浄化システムの状況 1
2011年7月3日 寺岡克哉
原子炉から漏れ出している「高レベル汚染水」が、合計でおよそ
12万トンにもなっており、今にも地表や海へあふれ出しそうです。
しかしながら、
原子炉への注水を止めること(つまり冷却を止めること)は、絶対
に出来ません。
このため、
漏れ出した汚染水を浄化して、ふたたび原子炉の冷却に使うと
いうリサイクル。
つまり「循環注水冷却」をしなければ、さらに汚染水が増加し、
流出してしまいます。
いま現在、
そのような「循環注水冷却」(水のリサイクル)が実現できるか
どうかが、最大の焦点になっています。
ところで・・・
「循環注水冷却」を実現するためには、高レベル汚染水の「浄化
システム」が稼動しなければなりませんが、
しかし、この「浄化システム」が、じつにトラブル続きで、なかなか
安定に稼動できません。
今回から、
そのような、ものすごく四苦八苦している「浄化システムの
経緯」について、
見て行きたいと思います。
* * * * *
6月10日。
東京電力は、高レベル汚染水の「浄化システム」が完成し、
この日の夕方から試験運転に入ると発表しました。
この「浄化システム」は、
1.油分の除去装置。
2.「ゼオライト」という吸着剤を使って、放射性物質を除去する
装置。(米キュリオン社の装置)
3.薬剤を使って沈殿させることにより、放射性物質を除去する
装置。(仏アレバ社の装置)
4.塩分の除去装置。
という、大きく4つの部分から構成されていますが、それらの
色々な部分で、この先トラブルが発生して行きました、
この日さっそく、
浄化装置に「海水」を入れて点検したところ、配管の接続部など
で「水漏れ」が見つかりました。
水漏れがあったのは、米キュリオン社の装置で、弁のパッキン
や配管接続部の十数ヶ所で水がにじんでいました。
* * * * *
6月11日。
「水漏れ」があった部分の修理は完了しましたが、
しかし今度は、コンピューターのプログラムにミスが見つかり
ました。
不具合があったのは、24台あるポンプの作動や、停止を操作
するプログラムです。
このプログラムは、6月12日の未明までに修正されました。
* * * * *
6月12日。
米キュリオン社の装置で、「水がうまく流れない不具合」が
見つかりました。
この装置は4つの系統から成っており、それぞれの系統ごと
に主に、
(1)油分とテクネチウム、(2)セシウム、(3)ヨウ素、 の順で
吸着除去をします。
そのうちの1系統で、本来は毎時12トンの水が流れるはず
が、0.5トンしか流れていませんでした。
しかしながら、
配管の弁などを点検したところ、この不具合は解消し、毎時
12トン流れるようになりました。
一部の弁が、開ききっていなかった可能性があると言います。
* * * * *
6月14日。
この日の未明、米キュリオン社の装置の、試運転が開始され
ました。
数時間のあいだ、低濃度の汚染水を通して、水漏れが無いか
どうかや、放射性物質の除去能力を調べました。
* * * * *
6月15日。
仏アレバ社の装置の、試運転が行われました。
その結果、放射性セシウムの濃度を、17000分の1〜
18000分の1に減らせたと言います。
* * * * *
6月16日。
この日の未明(0時20分)に、
浄化システム全体(油分の除去装置、米キュリオン社の装置、
仏アレバ社の装置、塩分の除去装置)の試運転を開始しました。
この日の午前、米キュリオン社の装置のポンプ1台に、水の
にじみが発見されたので、常設の予備ポンプに切りかえました。
そのような対策をしたのですが、しかし19時20分ころ、システ
ムが自動停止してしまいました。
確認したところ、同日の20時ころに、ポンプとは別の「スキッド」
と呼ばれる設備内で、水漏れが見つかりました。
「スキッド」とは鋼鉄製の、縦2.5メートル、横8メートル、高さ3
メートルの箱型をしており、その中に深さ30センチの水が溜まっ
ていたと言います。
また、この日、
試運転中のシステムの「浄化水」を分析した結果、放射性セシ
ウムの濃度が、22万分の1〜36万分の1に減らせたことが
分かりました。
「低レベル汚染水」を処理したところ、1立方センチあたり2600
〜2800ベクレルだった放射性セシウムが、1立方センチあたり
0.013ベクレルていどに減少しました。
(しかしながら、これは「低レベル汚染水」を処理した結果なの
で、「高レベル汚染水」を処理すると、どれくらいの性能を発揮
するのかは、まだ分からない段階です。)
* * * * *
6月17日。
前日の「スキッド」に溜まった水は、米キュリオン社の装置の、
安全弁から漏れていたことが分かりました。
圧力が高まると、壊れて水を外に逃がす「ラプチャーディスク
(安全弁)」が壊れていたのです。
ラプチャーディスクは、水圧が高くなったため、設計に従って
壊れたものと見られます。
水圧が高くなったの原因は、汚染水が通る配管の開閉弁を、
作業員が誤って閉めたためでした。
壊れたラプチャーディスク(安全弁)は、この日の夜までに
交換され、
6月17日の20時ころ。浄化システム全体の「本格運転」を
始めました。
記者会見で、
細野豪志 首相補佐官は、「かなり大きな一歩。これが動くこと
で全体の冷却機能が安定する」と述べ、
東電の松本純一 原子力・立地本部長代理は、「一つのヤマを
超えたが、楽観はできない」とコメントしました。
* * * * *
6月18日。
本格運転を始めてから、わずか5時間で、浄化システムが
停止してしまいました!
米キュリオン社の装置の、ゼオライトを入れた円筒形のカートリッジ
(直径90センチ、高さ2.3メートル)が、想定よりも早く、交換基準の
放射線量に達したためです。
この「カートリッジ」は、放射線量が毎時4ミリシーベルトに上がると、
交換することにしていましたが、
6月18日の0時54分ころ、稼動させた2系統のうちの1系統で、
油などを除去する入り口側の部分で、放射線量が毎時4.7ミリ
シーベルトになったのです。
入り口側のカートリッジは、1ヶ月に1回の交換の予定でしたが、
なぜ、たった5時間で交換基準に達したのかは、この時点で不明
でした。
原因を突き止めないと、運転の再開はできないので、復旧のメド
が立たない状態に陥ってしまいました。
* * * * *
6月20日。
カートリッジの放射線量が上がったのは、ゼオライトの吸着より
も、「汚染水そのものが高濃度だったため」だと分かりました。
当初は、ゼオライトが予想よりも多くの放射性物質を吸着して、
カートリッジの放射線量が上昇したとみられていましたが、
ゼオライトを抜いて、高レベル汚染水を流すだけでも、カートリッジ
表面の放射線量が、毎時11.55ミリシーベルトまで跳ね上がった
のです。
汚染水を浄化するゼオライトやシリカなどの、吸着剤の順序を
入れ替えたり、
汚染水の流量を少なくするなどして、放射線量が急上昇しない
ように調整し、運転の再開を急ぎました。
* * * * *
6月21日。
この日の0時16分に、試運転を再開しましたが、
しかし7時20分に、仏アレバ社の装置で、ポンプが自動停止
したため、システム全体を止めました。
自動停止したのは、汚染水を流す主系統につながる薬剤注入
ラインに、薬剤の希釈用の水を送りこむポンプ2台で、
水の流量が多くなり、過剰な負荷がかかったことが原因だと
判明しました。
この日の正午すぎに、試運転が再開され、
本格運転とおなじ毎時50トンのペースで、高レベル汚染水を
処理し、浄化した水をタンクに溜めて行きました。
* * * * *
6月22日。
継続中の試運転で、この日の10時過ぎまでに、およそ1800
トンの汚染水が処理されました。
処理後の水は、処理前にくらべて、放射性物質の濃度が2万分
の1以下に減っていました。
しかしながら、米キュリオン社の装置は、
真水の低レベル汚染水を処理したときは、1000分の1以下に
まで放射性物質の濃度を下げることができましたが、
海水混じりの高レベル汚染水を処理すると、50分の1ていど
に下げるのがやっとでした。
一方、仏アレバ社の装置の能力は、
放射性物質の濃度を400分の1ていどに下げると言われて
おり、
キュリオン、アレバの、2社の装置を合わせた能力が、2万分
の1ということなのでしょう。
* * * * *
6月23日。
米キュリオン社の装置で、放射性物質の濃度が50分の1に
までしか下がらなかったのは、「一部の弁が誤って開いていた
ことが原因」だと、東電が発表しました。
キュリオン社の装置は、4系統ありますが、そのうちの1系統
で、本来閉まっているはずの弁が開いており、汚染水が処理
されずに、そのまま下流に流れていたのです。
作業員が、弁に「開」と「閉」の表示を油性ペンで書いたときに、
まちがって逆に書いてしまったが原因でした。
この日の未明に、弁を閉めたうえで試運転が再開されました。
* * * * *
6月24日。
浄化システムの試運転により、セシウム134とセシウム137の
濃度が、ともに10万分の1になり、
1立方センチあたり、100ベクレル以下にすることができました。
しかしながら、米キュリオン社の装置では、濃度を10分の1に
しか減らせませんでした。
以前に流れた高レベル汚染水の残りが、混ざった可能性がある
といいます。
仏アレバ社の装置が、放射性物質の濃度を1万分の1にまで
下げたので、
「合わせ技」により、10万分の1まで濃度を下げることが出来た
わけです。
* * * * *
6月25日。
放射性物質を除去した汚染水を、初めてシステムの最終工程
である「塩分の除去装置」まで通しました。
その結果、目標を超える濃度に薄まることが確認できました。
しかしながら、
水位計の誤動作でシステム全体が止まるなど、まだ不安定さも
残っています。
6月26日と27日に最終調整をして、システム全体の本格運転
に入ることにしました。
* * * * *
6月27日 16時20分。
システム全体が本格運転に入り、浄化した水を、ふたたび
原子炉の冷却に使うという、「循環注水冷却」が始まりました。
当初の予定から、12日遅れて、やっとスタートにこぎつける
ことが出来たのです。
しかしながら・・・
この先も、まだまだトラブルが続いて行くのでした。
それについては、次回でお話したいと思います。
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