浄化システムの状況 2
                          2011年7月10日 寺岡克哉


 前回では、

 6月10日に、高レベル汚染水の「浄化システム」が完成して
から、

 とても多くのトラブルを経て、6月27日に、やっとシステム全体
が本格運転に入り、

 浄化した水を、ふたたび原子炉の冷却に使うという、「循環
注水冷却」が始まるまでの、経緯について見てきました。 


 今回は、その続きです。


             * * * * *


 6月27日の16時20分から、「循環注水冷却」が始まりました。

 が、しかし、その1時間半後の17時55分ころ。

 配管の「つなぎ目」から水漏れが見つかったため、浄化システム
を停止してしまいました。



 原子炉に注入する水をためておく、仮設貯蔵タンクの出口付近
の配管の、つなぎ目が抜けてしまったのです。

 ポンプの流量を調整中に、配管内の圧力が高まり、締め付けが
足りなかった配管の、つなぎ目が外れたものと見られます。

 漏れていた時間は2分ていどで、およそ1トンの水が漏れたよう
です。


              * * * * *


 6月28日。

 前日に水漏れが起こったのと、同種の「つなぎ目」が、およそ
100ヶ所あることが分かりました。

 浄化水のタンクから原子炉までは、およそ1.5キロの距離が
ありますが、

 それを長さ30メートル、直径10センチの、塩化ビニル製の
ホース約50本でつないでいたのです。



 この日、

 それらの「つなぎ目」を総点検し、異常が無いことが確認できた
ため、

 圧力の急激な上昇を防ぐために、ポンプの流量を配慮しながら、

 15時55分から「循環注水冷却」が再開されました。


              * * * * *


 6月29日の8時10分ころ、

 配管(塩化ビニル製のホース)に小さな穴が開き、わずかに水
が漏れているのが、2ヶ所で見つかりました。

 量が少なかったので、応急で止水しましたが、10時59分には
「循環注水」を停止させてしまいました。

 しかし配管を交換して、13時33分に再稼動しました。



 また、この日の9時半ころ、

 放射性物質や塩分を取りのぞいた後に残った、塩分の濃い
水をためておくタンクで、水漏れが見つかりました。

 水漏れは1時間ほどで止まりましたが、およそ50トンの水が
漏れたとみられます。

 漏れた水の、表面の放射線量は、1時間あたり50マイクロ
シーベルトでした。



 さらには、14時50分ころ、

 仏アレバ社の装置へ汚染水を送る、貯水タンクのフタを作業員
が開けたところ、

 水があふれて警報がなり、装置を手動で停止させました。

 漏れた水の量は少なく、それを抜き取って、18時45分に装置
を再稼動させました。



 しかし、その直後の18時54分に、ふたたび手動で装置を停止
させました。

 汚染水を処理する工程のひとつで、本来「自動」に設定する弁が
「手動」になっており、運転中に弁が閉じたままの状態になっていた
のです。

 このため、弁の上流側のタンクの水位が上昇し、運転員が装置
を止めたといいます。

 弁の設定を「自動」に直し、21時15分に装置を再稼動させま
した。


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 6月30日。

 14時半ころ、警報が鳴って、仏アレバ社の装置が自動的に停止
しました。

 作業員が、処理後の水をためるタンクの、水位の設定を誤った
ことが原因でした。

 本来は、容量の30%にするべきだった設定値を、間違って3%
にしていたのです。



 この日、

 通常のメンテナンス作業のために、運転を一時停止し、流量
を調節しましたが、

 仏アレバ社の装置の出口にあたるタンクの設定値を3%にし、
十分な確認をしないまま、再稼動させてしまったのです。

 タンクの水位が5%以下になると、警報が鳴るしくみでした。



 設定を直したうえで、18時50分に装置を再稼動させ、19時40
分に通常運転に復帰しました。

 この間、

 浄化した水が、すでに2000トンほど溜まっていたので、原子炉
の「循環注水冷却」は、中断せずに続行していました。


              * * * * *


 7月1日。

 「循環注水冷却」を一時停止し、ダムから引いてきた真水に
よる冷却に切りかえました。

 その理由は、

 「新しいタンク」を設置して、冷却に使う水のルートを一元化し、
効率を高めるためです。



 これまでは、

 タンクに溜めた浄化水と、ダムから引いてきた真水を、配管で
合流させて原子炉に入れていました。

 しかし、この方法では、配管が複雑になり、水の流量が安定しな
かったのです。



 今後は、

 浄化水と真水を、新設するタンクに集めることにより、1本の
配管で、原子炉へ注水することが可能になります。

 新しいタンクの容量は1000トンで、浄化水を溜めている5000
トンのタンクの、下流に設置します。


              * * * * *


 7月2日の午後、

 新しいタンクの設置が完了し、「循環注水冷却」が再開されま
した。



 さらには、

 この日の夕方から、「完全な循環注水冷却」が始まりました。

 つまり、今までは、

 ダムからの真水(毎時3トン)と、浄化システムで処理した水(毎時
13トン)の、合計16トンの水で、原子炉を冷却していたのですが、

 その、毎時16トンの水すべてを、浄化水で賄(まかな)うことが、
出来るようになったのです。



 この、「完全な循環注水冷却」の実現により、

 もう、外部のダムからの水は、使わなくて済むようになりました。

 つまり、

 「高レベル汚染水」の増加を、防ぐことが出来るようになった
わけです!




 7月2日現在、1号機〜4号機にたまっている汚染水は、およそ
12万トンになりますが、

 雨水や、地下水の浸入が無ければ、これ以上に汚染水が増加
することは、無くなりました。



 7月2日 17時の時点で、

 1万1170トンの汚染水が処理され、3580トンが淡水化され
ており、

 およそ10日間のあいだ、原子炉へ注水できる量が確保でき
ています。


              * * * * *


 7月4日。


 1号機には、毎時3.7トンの水を注入しているのですが、

 7月3日の21時ころから、注水量がだんだん減りはじめ、

 7月4日の8時13分に、最低値として設定した毎時3トンに
まで低下したため、警報が鳴りました。

 配管の中に、「ゴミ」のようなものが詰まった可能性が考えら
れます。



 ポンプの出力を上げて、水の流量を毎時7.5トンまで増やし
て異物を押し流し、

 8時50分には、毎時3.8トンに調整して、様子をみています。


              * * * * *


 7月6日。


 6月29日〜7月5日までの1週間において、

 浄化システムの稼働率が、目標である80%を下回り、76%
だったことが分かりました。

 浄化システムは本来、1週間で8400トンの処理能力があるの
ですが、

 実際には、装置の部品交換などによるシステムの中断で、およ
そ6380トンの処理に留まってしまいました。



 ちなみに

 6月17日〜6月28日までの、浄化システムの稼働率は55%
だったので、それに比べれば、ずいぶん向上したと言えます。

 しかし、このままでは、

 年末までに20万トンの汚染水を処理する計画に、遅れがでる
可能性があります。

 今後、部品の交換頻度を下げるなどして、7月中に80%、
8月以降は90%の稼働率を目指します。



 7月5日までに処理した汚染水の合計は、およそ1万3610
トンになりました。

 1号機〜4号機の原子炉建屋や、集中廃棄物処理施設など
に溜まった高レベル汚染水は、推計でおよそ11万9460トン
であり、

 6月28日現在の12万1170トンにくらべて、およそ1710
トンの減少
となっています。


            * * * * *


 以上が、浄化システムにおける、最近までの状況です。



 「完全な循環注水冷却」が実現し、

 これまでは、地獄のように増えつづける一方だった
「高レベル汚染水」を、


 「減少」に転じさせることが、出来るようになりました!



 これで、

 高レベル汚染水が、海へ「ダダ漏れ」になるという、最悪の
事態は回避されたので、

 (まだまだ予断や油断は許されませんが)、いちおう良い
方向へ進んでいるという感触が、

 つかめるような状況に、なって来たのではないかと思います。



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