キセノンが1670万テラベクレル!
2011年11月13日 寺岡克哉
10月27日。
ノルウェー大気研究所は、福島第1原発の事故によって、
1670万テラベクレルの「キセノン133」が、大気中に放出
された
という論文を、大気物理化学の専門誌に発表しました。
今年の6月に、原子力安全・保安院は、
キセノン133の放出量を、1100万テラベクレルと発表していま
したから、
ノルウェー大気研究所による、このたびの発表は、その1.5倍
の数値となります。
(※出典:平成23年6月6日付け原子力安全・保安院、「東京電力
株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号機及び
3号機の炉心の状態に関する評価について」の13ページ目)
ちなみに10月27日付けの、ブルームバーグの記事、
「福島セシウム137放出3万5800テラベクレル、政府発表の
2倍超か(1)」 では、
ノルウェー大気研究所の発表値を、1670テラベクレル(万が
抜け落ちている)、
原子力安全・保安院の発表値を、1100万ベクレル(テラが抜け
落ちている)
と、報道されており、インターネットではそれらの数値が飛び交っ
ていますが、上記のように間違っています。
ところで、近年(2006年ころ)までに得られている分析結果を
みると、
チェルノブイリ原発事故によって、放出されたキセノン133の
量は、650万テラベクレルとなっています。
これと、ノルウェー大気研究所の発表値(1670万テラベクレル)
を比較すると、
福島第1原発の事故によって、放出されたキセノン133の
量は、
チェルノブイリ原発事故の、2.6倍にもなります!
* * * * *
このように、ノルウェー大気研究所による発表値は、ものすごく
衝撃的なものですが、
しかし日本の報道では、キセノン133の放出量について、
まったくと言っていいほど触れられておらず、
また、唯一そのことに触れていたブルームバークの記事でも、
数値があまり明確でなかったので、
インターネットに公表されている、原論文のアブストラクト(要約)
に、目を通してみることにしました。
まず、論文の題名と掲載先は、以下のようになっています。
Xenon-133 and caesium-137 releases into the atmosphere from
the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant: determination of the
source thrm, atomospheric dispersion, and deposition
Atmos. Chem. Phys. Discuss., 11, 28319-28394, 2011
www.atmos-chem-phys-discuss.net/11/28319/2011/
この論文のアブストラクト(要約)によると、
キセノン133に関しては、放出された総量が1670万テラベクレル
(誤差範囲は1340万〜2000万テラベクレル)であり、
核実験を除けば、放射性希ガスの放出としては、歴史上最大だと
しています。
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※原文
Regarding 133Xe, we find a total release of 16.7(uncertainty range
13.4-20.0)EBq, which is the largest radioactive noble gas release
in history not associated with muclear bomb testing.
※訳注
EBq(エクサベクレル)は、1018ベクレルで、100万テラベクレル
のことです。
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上の原文によって、
ノルウェー大気研究所の発表値は、16.7エクサベクレル
つまり、1670万テラベクレルであることが確認できました。
(なお、上の数値を求めるにあたって)、
(事故発生から)4月20日までに放出された、放射性核種(つま
りキセノン133)の量については、
核燃料の状態と、事故の報告書を基にして、まず「最初の推定
値」を得ました。
(しかしさらに)この「最初の推定値」は、その後、
日本、北アメリカ、その他の地域にある、数十(several dozen)の
観測所からの測定データを加えることにより、
改善されたとしています。
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※原文
To determine radionuclide emissions as a function of height and
time until 20 April, we mede a first guess of release rates based
on fuel inventories and documented accident event at the site.
This first guess was subsequently improved by inverse modeling,
which combined the first guess with the results of an atmospheric
transport model, FLEXPART, and measurement deta from several
dozen stations in Japan, North America and other regions.
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ところで一方、
セシウム137の総放出量は、3万5800テラベクレル(誤差範囲
は2万3300〜5万100テラベクレル)であり、
チェルノブイリ原発事故によって放出された量の、およそ42%
だとしています。
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※原文
For 137Cs, the inversion results give a total emission of 35.8 (23.3
-50.1) PBq, or about 42% of the estimated Chernobyl emission.
※訳注
PBq(ペタベクレル)は、1015ベクレルで、1000テラベクレル
のことです。
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今年の6月に、原子力安全・保安院は、
セシウム137の放出量を、1万5000テラベクレルと発表して
いましたから、
ノルウェー大気研究所による発表値は、その2.4倍になってい
ます。
(※出典:平成23年6月6日付け原子力安全・保安院、「東京電力
株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号機及び
3号機の炉心の状態に関する評価について」の13ページ目)
また、全体的に見て、
6.4テラベクレル(おそらく6.4ペタベクレルの間違い)のセシ
ウム137、または4月20日までの放射性降下物全体の19%が、
日本の陸地に沈着し、
残りの大部分は、北太平洋に落ちたと見積もられます。
わずか0.7テラベクレル(おそらく0.7ペタベクレルの間違い)、
または放射性降下物全体の2%が、日本以外の陸地に沈着した。
と、しています。
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※原文
Altogether, we estimate that 6.4 TBq of 137Cs, or 19% of the
total fallout until 20 April, were deposited over Japanese land
areas, while most of the rest fell over the North Pacific Ocean.
Only 0.7 TBq, or 2% of the total fallout were deposited on land
areas other than Japan.
※訳注
原文の”the total fallout until 20 April”というのが、おもに、
放出された3万5800テラベクレル(つまり35.8ペタベクレル)
のセシウム137を指しているならば、
その19%は6.8ペタベクレル、その2%は0.7ペタベクレル
となります。
なので、原文の”6.4 TBq”や、”0.7 TBq”という数値は、あまり
にも小さ過ぎるように思えます。
また、文部科学省による「航空機モニタリング」のデータを見て
も、日本の国土に沈着したセシウム137の総量が、6.4テラ
ベクレルというのは、あまりにも小さすぎます。
少なくても、ざっと数千テラベクレル(つまり数ペタベクレル)
くらいは、日本の国土に沈着していそうです。
さらには国立環境研究所による、平成23年8月25日付けの
記者発表をみると、
福島第1原発から放出されたセシウム137の22%が、日本
の陸地に沈着したとなっています。
ここで仮に、セシウム137の放出量として35.8ペタベクレル
を使えば、日本の陸地に沈着した量は7.9ペタベクレルとなり
ます。
以上の考察から、原文の”6.4 TBq”や、”0.7 TBq”というのは、
おそらく”6.4 PBq”や、”0.7 PBq”の、記述間違いであると思われ
ます。
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今回のレポートを書いていて、私の感じたことですが・・・
原論文では、(たとえば題名を見て頂ければ分かりますよう
に)「キセノン133」のことが、まず先に記述されており、
「核実験を除けば、放射性希ガスの放出としては、歴史上
最大である」と、かなり重大に扱われています。
ところが日本における報道では、
キセノン133の放出量について、まったく触れていなかったり、
不正確な記述であったりと、
あまりにも軽々しく、いい加減にしか扱われていません。
そのことに私は、ものすごく大きな「疑惑」を持ちました!
キセノン133という放射性物質は、「核実験」が行われると
放出されますし、
もちろん、「核戦争」や「原発事故」が起こっても放出されます。
だから「キセノン133」は、
世界の国々によって、ものすごく厳重に「監視(モニター)」され
ている、放射性物質なのです。
それなのに、
(原子力安全・保安院が、1100万テラベクレルという数値を
発表したときもそうですが)、
日本の報道機関における、あまりにも不可解なほどの消極的
な態度をみると、
この国は、よほどキセノン133の放出量を、
国民の目から遠ざけておきたいのだと思えてなりません!
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