チェルノブイリの97%か?
                           2011年4月17日 寺岡克哉


 4月12日。

 経済産業省の原子力安全・保安院と、国の原子力安全委員会が、

 福島第1原発の事故にたいして、

 国際原子力事象評価尺度(INES: International Nuclear Event
Scale)の、

 「レベル7(深刻な事故)」へ、評価を引き上げたと発表しました。



 INES(国際原子力事象評価尺度)とは、

 国際原子力機関(IAEA)および、経済協力開発機構の原子力
機関(OECD/NEA)が決めたもので、

 原子力施設の事故やトラブルについて、どれくらい深刻なのかを、
簡明に表現するための指標です。



 「深刻さ」の評価ランクは、レベル0〜レベル7の、8段階に分かれ
ており、

 その中でも、「レベル7」は最悪のランクです!

 これに相当する事故は、過去において「チェルノブイリ原発事故」
しかありません。


             * * * * *


 経済産業省の、4月12日付けニュースリリースによると、

 原子力安全・保安院と、原子力安全委員会が試算した、

 福島第1原発から「大気中」に放出された、放射性物質の総量は、

 以下のようになっていました。



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            福島第1での想定放出量    チェルノブイリの
                                  放出量
            保安院   安全委員会   

ヨウ素131(a)  130000   150000      1800000

セシウム137     6000    12000        85000
ヨウ素換算値(b) 240000   480000       340000

 (a)+(b)     370000   630000      5200000


            ※ 単位はテラベクレル(=1012ベクレル)
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 ところで、

 INES(国際原子力事象評価尺度)における、「レベル7」の定義は、

 「ヨウ素131等価で、数万テラベクレル相当以上の放射性物質
の外部放出」


 と、なっています。



 上の表をみると、

 セシウム137の放射能を、「ヨウ素131等価」に換算する場合は、
ちょうど40倍の値になっていますが、

 これは、「INESユーザーズマニュアル」に基づいた、換算方法だと
しています。



 表の、いちばん下の数値をみると、

 原子力安全・保安院による試算結果は、37万テラベクレルで、

 原子力安全委員会による試算結果は、63万テラベクレルと、

 なっています。



 両方の試算とも、

 レベル7の定義よりも、「1ケタ高い放出量」になっており、

 福島第1原発の事故が、「レベル7」であるという評価は、

 ものすごく妥当です。

 
なので、どんなに頑張っても、レベル6などに評価が下がるような
ことは、まず絶対にあり得ないでしょう。


              * * * * *


 ところでまた、

 同じく、経済産業省の4月12日付けニュースリリースによると、

 「レベル7は最も重い評価ですが、過去同じ評価となったチェルノ
ブイリ発電所事故における放射性物質の放出量に比べると、現時点
では1割前後と見込まれます」

 と、なっています。



 たしかに、上の試算結果をみると、

 放射性物質の放出量は、チェルノブイリの1割前後になってい
ます。

 しかし、上の試算結果は、

 「大気中」に放出された量であり、「海」に流出した放射性物質
の量は、含まれていません。


 また、福島第1原発では、

 1号機〜3号機への注水を続けているため、原子炉から漏れ
出した
「高レベル汚染水」が、6万トンにも及んでいるとされて
おり、それも気になります。

 なので、

 これらの放射性物質の量について、ちょっと見て行くことに
しましょう。



 まず、

 海へ「意図的に放出」した、およそ1万トンの低レベル汚染水は、

 最新の情報によると、1500億ベクレルとなっており、

 0.15×1012ベクレル、つまり 0.15テラベクレルです。



 そして、

 2号機の取水口付近の亀裂から、海に流出した、

 1立方センチあたり1700万ベクレルの、高レベル汚染水およそ
1000トンは、

 1700×10×1000×10 =17000×1012 となって、

 1万7000テラベクレルです。



 また、

 1号機の地下に溜まった、1立方センチあたり380万ベクレルの、
高レベル汚染水およそ2万トンは、

 380×10×20000×10 =76000×1012 となって、

 7万6000テラベクレル。


 2号機の地下に溜まった、1立方センチあたり2000万ベクレル
の、高レベル汚染水およそ2万トンは、

 2000×10×20000×10 =400000×1012 となって、

 40万テラベクレル。


 3号機の地下に溜まった、1立方センチあたり390万ベクレルの、
高レベル汚染水およそ2万トンは、

 390×10×20000×10 =78000×1012 となって、

 7万8000テラベクレルです。



 これら上の数値を足し合わせると、57万1000テラベクレルと
なります。

 (低レベル汚染水およそ1万トンの意図的な放出は、0.15テラ
ベクレルと、他にくらべて小さいので無視しました。)


            * * * * *


 ところが、しかし、

 上で求めた、57万1000テラベクレルというのは、

 「ヨウ素131等価」の数値になっていません!



 じつは、

 1号機〜3号機の地下に溜まった「高レベル汚染水」にたいして、

 ヨウ素131、セシウム137、バリウム140、ランタン140などなど、

 いろいろな放射性物質について調べられています。



 本当は、それらすべての放射性物質を、「ヨウ素131等価」に
換算しなければならないのでしょうが、

 上で挙げた最初の表(原子力安全・保安院と、原子力安全委員会
の試算)では、

 ヨウ素131と、セシウム137の、2種類だけで評価しているので、

 それと比較できるように、ここでも同じようにしましょう。



 さて、

 1号機〜3号機の地下に溜まった「高レベル汚染水」における、

 ヨウ素131と、セシウム137の濃度、

 およびセシウム137の、ヨウ素131換算値をまとめると、

 以下の表のようになります。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             1号機地下  2号機地下  3号機地下

ヨウ素131(a)      21      1300     120

セシウム137      180       300      18
ヨウ素換算値(b)   7200     12000     720

 (a)+(b)       7221    13300      840


             ※ 単位は、万ベクレル/立方センチ

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 表の、いちばん下の数値を使って計算しなおすと、


 1号機地下の溜まり水は、

 7221×10×20000×10 =1444200×1012 となって、

 144万4200テラベクレル。



 2号機地下の溜まり水は、

 13300×10×20000×10 =2660000×1012 となって、

 266万テラベクレル。



 3号機地下の溜まり水は、

 840×10×20000×10 =168000×1012 となって、

 16万8000テラベクレル。



 これら、

 1号機地下、2号機地下、3号機地下の溜まり水を合わせると、

 427万2200テラベクレルとなります。



 また、

 2号機の取水口付近の亀裂から海に流出した、およそ1000トン
の「高レベル汚染水」についても、

 (すこし大ざっぱな近似ですが)2号機地下の溜まり水と、おなじ
成分だとすれば、

 13300×10×1000×10 =133000 ×1012 となって、

 13万3000テラベクレルになります。


             * * * * *


 以上、

 原子力安全委員会の試算による、大気中へ放出した、63万テラ
ベクレル。

 2号機の取水口付近の亀裂から、海に流出した水の、13万3000
テラベクレル。

 1号機〜3号機の地下に溜まった水の、427万2200テラベク
レル。




 これらを合計すると、

 福島第1原発の事故において、原子炉から外に漏れ出した
放射性物質の総量は、

 ヨウ素131等価で、503万5200テラベクレルに達している
可能性があり、


 チェルノブイリ原発事故における、520万テラベクレルの、
97%に相当する可能性があります。




 しかしながら、

 1号機〜3号機の地下に溜まっている、およそ6万トンの高レベル
汚染水「427万2200テラベクレル」については、

 原子炉から外に漏れ出したとは言え、環境中に広く放出されて
しまった訳ではありません。



 なので、

 (事故現場では、ほんとうに懸命の努力をしていると思いますが)

 この「高レベル汚染水」を、何とか安全に貯蔵し、放射能を浄化
することによって、

 地下水や海などの環境中に、高レベルの放射能がひろく拡散し
ないよう、

 絶対に、そのようにしなければなりません!



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