心の理想状態 2003年2月9日 寺岡克哉
私は、自分のことを気難しい人間だと思っています。
だから、何とかして心を安定させたいと、いつも思っています。しかし、なかなか思
うように行かないのが現実です。
心の状態が良い時もあれば、悪い時もあります。強気の時もあれば、弱気の時も
あります。
そして、色々な思考や判断も、その時々の心の状態に引きずられてしまいます。
自己否定に陥っている時は、「生きることに意味は無い!」などと思ってしまうの
に、心が喜びに満ちている時は、「生きることは最高だ!」などと思ってしまいます。
心が怒りや憎しみに駆られている時は、「どうやって、あの人間や世間に復讐し
てやろうか」などと考えてしまいます。
心が愛と優しさに満ちている時は、世の中の全てが大好きになり、全てを赦したく
なってしまいます。
心の状態が正常でなければ、正しい思考や正しい判断は、なかなか出来ないも
のです。
そして心が悪ければ、いくら知識や経験を積んでも、それを悪いことに使ってし
まいます。世界で最高の知識も技術も、悪人に利用されたら最悪です。
正しい思考や判断を導く、理想的な心の状態とはどのようなものか? それを私
は、探し求めています。
絶対に確信の持てる「心の理想状態」というのを、つかみ切った訳ではありません
が、現在の私が思っている「心の理想状態」について、お話してみたいと思います。
まずはじめに、「最悪の心の状態」というのを考えてみます。それから順番に、「そ
れよりは良いと思われる心の状態」というのを考えて行き、「心の理想状態」に迫っ
て行きたいと思います。
(心の状態の「順位」には異論があるかも知れませんが、取り合えず私の思って
いる順位をつけることにします。)
1.自己否定。
私は、これが「最悪の心の状態」だと思っています。
失恋をした時。ひどい”いじめ”に合った時。受験に失敗した時。会社が倒産した
り、リストラされた時。子供や、愛する人と死別した時などに、自己否定に陥ってし
まうことがあります。
自己否定に陥ると、何もやる気が起きなくなってしまいます。生きる意味が分から
なくなり、生きる希望もなくなってしまいます。
「生きる力」そのものを根本から喪失させてしまうので、私は、自己否定が「最悪
の心の状態」だと考えています。
2.不安や恐怖。
例えば、借金の返済に行き詰っている時。ストーカーや脅迫などを受けて、身の
危険が脅かされている時。地震、洪水、火事、戦争などの災害に巻き込まれた時
などに感じる不安や恐怖です。
このように、極度の不安や恐怖に駆られてしまったら、正常な思考や判断が出来
なくなってしまいます。出来ることなら、一生感じたくない心の状態です。
3.怒りや憎悪。
これは、前の二つよりも、積極的な心の状態です。生きるエネルギーが存在する
だけ、自己否定よりはましな状態だと思います。
しかし怒りや憎悪に駆られると、思考も悪いものになってしまいます。他人を打ち
負かすことや、出し抜くこと、仕返しをすることなどに、思考が傾いてしまいます。
そして最悪の場合には、殺傷事件などの犯罪に発展してしまう場合もあります。
戦争や紛争が起きるのも、怒りや憎悪が原因です。
怒りや憎悪は、自分にとっては積極性を発揮する心の状態です。しかし、他人に
害悪を及ぼしてしまいます。だから客観的にみた場合(全体の平和を考えた場合)
は、いちばんに戒めるべき心の状態です。
4.欲望や競争心。
世の中を動かしている動機のほとんどがこれです。
金や物に対する欲望、異性に対する欲望、地位や権力に対する欲望・・・。
これらの欲望を満たすために、競争心が起こります。受験競争や出世競争、ス
ポーツ競技なども、金や名誉や地位を得るための競争です。
適切な欲望や競争心は、自分を成長させ、社会を発展させます。つまり、適度な
欲望や競争心は、生命を発展させる原動力として働きます。しかしそれも度を過
ぎると、害悪になってしまいます。
欲望や競争心に駆られて怒りや憎しみを増長させ、争いや犯罪に発展する場合
が本当に多いと思います。
そしてまた、現代社会は、欲望や競争心を煽り立て過ぎるように思います。それ
に振り回されて、多くの人が苦しんでいます。
極度のストレス。ノイローゼ。燃え尽き症候群。絶え間ない焦燥や不安。過労死
や過労自殺など、これらは、欲望や競争心に煽り立てられて、仕事のノルマを増
やし過ぎるのが原因です。
5.強い愛。
恋愛、国家への愛、神への愛などの「強い愛」は、最高の幸福感を感じさせてく
れます。生きる意義や生き甲斐を強く実感し、心の状態としては「最高の状態」で
す。
「生きることは素晴らしい!」
「生きることは最高だ!」
「生きていて良かった!」
と、心の底から実感させてくれるのが、「強い愛」です。
強い愛は、時として「死」をも乗り越えてしまいます。そして、崇高な感じを人々に
与えます。しかしこれも度を過ぎると、盲目的になり、理性が働かなくなってしまい
ます。
強い愛は、価値観を狭くして排他的になる傾向があります。それが嵩じて他者を
暴力で排斥するようになったら、大変な悲劇を生んでしまいます。「強い愛」は、大
変に危険な要素も含んでいるのです。
だから私は、最高に強い愛を感じる状態が、「心の理想状態」だとは考えていま
せん。
6.自己滅却。
座禅を組んで思考を停止させると、大変に安らかな心の状態になります。トレー
ニングを積めば、根源的な苦(エッセイ16)さえも滅却することが出来ます。
そうすると、恐れや不安が完全に消滅し、「根源的な安らぎ」を感じることが出来
ます。この状態は、かなり「心の理想状態」に近い感じがします。
しかし、これも度を過ぎると、自分や外界に対する「無関心」が起こってきます。恐
れや不安が消滅する反面、何もする気が起きなくなるのです。
以下に、私が個人的に得た実感を、少し大げさに表現してみます。
まずはじめに、瞑想が深くなって行くと手足の感覚が無くなり、自分の体が消滅し
たような感じになります。
さらに瞑想が深くなると、自分の意識が存在しているのか、存在していないのか、
分からなくなる感じがします。
そして世の中の全ても、存在しているのか、存在していないのか、分からなくなる
気がします。
だから、自分が生きても死んでも、世界が存在しても消滅しても、どうでもよく感
じてしまうのです。
このようになってしまったら、「心の理想状態」とはとても言えません。
7.心の理想状態。
全ての極端は、全て害悪です。
「最高の愛」を求めるあまり、盲目的で非理性的になってはいけません。
「完全な安らぎ」を求めるあまり、全てに無関心になってはいけません。
心の状態が高くなりすぎても、低くなりすぎても、正しい思考や判断は出来ないの
です。
私は、完全に心が落ち着いた状態よりも少し高揚し、しかもリラックス出来ている
状態が、「心の理想状態」ではないかと考えています。
優しく、暖かく、穏やかで、安らいでいる状態。
しかし、自分や外界に対して無関心ではなく、理性が良く働き、頭は冴えていて、
周囲の状況が良く把握できている状態。
そして、困っている人や苦しんでいる人がいたら、躊躇なく手をさしのべることが
出来る状態。
そのような状態が、「心の理想状態」なのだろうと思います。
以上のように、「心の理想状態」を頭では分かったつもりになって来たのですが、
その状態をなかなか実現出来ないのが、今の私の現状です。
今後トレーニングを重ねて、少しでも自分の心を理想状態に近づけて行きたいと
考えています。
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