毎時10300ミリシーベルト!
                            2012年7月8日 寺岡克哉


 7月1日の午後9時・・・ 

 国民による「再稼動反対」の大きな声が渦巻くなか、大飯原発3号機
が起動しました。

 翌7月2日の午前6時には、核分裂反応が連続して起こる「臨界」に
達し、

 予定より1日遅れたものの、7月5日の午前7時に、発電と送電を開始
しました。

 このまま順調に行けば、7月9日にもフル稼働する予定です。



 ところで、原発の再稼動に、こうまで国民の批判が大きいのは、

 東京電力・福島第一原発の事故が、現在においてもまだ、

 ぜんぜん収束していないことが、いちばん大きな原因だと思います。



 政府は、原発再稼動への国民の抵抗感を減らすために、事故の
「収束宣言」などという誤魔化しをやり、

 原発事故を過去のものにしてしまおうとする「印象操作」を、露骨に
やっています。



 しかしながら・・・ 

 今なお、原発事故のために非難生活を強いられる人々が、およそ
16万人も存在し、

 除染しなければならない土地が広大にあるのに、除染作業は遅々と
して進まず、

 ガレキの広域処理によって、こんどは「人為的」に放射性物質が
拡散され、

 基準値以下とはいえ、放射能に汚染された食品を食べ続けなけれ
ばならず、毎日毎日、私たちの内部被曝量が増加しつづけています。

 このように原発事故は、決して収束などしていないのです。



 そしてさらには、いま現在でもなお、

 福島第一原発の事故現場では、新たな問題が見つかったり、新たな
トラブルが発生したりしています。

 その内の一つとして、最近、

 1号機の原子炉建屋地下が、毎時10300ミリシーベルト(10300
ミリシーベルト/時)
という、

 ものすごく高い放射線量に、なっていることが判明しました。


 今回は、そのことについてレポートしたいと思います。


               * * * * *


 6月27日に東京電力は、

 福島第一原発1号機の、原子炉建屋地下にある「トーラス室」において、

 最大10300ミリシーベルト/時 の放射線量を、観測したと発表
しました。

 「トーラス室」というのは、原子炉の格納容器の下にある圧力抑制室が
収められている部屋
です。



 ところで、

 メルトダウンした核燃料を冷やすために、原子炉の中に水を注入しつづ
けていますが、

 その水が、圧力抑制室の破損した部分から漏れ出しており、

 トーラス室には、およそ5.2メートルの深さの「高レベル汚染水」が溜まっ
ています。

 その高レベル汚染水の、水面から20センチ上の場所で、最高値である
10300ミリシーベルト/時 が観測されました。



 ちなみに、10300ミリシーベルト/時 という放射線量は、

 70秒間被曝すると、人体への影響が出はじめると言われる、200ミリ
シーベルトの被曝量に達し、

 35分間被曝すると、90%の人が死亡すると言われる、6000ミリシー
ベルトの被曝量に達します。



 このため、

 圧力抑制室の破損した部分を修理して、ジャジャ漏れになっている
「高レベル汚染水」を止めなければならないのですが、

 人間が入って作業するわけには行かず、破損部分の修理は、困難を
きわめることになります。


              * * * * *


 ところで、東京電力が6月27日に発表した、

 「福島第一原子力発電所1号機原子炉建屋 トーラス室内調査結果
について (R/B1階床配管開通部からの調査:平成24年6月26日
実施)」

 という資料に、もうすこし詳しいデータが載っていました。

 それを見ると、1号機のトーラス室における、放射線量の測定結果は、
以下のようになっています。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    水面からの距離   放射線量(ミリシーベルト/時)

      5.2m上            625
      4.2m上           1290
      3.7m上           1440
      4.2m上           1410
      3.2m上           2030
      1.2m上           4520
      0.2m上          10300

      0m(水面)          8190

      0.8m下           3550
      1.8m下           2770
      2.8m下    100000000〜1000000000
      3.8m下    100000000〜1000000000
      4.8m下    100000000〜1000000000
     5.23m下    100000000〜1000000000


※1 水面下5.23mの場所は、トーラス室の床面(つまり水底)。

※2 100000000〜1000000000ミリシーベルト/時 という
   異常に高い値は、線量計が故障したためと見られる。

※3 水面からの距離(つまり測定位置)は、検査装置の(おそらく
   ケーブルの)送り量から求めているため、誤差を含んでいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 上のデータを見ると、

 まず第1に、水面から20センチ上の場所で、最高値の10300ミリ
シーベルト/時 が、観測されたことが分かります。


 そして第2に、測定は、水面下5メートル23センチの場所まで行われ
ていますが、
 同資料に載っていた図を見ると、この場所は、トーラス室の床(水底)
であることが分かります。
 つまり、原子炉から漏れ出た「高レベル汚染水」は、5メートル23セン
チの深さに溜まっているのです。


 第3に、水面下2メートル80センチよりも深い場所で、100000000
〜1000000000ミリシーベルト/時 という、異常に高い値になって
いますが、
 しかしこれは、その後、線量計を引き上げるまで、このレベルの異常
に高い値を示していたため、「線量計が故障した」と考えられます。


               * * * * *


 ところで、

 トーラス室の放射線量を測定するのに、一体どのような測定器(線量
計)を使ったのでしょう?

 10000ミリシーベルト/時 以上という、ものすごく高い線量の中でも、
壊れないような線量計だったのでしょうか?

 以前に、実験物理の研究をやっていた私には、とても気になるところ
です。



 じつを言うと、このとき使った線量計については、分からなかったの
ですが、

 東京電力が3月27に、2号機の原子炉格納容器の内部を線量測定
したときに使ったものと、

 おそらく同じタイプの線量計ではないかと思います。



 東京電力から出されている、

 「福島第一原子力発電所2号機 原子炉格納容器内部調査(2回目)
 の実績(線量測定)について  平成24年3月27日」

 という資料によると、2号機格納容器の内部で、最大72.9シーベルト
/時(72900ミリシーベルト/時)という、ものすごく高い線量が観測され
ていますが、

 このときに使った線量計は、「電離箱」と呼ばれる型式のもので、測定
範囲は0〜1000シーベルト/時 (0〜1000000ミリシーベルト/時)
となっています。



 だからもしも、これと同じタイプの線量計が使われたなら、

 1号機トーラス室を測定したときの最大値である、10.3シーベルト/時
(10300ミリシーベルト/時)ていどの放射線量では、まず故障しないはず
です。

 なので、おそらく故障した原因は、

 線量計の本体や、ケーブルとのつなぎ目などに水が滲(し)みこんで、
電極がショートしたためではないかと、私は推測しています。



 ちなみに、線量計は「電離箱」と呼ばれる型式のものですが、

 その形は「箱」ではなく、直径が7ミリ、長さが14センチていどの円筒形
をしており、ちょうど「ペンシル」みたいな感じです。

 この「ペンシル」の根本に、太さ10ミリていどのケーブルが接続されて
おり、それが何メートルも延びています。

 そのような線量計を、配管や隙間などから挿入し、ケーブルを送り込む
ことによって、格納容器の内部や、トーラス室内部の放射線量を測定して
いるのです。


              * * * * *


 とにかく、上で見てきましたように、

 福島第一原発1号機の、原子炉建屋地下にあるトーラス室では、

 5.2メートルもの深さに「高レベル汚染水」が溜まり、

 10300ミリシーベルト/時 もの高い放射線量という、

 ものすごく酷(ひど)い状況になっています。



 このため、事故発生から1年以上経った現在でも、

 原子炉からジャジャ漏れになっている「高レベル汚染水」を、ぜんぜん
止めることが出来ないでいます。

 そもそも事故現場自体が、こんな悲惨な状況なのに、「収束宣言」など
を行うのは、

 ほんとうに、原発再稼動を進めるための「まやかし」にすぎないと、言わ
ざるをえません。



 7月6日。

 この日も首相官邸前で、毎週金曜の夜に行われているデモがありま
した。

 参加人数は、主催者側の発表でおよそ15万人、警視庁によると約2万
1000人となっています。

 依然として「大規模なデモ」であり、原発再稼動に対する国民の怒りは、
まったく収束していません。



 このように、国民の怒りが収まらないのは、

 いま現在まさに、福島第一原発がものすごく深刻な状態である
のに、(つまり原発事故が今なお継続中であるのに)、

 「収束宣言」などという誤魔化しをやり、原発事故を過去のものとして、
国民から忘れ去らせようと政府が画策していることが、

 1つの大きな原因であるように思えてなりません。



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