ホルムズ海峡が封鎖? その9
2012年3月11日 寺岡克哉
今日で、「東日本大震災」から、ちょうど1年になりました。
ふつう、どんなに大きな災害であっても、年月が経つにつれて、
だんだん記憶が薄れて行くものです。
しかし東日本大震災だけは、今後何十年にもわたって、ますま
す人々の心に、深く刻まれて行くことになるだろうと思います。
というのは、
福島第1原発の事故による、高レベル放射性廃棄物の問題や、
廃炉の問題、あるいは被曝による健康被害の問題などが、
逃避できない現実として、ほんとうに深刻になって行くのは、正に、
これからのことだからです。
今後数十年にわたって、それらの問題は終息するどころか、ます
ます社会問題として大きくなって行くでしょう。
さて、
今回も引きつづき、イラン情勢をめぐる世界の動きについて、見て
行くことにします。
* * * * *
3月1日。
IMF(国際通貨基金)は、先に開催されたG20(20ヶ国・地域)
財務相・中央銀行総裁会議に提示した、世界経済見通しに関する
報告書を公表しました。
それによると、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡が断続的
に封鎖された場合には、
「世界的な石油の流通に、きわめて強烈で、前例のない打撃を
与える」という、つよい警戒感を示しています。
報告書では、「世界経済の成長が減速するとの見通しにもかか
わらず、原油価格は上昇している」と指摘しています。
その上で、「イランをめぐる地政学的リスクが高まっている」として、
イランによる先進国向けの原油輸出の停止は、原油価格を2〜3
割上昇させる恐れがあるという認識を示しました。
しかし、その一方で、ほかの産油国の増産や、緊急の石油備蓄
放出で、こうした影響を軽減することができるという見解も示してい
ます。
同日。
米国エネルギー省の、チュー長官は、制裁によるイラン産原油の
輸出減少分を補うのための、十分な余剰生産力が、世界の産油国
にはあるようだとの認識を示しました。
チュー長官は、連邦議会で記者団にたいし、イランの核兵器開発
を確実に阻止するため、制裁によってイラン産原油の販売を妨害
することが重要であると指摘し、「十分な余剰生産力があると確信し
ている」と述べています。
同日。
イスラエルの国営軍需企業である、「イスラエル・エアロスペース・
インダストリー」は声明をだし、
最新鋭の弾道弾迎撃ミサイル「アロー3」の発射実験を、近く行う
と発表しました。
発射実験を事前に公表するのは異例のことですが、匿名のイスラ
エル当局者は、「(イランを攻撃するとの)誤解を避けるため」と説明
しています。
イスラエルは、イランの核武装を阻止するため、先制攻撃に踏み
切る可能性も示唆していますが、
その場合、イランは弾道ミサイルなどを使った報復攻撃に出ると
予想されています。
同日。
インドの政府筋や貿易関係者によると、イランは欧米の制裁を回避
するため、
インドの輸出業者にたいして、インド通貨であるルピー建てでの、
代金の支払いを開始しました。
インドとイランの貿易をめぐっては、アメリカ政府のイラン制裁に
関連して、2010年12月に一部の決済ルートが閉鎖されており、
総額30億ドルの代金支払いが滞(とどこお)っていました。
複数の関係筋によると、イランの民間銀行のバンク・パルシアンが、
インドのUCO銀行に口座を開設し、代金の支払いが可能になったと
いいます。
バンク・パルシアンは、イランの民間銀行のため、イランの国有銀行
に対する制裁は適用されないみたいです。
ちなみにインドは、国連によるイラン制裁は順守していますが、欧米
が新たに導入した制裁への協力は、拒否しています。
3月1日までに、
UAE(アラブ首長国連邦)のドバイの政府系銀行、ヌール・イスラミッ
ク・バンクは、
イラン側との「あらゆる取引き」を停止したことを、明らかにしました。
ヌール・イスラミック・バンクは、イランが原油を輸出し、相手国から
代金を受け取る貿易決済の多くを扱ってきましたが、
ドバイ政府が、アメリカからの圧力を受けて、取引停止を促したもの
とみられます。
ドバイ政府は、これまで経済制裁への協力に慎重な姿勢をとって
きましたが、
最近になって方針を転換し、地元の金融機関の間では、イラン側
との取引きを控える動きが急速に広まっています。
この影響で、欧米の制裁をかいくぐり、ドバイ経由でイランに物資を
輸出していた貿易業者は大きな打撃をうけ、この2ヶ月間で100社が
倒産したといいます。
ドバイを拠点にする、イラン系の商工団体の代表は、「イラン向けの
貿易が成り立たない、暗黒の時代になってしまった」と語っています。
* * * * *
3月2日。
イラン国会議員選挙の、投票が行われました。
アフマディネジャド大統領の支持派と、最高指導者ハメネイ師の
支持派との、勢力バランスがどう変化するのかが、焦点になってい
ます。
この日の深夜、開票作業が始まりました。
投票時間が当初より5時間延長され、イラン国営テレビは、投票
率が64%(前回の選挙は51%)と伝えました。
政府や国営メディアは、「高い投票率を記録した」として、選挙の
成功を強調しています。
大勢の判明は、3月5日以降になる見通しです。
同日。
イスラエルのネタニヤフ首相は、訪問先カナダの首都オタワで、
ハーパー首相と会談を行ったあと、記者会見をしました。
ネタニヤフ首相は、イランが、核開発問題をめぐる関係6ヶ国と
の協議を、再開する用意があるとしたことについて、
「これまでもそうであったように、イランは核開発プログラムを
進展させ、完了させるために、交渉を利用して時間稼ぎをする必要
がある」
「厳しい制裁から逃れようとしているだけだ。イランの罠に落ちて
はいけない」
と述べ、国際社会は、イランの思惑に乗せられるべきではないと
主張しました。
その上で、「イランは、ウラン濃縮施設を廃棄し、すでにある濃縮
ウランもすべて廃棄しなければならない」と述べて、イラン側に核
開発の即時停止を求めました。
また、イスラエルが、イランへの軍事攻撃に踏み切る可能性が
示唆されている点については、「イランに対し、最後の一線を設け
ない」と述べるに留まっています。
同日。
アメリカのオバマ大統領は、雑誌アトランティックのインタビュー
で、「アメリカの大統領として、はったりをかけることはない」と述べ
ました。
イランへの警告と同時に、イラン攻撃をちらつかせるイスラエル
を、思いとどませるのが狙いとみられます。
オバマ大統領は、イランへの対応に関し、「あらゆる選択肢を検討
している」と説明しており、その中には「軍事的な手段」も含まれると
明言しました。
その一方で、経済制裁が効果を発揮し始めており、イランが国際
協調路線に転じる可能性もあるとしています。
* * * * *
3月3日。
イランの国営放送によると、この日の午後の時点で、イラン国会
の議員定数290のうち、150議席が確定しました。
このうち、最高指導者ハメネイ師の支持派が、110議席以上を
獲得しており、圧勝する勢いです。
一方、アフマディネジャド大統領の支持派は、大統領の実の妹が
落選するなど、大きく議席を減らしており、10議席ていどに留まって
います。
同日。
イスラエルは、イラン国会議員選挙における、ハメネイ師の支持派
の台頭に、危機感を強めています。
イスラエル紙のハーレツは、「ハメネイ師にとって、(核開発は)自身
の政治生命をかけた戦いだ。いかなる妥協も、”西側への降伏”と
批判されることを気にしている」と分析しています。
もしもイランが強硬路線を貫けば、イスラエル国内の緊張が高まっ
て、「イランへの先制攻撃論」が強まるのは必至です。
* * * * *
3月4日。
イランの国会議員選挙は、この日までに、9割の選挙区で開票
作業が終了しました。
イランの国営メディアによると、最高指導者ハメネイ師の支持派
が議席の75%前後を獲得し、アフマディネジャド大統領支持派の
大敗が確実となりました。
同日。
アメリカのオバマ大統領は、親イスラエル系ロビー団体 AIPAC
(アメリカ・イスラエル広報委員会)の会合で演説し、
「アメリカと、アメリカの国益を守るために必要なら、武力行使を
ちゅうちょしない」と述べて、イラン攻撃の選択肢を排除しないと
いう姿勢を強調しました。
しかし、その一方で、「まだ外交により、解決できる機会があると
固く信じている」とも述べ、国際的な圧力や交渉を優先させる方針
を示しました。
また、「戦争をめぐる軽率な議論」が、原油価格の高騰を招いて
イランを利しているとして、自制を呼びかけています。
これは、イスラエルのネタニヤフ首相と、3月5日に会談するの
を前にして、
最終的には軍事手段を使ってでも、イランの核開発を阻止する
決意を鮮明にすることで、
イスラエルの単独攻撃に、自制を呼びかける狙いがあるとみられ
ます。
それと同時に、戦争開始への議論加熱が、逆効果をまねくという
認識も示して、アメリカによる早期攻撃の憶測を、打ち消した形に
なっています。
ちなみに、この演説全般でオバマ大統領は、アメリカとイスラエル
の絆の強さを訴えており、
とくに軍事面での協力を挙げ、「われわれは、イスラエルの軍事力
を保つためには何でもする。なぜならイスラエルは、いかなる脅威
にたいしても、つねに自衛能力を持ち合わせていなければならない
からだ」と語っています。
アメリカで屈指のロビー団体であるAIPACの年次会合には、大勢
の米上下院議員も出席しており、
会場は、およそ1万3000人のユダヤ系アメリカ人で埋ったといい
ます。
* * * * *
3月5日。
イランの国会議員選挙は、開票作業が終了し、決選投票が必要と
なった65議席を除く、225議席が確定しました。
イランの国営放送などによると、最高指導者ハメネイ師の支持派
が、確定した議席の7割以上を占めて圧勝しています。
ハメネイ師の支持派は、核開発問題などで欧米との一切の妥協を
拒む「超保守派」だとされており、
そのような強硬姿勢を示す勢力が、選挙に圧勝したことで、核問題
の対話による解決が難しくなり、欧米やイスラエルとの緊張が一層
高まることが懸念されます。
同日。
アメリカのオバマ大統領と、イスラエルのネタニヤフ首相が、ホワイ
トハウスで会談をしました。
会談の冒頭で、オバマ大統領は、アメリカのイスラエル防衛に対す
る決意は「磐石だ」と強調しました。
しかし、その一方で、イランの核問題を外交的に解決する余地は
残されていると述べ、現時点でのイラン攻撃は「時期尚早」との見方
を示しました。
ネタニヤフ首相は、これに対して、「イスラエルは、いかなる脅威に
対しても、自力で防衛する能力を持つ。首相としての最大の責務は、
イスラエルの運命を自ら決められるように保障することだ」と述べ、
イスラエルの単独による、イランへの軍事攻撃の可能性を、排除
しませんでした。
会談は、この後非公開になり、およそ2時間ていど続いたとされて
います。
事情に詳しい関係筋によると、ネタニヤフ首相は、オバマ大統領
にたいして、イラン核施設への攻撃については、まだいかなる決定
も下していないと伝えたとされます。
その一方で、イスラエルは軍事的な行動をとる権利をもつと強調
し、将来的な軍事行動の可能性を、打ち消さなかったといいます。
オバマ大統領は、イランへの批判を強める一方で、イスラエルにも
自制を要請していますが、
ネタニヤフ首相は、イラン核施設への攻撃を「見送る姿勢」は、示さ
なかったといいます。
関係筋によると、オバマ大統領からも、ネタニヤフ首相にたいして、
イランを攻撃をしないようにという、明確な意思表示はありませんで
した。
関係筋によると、ネタニヤフ首相は、オバマ大統領に、「(イランへ
の)圧力は強まっている。しかし時間もなくなりつつある」と述べたと
いいます。
アメリカ政府は、イランの核武装を阻止するという点においては、
イスラエルと同じ立場です。
しかし両国の間では、「イランが超えるべきでない一線」について
の見解が、食い違っているみたいです。
アメリカは、イランの「核兵器保有」に反対しているのに対し、
イスラエルは、イランの「核開発能力」、つまり兵器級の濃縮ウラ
ンを、製造する能力の獲得をもって、「超えるべきでない一線」と考え
ているようです。
このように、アメリカとイスラエルの両国で、「温度差」があることは
否めない状況となっています。
同日の夜。
イスラエルのネタニヤフ首相は、ワシントンで開催中の、親イスラエ
ル系のロビー団体 AIPAC(アメリカ・イスラエル広報委員会)の会合
で演説をしました。
その中で、イランの核武装化について、「イスラエルは、根気よく
国際社会による外交的解決を待っていたが、これ以上は待てない」
と語りました。
ネタニヤフ首相は、「イスラエルが何をするのかは絶対に言わない」
と前置きしたうえで、
「国際社会は10年間、外交を試み、過去6年間、制裁を試みたが、
効果は無かった」と述べました。
さらには、「オバマ大統領による最近の制裁強化にもかかわらず、
イランの核計画は引きつづき進展している」と懸念を表明し、
イスラエル独自による、イランへの軍事攻撃の可能性を、ほのめか
しました。
オバマ大統領との会談内容については語りませんでしたが、アメ
リカの同盟関係に感謝しつつ、
「イスラエルは常に自衛権を保持しなければならない。イランの核
武装化を止めなければならない」と繰り返しました。
同3月5日。
IAEA(国際原子力機関)の定例理事会が、ウィーンの本部で始まり
ました。
天野事務局長は、冒頭で、イランの核兵器開発疑惑に関する調査
団の派遣が、不調に終わったことを受け、
「イランは実質的な方法で、IAEAの懸念に対処しなかった」と批判
しました。
また、イランは、濃縮度20%のウランの月間製造量を3倍に増やし
たと指摘し、軍事との関連で「深刻な懸念がある」ことを表明しました。
その上で、「イランからの協力が得られないため、申告されていな
い核物質や核開発が、イランには無いと証明することはできない」
と述べ、
イランに対して、IAEAへの協力をあらためて求め、「対話による
解決」に、引きつづき取りくんで行くことを確認しました。
同日の記者会見で、天野事務局長は、「イランのパルチン軍事施設
で、活発な動きが続いている証拠がある」と述べ、核開発の懸念を示
しました。
「その活動を考慮すると、なるべく早くパルチンの施設に行く必要が
ある」と強調しています。
今年の1月と2月の、2回にわたって、IAEAの調査団はイランを
訪問しましたが、パルチン軍事施設への立ち入りは拒否されました。
外交筋によると、IAEAの理事国35ヶ国は、2回に及んだ調査団
の失敗をめぐり、
「新決議の採択で、イランへの圧力を増すべきだ」という意見と、
「結論を急ぐべきではない」という意見に、分かれていると言うこと
です。
同日。
ウィーンのイラン代表部は、パルチン軍事施設へのIAEAの立ち
入りを、条件付きで認める考えを明らかにしました。
イランは声明で、IAEAが2005年に2回にわたり、パルチンを
訪問していると指摘し、
軍事基地の受け入れには、調整に時間がかかるため、繰りかえ
し訪問することはできないと強調したうえで、まずはIAEAに疑惑の
問題点をまとめるように要請しました。
ところで、IAEAの訪問をイランが認めるには、調査における「手順
に関する合意」が、条件になっています。
この「手順」について、イランは、あらかじめ対象や方法などの枠
組みを定め、一度調べた項目には再び戻らないという、不可逆的
な進め方を求めているのに対し、
IAEAは、より包括的で柔軟な進め方を主張しており、両者の間に
は、深い溝があるというのが現状です。
イラン代表部は声明で、IAEAがイランの求める条件をすべて満た
し、手順で合意できれば、「訪問をもう一回認める」と説明しています。
この日、イランのソルタニエIAEA大使は、パルチン軍事施設への
立ち入りを許可することを、先月行われたIAEAとの協議の中で伝え
ていたと、明らかにしました。
ソルタニエ大使は、「パルチンの施設は、核関連施設ではないの
で、さまざまな手続きが必要だった」として、
前回のIAEA訪問で立ち入りを認めなかったのは、手続きの問題で、
イラン側に落ち度はなかったと弁明しています。
同日。
田中防衛相は、衆議院予算委員会の分科会で、イラン情勢が緊迫
した場合に、現地の日本人を救出する方法について問われました。
これについて田中防衛相は、「外務大臣から要請があれば、自衛隊
が保有するC130輸送機のほか、政府専用機や空中給油機を準備
して対応することを、防衛省内で話している」と述べました。
その上で、「関係省庁と連携しつつ、事態に応じて速やかに対応
できるよう検証を行っている」と述べています。
このように田中防衛相は、「イランへの自衛隊機の派遣」を検討して
いることを、明らかにしました。
* * * * *
3月6日。
アメリカのオバマ大統領は記者会見で、「代償を払うのは(米軍の)
兵士と家族だ」と述べ、
イランへの軍事攻撃については、慎重な検討が必要だとの見解を
示しました。
また、「戦争はゲームではない」と指摘し、11月の大統領選をひかえ
て、野党の共和党候補らが、オバマ政権を弱腰と批判していることに
反論しました。
野党の共和党からは、イラン情勢をめぐり、「現在の政策は優柔
不断だ(ロムニー前マサチューセッツ知事)」などと、政権の弱腰を
非難する声が出ています。
これに対してオバマ大統領は、「彼らは責任を持っておらず、最高
司令官でもない」と一蹴し、
「戦争を始めたいのなら、その理由と、何が起こるのかを国民に
明確に説明するべきだ」と訴えています。
イランに対しては、アメリカや欧州などによる経済制裁が、効果を
上げていると強調し、
「来週や2週間後、あるいは1ヶ月や2ヶ月後に、イラン攻撃の決断
を迫られることはない」と、オバマ大統領は明言しました。
同日。
中東地域のアメリカ軍を指揮する、マティス司令官は、アメリカ議会
上院の軍事委員会で証言し、
「戦争になれば、莫大な費用がかかる。外交交渉を1日でも長く続け
るため、われわれは戦争を避けるあらゆる努力を続ける」と述べ、
イランに対するアメリカの軍事行動について、否定的な考えを示し
ました。
オバマ大統領も、イランへの軍事行動は、核開発を遅らせるだけ
で、「根本的な解決にはつがらなない」という見方を示しており、
アメリカ軍も含めて、アメリカ政府としては、あくまでも慎重な対応
を続けて行くものと思われます。
同日。
EU(欧州連合)の、アシュトン外交安全保障上級代表(外相)は、
声明をだし、
6ヶ国(安保理常任理事国+ドイツ)と、イランとの、核問題に関す
る交渉再開を、イラン側に提案したと明らかにしました。
アシュトン上級代表は、この声明で、「イランが建設的な対話に
参加し、イランの核開発をめぐる国際社会の懸念の解消に向け、
真の前進が達成されることを希望する」と述べています。
アシュトン上級代表は、イランのジャリリ最高安全保障委員会
事務局長に手紙を送りましたが、
その手紙では、「NPT(核拡散防止条約)に沿った、イランによる
核の平和利用を尊重する」と前置きして、
「イランの核開発が平和目的であることへの、国際社会の信頼
を取りもどすことが、交渉の目的だ」と記しています。
また、「イランのあらゆる提案を、討議する用意がある」と、柔軟な
姿勢も示しました。
イランも先月、交渉への復帰をEUに伝えており、もしも交渉が再開
すれば、昨年の1月にトルコのイスタンブールで行われた協議以来と
なります。
同日。
中国の楊外相は、全国人民代表大会(国会に相当)開催中の記者
会見で、
イランの核兵器保有に反対する姿勢を、あらためて示す一方で、
原子力の平和利用の権利は保障されるべきだと述べ、イランに対す
る一方的な制裁には、反対する姿勢を強調しました。
楊外相は、「イランを含め、中東のいかなる国が核兵器を開発した
り、保有したりすることに反対する」と述べましたが、
原子力の平和利用を追及する権利はあると指摘し、「一方的な
制裁には反対する」と付け加えました。
その上で、6ヶ国とイランとの協議を、一段と進めることを求めて
います。
* * * * *
3月7日。
IAEA(国際原子力機関)の天野事務局長は、「イランはすべてを
語っていないというのが私の印象だ。われわれはイランに積極的
に協力するよう求めているし、イランはきちんと回答すべきだ」
と述べ、核開発問題について、イランに全容を明らかにするように
求めました。
また天野事務局長は、イランが申告している核施設については、
「これらの施設、および(核開発の)活動は、平和目的だと言って
差し支えないと思う」と指摘しました。
しかし、その一方で、「だが申告されていない施設が他にあるかも
しれない。イランが、核兵器の開発に必要な行動を行ったことを示す、
証拠もしくは情報を入手している」とも述べています。
同日。
日本は、「国防権限法」における「例外規定」が適用されるように
アメリカに求めていますが、
この日、玄場外相は、イラン産原油の輸入削減をめぐるアメリカ
との協議は、「最終段階にある」と述べました。
しかしながら日本が、イラン産原油をいつ、どのていど削減するの
かについては、言及を避けました。
その理由として、商品(原油)市場を、不安定にしかねない点を
挙げています。
これまでのところ日本の外務省は、イラン産原油の具体的な輸入
削減量について、アメリカに約束していません。
* * * * *
以上、3月1日〜7日までの動きについて、見てきました。
イランの国会議員選挙では、欧米にたいして強硬姿勢を示す、
最高指導者ハメネイ師の支持派が、議席の7割以上を占めて
大勝しました。
このためイランと、欧米やイスラエルとの緊張が、ますます高まっ
て行くことが心配です。
アメリカのオバマ大統領は、イランへの軍事行動を、極力控えよ
うとする姿勢を見せているので、その点はいちおう安心できます。
しかしアメリカ国内には、イラン攻撃への強硬論を煽りたてる者た
ちがいるので、
アメリカの世論が、オバマ大統領に同調するのかどうか心配です。
イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの核武装化について、
「イスラエルは、根気よく国際社会による外交的解決を待っていた
が、これ以上は待てない」と語りました。
この点が、今回のレポートで、いちばん心配に感じたところです。
玄場外相は、日本とアメリカの協議が、うまく進んでいると強調して
いますが、
日本への、「国防権限法」における「例外規定」の適用が、まだ正式
決定されないことに、私は疑問を感じます。
じつは裏で、話がこじれているのでは、ないでしょうか?
このように、イラン情勢をめぐっては、まだまだ安心できないところ
が多々あり、これからも注視していく必要があります。
目次へ トップページへ