北海道でもセシウム汚染?
                           2011年11月27日 寺岡克哉


 11月14日。

 米宇宙研究大学連合など、日米欧の共同研究チームは、

 北海道から西日本にかけた広い範囲で、セシウム137が
沈着している可能性があるという、「シミュレーション結果」
をまとめ、

 「米国科学アカデミー紀要」の Early Edition 版に発表しま
した。



 その、シミュレーションで見積もられた、セシウム137の
汚染濃度は、

 西日本では幸いなことに、土壌1キログラムあたり、25
ベクレルていどの低い値でした。



 ところが!

 北海道の東部、知床半島の南に広がる、タンチョウヅル
の繁殖地でも有名な、根釧(こんせん)台地では、

 土壌1キログラムあたり、100〜250ベクレルという、
けっこう高い数値になっていたのです。



 研究者の話によると、北海道東部の根釧台地は、

 4月に入ってから吹いた、南西から北東に向かう風の、通り
道になったのに加え、

 あまり高い山がなく、さえぎるものが無かったために、

 セシウム137の沈着量が、比較的多い結果になったとのこと
です。



 ところで、このシミュレーション結果で、

 道東の根釧台地と、おなじ数値(つまり100〜250ベクレル
/キログラム)になっていたのは、

 たとえば東京や千葉などの「首都圏」ですが、この地域では、

 局所的に1〜4マイクロシーベルト/時 もの放射線量になっ
ている場所、つまり「ミニ・ホットスポット」が、多数発見されて
います。

(1〜4マイクロシーベルト/時 というのは、1年間の被ばく
線量に換算すると、8.8〜35.0ミリシーベルトになります。)



 また、たとえば静岡県のシミュレーション結果は、

 100ベクレル/キログラム 以下、つまり北海道の東部より
低い値になっていますが、

 しかしそれでも、

 静岡県の「製茶」から、国の基準値を超えるセシウムが検出
されたのです。



 このように見てくると、(もしもシミュレーションの結果が正しい
なら)

 北海道東部のセシウム汚染は、かなり深刻なものであり、

 (とくに北海道に住む私には)とても心配になってきます。


          * * * * *


 さて、

 平成23年11月15日付けの、日本語版プレリリース。

 「福島原発から放出されたセシウム137の日本全国への
沈着量及び土壌中濃度の見積もり −沈着は広範囲で、
特に地形効果により沈着量は場所により大きく異なることが
判明− 」 によると、

 このたびのシミュレーションは、

 米宇宙研究大学連合、ノルウェー大気研究所、東京大学、
名古屋大学の、

 (ボランティア的な)「国際共同研究」として行われました。



 そのシミュレーションとは、

 ノルウェーの研究グループによって開発された、大気輸送
モデル(1辺がおよそ20キロの格子サイズ)と、

 ヨーロッパ中期予報センターによる、地球規模の気象データ
および、

 文部科学省により、全国都道府県で毎日観測が行われた、
定時降下物のセシウム137日沈着量のデータを、

 組み合わせたものです。



 このシミュレーションから得られた結果として、

 3月20日から4月19日の解析期間において、日本列島に
沈着したセシウム137の合計量は、

 「1ペタベクレル以上」と見積もられました。(ペタは、1015
で、1000兆のこと。)



 また、

 セシウム137の汚染は、福島周辺域にとくに広がっており、

 これまでの文部科学省による観測結果等(たとえば航空機に
よるモニタリングなどの”実際の観測”)と、

 整合的(つまり、およそ一致している)結果が得られています。



 しかし、さらには、

 福島周辺にくらべ、原発からのセシウムの輸送量自体は
相対的に少ないものの、

 セシウム137は、北日本や西日本へまで輸送され沈着
している可能性があることが明らかとなった


 と、しています。



 なお、このたびの研究結果は、

 数値シミュレーションの相対沈着比と、定時降下物の観測
値を使って、絶対値へ換算したものであり、

 広域において、観測値を比較的よく反映した汚染分布に、
なっていると考えられます。



 が、しかし、

 単一の大気輸送モデルの空間沈着分布に頼っていること。

 水平解像度が緯度経度0.2度(1辺およそ20キロ)で、それ
より細かい議論は一切できないこと。

 福島原発に近い場所の観測データが無く、また欠測日もある
こと。

 モデル自体の不確定要素や、観測値における誤差などもある
こと。



 以上のことなどから、

 このたびの研究結果は、日本全国各地の汚染状況を、
直ちに保障するものではありません。


 この研究結果は、現在まだセシウム137の土壌観測が行わ
れていない地域における、今後の詳細観測計画の検討や、

 すでに詳細観測が得られている地域のデータ(航空機観測
や土壌観測など)と、比較するための基礎資料としてのみ使用
可能であり、

 それ以上の議論をすることを目的としていません。



 そのため、

 このたびの研究結果のみを信じて、風評被害を生むよう
な間違った使い方は決してされないように


 と、非常につよく、注意を喚起しています。


           * * * * *


 上の研究結果を受けて、北海道は11月16日と17日。

 シミュレーションにより、セシウム137の汚染濃度が高いと
された、

 北海道東部の根室市、別海町、浜中町の3ヶ所で、土を採取
して調査をしました。



 北海道農政部が、平成23年11月21日に公表した、

 「道東地域の土壌における放射性物質モニタリング調査
(補完調査)結果について」

 によると、セシウム137の測定値は、以下のようになって
います。



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市町村名    調査場所     土壌採取日  セシウム137
                              (Bq/Kg乾土)


根室市   北海道立北方4島  11月16日    不検出
         交流センター               (6.5)

別海町   根室農業改良     11月16日    不検出
      普及センター本所               (5.5)

浜中町  釧路農業改良普及   11月17日    17.9
     センター釧路東部支所             (6.6)


※ ( )内の数値は検出限界。

※ 各農業試験場の農地から採取し、北海道立衛生研究所
  で11月17〜18日に分析。
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 上の調査結果について、北海道農政部は、

 「いずれの場所でも、放射性セシウム137は過去3年の
環境放射能水準調査結果と同水準で、異常は確認されま
せんでした。」

 「値はND〜17.9ベクレル/Kgと、宇宙研究大学連合の
研究チームが行ったシミュレーション結果、100〜250ベク
レル/Kgを大幅に下回りました。」

 と、結論しています。


           * * * * *


 以上、ここまでについて、私は思うのですが・・・


 道東地域における土壌の補完調査で、異常が確認されな
かったのは、たしかに嬉しいニュースです。

 しかしながら、

 とても広い道東なのに、「たった3ヶ所」しか調査していな
いのは、

 なんとも心もとない感じがします。



 私は、シミュレーションの結果だけを、とくに信じているわけ
ではありませんが、

 放射能汚染には、「ホット・スポット」のような「ムラ」が存在
することが、すでに判明しています。

 だから、上の3ヶ所の「点観測的な調査」だけでは、

 たまたま、その場所が汚染していなかっただけで、ほかの
場所では汚染しているかも知れない可能性を、

 完全には払拭(ふっしょく)できないように思えます。



 そのため、上の3ヶ所の調査だけでは、

 日本全国の人々や、さらには世界中の人々に、

 「北海道では、福島第1原発事故による放射能汚染の心配
は無い!」

 と、心から納得してもらい、十分に信頼してもらい、まったく
安心してもらうことは、

 おそらく相当に難しいのではないかと感じます。



 なので私は、せめて道東地域だけでも、

 文部科学省による「航空機モニタリング」のような、
「面観測的な調査」を、

 ぜひとも行うべきであると、ここに提言します!




 それによって、

 「北海道の東部では、シミュレーションの方が違っていた」

 という結果になれば、これほど嬉しいことはありません。



 北海道は、日本の食糧基地となっています。

 なので、「放射能汚染にたいする疑念」は、

 完全の上にも、完全を重ねて、晴らして行くべきだと思い
ます。



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