チェルノブイリを超えていた!
                            2011年9月18日 寺岡克哉


 日本原子力研究開発機構は、9月8日。

 3月21日〜4月40日までに、福島第1原発から海へ流出
した放射性物質の量が、

 1万5000テラベクレル(1テラベクレル=1兆ベクレル)に
達するとの、試算をまとめました。



 東京電力は4月21日に、

 4月1日〜4月6日にかけて、2号機の取水口付近の亀裂
から流出した「高レベル汚染水」の放射性物質の量を、

 4700テラベクレルと発表していましたから、このたびの数値
は、その3倍以上となります。



 また、原子力安全・保安院は6月6日。

 原発事故の発生から数日間に、大気中へ放出された放射
性物質の量を、

 ヨウ素131換算で、37万テラベクレルから、77万テラベク
レルへと、2倍以上の上方修正をしています。



 さらにまた、東京電力は6月3日。

 1号機〜4号機の地下や、集中廃棄物処理施設に溜まって
いる「高レベル汚染水」が、10万5100トンに達しており、

 その汚染水に含まれる放射性物質の量を、72万テラベク
レルと発表しています。



 これら、

 福島第1原発の事故によって、原子炉から漏れ出した
放射性物質の量は、

 チェルノブイリの原発事故に比べてどうなのか?

 とくに半減期が30年と長く、これから何十年にもわたって
問題になっていく、

 「セシウム137」についてどうなのか?

 というのが、すごく気になってきましたので、今回まとめて
みました。



 まず先に、結論を言ってしまうと、

 福島第1原発の事故によって、原子炉の外へ漏れ出し
た「セシウム137」の量は、

 チェルノブイリを超えており、その、およそ2倍にもなり
ます!



 以下、その詳しい見積もりについて、お話して行きましょう。


           * * * * *


 さて、

 経済産業省の、4月12日付けニュースリリースによると、

 チェルノブイリの事故で放出された「セシウム137」は、

 8万5000テラベクレルとなっています。



 たしかに、チェルノブイリの事故が起こった当初は、

 「ヨウ素131」の方が、180万テラベクレルと、圧倒的に
多い量でした。

 そして、たくさんの子供たちが「甲状腺がん」になったのも、
この「ヨウ素131」が原因でした。



 しかしながら、

 ヨウ素131は、半減期が8日と短いので、

 年月が経つにつれて、どんどん減って行きます(1年も経てば
35兆分の1に減ってしまいます)。



 だから

 チェルノブイリ原発の周辺が、事故から25年経った現在に
おいても、まだ人が住めない土地になっているのは、

 ひとえに、半減期が30年と長い「セシウム137」が、おもな
原因になっています。



 このように、

 ヨウ素131にくらべて、放出量が少なかったセシウム137
ですが、

 その影響は、何十年もの長い間つづき、たいへん深刻な
問題となるのです。



 私たちの日本も、

 これから何十年もの長い間、この「セシウム137」の問題に、

 苦しめられることになるでしょう。


           * * * * *


 その「セシウム137」ですが、福島第1原発の事故では、

 一体どれくらい、原子炉の外へ漏れ出したのでしょう?

 つぎに、それを見積もってみたいと思います。



 まず8月26日の、原子力安全・保安院の公表によると、

 1〜3号機から「大気中」に放出されたセシウム137は、

 1万5000テラベクレル(広島型原爆の168.5倍)と、
なっています。



 また9月8日の、日本原子力研究開発機構の発表によると、

 3月21日〜4月30日までに、「海」に流出したセシウム137
は、

 3600テラベクレルとなっています。



 さらには、

 原子力安全・保安院の、6月3日付けニュースリリースに掲載
されている、東京電力からの調査報告によると、

 5月31日現在までに、1号機〜4号機の地下に溜まったり、
集中廃棄物処理施設に移送された、

 合計10万5100トンの「高レベル汚染水」に含まれている
セシウム137の量は、以下のように見積もられます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       水の量     セシウム137の濃度   セシウム137の量
     (立方メートル) (ベクレル/立方センチ)  (テラベクレル)

1号機a   3900      1.3×10          507
1号機b   8400      1.3×10         1092
1号機c   1100      1.3×10          143
1号機d   2800      7.9×10−1           0.002

2号機a   6000      3.0×10        18000
2号機b  11400      3.0×10        34200
2号機c   2400      3.0×10         7200
2号機d   4800      2.0×10         9600

3号機a   6400      1.6×10        10240
3号機b  13600      1.6×10        21760
3号機c   2300      1.6×10         3680
3号機d   5800      2.1×10            0.12

4号機a   6500      8.1×10           52.65
4号機b  11800      8.1×10           95.58
4号機c   3700      8.1×10           29.97
4号機d    900      8.1×10            7.29

集中e    9600      3.0×10        28800
集中f    3700      1.6×10          5920

計    105100                   141327.612



a: 原子炉建屋地下   b: タービン建屋地下   c: RW建屋地下
d: トレンチ

集中e: 集中廃棄物処理施設プロセス主建屋(2号機地下から移送)

集中f: 集中廃棄物処理施設高温焼却炉建屋(3号機地下から移送)
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 上の表の合計から、

 10万5100トンの汚染水に含まれる、セシウム137の量は、

 14万1328テラベクレルとなります。



 さらにまた、

 5月10日〜11日にかけて、3号機の取水口付近から、海へ流出
した250トンの「高レベル汚染水」は、20テラベクレルと発表されて
います。

 しかし、核種別(放射性物質の種類ごと)のデータが見当たらな
かったので、セシウム137の量が分かりませんでした。

 なので、核種別の「濃度の比」が、3号機地下の溜まり水と同じ
であるとして、

 セシウム137の量を、9テラベクレルと見積もりました(※追記)。



 以上、

 大気中に放出された、1万5000テラベクレル。

 海に流出した、3600テラベクレル。

 10万5100トンの汚染水に含まれる、14万1328テラベクレル。

 3号機の取水口付近から流出した、9テラベクレル。



 これらを合計すると、

 福島第1原発事故によって、原子炉の外へ漏れ出した
セシウム137の量は、

 15万9937(およそ16万)テラベクレルになります。




 一方、上で話しましたように、

 チェルノブイリ原発事故で放出された、セシウム137の量は、

 8万5000テラベクレルです。



 なので、159937/85000=1.88 となり、

 福島第1原発の事故によって、原子炉の外に漏れ出した
セシウム137の量は、

 チェルノブイリ原発事故の、1.88倍(およそ2倍)になり
ます。



         * * * * *


 ところが、しかし!

 現在でも、壊れた原子炉への注水が続いており、

 高レベル汚染水が、原子炉の外へ、ジャジャ漏れになって
います。

 なので、処理しなければならないセシウム137の量は、

 今後も、さらに増えて行くでしょう。



 そのような、凄(すさ)まじい量のセシウム137が、

 これから何十年にもわたって、私たちの日本を、苦しめて
行くことになります。

 ほんとうに、取り返しのつかない大変な事故を、起こして
しまったものです。



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※9月23日 追記

 平成23年6月付け、原子力災害対策本部。「原子力安全に
関するIAEA閣僚会議に対する日本政府の報告書−東京電力
福島原子力発電所の事故について−」という資料の、

 「添付Y−3 福島第一原子力発電所第3号機取水口付近
からの放射性物質を含む水の外部への流出への対応につい
て」によると、

 このときに流出したセシウム137の量は、9.8テラベクレル
となっていました。

 誤差が0.8テラベクレルであり、セシウム137の合計量が
およそ16万テラベクレルという大勢には影響がありませんの
で、本文はそのままにしておきます。
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