セシウムについて
                         2011年10月23日 寺岡克哉


 前回の最後に、ちょっとだけ触れましたが、

 福島の原発事故で、すごく大量の「放射性セシウム」が、

 とても広い範囲に降ってしまいました。



 だから、

 雨水の作用などで「セシウムの濃縮」が起こると、

 東京などの、福島第1原発から遠く離れた場所であっても、

 局所的には、被曝量が問題になるほどの、高い線量に
なる恐れがあります!




 そんな心配をしていた矢先の、10月17日。

 東京都の足立区で、3.99マイクロシーベルト/時 もの、
高い線量が測定されました。

 場所は、小学校のプールの機械室の、「雨どいの下」だった
と言います。

 この、3.99マイクロシーベルト/時 を、1年間の線量に換算
すると、

 およそ35ミリシーベルトにもなります。(3.99×24×365
=34952マイクロシーベルト)

 これは、

 避難の基準になっている、年間20ミリシーベルトを超える
線量です!




 さらには、10月20日。

 千葉県 松戸市の、共産党市議団が、松戸市内の公園、民家、
保育園など144ヶ所での、空間線量の測定結果を発表しました。

 それによると、

 最高値は、7.0マイクロシーベルト/時 で、農業用のビニール
ハウスのそばで測定されたといいます。

 公園の「砂場」でも、3.42マイクロシーベルト/時 という高い
線量が測定されました。

 また、144ヶ所のうち37ヶ所で、1マイクロシーベルト/時 以上
の値が測定されています。



 おなじく、10月20日。

 岩手県の一関市は、市内の小中学校などで一斉に実施した、
線量測定の結果を公表しました。

 それによると、

 138の施設のうち、92の施設で、1マイクロシーベルト/時 
以上の値が測定されました。

 その中でも、4つの施設では、測定器の限界である10マイクロ
シーベルト/時 を、超えていた
といいます。

 測定限界を超えていたので、本当はどれくらいの線量だったの
か分かりませんが、

 仮に、10マイクロシーベルト/時 を、1年間の線量に換算
すると、87.6ミリシーベルトにもなります。(10×24×365
=87600マイクロシーベルト)

 一関市は、福島第1原発から、およそ170キロも離れており、
そのような遠い場所で、こんなに高い線量が測定されるとは、
たいへんな驚きです。


            * * * * *


 以上のように、

 雨どいの下、あるいは側溝や、排水口、砂場など、

 局所的に高い線量になっている場所を、「ミニ・ホットスポット」
と呼んでいます。



 たとえば、避難が必要な基準とされている、

 1年間に20ミリシーベルト以上の線量を問題にするならば、

 2.28マイクロシーベルト/時 以上の、ミニ・ホットスポット
が問題になるでしょう。

 (20000/365/24=2.28マイクロシーベルト)



 また、

 子供の場合は、大人にくらべて4倍も強く、放射線の悪影響
を受けると言われているので、

 1年間に5ミリシーベルト(大人の年間20ミリシーベルトに
相当)以上の線量を問題とするなら、

 0.57マイクロシーベルト/時 以上の、ミニ・ホットスポット
が問題となります。

 (5000/365/24=0.57マイクロシーベルト)



 東京を含めた、「首都圏」という日本の人口密集地帯・・・

 さらには関東や東北など、ものすごく広大な範囲・・・

 そのような人口密集地や、広大な範囲において、「ミニ・ホット
スポット」が、あちらこちらに存在していると、

 多くの人々が、知らないうちに被曝してしまう恐れがあり、

 とても大きな問題です!



 このような「ミニ・ホットスポット」は、

 おそらく雨水などの作用により、「放射性セシウムの濃縮」が
起こって、発生するのだと思います。



 なので次に、

 原発事故で大量に放出された「放射性セシウム」について、

 いろいろと見て行きましょう。


             * * * * *


 まず、原子力安全・保安院の分析によると、

 福島第1原発から、大気中へ放出された、放射性セシウム
(セシウム134と137)の量は、

 以下のようになっています。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   核種       3月11〜16日までに大気中へ放出した量(ベクレル)


セシウム134      1.8×1016     18000000000000000
セシウム137      1.5×1016     15000000000000000

※参考データ
ストロンチウム89    2.0×1015      2000000000000000
ストロンチウム90    1.4×1014       140000000000000
プルトニウム238    1.9×1010           19000000000
プルトニウム239    3.2×109             3200000000
プルトニウム240    3.2×109             3200000000


※参考資料: 平成23年6月6日付け、原子力安全・保安院。

 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号
機及び3号機の炉心の状態に関する評価について (13ページ目)」より
抜粋。
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 この表をみると、セシウム134や、セシウム137は、

 以前にレポートした、プルトニウムや、ストロンチウムにくらべて、

 ケタ違いに、大量に放出されたのが分かります。


            * * * * *


 また、文部科学省の分析によると、

 福島第1原発から80キロの圏内で、それぞれの核種が土壌に
沈着した量の、

 最高値が検出された場所における、
50年間の積算被曝量
は、以下のようになっています。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     核種             50年間の積算被曝量

 プルトニウム238        0.027   ミリシーベルト
 プルトニウム239+240    0.12    ミリシーベルト

 ストロンチウム89        0.00061 ミリシーベルト
 ストロンチウム90        0.12    ミリシーベルト

 セシウム134          71      ミリシーベルト
 セシウム137        2000      ミリシーベルト


※参考資料: 平成23年9月30日付け、文部科学省。

 「文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種
 分析の結果について」
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 この表をみると、

 やはりセシウムは、プルトニウムやストロンチウムにくらべて、

 ケタ違いに大きな値になっています。



 しかし、それにしても、

 セシウム137の、50年間の積算被曝量が、2000ミリ
シーベルト


 というのは、いくら「最高値」だと言っても、ほんとうに大きな
数値です。



 その土地には、

 おそらく150年くらい、人が住むことは出来ないでしょう。

 それほどセシウム137による汚染は、ものすごく深刻な問題
だといえます。


            * * * * *


 食品の汚染や、除染の問題など、

 今後いろいろと、長い付き合いになっていく「セシウム」について、

 (今までより少し詳しく)物理的な特性を、まとめておきました。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         セシウム134  半減期 2.062年

    出す放射線     エネルギー(MeV)    頻度(%)

     ベータ線        0.0886        27.3
     ベータ線        0.415          2.51
     ベータ線        0.658         70.2

     ガンマ線        0.563          8.4
     ガンマ線        0.569         15.4
     ガンマ線        0.605         97.6
     ガンマ線        0.796         85.5
     ガンマ線        0.802          8.69
     ガンマ線        1.365          3.0


        セシウム137  半減期 30.1671年

    出す放射線     エネルギー(MeV)    頻度(%)

     ベータ線        0.514         94.4
     ベータ線        1.18           5.6

     ガンマ線        0.0321         5.8
     ガンマ線        0.0365         1.3
     ガンマ線        0.662         85.1


※エネルギーの単位MeVは、メガエレクトロンボルト(百万電子
 ボルト)
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 じつは・・・

 放射性セシウムは、ベータ線(電子)のほかに、ガンマ線(光子)
も出します。

 もうすこし詳しく言うと、

 放射性セシウムが崩壊すると出来る、放射性のバリウムや
キセノンからも、ガンマ線が出てきます。

 しかし、とにかく、

 セシウム134やセシウム137が存在すれば、ベータ線のほか
に、ガンマ線も出てくるわけです。



 ちなみに、

 放射性セシウムが出す「ベータ線」は、空気中を、せいぜい
4メートルほどしか透過できません。

 しかし一方、「ガンマ線」は、空気中を何百メートルも透過し
ます。

 このため、

 地表に沈着したセシウムを、高い上空から「飛行機」によって、
ひろい範囲で測定できたわけです。(航空機モニタリング)



 被曝の観点から言うと、

 セシウムの「ベータ線」は、空気中を4メートルほど、人体だと
5ミリほどしか透過できませんので、おもに「内部被曝」によって
悪影響を及ぼします。

 一方、セシウムの「ガンマ線」は、空気も人体も透過してしまう
ので、おもに「外部被曝」(空間線量による被曝)として悪影響を
及ぼします。



 ところで上の表によると、

 セシウム134の、ガンマ線の頻度の合計が、219%ほどに
なっています。

 これは、1個のセシウム134原子核が崩壊すれば、その結果
として、平均で2個ほどのガンマ線が出ることを意味します。



 放射性セシウムが、原発から放出された当初は、

 セシウム134と、セシウム137は、大体おなじ量(おなじベクレ
ル量)で含まれています。
 (つまり1秒間に崩壊する、セシウム134原子核の数と、セシウ
ム137原子核の数が同じ。)

 しかしセシウム134は、半減期が2年ほどなので、2年もすれ
ば半分に減ります。

 そして、セシウム134原子核が1つ崩壊すると、2個のガンマ線
が出ることも考慮すれば、

 4年ほど経つと、放射性セシウムによるガンマ線の量(つまり
空間線量)は、半分に減ると考えられます。


            * * * * *


 ここで、セシウムの「実効線量係数」についても、確認して
おきましょう


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       緊急時に考慮するべき放射性核種に対する実効線量係数

              経口摂取           吸入摂取
          ミリシーベルト/ベクレル  ミリシーベルト/ベクレル

セシウム134    1.9×10−5         2.0×10−5
セシウム137    1.3×10−5         3.9×10−5


※参考データ
ストロンチウム89  2.6×10−6        7.9×10−6
ストロンチウム90  2.8×10−5        1.6×10−4
プルトニウム238  2.3×10−4        1.1×10−1
プルトニウム239  2.5×10−4        1.2×10−1


※「実効線量係数」とは、1ベクレルの放射性物質を体内に取り
 込んだ場合に、どれくらいの内部被曝量になるのかを、換算
 するための係数です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 この表をみると、放射性セシウムの実効線量係数は、ストロン
チウム90や、プルトニウム238や239より小さいけれど、

 いちばん最初の表で示したように、大気中へ放出した量が、
ケタ違いに大きいです。

 そのため、2番目の表で示したように、セシウムによる被曝量
も、ケタ違いに大きくなっています。



 なので、

 やはり「セシウム」は、いちばん警戒しなければならない

 放射性物質であることに、間違いありません!




 また、セシウムの「化学的性質」は、

 生物にとって重要な元素である「カリウム」に、似ていると言わ
れます。

 体内に入ると全身に分布し、およそ10%はすみやかに排泄
されますが、残りは100日以上滞留します。



 ちなみに、食品における放射性セシウムの暫定基準は、

 野菜類、穀類、肉、卵、魚、その他で、1キログラムあたり
500ベクレル
です。



 上の表の、「経口摂取」による実効線量係数で、

 放射性セシウムでも数値が大きい方の、セシウム134の値を
つかって見積もると、

 暫定基準ギリギリの食品を、1キログラム食べた場合、

 0.0095ミリシーベルトの内部被曝量になります。

 (500×1.9×0.00001=0.0095)



 さらにまた、

 暫定基準ギリギリの食品を、毎日1キログラム食べ続けたと
すると、

 1年間で、およそ3.5ミリシーベルトの内部被曝量になります。

 (0.0095×365=3.47)


             * * * * *


 以上のように、

 もう皆さんも、十分に承知していることだと思いますが、

 放射性セシウムは、なんと言っても「放出量が莫大」です。

 そしてセシウム137の場合、その半減期は、およそ30年
もの長さです。



 なので、

 広範囲の土壌汚染や、ミニ・ホットスポット、食品汚染、放射性
の瓦礫や廃棄物の処理など、

 私たちの生活にとって、これから何十年もの長い期間にわたり、

 いちばん大きな問題となる、放射性物質だと言えるでしょう。



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