ホルムズ海峡が封鎖? その5
2012年2月5日 寺岡克哉
EU(欧州連合)が、イランへの追加制裁を決定したので、ふたた
び緊張が高まってきました。
今回も引きつづき、イランをめぐる世界情勢について、見て行き
たいと思います。
* * * * *
1月27日。
IAEA(国際原子力機関)の天野理事局長は、
スイスで行われている「ダボス会議」のなかで、記者団にたいし、
「イランが、われわれに全てを話してくれることを求める」と述べて、
イランが核の軍事利用を進めていないかどうか、徹底した確認
を行う姿勢を示しました。
これに対して、国営イラン通信は、
核の平和利用を証明するために、イラン側がIAEAの調査団を
招いたと伝えています。
またこの日、ダボス会議に出席していた、イスラエルのバラク
国防相は、
「イランが核開発を止めるつもりがあるのかどうか、明確にさせ
なければならない」と述べて、
各国によるイランへの制裁を、さらに強化する必要があるという
考えを示しました。
同日。
アメリカの財務相は、
コーエン財務次官(テロ・金融犯罪担当)が、イギリス、ドイツ、
スイスを歴訪し、イラン産原油を対象とした経済制裁の進め方に
ついて協議すると発表しました。
制裁の効果を上げるために、各国との調整を図るとみられます。
* * * * *
1月29日。
IAEA(国際原子力機関)の調査団が、イランの首都テヘランに
到着しました。
調査団のメンバーは、査察部門責任者のナカーツ事務次長や、
グロッシ事務局長顧問らの高官をふくむ6人で、1月31日まで
イランに滞在します。
イランは今回、個別の核施設への査察には応じないもようで、
IAEAとは今後の査察の可能性について協議するだけにとどまる
とみられます。
そしてIAEAも、査察の実施には固執しない見通しです。EUに
よるイラン産原油の禁輸決定などで緊張が高まるなか、
「一段の事態悪化を避けたいとの思惑が欧米側に働いている」
との見方があります。
同日。
イランのサレヒ外相は、訪問先のエチオピアで記者会見し、
IAEAの調査団について、「要望すればどの核施設への査察
も許される」と明言しました。
また、「われわれは隠し立てすることはなく、今回の調査で疑問
は解消されるだろう」と述べ、
「(核交渉責任者をつとめる)ジャリリ最高安全保障委員会事務
局長が近く、EUのアシュトン外交安全保障上級代表に書簡を
送り、核協議の日時を詰める」と表明し、交渉再開に前向きな
姿勢を示しました。
サレヒ外相はまた、ホルムズ海峡について、
「すべての国の利益のため、われわれは安全を守る責任がある」
と発言し、
ラミヒ第1副大統領や、軍の高官らが警告していた、海峡封鎖の
可能性を否定しました。
同日。
イランのガセミ石油相は、
「イランは近く、数ヶ国にたいする原油の輸出をとりやめる」
と述べ、EU(欧州連合)への対抗措置を示しました。
同日。
イラン議会 エネルギー委員会の、エマド・ホセイニ委員は、
「どのような法案も策定されていないが、議員らは先制措置
として、EUへの原油輸出の禁止を検討している」と語りました。
また、イラン議会 安全保障・外交政策委員会の、モハメッド・
カリム・アベディ委員は、
「われわれは、イランにとっての脅威を機会に変え、5年間〜
15年間にわたって欧州へのイラン産原油の供給を停止する。
敵による制裁に対処しないままでいることはない。原油供給の
停止に加え、欧州にたいし他の措置も講じる」と語りました。
また、同 安全保障・外交政策委員会の、ホセイン・イブラヒミ
副委員長は、
「イラン産原油の禁輸を決定しながら、実施を6ヶ月間遅らせる
ことは、欧州の懸念を示している」と指摘しました。
EUは、イラン産原油への依存度が高いギリシャやイタリア、スペ
インが、調達先を変更する猶予を設けるために、禁輸の実施を7月
としています。
それに対してイラン側は、原油の輸出を即時に停止して猶予を
奪い、EUの混乱を誘うねらいです。
しかし現時点では、原油輸出の即時停止法案の審議が延期され、
採決をいつ行うのか明らかになっていません。
同日。
イラン石油省の、カレバニ次官は、
EU(欧州連合)によるイラン産原油の輸入禁止により、将来的
には原油の相場が、1バレルあたり120〜150ドルに上昇する
との見方を示しました。
同日。
アメリカのパネッタ国防長官は、CBSテレビに出演し、
イランの核兵器開発能力について、「(イランが)決断すれば、
1年ほどで原子爆弾を製造できるようになり、(弾頭をミサイルなど
の)何らかの運搬手段に載せるには、さらに1〜2年はかかるだろ
う」との見解を示しました。
その上で、「もし(イランが)核兵器開発を進めているとの情報を
入手すれば、阻止するために必要な手段をとる。あらゆる選択肢
を排除しない」と述べ、軍事行動も辞さない考えを強調しました。
パネッタ長官は、「アメリカはイランの核兵器開発を望まない。
超えてはならない一線だ」と述べて、イランの核武装阻止は、イス
ラエルと共通の目標であるとも語っています。
同日。
イスラエルを訪問した、山根外務副大臣は、
エルサレムで、リーベルマン外相らと会談しました。
イスラエル側からは、「(日本もイランからの)原油輸入を止める
措置は取れないか」との要請があったといいます。
それに対して、山根外務副大臣は、
日本のイラン産原油の輸入量は、過去5年間でおよそ40%減っ
ており、今後も削減に努めると説明して、イスラエル側に理解を
求めました。
* * * * *
1月30日。
インドのムカジー財務相は、
「インドにとって、イランは重要な国であり、原油の輸入を減らす
つもりはない」と述べて、
アメリカやEUによる、イラン産原油の禁輸措置には、従わない
方針を示しました。
インドの経済発展のためには、イラン産原油の輸入が不可欠だ
と強調しています。
また、複数のインド当局者が、
イラン産原油の支払いを、現行の米ドル建てから、インドのルピー
建てに変更することを、検討中であると明かしています。
インドは現在、イラン産原油の輸入代金を、トルコの金融機関を
通じて、米ドル建てで支払っていますが、
しかしアメリカの圧力により、このルートでの支払いが、できなく
なる可能性が出てきました。
インドの複数の当局者は、「原油代金の一部を、ルピーで支払え
ば、イランはインド産品の輸入代金として使える」と語っています。
同日。
OPEC(石油輸出国機構)の、バドリ事務局長は、
EU(欧州連合)による、イランへの制裁措置により、原油価格の
上昇圧力が増大するとの考えを示しました。
また、「EUによる制裁は、歓迎できない措置か?」という質問に
たいし、
「禁輸措置は、どのような国が相手であれ、対話を行うための
最善の方法ではない」として、
「いかなる問題でも、対話が解決に向けた唯一の手段となる」と
の考えを示しました。
OPECは12月の総会で、イラクをふくむ加盟12ヶ国の生産枠を、
日量3000万バレルとすることに決定しました。
しかし、サウジアラビアが供給量を削減しておらず、リビアの供給
量が回復していることから、現時点のOPEC全体の供給量は、日量
3060万バレルとなっています。
バドリ事務局長は、「世界のどこを見ても、供給不足はない」として
いますが、顕在化はしていないもののリスクは存在するとして、慎重
な見方も示しています。
* * * * *
1月31日。
イラン入りしていた、IAEA(国際原子力機関)の調査団の、3日間
にわたるイラン側との協議が終了しました。
イランの国営通信は、「IAEAとの協議は建設的に終わり、調査団
は夜にイランを発つ。イランとIAEAは引きつづき協議していくことで
合意した」と伝えました。
しかしながら、IAEA側はコメントしておらず、イラン側からどの程度
の協力が得られたのか不明です。
イランのサレヒ外相は、先日の1月29日に、「(IAEAが)要望すれ
ば、どの核施設への査察も許される」と明言しました。
しかしイランの国営通信は、「(IAEAの)調査団は、どの施設も
訪問しなかった」と伝えています。
経緯の詳細は報じられておらず、調査団が要求しなかったのか、
イラン側が拒否したのかは不明です。
同日。
アメリカのクラッパー国家情報長官は、上院の情報特別委員会が
開いた、脅威評価の年次公聴会で、
「2011年の駐米サウジアラビア大使暗殺計画が物語っているの
は、イランの最高指導者ハメネイ師をふくむ同国の当局者がこれま
での戦略を変え、イランの体制を脅かす現実の行動や考えられる
行動への対応として、アメリカでの攻撃実行に一段と積極的になっ
ていることだ」と指摘し、
イランの指導部が、アメリカに対するテロ攻撃などを行う意思を、
強めているという見方を明らかにしました。
本土あるいは海外での米国攻撃を支援することを、イランがどう
考えるかについては、
「サウジ大使暗殺計画で生じたコストをどのように評価している
のかや、イランに対するアメリカの脅威を、イランの指導者たちが
どのように認識しているのかによって形成されることになるだろう」
と述べています。
さらにクラッパー長官は、「イランは核兵器開発の選択肢を残して
いる」という指摘もしました。
ウラン濃縮技術の進歩により、「イランは核兵器を最終的に製造
する科学的、技術的、工業的な能力を持っている」と強調し、
ウランの濃縮度が90%に達すれば、イランの真剣度を示す危険
なサインであるという基準を示しました。
この公聴会ではまた、ペトレアスCIA(アメリカ中央情報局)長官
も証言し、
イランが核兵器の製造を決めたかどうか確認できていないとした
上で、
「ウランの濃縮度を現状の20%より上に高めれば、民間利用の
ためだという言い訳ができなくなり、核兵器製造の動かぬ証拠にな
る」と述べ、ウラン濃縮のレベルに注目していることを明らかにしま
した。
さらにペトレアス長官は、イランへの原油禁輸制裁に関して、中国
のイラン産原油の輸入量が減少したと指摘し、今後の動向について
注視していく方針を明らかにしました。
また、「サウジアラビアが原油を増産しているようだ」とも述べ、
サウジの増産分で、イラン産原油輸入国の需要の一部を、満たす
ことが可能であるとの見方を示しました。
同日。
ドイツのメルケル首相が、今週予定している中国の訪問中に、
イラン産原油の輸入を、中国が削減するように求める見通しで
あると、ドイツ政府筋が明らかにしました。
同1月31日。
安住財務相は、衆議院の予算委員会で、
イランからの原油の輸入について、「5年間で4割削減した。今後
も削減されていく方向」との認識を、あらためて示しました。
同日。
玄場外相は、記者会見で、
イランへの制裁をめぐる、2回目の日米実務者協議を、2月2日
にアメリカで行うと発表しました。
日本からは、外務省、財務省、経済産業省、金融庁の合同チーム
を派遣します。
玄場外相は、「日本とイランとの原油取引や、非原油取引につい
て説明し、例外規定の適用もふくめてアメリカ側と協議していく」
「今回の協議で、すべての結論が出るという簡単な話ではないが、
まとまるのは早い方がよい」
と述べて、制裁の発動時期をにらみながら、「例外規定」を日本に
適用するように、引きつづき求めていく考えを示しました。
* * * * *
2月1日。
イランのテヘランで3日間にわたる協議を終えた、IAEA(国際原子
力機関)の、ナカーツ調査団長は、
「われわれはすべての未解決問題を解決することに全力を尽くして
おり、イラン側も間違いなく全力を尽くしている。ただ、もちろん依然と
して多くの問題が残っており、近いうちにイランを訪問することを計画
している」と述べました。
「協議に満足しているか?」との質問にたいしては、「良い旅だった」
とだけ答えて、詳しい調査内容については明らかにしませんでした。
またこの日、IAEAは、
2月21日、22日の両日に、イランをふたたび訪問し、イラン当局
者と会談すると発表しました。
IAEAの天野事務局長は、
イランの核兵器開発の疑惑解明への、「進展が絶対に必要だ」と
述べ、協議の継続で事態解決をめざすと強調しました。
IAEAは、1月29日〜31日のイラン訪問における、調査の詳細を
明らかにしていませんが、
IAEAに近い外交筋は、天野事務局長の発言などをふまえ、実質
的な進展があったとは「想像しにくい」と指摘しています。
しかし、その一方で、
「進展があったからこそ、調査団は時を置かずに、イランを再訪
するのだ」という声もあります。
同2月1日。
アメリカの議員たちが、イラン制裁法に、アハマディネジャド大統
領と、最高指導者ハメネイ師への制裁を盛り込むことを検討して
いると、議会側近が明らかにしました。
議会側近によると、アハマディネジャド大統領らを、人権侵害者
に指定した上で、アメリカ国内に保有する資産を凍結したり、ビザ
の発給を拒否したりする案が、検討されています。
早ければ2月2日に、アメリカ上院の銀行住宅都市委員会で
決定される可能性があります。
同日。
中東を歴訪中の、パン・ギムン国連事務総長は、
エルサレムで、イスラエルのネタニヤフ首相と会談をしました。
中東和平や、イランの核問題について協議したと見られます。
* * * * *
2月2日。
アメリカ上院の、銀行住宅都市委員会は、
イランに、「核兵器開発と国際テロ支援をやめさせること」を目的
とする、新たな制裁法案を可決しました。
アメリカはすでに、日本などイラン産原油の輸入国を制裁の対象
とする「国防権限法」を成立させましたが、同委員会は「さらなる
制裁の拡大が必要」と判断しました。
このたびの新制裁法案は、イラン指導部の親衛隊である革命
防衛隊への経済制裁を強化し、同隊に物資を供給したり、取引を
行ったりする組織や人物にも対象を拡大しました。
また、イラン政府による民主化勢力への「人権侵害」を食い止め
るため、イランに催涙弾やゴム弾、通信傍受装置を提供する者に
も、アメリカ入国のビザ発給停止や、アメリカ国内の資産凍結など
が科せられます。
さらには、アメリカ政府にたいし、銀行間の国際的な資金決済
などを行う送金網からの、イラン中央銀行などの排除を目指すよう
に求める条項も含まれています。
追加制裁が成立した場合、邦銀などによるイランとの原油取引
の決済に、影響する可能性があります。
同日。
アメリカのワシントン・ポスト紙が、
「パネッタ米国防長官は、ことしの4月〜6月にも、イスラエルが
イランを攻撃する可能性が高いと分析している」と報道しました。
その理由について、「イスラエルは、イランが核兵器を作るのに
十分な量の高濃縮ウランの製造に成功し、地下深くの施設に運び
込む前に、攻撃が必要だと考えているからだ」としています。
ちなみに、イスラエル政府の当局者は、イランへの攻撃が行われ
る場合、戦闘は5日間ほどの短期的なもので、対象も限定的になる
という想定を、アメリカ政府に示しています。
なお、このワシントン・ポストの報道について、パネッタ長官と国防
総省は、ともにコメントを差し控えています。
同日。
イスラエル軍の情報機関トップをつとめる、アビブ・コハビ氏は、
イランは保有するウランをさらに濃縮することで、原子爆弾4発
の製造が可能であると指摘しました。
また、イランが原子爆弾の製造を決定した場合、およそ1年で
完成できるという見方を示しました。
コハビ氏は、イランが濃縮度3.5%のウランを4トン以上と、
濃縮度20%のウランを約100キロ保有しているとし、「4個の原子
爆弾を作るのに十分な量だ」と語っています。
ちなみに、原子爆弾の製造には、濃縮度90%以上のウランが
必要ですが、
専門家によると、濃縮度が20%にまで達していれば、90%の
濃縮はそう難しいことではないと言います。
またこの日、イスラエルのバラク国防相は、
「経済制裁が(イランの)核開発を止めることが出来なければ、
措置を検討する必要があるだろう」と述べています。
同日。
中国を訪問している、ドイツのメルケル首相は、
イランに核開発プログラムを断念させるため、中国に影響力を
行使するように求めました。
メルケル首相は、胡錦濤国家主席や温家宝首相と、イラン制裁
について「長時間の議論」を行ったとした上で、
「イランに対する欧州の制裁に関して言えば、核兵器を保有する
国が、これ以上誕生してはならないことをイランに理解させるため、
中国がいかにイランに対する影響力を行使できるかが問題だ」と
語りました。
これに対して、温家宝首相は、
核兵器開発の疑惑が深まるイランについて、「対話を支持する」
と述べ、制裁の強化には慎重な考えであることを強調しました。
また、「中東のいかなる国の核兵器開発も指示しない」と述べて、
イスラエルの核兵器保有疑惑に、批判の矛先を向けました。
* * * * *
以上、
1月27日〜2月2日までの動きについて、見てきました。
すごく期待されていた、IAEA調査団のイラン訪問ですが、いざ
蓋(ふた)を開けてみると、
「調査があまり旨く行かなかったのではないか?」という印象が、
どうしても残ってしまいました。
ところで!
アメリカの情報機関は、イランによるテロや核兵器開発の脅威
について、かなり強調するようになってきました。
そしてアメリカ議会は、新たな制裁法案を可決して、イランへの
締め付けをどんどん厳しくしています。
また、イスラエルでは「イラン攻撃」への意思が、ますます強く
なって来ています。
このままでは、イランが望む、望まないにかかわらず、
「軍事的な衝突」へと発展していく可能性が、刻一刻と高まって
いるように感じます。
目次へ トップページへ