ホルムズ海峡が封鎖? その12
                          2012年4月15日 寺岡克哉


 前々回に引きつづき、イラン情勢をめぐる世界の動きについて、
見ていきたいと思います。

 最近の状況は、今すぐに軍事衝突が起こるような、一触即発の
緊張状態からは、いちおう脱却しているように感じます。

 しかしながら目立たないところで、世界各国のさまざまな思惑が
交錯しており、いつ状況が急展開するのか、分からない状況の
ようにも思えます。

 なのでイラン情勢について、これからしばらくの間は、注視して
行かなければならないと考えています。


             * * * * *


 3月29日。

 ブラジル、ロシア、中国などの新興5ヶ国でつくるBRICSが、インド
の首都ニューデリーで首脳会期をひらき、
 イランの核開発について、「国際的義務を順守した形での、核エネ
ルギーの平和利用の権利を認める」という考えで一致しました。

 BRICSの首脳たちが発表した「デリー宣言」では、

 「イラン情勢が悪化して紛争になれば、壊滅的な結果をまねく」と
警告した上で、
 「政治、外交的手段のほか、IAEA(国際原子力機関)とイランとの
間など、関係者どうしの対話による解決を支持する」としています。



 同日。

 トルコのエルドアン首相は、イランの首都テヘランで、アフマディ
ネジャド大統領や、ラリジャニ国会議長、最高指導者ハメネイ師と
会談をしました。


 イラン国営通信によると、アフマディネジャド大統領は、エルドアン
首相にたいして、
 「政治、経済、文化などで協力関係を拡大したい」と述べ、欧米と
の対立緩和に向けて、トルコとの関係強化を求めました。

 また、安保理常任理事国にドイツを加えた、6ヶ国との核協議に
ついても、話し合ったと見られます。


 ラリジャニ国会議長との会談では、シリア情勢のほか、NATO(北
大西洋条約機構)のミサイル防衛システムが、トルコに配備された
ことについても協議しました。

 トルコ側は、「ミサイル防衛システムが、イランに対して配備され
たものだ」という観測を否定しました。

 イラン側は、「この問題については、トルコとの話し合いで解決で
きる」と理解を示しています。


 最高指導者ハメネイ師は、エルドアン首相との会談で、「(シリア
の)アサド政権の、反イスラエル的な立場」を理由に、アサド政権を
指示し続ける考えを強調しました。

 ハメネイ師はまた、「シリア内政に対する外国軍の介入に強く反対
し、(アサド政権が始めた)改革を継続すべきだ」と述べました。



 同日。

 パキスタン政府は、隣国イランから天然ガスを運ぶパイプラインを
建設するための、資金の調達について、ロシアとの協議を始めると
発表しました。

 イランと対立している、アメリカの反対を押し切って、パイプライン
建設計画の実現をめざす考えです。

 パキスタン外務省の報道官によると、「パキスタン政府の代表団が
経済的な支援を求めて来月初めにモスクワを訪問し、ロシア政府や
政府系のガス会社、ガスプロムの担当者と協議を始める」としてい
ます。

 パキスタンは、アメリカの圧力を受けて融資を断念したとみられる
中国の代わりに、ロシアからの協力を引き出したい考えです。


            * * * * *


 3月30日。

 アメリカのオバマ大統領は、「今年の6月28日に、国防権限法に
よる制裁を発動する」と発表しました。

 制裁が発動されると、イラン産原油の輸入などで、イラン中央銀行
と取引をした外国の金融機関は、アメリカの金融機関と取引ができ
なくなります。

 日本やEU諸国など計11ヶ国は、イラン産原油の大幅な輸入削減
に努めたとして、制裁の対象から除外されていますが、

 中国やインド、韓国などの12ヶ国は、今後、イラン産原油の輸入
削減で成果を示さなければ、制裁の適用を受けてしまいます。

 これに対して中国やインドは、「アメリカの行動は一方的だ」として
反発しています。


 ちなみに、

 国防権限法による制裁発動の条件として、石油や石油製品の価格
や供給量に影響を与えないかどうか、3月末までに判断を示すように、
オバマ大統領は求められていました。

 それに対してオバマ大統領は、この日に発表した声明で、「イランが
輸出する日量220万バレルが市場から消えたとしても、国際市場へ
の供給量は、(サウジアラビアなど)他国産の原油を充てることで十分
に確保できる」という考えを示しています。



 同日。

 ロイターの調査によると、OPEC(石油輸出国機構)による今年3月
の産油量は、日量3126万バレルで、2008年10月以来で最高の
水準になりました。

 リビアの一段の生産回復で、イランからの供給減が相殺(そうさい)
されたと言います。

 この調査は、石油会社やOPEC当局者、アナリストを対象に実施
されました。


             * * * * *


 3月31日。

 アメリカのクリントン国防長官は、訪問していたサウジアラビアの
リヤドで記者会見し、

 安保理常任理事国にドイツを加えた6ヶ国と、イランとの核協議が、
4月13日と14日に、トルコのイスタンブールで開催されると述べま
した。


 クリントン長官は、「この問題が平和的に解決できる時間は、いつ
までも残されていない。イランは、交渉を通じて具体的な成果を達成
する意思を、みずからの行動で示す必要がある」と語り、

 軍事衝突への懸念も高まる中で、交渉での解決をはかるように
イランを促しています。


             * * * * *


 4月3日。

 イラン革命防衛隊の幹部が、アメリカによる攻撃を受けた場合に
は報復をするとして、「アメリカは危険にさらされる」との見解を示し
ました。

 革命防衛隊幹部のMassoud Jazayeri氏は、「いかなる攻撃に対し
ても激しい報復で応じる。その場合、われわれの攻撃は中東やペル
シャ湾岸域内にとどまらない。われわれの攻撃により、アメリカに
安全な場所はなくなるだろう」と語りました。

 また同氏は、イランはどの国に対しても、最初に攻撃をしかける
ことはないと言明しています。



 同日。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの経済は国際的な制裁網
によって打撃を受けているが、核開発を続ける意図は、まったく後退
していないとの見方を示しました。

 ネタニヤフ首相は記者会見で、「イラン政府は経済的な問題を
抱えているが、核開発では1ミリも後退していない」と指摘しました。

 また、経済制裁が期待通りの効果をあげられるかどうかは、「時間
が経てば分かる」としながらも、「まだ変化は見られない」と述べてい
ます。


             * * * * *


 4月4日。

 イスラエルによる、イラン核施設への攻撃は、少なくても来年以降
に持ち越されるとの見方が、イスラエルのメディアで取りあげられて
います。

 この日付けの、エルサレム・ポスト紙では、「(米欧が主導する)
制裁や外交の影響を見極めることが必要だ」という、イスラエル
国防当局者の見方が伝えられています。



 同日。

 イラク外務省によると、イランは、核開発をめぐる6ヶ国との協議
を、トルコではなく、イラクで行うことを提案してきたと言います。

 イランの代表団が、4月3日にイラクの首都バクダットを訪れて、

 「イランの核開発に関する、安保理常任理事国にドイツを加えた
6ヶ国との協議を4月14日に開催するように要請する、イラン政府
の意向を伝えてきた」といいます。



 同4月4日。

 イランのサレヒ外相は、首都テヘランで記者団にたいし、6ヶ国と
の協議について日程は固まったものの、開催地については、トルコ
だけでなく、イラクや中国などでの開催も提案して、関係国と協議
していることを明らかにしました。

 トルコでの開催は、当初イラン側が希望していましたが、シリア情勢
をめぐってトルコが欧米と足並みをそろえ、アサド大統領の退陣を
求めていることから、アサド政権と同盟関係にあるイランとの対立が
鮮明になりました。

 このためイランとしては、イラクや中国など、イランと関係が深い国
で6ヶ国との協議を開催することによって、核開発をめぐる交渉を
有利に進めようとする狙いがあるみたいです。



 同日。

 イラクのジバリ外相は、イランからの要請に基づいて、核協議の
ホスト国になる用意があることを、6ヶ国側に伝えたと明らかにしま
した。



 同4月4日。

 民主党の鳩山元首相は、4月6日〜9日の日程でイランを訪問し、
アフマディネジャド大統領らと会談する予定であることが分かりま
した。

 鳩山氏は都内で記者団にたいし、

 「イラン情勢は緊迫の度を加えているが、戦争状態にしてはなら
ない」

 「イランにしっかり言うべきことを言い、けっして厳しい状況になら
ないよう努力するのが外交だ。外務省と連携を取っているわけでは
なく、個人の立場で国際的な平和に役立つよう努力したい」と説明
しています。


 玄場外相は、この日の記者会見で、鳩山氏のイラン訪問につい
て、「政府の要請に基づくものではない。個人の行動だ」と強調しま
した。

 その上で、「政府としては、適切なレベル、適切なタイミングで働き
かけを行うことが、きわめて重要と考える」と述べて、不快感を示し
ました。


            * * * * *


 4月5日。

 野田首相は、午前の予算委員会で、鳩山氏のイラン訪問につい
て、「わが国の国際協調の立場と整合的でなくてはいけない」と懸念
を示し、
 「まずは本人から話を聞くなど意思疎通を図りたい」として、政府の
立場を伝える考えを示しました。

 玄場外相は、イラン訪問を中止するように、鳩山氏へ働きかけて
いることを明らかにしましたが、
 「最終的には個人の判断」として、政府には強制力がないことを
指摘しました。
 その上で、「あたかも政府の立場を代表するかのように行って、
政府の方針とちがう態度で臨む”二元外交”にならないよう、慎重な
対応を促したい」と強調しています。


 この日の午後、玄場外相は、衆議院本会議場で鳩山氏に会い、
「もっと早く相談してほしかった。もっと外務省を信用してほしい」と
不快感を示して、イラン訪問の取りやめを促しました。

 これに対して鳩山氏は、「私としては1ヶ月以上前に野田総理大臣
にたいして『イランに行くことを考えたい』と伝えており、野田首相から
も『前向きに頑張ってください』と言われた。理解してもらえたと思って
いた」と述べました。

 その上で、「『二元外交だ』と言っていては議員外交はできない。
議員の一人一人が外交努力をすることが、国益に結びつくことは
十分にある。イランが武力的な行動を起こさないよう努力したい」
と述べ、予定通りに訪問する考えを示しました。



 同日。

 アメリカ財務省の、コーエン財務次官(テロ・金融犯罪担当)は、
欧米諸国による制裁で、イランはアメリカに一段と注意を払うように
なったと、自信を示しました。

 コーエン次官は、「アメリカは注目を確保しているだろうか。我々は
これまでにないほど確保しているというのが答えだ」と述べました。
 この発言は、イランへの制裁にたいする、オバマ政権の自信の
表れといえます。

 またコーエン次官は、イランが原油の輸出で得た資金を、活用
できるかどうかが問題だとして、
 「原油輸出による資金を活用したり、資金にアクセスすることは、
ますます難しくなっている」と述べて、制裁の効果を評価しました。


            * * * * *


 4月6日。

 中国外務省 西アジア・北アフリカ局の、陳暁東局長は、イラン情勢
をめぐる動きについて、
 もしも国際社会がイランへの攻撃に踏み切れば、周辺地域を巻き
こむ深刻な報復行為を引きおこして、世界経済が不安定化しかねない
との見解を示し、「国際社会は戦争を回避するべきだ」と述べました。

 陳局長は、中国共産党の機関紙、人民日報が主催するウェブサイト
のチャットで、
 「イランに対し、もし武力が行使されれば、間違いなく報復行為を引き
おこし、一段と激しい武力衝突に発展するだろう。地域の混乱をさらに
深め、ホルムズ海峡やその他の戦略的航路の安全が脅かされること
で世界的に原油価格が上昇し、世界経済に打撃を与えることになる」
と指摘しています。

 さらに陳局長は、「戦争をする理由は1万個もあるかもしれないが、
それによって引き起こされる人々の悲惨な被害や苦しみ、社会や経済
の崩壊といった深刻な結果は修復できない」と述べました。

 また陳局長は、「すべての関係国に求められているのは抑制的で
あることであり、早期に対話を再開することだ」とも語っています。



 同日。

 この日付けの、アメリカのワシントン・ポスト紙によると、

 オバマ大統領が、イランの最高指導者ハメネイ師に対して、「核兵
器開発を追及しないことを証明すれば、平和的な核計画を認める」
というメッセージを、送っていたことが分かりました。

 オバマ大統領は、3月25日にソウルで、トルコのエルドアン首相と
会談をした際に、ハメネイ師へのメッセージを託したそうです。

 エルドアン首相は、3月末にハメネイ師と会談し、そのメッセージを
伝達したといいます。


             * * * * *


 4月7日。

 民主党の鳩山元首相は、イランの首都テヘランを訪問し、サレヒ
外相と会談をしました。

 この会談で鳩山氏は、「日本は戦争と原発の事故と、2回、核の
被害を受けた国であり、核の被害の悲惨さを経験している。イラン
には、核兵器の開発は行わないでいただきたい」と述べました。

 それに対してサレヒ外相は、「そもそもイランには核兵器の開発を
行う意図はない。信頼してほしい」と述べて、あらためて核兵器開発
の疑惑を否定しました。


 また鳩山氏が、安保理常任理事国にドイツを加えた6ヶ国と、イラン
との核協議について、
 「対話を通じて問題を解決することが重要であり、イランは交渉では
柔軟な対応をお願いしたい」と述べたのに対し、

 サレヒ外相は、「イランも来週の(6ヶ国との)交渉は、大変重要な
意味があると思っている」と述べています。



 同日。

 アメリカのルース駐日大使が、鳩山元首相がイラン訪問へ出発
する前に、首相官邸に電話で懸念を伝えていたことが分かりました。

 政府関係者によると、訪問中止を強く求める発言ではなかった
ものの、ルース大使は「鳩山氏のためにも良いことではない」と指摘
したといいます。
 鳩山氏の訪問が、イランへの経済制裁にたいして国際協調の
足並みを乱しかねないことを、憂慮したものと見られます。

 電話を受けた官邸のスタッフは、「野田首相と玄場外相も(イラン
訪問の)中止を求めたが、鳩山氏は一議員として行くとのことだ」と
説明し、日本政府として関与していないことを強調しました。


            * * * * *


 4月8日。

 イランを訪問していた民主党の鳩山元首相は、首都テヘランで、
アフマディネジャド大統領と会談をしました。

 鳩山氏は、アフマディネジャド大統領に、「日本は核兵器の開発に
ついて技術的な能力はあるが、核兵器を持たない国だという国際
社会の信頼を50年かけて勝ち得てきた。イランも疑惑を払拭する
ため対話で問題を解決する努力をつづけ、武力の行使が起きない
ようにしてもらいたい」と、伝えたということです。

 これに対して、アフマディネジャド大統領は、「核兵器を持つ意図は
ない」と強調した上で、
 6ヶ国とイランとの核交渉では、現実的な提案をしていくと述べたと
いうことです。
 また、6ヶ国との核協議の開催地については、トルコのイスタンブー
ルに決まったと、鳩山氏に伝えられました。


 鳩山氏は今回のイラン訪問について、議員としての個人的な活動
だとした上で、

 「総理大臣を経験したときに培った人脈を大切にして、国益に資する
ことは何かと考えて行動したつもりだ。政府の立場と異なるメッセージ
を出したわけではなく、ご理解を願いたい」と、会談後の記者会見で
説明しています。



 同日。

 イラン国営テレビの「プレスTV」(電子版)は、鳩山氏とアフマディネ
ジャド大統領との会談の中で、
 鳩山氏が「IAEA(国際原子力機関)は、イランを含めた特定の国々
へ二重基準的な対応をしており不公平だ」と述べたと、報じました。

 また、イラン大統領府も、会談の内容について、「鳩山氏は、『IAEA
は、イランなどに二重基準を適用しており、公正ではない』と述べた」
と発表しています。

 実際にそのような発言が、あったかどうかは不明ですが、イラン側
の報道や発表からは、鳩山氏の訪問を、核開発の正当化に結びつけ
ようとする意図がうかがえます。



 同日。

 EU(欧州連合)は、安保理常任理事国(アメリカ、ロシア、中国、フラ
ンス、イギリス)にドイツを加えた6ヶ国が、
 4月14日にトルコのイスタンブールで、イランの核開発疑惑をめぐる
交渉を、再開すると発表しました。

 6ヶ国側は、イランにたいして、ウラン濃縮の停止と関連施設の封鎖
を求めていく方針です。

 EUの、アシュトン外務・安全保障政策担当上級代表は、「われわれ
は4月14日に、イスタンブールで協議を再開することで合意した」と
述べました。
 さらには、「次回の協議が具体的な進展を導ける環境作りに資する
ことを望む。もちろん、われわれは(1回限りでなく)持続的な協議を
目指している」と述べています。

 イランは、トルコでの協議再開に懸念を示して、イラクや中国での
協議再開を探っていましたが、
 イランのファルス通信は、匿名の関係筋の話を引用して、「数週間
にわたる協議の末、イランと世界の6ヶ国は、イスタンブールで最初
の会合を開くことで合意した」と報じました。イラン国営英語放送局の
プレスTVも、同様の内容を伝えています。

 ファルス通信はまた、トルコでの交渉に進展が見られれば、イラク
のバクダットで2回目の会合を開くことでも、両サイドが合意したとして
います。


              * * * * *


 4月9日。

 藤村官房長官は、午前の記者会見で、鳩山元首相がイランを訪れ、
アフマディネジャド大統領と会談したことについて、
 「個人の立場でも、こういう時期に訪問されない方がいい」と述べて、
不快感を示しました。

 イラン国営テレビが、鳩山氏が「IAEAはイランを含めた特定の国々
へ二重基準的な対応をしており不公平だ」と述べたと、報じたことに
ついては、
 「わが国としては、核問題解決に向けたIAEAの役割を重視している。
イランに対し、IAEAへの完全な協力を求めている」と指摘しました。


 公明党の漆原 国会対策委員長も、イラン側の報道を取りあげて、
「元首相、しかも民主党の外交担当の最高顧問という立場だから、
日本政府として間違ったメッセージを与えかねない」と、鳩山氏を批判
しています。


 自民党の茂木政調会長は、仙台市での記者会見で、鳩山元首相
がアフマディネジャド大統領と会談したことについて、
 「鳩山氏に一義的に問題があるが、止められなかった政府・民主党
にも大きな責任がある」と指摘しました。

 鳩山氏が、「IAEAはイランを含めた特定の国々へ二重基準的な
対応をしており不公平だ」と発言したと、イラン国営テレビに報じられ
たことに関しては、
 「行ったら確実に利用されることは分かっていた。案の定そうなった」
と述べています。


 同日の夜。

 鳩山元首相は、イラン訪問からの帰国後、衆議院会館で記者会見
を行いました。

 この会見で鳩山氏は、「今回の訪問で、政府の考えている線を逸脱
するような発言は一切していない」と強調しました。

 アフマディネジャド大統領との会見のなかで、「IAEAはイランなどに
二重基準的な対応をしており不公平だ」と鳩山氏が述べたと、イラン
側が伝えたことについては、
 「まったくの捏造(ねつぞう)だ。(イラン側に)遺憾だと伝えたい」と
反論しています。

 鳩山氏は、「核保有国を対象とせず非保有国の平和利用に対して
査察を行うのは公平でないと(イランが)言うのは承知しているが、
日本は原子力の平和利用が国民の活動に有益との信念から、国際
社会の疑念を払う努力をしてきた」と、アフマディネジャド大統領に
語ったと説明しました。

 また、「NPT(核拡散防止条約)に入らず、(事実上の)核保有国に
なっている国にとって有利になっていることは承知しているが、その
流れが拡大しないためにも国際社会との協力が必要だ」と、指摘して
きたといいます。


 このことに関して、山根外務副大臣は、「一部分をピックアップする
と少し誤解を生む」と述べて、鳩山氏の発言には軽率な点もあった
との認識を示しました。



 同4月9日。

 イラン国営通信は、イラン原子力庁のアバシ長官が、2009年に
中断していた西側諸国とのウラン燃料交換をめぐる協議再開を、
拒否したと報じました。

 アバシ長官は、「すでに投資したこともあり、国外から濃縮度20%
のウラン燃料を受け入れることには関心がない」と明言しています。

 その一方で、原子力発電に必要な濃縮水準である3.5%に、燃料
を転換する可能性があると発言しました。
 アバシ長官は、「必要な燃料が入手されれば、われわれは(高濃縮
ウランの)生産を縮小するだろう。おそらく濃度を3.5%に転換する
こともあり得る」と述べています。



 同日。

 イラクのルアイビ石油相は、OPEC(石油輸出国機構)は世界の
石油価格の均衡を目指しているとした上で、
 いま、石油価格に影響を及ぼしているのは、原油生産の問題と
いうよりも、むしろ政治的な不安定さだとの認識を示しました。

 ルアイビ石油相は、「OPECは需要を満たすのに十分な原油を
生産しようとベストを尽くしているが、政治が価格に影響している。
原油価格への影響は、生産の問題より、政治的な不安定さの方が
大きい」と述べています。

 また、ルアイビ石油相は、イラクの4月の原油輸出量について、
日量230万バレルか、もしくはそれを若干上回る規模になるとの
認識を明らかにしました。



 同日。

 トルコのエルドアン首相は、トルコの首相としては27年ぶりに中国
を訪れ、北京で温家宝首相と会談をしました。

 この会談でエルドアン首相は、トルコで4月14日に、イランと6ヶ国
との核協議が再開するのを前に、欧米と溝のある中国にたいして
協力を要請しました。

 また両首相は、「原子力協定」を締結しました。この協定は、中国が
トルコの原子力発電所建設に参画するための、前提条件となるもの
です。
 協定が締結されたことにより、トルコの原発受注をめぐって、日本と
中国が競うことになりました。


             * * * * *


 4月10日。

 自民党の石原幹事長は党の役員会で、民主党の鳩山元首相の
イラン訪問に関して、「国益を著しく損ねており、関連する委員会で
徹底追及してほしい」と指示しました。

 役員会後の記者会見で、石原幹事長は、「鳩山元総理大臣を外交
問題を担当する党の最高顧問に任命し、イラン訪問を止められな
かった野田総理大臣の責任は非常に重い。鳩山氏には、アメリカ軍
普天間基地の移設問題を迷走させた過去があり、まさに日本にとっ
ては『要らん』外交だ。(IAEAの批判を)言ったか言わないか分から
ないが、イランの大統領に『言った』といわれることが懸念されていた。
国益を著しく損ねている」と批判しています。


 同日。自民党の外交部会の会合で、イランを訪問し、IAEA(国際
原子力機関)の対応を批判したと報じられた、民主党の鳩山元首相
を国会に招致し、真意をただすべきだとの認識で一致しました。

 この会合で、佐藤正久 参院議員は、「(イランの)大統領に会えた
のは元首相で党最高顧問という肩書きがあるからだ。個人の問題に
すり替えるのは責任放棄だ」と述べ、政府の対応を批判しました。

 高村正彦 元外相は、自身もイランの招請を受けていたと明かし、
「いま行くと国益を害するし、国際益も害する。野党だって判断でき
る。民主党の最高顧問が行くとは信じられない」と述べています。


 同日の記者会見で、自民党の岸田国会対策委員長は、イランを
訪問した鳩山元首相の、国会への参考人招致を求める方針を、
明らかにしました。



 同日。

 玄場外相は、閣議後の記者会見で、鳩山元首相から帰国後に
電話があったことを明らかにした上で、

 「鳩山氏には、『イラン側の発言についてはよく分析するが、イラン
側が何をどう言ったかを外に向かって言うべきではない。IAEAに関す
る報道には真意を含め、しっかりメディアに説明したほうがいい』と
申し上げた」と述べました。

 鳩山氏のイラン訪問については、「あくまで個人の立場で、本当に
政府とは関係がない。党も要請してないし、外交顧問という立場も
なかったと、私(玄場)は理解している。『さはさりながら、外からは
元総理大臣とみられるので、よく思いを致してほしい』と鳩山氏に言っ
た」と述べています。



 同日。

 鳩山元首相は、日本に駐在するイランのヘシュマティファル臨時
代理大使と、衆議院会館で会談し、

 イランの大統領府が、「鳩山氏は、『IAEAは、イランなどに二重基準
を適用しており、公正ではない』と述べた」と、発表したことについて、

 「私(鳩山)は『イランに国際社会の信頼を得るために努力してほし
い』と言っただけで、発表は誤解を与えるもので事実と異なる」などと
述べて、イラン側に訂正を求めました。


 鳩山氏の事務所によると、ヘシュマティファル臨時代理大使は、

 「誤解を与える表現を記載したことは申し訳ない」と陳謝したうえで、
イラン大統領府のウェブサイトの記述などを修正したことを、説明し
たといいます。



 同4月10日。

 イランのアフマディネジャド大統領は、イランは2〜3年にわたる
原油禁止措置に耐えられるだけの資産を持っていると述べました。

 大統領は、ホルムズカーン州を訪れた際、「彼ら(西側諸国)は、
われわれの原油に制裁を加えたいと考えているが、イランは2〜
3年原油を販売できなくとも十分な蓄えをもっており、容易にやって
いける」と述べています。



 同日。

 イランのガセミ石油相は、今年の2月に、イギリスとフランスに対し
て、原油の輸出停止を決めたのにつづいて、
 新たにギリシャへの原油輸出を停止したことを、明らかにしました。

 また、イランの国営テレビは、「ギリシャに続いて、スペインに対して
も、原油の輸出を停止した」と報道し、
 今後、さらにドイツやイタリアに対しても、イラン政府が輸出停止を
検討していると伝えています。

 ギリシャやスペインは、EUの中でもイラン産原油の依存度が高く、
イランとしては、EUのイラン産原油禁輸措置に先手を打って原油の
輸出を停止することで、経済的な影響をふくめて、欧米側にゆさぶり
をかける狙いがあるものとみられます。



 同日。

 EIA(アメリカ エネルギー省エネルギー情報局)が、この日に発表
した報告書によると、
 イランの今年の石油生産量は、前年比で15%ちかく減少する可能
性があると予想しています。その原因については、海外からの投資が
減ったことが、影響しているとしています。

 EIAは、月例の短期エネルギー見通しで、2012年末時点のイラン
の石油生産量について、
 1年前の生産実績である、日量355万バレルよりも、50万バレル
下回る水準に減少すると予想しています。


             * * * * *


 以上、3月29日〜4月10日までの動きについて、見てきました。


 鳩山元首相が、とつぜんイランを訪問して、一騒動を起こしてしまい
ました。

 しかしながら、アメリカを激怒させた訳ではないので、あまり神経質
になる必要も、無いように感じます。

 むしろ、原爆投下や原発事故を経験した日本にとって、ほんとうに
言いたかったことを、言ってきたのだと思います。

 ではありますが、鳩山元首相の言動が、イラン側に利用されてしまっ
たみたいなので、「軽率だ!」という批判を受けてしまうのは、やはり
免れないでしょう。


 ところで鳩山元首相が、イランの最高指導者ハメネイ師に会わな
かった(もしかしたら会えなかった)のは、人脈に限界があったからで
しょうか。


 今回のレポートを書いていて、そのようなことを思った次第です。



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