汚染水のウランやプルトニウムは?
2011年6月5日 寺岡克哉
東京電力は、
福島第1原発の事故が発生してから、2ヶ月も経ってやっと、
「メルトダウン」が起こっていたことを認めました。
つまり、
原子力発電用の「核燃料(ウランやプルトニウム)」が溶け
て、原子炉の底に溜まり、
その熱(2800℃)で、原子炉の底に、穴が開いてしまった
のです。
だから、いま現在、
ウランやプルトニウムが「むき出し」になった核燃料の塊に、
冷却のための水を、ジャブジャブとかけ続けていて、
その水が、原子炉から漏れつづけている訳です。
これでは、まるで、
ウランやプルトニウムの塊を、ジャブジャブと水で「洗濯」して
いるようなものです。
そんな、原子炉から漏れ出している「高レベル汚染水」に、
ウランやプルトニウムが、含まれていない訳がありません!
しかも、
原子炉の底に溜まった核燃料が、「完全に1つの大きな塊」に
なっているとは、とても考えにくいでしょう。
おそらく、
溶けた燃料が、「ポタリ、ポタリ」と滴り落ちていた時期も、
あったかも知れませんし、
燃料が「ドサッ」と落ちたときでも、その一部は、あちらこちら
に飛び散ったでしょう。
また、原子炉の下部に溜まった水のなかに、
「ジュッ」とか「ジューッ」と音をたてるようにして、溶けた燃料
が落ちたとすれば、
「ミクロ的な水蒸気爆発」が起こっていたわけで、
それにより「核燃料の微細粒」が、たくさん生成されたかも
知れません。
なので、原子炉の底には、
小石くらいの核燃料の塊や、砂粒くらいの塊や、さらに小さな
微細粒が、
たくさんあるかも知れないと、考えるのが普通でしょう。
それら、核燃料の小さな塊・・・
つまり、ウランやプルトニウムの微小な塊が、
汚染水と一緒に、原子炉の外へ流れ出している可能性も、
決して否定できません!
* * * * *
ところで・・・ 下の表のように、
ヨウ素やセシウムにくらべて、ウランやプルトニウム。
とくにプルトニウムは、実効線量係数がすごく大きいので、
少量でも「内部被曝」をすると危険です!
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いろいろな放射性物質の実効線量係数
(単位:ミリシーベルト/ベクレル)
放射性物質 経口摂取 吸入摂取
ヨウ素131 2.2×10−5 7.4×10−6
セシウム134 1.9×10−5 2.0×10−5
セシウム137 1.3×10−5 3.9×10−5
ウラン235 4.7×10−5 8.5×10−3
ウラン238 4.5×10−5 8.0×10−3
プルトニウム238 2.3×10−4 1.1×10−1
プルトニウム239 2.5×10−4 1.2×10−1
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上の表にあるように、
プルトニウムは、とくに「肺」に付着した場合、
つまり「吸入摂取」をした場合に、ものすごく深刻です!
たとえば、
10万ベクレルの「セシウム137」を、吸入摂取した場合は、
3.9ミリシーベルトの被曝量ですが、
しかし、
おなじ10万ベクレルの「プルトニウム239」を、吸入摂取した
場合は、
12万ミリシーベルト(致死量の20倍)もの、被曝量になって
しまいます。
このように危険なプルトニウムは、核燃料のウランを燃やす
ことによって、生成されます。
また、福島第1原発 3号機の場合は、
「プルサーマル」といって、プルトニウムを燃料として使うため、
もともと核燃料の中に、プルトニウムが入っています。
私が行った、ごく大ざっぱな見積もりでは、
核燃料のほとんどはウランですが、全体の2パーセントていどが、
プルトニウムだと思われます。
* * * * *
しかしなぜ、
プルトニウムは少量でも、人体への影響が大きいのでしょう?
「内部被曝」の大きさは、一般的に、
放射性物質の、物理的な半減期、体内へ吸収のされやすさ、
体外へ排出のされ難さなどが関係しますが、
しかしその他に、「出す放射線の種類」というのも、じつは
関係しているのです。
下の表は、
いろいろな放射性物質が出す、放射線の種類と、そのエネル
ギーをまとめたものです。
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いろいろな放射性物質が出す放射線
放射性物質 半減期 出す放射線 代表的なエネ
ルギー(MeV)
ヨウ素131 8.04日 ベータ線 0.61
セシウム134 2.062年 ベータ線 0.66
セシウム137 30年 ベータ線 0.51
ウラン235 7億380万年 アルファ線 4.4
ウラン238 44億6800万年 アルファ線 4.2
プルトニウム238 87.74年 アルファ線 5.5
プルトニウム239 2万4120年 アルファ線 5.1
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上の表をみると、
ヨウ素やセシウムは「ベータ線」を出しますが、
ウランやプルトニウムは、「アルファ線」を出すことが分かり
ます。
「アルファ線」とは、ヘリウム原子核(陽子2個と、中性子2個が
結合したもの)が、エネルギーを得て飛び出したものです。
一方、「ベータ線」とは、電子が、エネルギーを得て飛び出した
ものです。
電子にくらべて、ヘリウム原子核は、7500倍もの重さがあり
ます。
なので、あえて例えるなら、
ピストルの弾と、巨大な砲弾くらいの差が、あると言えるで
しょう。
このように、まず、
ベーター線と、アルファ線は、おなじく「放射線」と呼ばれて
いても、
じつは「ぜんぜん違うしろもの」なのです。
* * * * *
アルファ線は、エネルギーが大きいのに、貫通力が小さい
という性質があります。
たとえば、プルトニウム239のアルファ線は、
5.1メガ電子ボルト(MeV)のエネルギーがありますが、
人体の組織を、わずか45ミクロンしか貫通しません。
しかし、セシウム137のベータ線は、
0.51メガ電子ボルトのエネルギーしかないのに、
人体の組織を、1000ミクロン(1ミリ)ほど貫通してしまいます。
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※ メガ電子ボルト (MeV メガエレクトロンボルト)
ある1つの電子に、1ボルトの電圧をかけて加速させたとき、
その電子がもつ運動エネルギーに相当するのが、1電子ボルト
です。
メガは、100万という意味なので、メガ電子ボルトは、100万
電子ボルト。
つまり、100万ボルトの電圧で、電子を加速させた場合に相当
する、エネルギーの大きさを言います。
※ ミクロン
1000分の1ミリの長さを、1ミクロンといいます。なので1000
ミクロンは、じつは1ミリのことです。
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アルファ線は、エネルギーが大きいにもかかわらず、貫通力
が小さいので、
人体の「細胞」へ与える打撃は、大きなものになります!
たとえば、プルトニウム239のアルファ線は、
5.1メガ電子ボルトのエネルギーを持つのに、人体の組織を、
45ミクロンしか貫通しません。
つまり、
5.1メガ電子ボルトのエネルギーを持ったヘリウム原子核が、
人体組織と衝突しながらエネルギーを失い、
45ミクロン進んだところで、エネルギーがゼロになる(停止する)
のです。
その、衝突によって失うエネルギーに相当するぶんが、人体
組織に「打撃」を与えるわけです。
人間の細胞の、平均的な大きさを10ミクロンとすると、
45ミクロンの間に、5.1メガ電子ボルトのエネルギーを失う
のだから、
5.1/45 × 10 = 1.1メガ電子ボルトのエネルギー
に相当する打撃を、
アルファ線の場合は、1つの細胞に与えることになります。
一方、セシウム137のベータ線は、
0.51メガ電子ボルトのエネルギーしかないのに、人体組織
を1000ミクロンほど貫通します。
なので、1つの細胞に与える打撃は、
0.51/1000 × 10 = 0.0051メガ電子ボルトの、
エネルギーにしか相当しません。
つまり、「1つの細胞」について見れば、
プロトニウム239のアルファ線は、セシウム137のベータ線に
くらべて、およそ200倍もの打撃を与えてしまいます。
そのためアルファ線は、
細胞内のDNAを深く傷つけて、高い確率で「癌」を発生させる
わけです。
* * * * *
おもに以上のような理由で、
プルトニウムやウランなどの「アルファ線」を出す放射性物質は、
人体への影響が大きく、「実効線量係数」も大きくなっているの
です。
ちなみに、
ウランよりも、プルトニウムの方が、人体への影響が大きい
のは、
物理的な半減期や、体内へ吸収のされやすさや、体外へ排泄
のされ難さなどが、関係しているのでしょう。
ところで、
「アルファ線は貫通力が弱いので、1枚の紙でも止まる!」
とか、
「アルファ線は、皮膚で止まってしまうので心配ない!」
などと、
内部被曝がすごく危険なことを、ぜんぜん言わずに、
アルファ線の貫通力が弱いことだけを、ことさらに強調
して、
人々を惑わそうとする者がいます。
それには、騙されないように注意が必要でしょう。
* * * * *
話を最初にもどしまして、
「高レベル汚染水」に、ウランやプルトニウムが含まれて
いる疑いが、ものすごく濃厚です!
(とくに、燃料の大部分がメルトダウンした1号機の、原子炉
建屋の地下に溜まっている汚染水。)
しかし、それなのに、
政府や東京電力は、「高レベル汚染水」にたいして、
ウランやプルトニウムの検査を、全くやっていません!
こんなことでは、多くの国民が納得できないでしょう。
国の研究機関、東京電力、あるいは大学や、民間の研究所
でも良いのですが、
「高レベル汚染水」に含まれている、ウランやプルトニウム
の検査を、
絶対に、やらなければなりません!
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