泊原発が営業運転を再開
2011年8月28日 寺岡克哉
文部科学省は、8月26日。
学校や幼稚園などの、屋外での活動を制限する目安である、
「1年間に20ミリシーベルト、1時間あたり3.8マイクロシー
ベルト」
というのを、撤廃しました。
今後は原則として、
学校における子供の被曝量を、「1年間に1ミリシーベルト
以下」とし、
新たな目安を、「1時間あたり1マイクロシーベルト未満」と、
しました。
ところが、
1時間あたり1マイクロシーベルトを超えても、「屋外活動を
制限する必要はない」と、しています。
しかしながら、その場合は、
「速やかに除染対策を行うことが望ましい」と、しています。
子供に、年間20ミリシーベルトもの被曝を許容するなんて、
あまりにも酷(ひど)い話でしたので、それを撤廃したことは、
「いちおうの進歩」だと、私は思いました。
* * * * *
ところで!
8月17日に、泊(とまり)原発の3号機が、営業運転を
再開しました。
福島第1原発の事故以来、
定期点検中の原発としては、全国で初めての、営業運転
再開となります。
「泊(とまり)原発」とは、北海道にある原子力発電所で、
札幌から、西へおよそ70キロの日本海に面した、
泊村という場所に建設されています。
北海道に住む私としては、
このたび泊原発が、日本全国の原発のなかで、営業運転
再開の先陣を切ったことについて、
なんとも不名誉な前例というか、「前科」を作ったものだと
いう、憤りが隠せません。
私も以前に、泊村へ行ったことがありますが、
「とまりん館」というテーマパークさながらの、立派な原子力
PRセンターがあって、
原発の安全性が、ずいぶんアピールされていたのを覚えて
います。
それにしても・・・
このたびの営業運転再開は、ものすごく不可解というか、
「高橋はるみ知事に騙された!」という感が、どうしても
否めません。
以下、その理由について、お話したいと思います。
* * * * *
話が、すこし以前にもどりまして・・・
7月28日に、北海道電力(北電)の佐藤佳孝社長は記者
会見で、
営業運転に移行するのに必要な、国への最終検査申請に
ついて、
「道の同意がなくても、国が受け付けるというならば出す」
と述べて、
道の同意を得ずに、申請に踏みきる意向を示しました。
それに対して高橋はるみ知事は、8月3日の記者会見で、
「地元との丁寧な対話が重要というのが、世の中全体の
流れだ」と述べて、
道を含めた地元自治体からの理解を得てから、北電は最終
検査申請をすべきだとの考えを示しました。
8月9日。
北電は、道の同意を得ないまま、「頭越し」に最終検査を
国へ申請しました。
それに対して高橋はるみ知事は、同日の記者会見で、
「地元軽視も甚だしい!」と、めずらしく声を荒げたと言い
ます。
8月10日。
海江田万里 経済産業相は、高橋はるみ知事に電話をして、
「地元の理解を得るまで、営業運転再開に必要な”検査終了
証”を交付しない」と、伝えました。
以上、ここまでの流れから、
ひろく北海道民の理解が得られるまで、泊原発3号機の
営業運転再開は、あり得ないだろうと、
そのように私は思って、安心していたのでした。
ところが!
その後、高橋はるみ知事は、態度を急に変えて、
以下に話すように、道内において「反対の声」があった
にもかかわらず、
強引に営業運転再開を容認したのです。
* * * * *
まず8月15日に、
北海道大学 大学院の、吉田文和教授(環境経済学)を
はじめとした、道内9つの大学の、教授や准教授50人が、
「泊原発3号機の営業運転再開について、無条件で
容認することは出来ない」
という、緊急声明を出しました。
この声明では、
泊原発の沖合いに、北電が認めていない「海底活断層の
存在」が、指摘されていることなどを挙げて、
営業運転の再開前に、「第三者機関による調査や検証が、
ぜひ必要だ」としています。
また、
福島第1原発の事故をうけて、北電がまとめた安全対策は、
2年〜4年をめどとしていて、緊張感に欠けるものであり、
「道は(北電にたいして対策の)前倒しを要求するべきだ」
と、訴えています。
さらには、
北電が、安全確保に関する協定の対象を、
道と、原発の10キロ圏の4町村に限っていることに対しても、
「80〜100キロ圏を視野に入れた、避難計画を作成する
ことが必要だ」としています。
* * * * *
また、道議会は8月16日。
泊原発3号機の、営業運転再開の是非を議論するために、
「産炭地域振興・エネルギー問題特別委員会」というのを
開きましたが、
ここでも、「地元の合意が不十分」との批判が噴出しました。
道議会議員たちからは、
「(泊原発から10キロ圏内の)4町村以外の地元も大切で、
丁寧な対応が必要だ。」
「町村長の意向を聞くだけでなく、地元4町村の住民の意見
を聞くべきだ。」
「住民との協議は考えていないのか。」
「全国の原発の営業運転(再開)に、先鞭(せんべん)をつける
ことになり、きわめて重大な問題。」
などの指摘や質問が、相次いで出されたのです。
とくに、
民主党の向井昭彦議員から出された、「住民との協議は考え
ていないのか」という質問にたいし、
道側は、「住民からの意見聴取は考えていない」と答えており、
「地元の理解」という、営業運転再開の条件からすれば、たい
へん問題があります。
午後2時から始まった特別委員会は、午後4時に中断し、
6時間半にわたって空転しました。
そのため、
この日のうちに、道として営業運転再開の容認を、国に伝え
る方針でしたが、
高橋はるみ知事は、この日の容認を、断念せざるを得なく
なりました。
* * * * *
しかし、1日だけ延びたものの、8月17日の午後2時半すぎ。
高橋はるみ知事は、海江田万里 経済産業相に、「営業運転
再開の容認」を電話で伝えました。
これを受けて、原子力安全・保安院が、「検査終了証」を
北電に交付し、
この日のうちに、泊原発3号機の営業運転が、再開されて
しまったのです。
高橋はるみ知事は、8月上旬の時点で、
「地元との丁寧な対話が重要というのが、世の中全体の
流れだ。」
「地元軽視も甚だしい!」
と言っていたのに、ものすごく拙速で、強引であり、不可解な
動きでした。
なので、
「高橋はるみ知事に騙された!」
「はじめから営業運転再開ありきの、政治的なパフォー
マンスだったのか!」
と、憤りを感じる北海道民が、(私も含めて)かなり多いのでは
ないかと思います。
たしかに、
泊原発の3号機は、調整運転の段階で、すでにフル稼働して
いましたし、
今年の3月から、5ヶ月間も「調整運転」が続いているのは、
(手続き上の問題として)異常な状態だといえます。
しかし、だからと言って、
道内の「反対の声」を、こうまで押し切って、強引に営業運転
を再開させたのには、
「なにか裏の事情」が、絡んでいたのではないかと疑われて
も、仕方がないところでしょう。
たとえば、
高橋はるみ知事は、経済産業省の出身なので、
「長年の古いつながりから、経済産業省の要請や、圧力が
かかっていたのではないか?」
とか、
「知事が自ら進んで、経済産業省の意向を、くみ取ったの
ではないか?」
と、いうことが疑われるかと思います。
また、
高橋はるみ知事の、資金管理団体である「萌春会」の会長
は、北海道電力の元会長で、
北電の幹部から毎年、政治献金を受けていたことも発覚
しています。
なので、
「知事が、北海道電力の意向をくみとったのではないか?」
という疑惑も、浮上してくるでしょう。
このたびの、すごく強引な営業運転再開については、
そのようなことが疑われても、まったく仕方がないように
思えてなりません。
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