかし、その写真とは・・・ 

 破砕帯を確認するために掘られた試掘溝の中で作業している場面
などで、破砕帯の状態が分かりづらいものだったのです。

 専門家からは、

 「全体像が分からない!」

 「資料の提出に、かなり問題がある!」

 「なぜ(分かる)写真を保存していないのか」

 「これ以上の説得力のある資料は期待できない!」

 「(活断層かどうか)判断できる調査が必要だ!」

 などなどの批判や意見が、相次いだといいます。


              * * * * *


 翌日の7月18日。

 原子力安全・保安院は、大飯原発と志賀原発の敷地内にある断層
が、活断層であるかどうかを現地で再調査するように、

 関西電力と北陸電力に指示しました。



 6月10日の時点で、原子力安全・保安院は、

 「(大飯)原発付近の”破砕帯”は活断層と連動しない」と、断定する
ような報告をしていたのに、

 専門家による批判が噴出して、それが覆(くつがえ)された格好
です。



 このことから、

 原子力安全・保安院による6月10日の報告は、

 「自己の組織に都合の良い判断」であった疑いが濃厚であると、

 私は思うわけです。



 経済産業省の牧野副大臣は、7月18日の記者会見で、

 「少しでも活断層の疑いがある以上、速やかに再調査したい」と述べ
ましたが、

 しかし、その一方で、「再稼動を中止するほどの危険性があるとは認識
していない」としており、

 大飯原発の運転停止を求めませんでした。



 また同日の記者会見で、原子力安全・保安院の、森山原子力災害対策
監は、

 「明確に活断層であるとの指摘はない」と話し、念のための調査である
ことを強調しました。



 さらにまた、原子力安全・保安院の黒木審議官は、

 「私どもの基本的ポジションは変わっていない」として、原発の運転停止
などは求めない考えを示しており、

 なおも、活断層の存在に否定的な立場をにじませているのです。


              * * * * *


 このようにして、

 7月9日にフル稼働に達した、大飯原発3号機につづき、

 7月18日の夜には、4号機が起動されたのです。



 私は思うのですが・・・ 

 本来ならば、破砕帯の調査が済むまで、原発を停止させるべきでは
ないでしょうか?

 少なくても4号機の起動には、「まった!」をかけるべきです。



 また、さらに大きな問題なのは、

 免震重要棟の建設や、フィルター付きベント(排気)の設置、津波を
防ぐ防潮堤の整備などの、

 「抜本的な安全対策」については、明らかに「意図的な先送り」を
しているのです。


 こんなことでは、国民の安全が守られるわけがありません!



 たとえば以下は、

 国会事故調による報告書(ダイジェスト版)の、「結論の要旨」という章
にある、「規制当局」という項目の全文です。


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                  【規制当局】

 規制当局は原子力の安全に対する監視・監督機能を果たせなかった。
専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり、規制
の先送りや事業者の自主対応を許すことで、事業者の利益を図り、同時に
自らは直接的責任を回避してきた。規制当局の、推進官庁、事業者からの
独立性は形骸化しており、その能力においても専門性においても、また
安全への徹底的なこだわりという点においても、国民の安全を守るには
程遠いレベルだった。


 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけ
ではなく、その実態の抜本的な転換を行わない限り、国民の安全は守ら
れない。
国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め、国際社会
から信頼される規制機関への脱皮が必要である。また今回の事故を契機に、
変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付け
た。
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 上の太字で示した部分は、まさにその通りだと思います。

 原発再稼動の経緯をみるかぎり、原子力安全・保安院(つまり規制当局)
の実態は、いま現在においても、ぜんぜん変わっていません。

 つまり、国民の安全を守るには程遠いレベルであり、依然として国民の
安全が守られていません。



 これこそが「人災」です!

 原発の再稼動によって、今まさに、人災が再開始されているのです。



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