100ミリシーベルトは安全か?
2011年5月22日 寺岡克哉
文部科学省は、5月16日。
「積算線量推定マップ」というのを、発表しました。
これは、
福島の原発事故が発生した3月11日から、5月11日までの、
2ヶ月間にわたって「積算した放射線量の分布」を、表した地図
です。
積算線量「推定マップ」と言っていますが、シミュレーション
による推定ではなく、
各所に配置された、連続観測地点における(つまり定点観測
による)、「実測値に基づいた推定」なので、
かなり信頼性の高いデータだと、判断してよいでしょう。
その「積算線量推定マップ」によると、
福島第1原発から20キロ圏外(警戒区域の外)であっても、すで
に50ミリシーベルト以上の積算線量に、なっている場所がありま
した。
また、
30キロ圏外(屋内退避の区域外)であっても、すでに20ミリシー
ベルトを超えている場所があります。
政府が避難の目安としている(計画的避難区域に指定している)
のは、
事故発生から1年の期間内に、積算線量が20ミリシーベルト
に達する恐れのある区域ですから、
たった2ヶ月間で、20ミリシーベルトを超えるというのは、やはり、
かなり線量が高い場所だといえます。
* * * * *
ところで・・・
100ミリシーベルト以下の被曝では、「健康への影響は心配
ない」
と、一般的によく言われます。
しかしながら、
計画的避難地域に指定されていない、たとえば1年間の積算
線量が19〜10ミリシーベルトの地域でも、
5.3年〜10年経てば、100ミリシーベルトの被曝量に、達して
しまいます。
だから、
「ほんとうに100ミリシーベルトの被曝をしても、大丈夫な
のか?」
という疑問が、だんだん大きくなってきました。
なので今回は、そのことについて、すこし調べて見ることにした
のです。
* * * * *
さて、以下の表は、
1ミリシーベルト〜250ミリシーベルトの放射線量にたいする、
法律で定められていることや、さまざまな事象について、まとめて
みたものです。
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(数値の単位は、ミリシーベルト)
1 一般公衆が、1年間にさらされてよい人工放射線の限度。
放射線業務従事者(妊娠中の女子に限る)が、妊娠を知った
ときから、出産までにさらされてよい放射線の限度。
2 広島における爆心地から、12キロ地点での被曝量。
12キロまでの直接被爆が認定されると、原爆手帳が与えら
れる。
2.4 1年間に被曝する自然放射線量。
5 放射線業務従事者(妊娠可能な女子に限る)が、法定の
3ヶ月間にさらされてよい放射線の限度。
20 「計画的避難区域」に指定される、1年間の積算放射線量。
50 放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が、1年間にさら
されてよい放射線の限度。
81 広島における爆心地から、2キロ地点での被曝量。
爆発後2週間以内に、爆心地から2キロ以内に立ち入った
「入市被爆者(2号)」と認定されると、原爆手帳が与えられる。
100 受精〜15日までの胎児被曝では流産。(確定的影響)
受精後、2〜8週の胎児被曝では奇形。(確定的影響)
受精後、8〜25週の胎児被曝では知能指数低下。(確
定的影響)
胎内被曝して出生した0〜15歳の小児ガン発生が、10万人
あたり600人。
人間の健康に「確率的影響」が出ると証明されている、放射
線量の最低値。(ガン患者の発生が0.5%〜1%増える。)
放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が、法定の5年間
にさらされてよい放射線の限度。
放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が、1回の緊急
作業でさらされてよい放射線の限度。
150 (短期間で被曝した場合)男性(精巣)の一時的不妊。(確
定的影響)
250 (短期間で被曝した場合)白血球の減少。(確定的影響)
福島第1原発事故の処理にあたる放射線業務従事者(妊娠
可能な女子を除く)が、1回の緊急作業でさらされてよいと特例
で定められている放射線の限度。
※ 国際放射線防護委員会(ICRP)による2007年の勧告
平常時 1ミリシーベルト/年 以下
復旧時 1〜20ミリシーベルト/年
緊急時 20〜100ミリシーベルト/年
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上の表にある言葉で、
「確定的影響」というのは、被曝後の比較的初期に影響が現れる
もので、
ある線量(しきい値線量)よりも多くの被曝を受けたときに、確定的
に、その影響が現れます。
一方、
「確率的影響」というのは、被曝を受けてから数年〜10年ていど
の、後年に影響が現れるもので、
被曝を受けた人々の中の、ある確率で、その影響が現れます。
たとえば、
「100ミリシーベルトの被曝で、発ガン率が1%」と言った場合、
100人が、100ミリシーベルト被曝すれば、そのうちの1人が
ガンになります。
1000人が、100ミリシーベルトの被曝をすれば、10人が、ガン
になり、
10万人が、100ミリシーベルトの被曝をすれば、1000人が
ガンになります。
このように「確率的影響」は、
被曝した人口が多ければ多いほど、影響が現れる人の数も
増えるので、
広範囲に放射能汚染が起こった場合や、大都市などの人口が
密集した地域で汚染が起こった場合には、
やはり、すごく深刻な問題となります。
* * * * *
さて、上の表をみると、
母親が妊娠中の「胎児」は、とても放射線に弱く、
100ミリシーベルトの被曝でも、流産、奇形、知能指数低下
などの
「確定的影響」が現れます!
しかしながら、
計画的避難区域に指定されないような、1年間に20ミリシーベ
ルトよりも低い被曝ならば、
妊娠期間中に、胎児が100ミリシーベルトの被曝を受けること
がないので、おそらく影響は無いでしょう。
(しかし法律では、妊娠を知ったときから、出産までにさらされて
よい放射線の限度が1ミリシーベルトなので、20ミリシーベルト未満
の胎児被曝でも、すごく心配ではありますが・・・ )
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※ 胎児が放射線に弱い理由
胎児は、絶えず細胞分裂をくり返しているので、大人よりも
放射線の影響をつよく受けます。とくに受精後8週間までが、
比較的小さな被曝でも影響をうけます。
受精卵が子宮壁に着床するまでの8日間に、被曝をうけた
場合には、「流産」の可能性があります。この流産は、100ミリ
シーベルト以上の被曝でおこる「確定的影響」です。
受精後4週以降に被曝すると、その時に発達しつつある臓器
に「奇形」が生じることがあります。この奇形も、およそ100ミリ
シーベルト以上でおこる「確定的影響」です。
受精後8〜25週の期間では、中枢神経系が、放射線の影響
をとても強く受けます。100ミリシーベルト以上で、出生児の知能
指数が低下し、これも「確定的影響」です。
また、受精後3週以降に被曝すると、出生児の発ガンのリスク
が高くなります。
これは「確率的影響」ですが、最近の研究によると、100ミリ
シーベルトの胎内被曝をしてから出生した、0〜15歳の小児ガン
の発生は、10万人あたり600人となっています。
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大人の場合は、
100ミリシーベルトの被曝を受けても、「確定的影響」は現れま
せん。
しかしながら、「確率的影響」が現れ始めてきます。
短期間に、100ミリシーベルトの被曝を受けた場合は、ガンの
発生が1%増え、
何年にも渡って、100ミリシーベルトの被曝を受けた場合は、
ガンの発生が0.5%増えます。
これは、
問題がないとは思いませんが、過度の不安を払拭するために
紹介しますと、
「タバコのリスクの方が、よほど大きい」という専門家もいます。
なので、ふだんタバコを吸う人は、100ミリシーベルトの被曝と
いうのは、あまり気にしなくても良いレベルだと言えるでしょう。
しかしながら・・・
最初で話した、文部科学省の「積算線量推定マップ」は、
「空間線量」の測定値を基にしているので、
土壌に蓄積された「放射性セシウム」などが、風によって
舞い上がり、
それを吸入してしまうことによる「内部被曝」については、
おそらく考慮されていません。
そして一方、
ベラルーシが「移住の対象」にしたのは、1平方メートルあたり
55万5000ベクレルの、放射性セシウムが検出された地域で
すが、
福島第1原発から60キロ離れた、福島市や伊達市でも、
1平方メートルあたり60万〜100万ベクレルの、放射性セシウ
ムが検出されているのです。
土壌に蓄積されたセシウムを、吸入することによる「内部被曝」
も考えると、
実際問題として、空間線量だけで100ミリシーベルトを越えな
ければ、そんなに気にする必要が無いかと言えば、
私には、はなはだ疑問です。
* * * * *
ところで・・・
広島における爆心地から、2キロ地点での被曝量が
81ミリシーベルト
だというのは、今回調べてみて、はじめて知りました。
これと比べると、100ミリシーベルトの被曝量というのは、
はやり、かなり大きなものに思えます。
また、
150ミリシーベルトで、男性(精巣)の一時的不妊。
250ミリシーベルトで、白血球の減少。
という「確定的影響」が現れるのに、
福島第1原発事故の処理にたいする特例が、250ミリシーベルト
だというのは、
あまりにも過酷なように思えます。
しかし実は、そのようにしなければ、ならないほど、
このたびの原発事故が、「ものすごく深刻な状況」だという
ことなのでしょう。
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