高レベル汚染水の最新状況
2011年4月24日 寺岡克哉
東京電力は、4月21日。
福島第1原発 2号機の、取水口付近の亀裂から海に流出した
「高レベル汚染水」について、
流出した水の量が、およそ520トンであり、
流出した放射性物質の量は、およそ4700テラベクレル(テラ
=1012)であると、
推定したことを発表しました。
海に流出した520トンの、「高レベル汚染水」に含まれていた
放射性物質の内訳は、
ヨウ素131が、2800テラベクレル
セシウム134が、940テラベクレル
セシウム137も、940テラベクレル と、なっています。
ところで、
高レベル汚染水の「流出」が見つかったのは、4月2日ですが、
4月1日以前に付近を見回った作業員が、流出している「水の音」
を聞いていないことや、
4月1日昼ごろの、取水口付近の放射線量が比較的低かったこと
などから、
流出が始まったのは「4月1日の昼ごろ」だと、東京電力は判断
しています。
そして、
4月1日から、流出が止まった4月6日まで、まる5日間の120時間
にわたって、
1時間あたり約4.3トン(1秒間あたり約1.2リットル)の勢いで、
水が流出したとし、
およそ520トン(120×4.3=516)の「高レベル汚染水」が、流出
したと推定しています。
1時間あたりの流出量(4.3トン)は、
流出状況の「写真」から、裂け目の大きさや、流出した水の勢いを
解析して求めています。
また、海に流出した放射性物質の量は、
「流出発見当時に採取した汚染水の濃度」を、
流出した水の量(つまり520トン)に、掛け合わせることで求めて
います。
* * * * *
また東京電量は、これより先の4月18日。
1号機〜3号機の、タービン建屋の地下や、野外の「立て抗」に
溜まった高レベル汚染水が、
1号機では、2万500トン、
2号機では、2万5000トン、
3号機では、2万2000トンの、
合計で、6万7500トンになったと発表しました。
4月5日の時点では、
1号機〜3号機で、それぞれ各2万トンの、合計6万トンと発表
していましたから、
4月18日までの13日間で、7500トンの「高レベル汚染水」が
増加したことになります。
これは、1日あたりに換算すると、577トンの増加です。
ところで、
これら1号機〜3号機の地下に溜まった、高レベル汚染水に含ま
れる「放射性物質の濃度」も、再評価されており、
その「最新の分析結果」は、以下のようになっています。
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1号機地下 2号機地下 3号機地下
テクニチウム99m − − 0.068
ヨウ素131 15 1300 32
セシウム134 12 310 5.5
セシウム136 1.1 32 0.65
セシウム137 13 300 5.6
バリウム140 − 68 1.9
ランタン140 − 34 0.31
単位は、 万ベクレル/立方センチ
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* * * * *
さて、
高レベル汚染水についての、「新しいデータ」が出てきましたので、
前回のエッセイでやったのと同じように、ヨウ素131と、セシウム
137について、
「ヨウ素131等価」の値を求めてみましょう。
まず、
2号機の、取水口付近の亀裂から流出した「高レベル汚染水」に
ついては、
ヨウ素131が、2800テラベクレル
セシウム137が、940テラベクレルなので、
2800+(940×40) =40400
つまり、ヨウ素131等価で、4万400テラベクレルになります。
また、
1号機〜3号機の、地下に溜まった「高レベル汚染水」について、
ヨウ素131とセシウム137の濃度、およびセシウム137のヨウ素
換算値をまとめると、下の表のようになります。
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1号機地下 2号機地下 3号機地下
ヨウ素131(a) 15 1300 32
セシウム137 13 300 5.6
ヨウ素換算値(b) 520 12000 224
(a)+(b) 535 13300 256
※ 単位は、万ベクレル/立方センチ
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上の値を使って、「ヨウ素131等価」の値を求めると、
1号機地下の、2万500トンの溜まり水は、
535×104×20500×106 =109675×1012 となって、
10万9675テラベクレル。
2号機地下の、2万5000トンの溜まり水は、
13300×104×25000×106 =3325000×1012 となって、
332万5000テラベクレル。
3号機地下の、2万2000トンの溜まり水は、
256×104×22000×106 =56320×1012 となって、
5万6320テラベクレル。
1号機地下〜3号機地下を合計すると、349万995テラベクレル
になります。
* * * * *
以上、ここまで見積もってきた、
2号機の、取水口付近の亀裂から海に流出した、4万400テラベク
レルと、
1号機〜3号機の地下に溜まっている、349万995テラベクレル。
そして、
原子力安全委員会の試算による、大気中に放出された63万テラ
ベクレルを合計すると、
416万1395テラベクレルとなり、チェルノブイリ原発事故で
放出された520万テラベクレルの、80%に相当します。
前回のエッセイでは、チェルノブイリの97%に相当すると見積もり
ましたが、
そのときと、いちばん大きくデータが変わったのは、1号機地下の
溜まり水における、セシウム137の濃度です。
東京電力によると、
前回のデータは、転記するとき(データを書き写すとき?)に誤って、
「1ケタ大きな数値」になっていたそうです。
* * * * *
ところで・・・
2号機 取水口付近の亀裂から、「高レベル汚染水」が流出した
ことによって、4700テラベクレルの放射性物質が海に放出され
ましたが、
これは、
4月4日〜4月10日にかけて意図的に海へ放出した、1万390トン
の「低レベル汚染水」に含まれていた放射性物質である0.15テラ
ベクレルの、3万1300倍の量です!
だから(エッセイ477でやった考察の繰り返しになりますが)、
経済産業省の原子力安全・保安院は、およそ1万トンの低レベル
汚染水(このときは0.17テラベクレルとしていた)を、意図的に
放出することによる影響について、
原発から半径1キロの禁漁区周辺(1キロよりすこし外側の、禁漁
区でない海域)で捕れた魚200グラムを、
毎日毎日、1年間食べつづけた場合でも、0.6ミリシーベルトの
被曝量にしかならないと推計し、
一般人の年間被ばく線量限度である1ミリシーベルトを、下回ると
していました。
ところが、そんな推計は、まったく現実に合っていません!
実際は、放射性物質の量として、その2万7650倍(4700/0.17
=27647)に相当する「高レベル汚染水」が、すでに流出してしまっ
たのです。
だから上の推計も、おそらく2万7650倍になると考えられ、
0.6×27650 =16590ミリシーベルトの被曝量に、なってしまう
でしょう。
つまり、
原発から半径1キロの禁漁区周辺(1キロよりすこし外側の、
禁猟区でない海域)で捕れた魚200グラムを、
毎日毎日、1年間食べ続けたとすると、1万6590ミリシーベ
ルトの被曝量になると考えられます!
これは、90%以上の人が死亡する6000ミリシーベルトの、
さらに2.8倍の被曝量です。
この魚200グラムを1回食べただけでも、45ミリシーベルトの被曝
量に、なってしまうでしょう。
なので、やはり、
高レベル汚染水の流出による、「魚介類への影響」が、
ものすごく心配になります!
しかし、さらには、
法律で定められた限度を、大きく超える濃度の放射性物質が、
原発付近の海域において、3月の下旬から検出されており、
専門家は、高レベル汚染水が、「別のルート」からも流出している
可能性を、指摘しています。
なので、
実際に海へ流出した(そして、いま現在も流出しつづけている疑い
がある)放射性物質の量は、
東京電力の推計である4700テラベクレルより、もっと多くなる
可能性があります。
その上さらに、
もしも福島県地方に、大雨などが降ったりすれば、
土壌に含まれていた放射性物質が、大量に海へ流出してしまう
可能性も、けっして否定できないでしょう。
東京電力は、海に流出した放射性物質の影響について、
「ただちに人体に影響はない」
「魚介類などの採取と分析を進めたい」
と、コメントしていますが、今後も調査をつづけて行かなければ
ならないのは、当然のことです。
しかしながら、東京電力だけに任せておかず、
(もう既に始まっているかも知れませんが)各大学や、研究機関
なども、それぞれ並行して調査を行い、
放射性物質の測定データを、お互いにチェックできる体制にしな
ければ、ならないでしょう。
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