汚染水の流出をどう防ぐ?
                              2011年5月8日 寺岡克哉


 前回で、お話しましたように、

 福島第1原発 1号機〜4号機の、タービン建屋の地下やトレンチ
(坑道)には、

 8万7500トンもの「高レベル汚染水」が溜まっており、

 いま現在も、1日におよそ500トンのペースで、増加しつづけて
います。



 このままでは、

 「高レベル汚染水」が地上にあふれ出して、海に流出してしまうか、

 あるいは、どうすることも出来なくなって、

 高レベル汚染水でさえも、意図的に海へ放出しなければ、ならなく
なるかも知れません。



 しかし、そんな事態は、絶対に避けなければなりません!



 なぜなら、たとえば4月1日〜4月6日にかけて、

 2号機の取水口付近の亀裂から、およそ520トンの「高レベル
汚染水」が流出しましたが、

 そのような量の流出でさえ、

 福島県から茨城県沿岸の漁業に、「大きな被害」をもたらしたから
です。



 だから、もしも、

 数万トンという大量の「高レベル汚染水」が、海へ流出してしまっ
たら・・・

 おそらく、日本の太平洋沿岸の漁業は、「壊滅的な被害」を受けて
しまうでしょう。

 さらには、「海の生態系」への影響も、まったく計り知れません。



 なので、

 高レベル汚染水の「大量流出」という事態は、是が非でも、

 絶対に阻止しなければ、ならないのです!




 それでは、一体どのようにして、

 高レベル汚染水の「破滅的な流出」を、阻止するというのでしょう?

 今回は、それについて、見て行きたいと思います。


             * * * * *


 まず第一に・・・

 1日あたり500トンの水を、原発の外から持ってきて、1号機〜
3号機の原子炉に注入しているから、

 それが漏れ出して、毎日、毎日、500トンの「高レベル汚染水」が
新たに増えてしまい、

 まるで「地獄絵図」のような状況になっているのです。



 なので、

 汚染水に含まれている放射性物質を、取り除いて水を「浄化」し、

 その浄化した水を、原子炉に再び注入するという「リサイクル」
やれば、

 「高レベル汚染水」が、新たに増加することは無くなります。



 そのような「リサイクル」に成功すれば、

 汚染水がどんどん増えて、地上にあふれ出し、海に流出してしま
うとか、

 汚染水の保管場所が無くなって、どうしようもなくなり、意図的に
海へ放出してしまうとか、

 そのような「破滅的な事態」を、避けることができるでしょう。



 各種の報道を見ていると、

 いま考えられている、いちばん大局的な戦略は、以上のような
ことだと思います。


              * * * * *


 だからまず、

 汚染水の「浄化装置(処理施設)」をつくり、それを稼動させる
こと。

 それが、いちばん本質的で、重要なポイントになります。



 そのような「処理施設」は、

 日本、アメリカ、フランスの共同で作られることになりましたので、

 おそらく、かなり大規模なものになるのでしょう。



 処理の方法は、

 タンクから汚染水をくみ上げ、まず「油分」を取り除いた上で、

 「ゼオライト」という放射性物質の吸着剤によって、「セシウム」を
除去します。

 その後、「ほかの放射性物質」を、薬品を入れて沈殿させること
で除去し、

 最後に「塩分」を取り除いて、淡水にします。



 処理施設の設計は、東芝、日立、そしてアメリカのGE社が担当し、

 セシウムの除去装置は、アメリカのキュリオン社製を使い、

 「ほかの放射性物質」の除去装置は、フランスのアレバ社製を使い
ます。



 処理能力は、

 「高レベル汚染水」に含まれる放射性物質の濃度を、1万分の1程度
にまで下げ、通常運転時の「炉水のレベル」に近いものにします。

 1時間に50トン、1日で1200トンの汚染水を、処理することが可能
としており、1年間で20万トンの処理を目指します。



 ちなみに、

 1号機〜3号機の原子炉へ注入する水は、合計で、1日およそ500
トンですから、

 1日に1200トンという処理スピードは、汚染水を「リサイクル」する
のに必要な条件を、いちおう満たしていると言えるでしょう。


             * * * * *


 いま上で話した「処理施設」は、6月中に稼動する予定です。

 なので、それまでは、「高レベル汚染水」が増加して行くことに
なります。

 さらには、

 もしかしたら「何か不測の事態」などが発生して、汚染水が急増
するようなことも、起こるかも知れません。



 しかしながら、

 現在のところ、汚染水が保管できるのは、集中廃棄物処理施設
の1万トンだけです。

 だから、その他にも、

 汚染水の「保管場所」を増やす必要が、どうしてもあります!



 そこで東京電力は、

 2号機タービン建屋の地下に溜まったような、「高レベル汚染水用」
のタンク、およそ1万トン分と、

 それに準じた、「中レベル汚染水用」のタンク、およそ2万トン分を、

 6月中に設置することにしています。



 これら、高レベル汚染水用、中レベル汚染水用のタンクは、

 長さが数十メートルの細長い円筒形で、腐食に耐える塗装などの、
「特殊な加工」がされています。

 さらに、「高レベル汚染水用タンク」の方は、放射線を防ぐために、
横倒しにして地下に埋設する方針です。



 しかしながら、

 1号機〜4号機の、タービン建屋の地下や、トレンチ(坑道)には、
すでに8万7500トンもの汚染水が溜まっているのです。

 その上に、

 汚染水の「処理施設」が稼動するまで、毎日およそ500トンの
ペースで、「高レベル汚染水」が増加して行くのです。

 それなのに、

 集中廃棄物処理施設と、増設のタンクを合わせても、4万トンの
保管能力しか無いとは、なんとも心細い感じがします。



 さらにまた、

 汚染水の「処理施設」が、予定どおりに稼動できない可能性
もあります!


 そうなると、予定が遅れたぶんだけ、さらに汚染水が増加する
ことになります。

 東京電力は、

 そのような事態に備え、「仮設タンク」を、当初の計画よりも大幅
に増やし、

 6月から、毎月2万トン分ずつ、設置することにしています。



 ところで、菅直人 首相が、4月27日。

 福島第1原発の、敷地内の地下を深く掘って、「巨大なプール」を
建設する計画があることを、明らかにしました。

 菅首相は、

 「敷地内の地下46メートルに岩盤があり、下には水がしみこまない
ことが調査で分かった。そこにタンクを作ることを検討している。」

 と、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の服部郁弘 会長らとの
会談で語りました。

 全漁連側が、汚染水放出の再発防止を求めたことに対して、菅首相
が答えたものです。



 枝野幸男 官房長官も、記者会見において、

 地下に巨大プールを建設する計画にたいしては、「検討していること
の一つ」と、述べています。


            * * * * *


 その他、

 高レベル汚染水が、海へ流出するのを防ぐための対策として、

 「立て抗をふさぐ」という作業が進められています。



 つまり、

 「トレンチ」と呼ばれる坑道のうち、地上とつながる「立て抗」の
部分を、

 コンクリートで埋めて、「フタ」をしてしまうのです。



 そのようにすると、

 高レベル汚染水が、「立て抗」から地上に溢れだして、海に流出
するのを防ぐことができます。

 また、もしも東日本大震災の「余震」で、ふたたび津波が発生した
場合には、海水が「立て抗」に入るのを防ぐことができます。



 ふさぐのは、

 2号機と3号機の、海側にあって、タービン建屋とつながっている、
合計で4つの「立て抗」です。

 作業は、4月30日から始められ、

 5月の下旬までに、それら4つの立て坑を、完全に埋めることに
しています。


            * * * * *


 さらに、その他の対策として、

 馬渕澄夫 首相補佐官は、4月22に日本記者クラブで講演し、

 「1号機〜4号機の原子炉建屋周囲の地中に、コンクリートの
壁を埋めることを検討している」と、明らかにしました。



 この地中の壁は、

 「地下水を通しにくい地層」に達する深さまで、埋め込むことに
より、

 放射性物質に汚染された水が、「地下水へ流出する」のを防ぎ
ます。



 馬渕 首相補佐官は、

 「プラントのどこで汚染水の流出が起こっても、地下から外部に
漏れることはなくなる」と、強調しています。


            * * * * *


 ところで・・・

 上で話した、処理施設による「汚染水の浄化」についてですが、

 これにも、問題点が無いわけではありません!



 たとえば、処理施設の能力では、

 「高レベル汚染水」に含まれる放射性物質の濃度を、1万分の1
程度にまで下げますが、

 その程度の浄化では、法律上とうてい、環境中には放出できま
せん。



 なので、

 処理した水を、ふたたび原子炉に注入するという、「リサイクル」は
できますが、

 それを海に捨てて「水の全体量を減らすこと」は、(政治判断
による超法規的措置でも行わない限り)恐らくできないでしょう。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※ たとえば、

 2号機タービン建屋の地下などに溜まっている、2万5000トンの
「高レベル汚染水」には、
 およそ2000万ベクレル/立方センチの放射性物質が含まれて
いますが、
 それを1万分の1に浄化できたとしても、2000ベクレル/立方
センチの放射性物質が含まれることになります。

 一方、法律で環境中への放出が認められている基準は、0.04
ベクレル/立方センチなので、
 2000/0.04 =5万倍の濃度ということになり、とうてい、環境
中に放出することは出来ません。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 また、

 汚染水を処理すると、「きわめて高レベルの放射性廃棄物」
が大量に発生し、ものすごく大きな問題となります!


 その廃棄物とは、

 セシウムを吸着させたゼオライトや、薬品による沈殿物、水をろ過
した後の残りかすなどで、

 当然ですが、「高レベル汚染水」よりも、さらに放射性物質が濃縮
されています。

 そのような「超高レベル放射性廃棄物」を、

 当面は、原発構内に貯槽するみたいですが、最終的な処理方法
については、まだ見通しがたっていません。




 たしかに、

 「高レベル汚染水」がどんどん増加して、海に流出してしまうの
よりは、

 浄化処理をしてリサイクルする方が、ずっと良いのは間違い
ありません。



 しかしながら、

 汚染水の処理施設が、うまく稼動できたとしても、

 すべての問題が解決するわけでは、決してないのです!




      目次へ        トップページへ