土壌や食品のセシウムは安全か?
                           2011年5月29日 寺岡克哉


 日本の政府が、「計画的避難区域」に指定しているのは、

 1年間の推定積算線量が、20ミリシーベルトに達するおそれ
がある地域です。



 しかしながら、

 1年間の推定積算線量が、20ミリシーベルト未満の地域(つまり
計画的避難区域に指定されない地域)でも、

 その「20ミリシーベルト未満」というのは、「空間線量」の測定値
を基にした推定なので、

 おそらく、「外部被曝」しか考慮されていません!



 だから、

 土壌に蓄積した放射性セシウムが、風によって舞い上がり、
それを吸入してしまう内部被曝や、

 手や食物などに付いた土壌が、口から入ってしまうことによる
内部被曝。

 あるいは、

 暫定基準以下とは言え、食物の摂取による内部被曝を加え
ると、

 一体、どれくらいの被曝量になるのか、ものすごく気になります。



 なので、そのことについて調べてみました。


            * * * * *


 文部科学省が発表している、「積算線量推定マップ」によると、

 「計画的避難区域」に指定されない地域のうちでも、とくに放射
線量の高い場所。

 つまり、

 1年間の推定積算線量が、10ミリシーベルト〜20ミリシーベルト
未満の地域は、

 計画的避難区域よりも、さらに外側5キロくらいの範囲と、

 福島第1原発から60キロほど離れた、福島市と伊達市の境目
あたりの場所(40平方キロくらいの面積)にあります。



 それらの地域について、

 「文部科学省及び米国DOEによる航空機モニタリングの結果」
をみると、

 セシウム134が、1平方メートルあたり30万〜60万ベクレル。

 セシウム137も、1平方メートルあたり30万〜60万ベクレルと
なっています。



 一方、

 京都大学 原子炉実験所の、今中哲二 助教によると、

 1キログラムの土壌から、16万3000ベクレルの放射性セシウム
が検出された場合、

 汚染土を、表面2センチの土と仮定すると、1平方メートルあたり
326万ベクレルになるとしています。

 この関係を、逆に使うと、

 1平方メートルあたり、30万〜60万ベクレルの放射性セシウム
というのは、

 土壌1キログラムあたり、1万5000〜3万ベクレルに相当します。

 (163000/326 × 30〜60 =15000〜30000) 



 つまり、

 計画的避難区域に指定されない、1年間の推定積算線量が
10ミリシーベルト〜20ミリシーベルト未満の地域では、

 セシウム134が、土壌1キロあたり、1万5000〜3万ベクレル。

 セシウム137も、土壌1キロあたり、1万5000〜3万ベクレル
含まれていると考えられます。


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 ところで下の表は、

 ICRP(国際放射線防護委員会)が勧告している、セシウム134
とセシウム137についての、

 緊急時に考慮すべき「実効線量係数」です。



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   核種         緊急時に考慮すべき実効線量係数

                経口摂取       吸入摂取

 セシウム134     1.9×10−5    2.0×10−5

 セシウム137     1.3×10−5    3.9×10−5


              (単位は、ミリシーベルト/ベクレル)
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 上の数値(つまり実効線量係数)の意味は、

 たとえば10万ベクレルのセシウム137が、口から体内に入って
しまった場合(経口摂取)、

 100000 × 1.3×10−5 = 1.3ミリシーベルトの、内部
被曝を受けるということです。



 ところで、

 体内に摂取された放射性物質は、物理的な「半減期」で崩壊
して減るとともに、「体外に排泄されること」でも減ります。

 だから体内の放射性物質は、時間が経つにつれて、だんだん
減って行くのですが、
 しかし微量ながら、いつまでも体内に残って、被曝を受けつづけ
ます。

 上の「実効線量係数」とは、放射性物質を体内に吸収してから、
「50年間にわたって受ける被曝の総量」が、分かるようになって
います。

 つまり、10万ベクレルのセシウム137を経口摂取した場合、
その後50年間にわたる内部被曝の総量が、1.3ミリシーベルト
になると言うことです。



 また、まったく同じ量のセシウム137でも、

 口から飲み込んで、胃に入ってしまったのか(経口摂取)と、

 鼻から吸い込んで、肺に入ってしまったのと(吸入摂取)では、

 体内への吸収のされ方や、体外への排泄のされ方が、変わっ
てきます。

 このため、「経口摂取」と「吸入摂取」では、実効線量係数が
異なった値になっています。



 たとえば、

 10万ベクレルという、まったく同じ量のセシウム137を、

 経口摂取した場合は、100000 × 1.3×10−5 = 
1.3ミリシーベルトの内部被曝を受けますが、

 吸入摂取した場合は、100000 × 3.9×10−5 = 
3.9ミリシーベルトの内部被曝を受けてしまうわけです。



 また、放射性物質の種類。

 つまりセシウム134か、セシウム137かによって、物理的な
「半減期」が違います。

 (セシウム134の半減期は2.06年ですが、セシウム137は
30年です。)

 物理的な半減期が違えば、体内での放射性物質の減り方も
違ってくるので、

 「実効線量係数」は、放射性物質の種類により異なっています。


             * * * * *


 さて、話をもどしまして、

 1年間の推定積算線量が、10ミリシーベルト〜20ミリシーベル
ト未満の地域では、

 土壌1キロあたり、セシウム134が1万5000〜3万ベクレル、
セシウム137も1万5000〜3万ベクレル含まれていると、考えら
れました。



 このため、

 空気中に舞い上がった土壌を、吸い込んだり(吸入摂取)、

 手に付いた土壌や、野菜などの食物に付いた土壌が、口から
入ったり(経口摂取)すると、

 「内部被曝」を受けるわけです。



 ここで、

 たとえば1年間に、1キログラムの土壌が、体内に摂取されると
仮定してみましょう。

 これは、1日あたり、2.7グラムの土壌摂取になりますが、

 おそらく、砂嵐のような天候でもマスクを付けないとか、泥がつい
て真っ黒の野菜を洗わないで食べるとか、

 そんなことでも毎日しない限り、起こりえないような摂取量(つまり
内部被曝の最大量を見積もるのに、十分に大きな摂取量)だと
思います。



 そして、

 セシウム134もセシウム137も、経口摂取より、吸入摂取の方
が実効線量係数が大きいので、

 内部被曝の最大量を見積もるのに、(1年間に1キログラムもの
土壌を吸い込むとは考えにくいですが)、

 「吸入摂取」による実効線量係数を使って、計算してみましょう。



 そうすると、

 1年間の推定積算線量が、10ミリシーベルト〜20ミリシーベルト
未満の地域では、

 土壌1キロあたり、セシウム134が1万5000〜3万ベクレル、
セシウム137も1万5000〜3万ベクレル含まれていると、考えら
れましたから、



 セシウム134は、2.0×10−5 × 15000〜30000 
=0.3〜0.6ミリシーベルト

 セシウム137は、3.9×10−5 × 15000〜30000 
=0.6〜1.2ミリシーベルト

 両方を合わせると、0.9〜1.8ミリシーベルトになります。



 おそらく、

 1年間の推定積算線量が、10ミリシーベルトの場所では、それ
プラス0.9ミリシーベルト。

 1年間の推定積算線量が、20ミリシーベルト未満ギリギリ
の場所では、

 土壌摂取による内部被曝によって、さらに1.8ミリシーベ
ルトの被曝量が、加えられる可能性があります。




 しかしながら、

 1年間に、1キログラムもの土壌を摂取してしまうことは、まず
無いでしょうから、

 実際には、上で見積もったよりも、小さな値になると見てよい
でしょう。


            * * * * *


 ところで、

 これは原発事故の被災地だけでなく、全国的にも関係する
こと
ですが、

 「暫定基準ギリギリ」の放射性セシウムが含まれた食品
を、
毎日食べつづけた場合の内部被曝量

 について、計算してみましょう。



 肉、魚、卵、野菜などの食品に含まれる、放射性セシウムの
「暫定基準」は、1キログラムあたり500ベクレルです。

 ここで仮に、

 米(生米)、肉や魚、卵や野菜などを合わせて、1日に1キログラ
ム食べる
としましょう。
 (たとえば、1日に2000キロカロリーを、牛肉の肩ロースだけで
摂取しようとすれば、0.9キログラム食べる必要があります。)

 そうすると、1年間では、

 500×365=182500ベクレルの放射性セシウムを、「経口摂取」
することになります。



 そして、

 食品に含まれる放射性セシウムが、セシウム137だとすれば
(後年になるほど、半減期の長いセシウム137がメインに効いて
きます)、

 セシウム137の経口摂取による実効線量係数は、1.3×10−5 
なので、

 1年間では、182500 × 1.3×10−5 ≒2.4ミリシーベ
ルト
の内部被曝を受けることになります。



 また、

 「飲料水(や牛乳)」における、放射性セシウムの暫定基準は、1リッ
トルあたり200ベクレルですが、

 炊飯や味噌汁、その他の料理や、飲み水として、1日あたり2リット
の水を、経口摂取するとしてみましょう。

 そうすると1年間では、200×2×365 × 1.3×10−5 = 
1.9ミリシーベルトの内部被曝を受けることになります。



 上の両者を合わせると、2.4+1.9=4.3 つまり、

 食品や飲料水に、「暫定基準ギリギリ」のセシウム137が
含まれていた場合、


 それを毎日飲食しつづけると、1年間に4.3ミリシーベルト
の内部被曝を受けることになります。



             * * * * *


 最後に、

 計画的避難区域に指定されない、1年間の積算線量が20ミリ
シーベルト未満ギリギリの場所に住んでおり、

 おもに「屋外での仕事」(1日のうち、屋外で12時間の活動)を
している人が、

 1年間に、1キログラムの土壌を体内に摂取し、

 暫定基準ギリギリの「セシウム137」が含まれた水や食品を、
毎日飲食している場合。(1日あたり、食品1キログラム、飲料水
2リットル。)

 つまり、計画的避難区域に指定されない場所に住んでいる人
にたいして考えられる、1年間の「最大の被曝量」を見積もってみま
しょう。



 じつは・・・

 「推定積算線量」というのは、1日のうちで、屋外の滞在を8時間、
屋内の滞在を16時間として、

 屋内の滞在については、木造家屋による放射線の低減効果0.4
を考慮して(つまり0.6掛けて)います。



 なので、

 「1年間の推定積算線量が20ミリシーベルト」と言ったときでも、

 これは1日のうち、屋外に8時間滞在し、屋内に16時間滞在した
場合のことで、

 たとえば農業や建設業など、屋外でメインに仕事をしている人、
(おそらく屋外での滞在が12時間くらいの人)には、当てはまりま
せん。



 ここで、屋外における1時間あたりの被曝量を、Aと置くと、

 従来の計算方法(屋外8時間、屋内16時間)で、1年間(365日)
に20ミリシーベルトというのは、

 (8×A + 16×0.6×A) × 365 = 20

 A = (20/365) / (8+9.6) =0.00311ミリシーベルト
となります。



 だから1日のうち、屋外での滞在が12時間で、屋内が12時間の
場合は、

 (12×0.00311 + 12×0.00311×0.6) ×365 
≒21.8ミリシーベルトの被曝量になります。



 この21.8ミリシーベルトに、

 1キログラムの土壌摂取による、1.8ミリシーベルト。

 そして、

 暫定基準ギリギリの水や食品を、毎日飲食することによる
4.3ミリシーベルトを足し合わせると、

 21.8+1.8+4.3 =27.9ミリシーベルトになります。



 つまり、

 「計画的避難区域」に、指定されない場所に住んでいる
人でも、


 1年間に、27.9ミリシーベルトの被曝を受けてしまう
可能性が
あるのです!



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