原爆40個ぶんの放射能漏れ!
                          2011年4月3日 寺岡克哉


 警察当局によると、

 日本政府が避難指示を出している、福島第1原発から20キロ
の圏内に、

 東日本大震災で亡くなった人の遺体が、数100〜1000体ある
と推定されています。



 しかしながら、

 遺体が放射性物質を浴びているため、警察官が遺体を収容し
ようとすると、

 その放射線によって、警察官が「2次被曝」を受ける恐れがあり、
なかなか作業が進まないみたいです。

 とくに、原発から約5キロの地点で見つかった遺体からは、

 高いレベルの放射線量が測定されたため、警察の部隊が遺体
の収容を断念しています。



 この報道を知って、私は思ったのですが・・・

 放射能汚染のために、遺体が野ざらしにされているなんて、

 もしかしたら、まるで「戦術核兵器」でも使われたかのような、
様相になっているのではないでしょうか?

 私には、そんな風に感じられて、なりませんでした。


            * * * * *


 しかし、一体ほんとうに、

 福島第1原発から、どれだけの放射性物質が放出されているの
でしょう?

 たとえば1986年に起こった、チェルノブイリの原発事故では、

 広島型原爆400個ぶんの放射性物質が、放出されたと言われ
ています。

 それに比べて、福島第1原発はどうなのでしょう?



 そのようなことが分からなければ、

 このたびの原発事故が、本当にどれくらい甚大なことなのか、

 実感として、なかなか分かり難いのではないかと思います。



 しかしながら、このことは「世界的な関心事」でもあるので、いくつ
かの研究機関によって、すでに見積もりが行われています。

 それらについての報道を、私なりに読みとり、まとめてみた所では、
だいたい以下のようになっていました。


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               福島第1原発から放出された放射性物質の量

                  チェルノブイリの     広島型原爆の

オーストラリア気象地球力学   約20%         約80個分
中央研究所

フランスの放射線防御       約10%         約40個分
原子力安全研究所

米国市民団体の、          約10%        約40個分
エネルギー環境調査研究所

日本の原子力安全委員会     2〜6%        8〜24個分


※ ただし、チェルノブイリから放出された放射性物質の量は、
  研究機関により、1.8×1018〜3.7×1018ベクレルの
  開きがあります。

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 上の表で、

 たとえば仮に、見積もりの上限と下限をカットした、中間値くらいが
妥当ではないかと判断してみると、

 福島第1原発の事故によって、

 チェルノブイリの10%、広島型原爆40個ぶんの放射性物質
が、すでに放出されてしまったことを、

 私たち日本人は、覚悟しておかなければ、ならないように思い
ます!




 世界中の人々が、最低でも、そのように判断するでしょうし、

 いくら日本が、それより低い値を主張しても、なかなか信用して
もらえないでしょう。



 日本に滞在している外国人が、避難のために帰国したり、

 日本への外国人観光客が減ったり、

 日本から輸出された、農産物や魚介類に、きびしい放射能検査
が行われるのも、

 とくに外国人が、敏感で大げさだと言うわけではなくて、当然と
いえば当然のことなのだと、受け止めなければならないでしょう。

 たとえば、もしも外国で、

 広島型原爆40個ぶんの放射能漏れが起こったとしたら、私たち
日本人も、同じような対応をするだろうと思います。


            * * * * *


 ところで、

 「原子力発電所」から漏れ出た射性物質が、「原子爆弾」のそれ
よりも多いなんて、

 不思議に思う人がいるかも知れませんね。



 しかし、じつは、

 原子力発電所の核燃料は、原子爆弾の核物質よりも、

 ものすごく量が多いのです!




 たとえば広島型原爆の場合、濃縮ウランの量は75キログラム
だと言われています。

 しかし、

 福島第1原発の核燃料は、1号炉が69トン、2号、3号、4号炉が
それぞれ94トンで、

 事故を起こした4つの原子炉を合わせると、351トンにもなり
ます。



 つまり、

 原子力発電所の核燃料は、広島型原爆の核物質よりも、

 4680倍の量があるのです。




 このように原子力発電所は、莫大な量の放射性物質をかかえ
込んでいるために、

 (現場の人々の、必死の努力にもかかわらず)たとえその一部が
漏れ出しただけでも、

 広島型原爆の数10個分という話に、なってしまうわけです。



 たしかに原子爆弾は、「核爆発」による巨大なエネルギーで、たく
さんの人々を殺傷する、とても恐ろしい大量破壊兵器です。

 しかし爆発後は、1週間で放射能の90%が消滅し、1年後には、
自然放射能のレベルに下がったと言われています。

 その理由は、

 もともと原爆は放射性物質の量が少ない上に、核爆発のときに
その大部分が成層圏まで飛散し、大気圏にひろく拡散して、

 広島自体には、放射性物質がほとんど降らなかったためと考え
られています。

 それで、まもなく広島は、「人の住める都市」として復興できたの
でしょう。



 ところが一方、今回のような原発事故による放射能漏れは、

 核爆発は起こらないものの、まき散らされる放射性物質の量がすご
く多いため、それによる汚染は、ずっと長期にわたります。

 たとえば福島第1原発から、5キロ圏内とか、もしかしたら10キロ
圏内くらいまでは、

 なかなか人が住んだり、農作物を作れるようには、ならないのでは
ないかと思います。

 とくに、「セシウム137の半減期が30年」であることを考えると、

 少なくても数10年、もしかしたら100年くらいは、人が住むことの
できない「死の土地」と、なってしまうのではないでしょうか。


 なので、

 原発事故による「残留放射能の問題」は、ものすごく深刻だと言え
ます。


            * * * * *


 ところで・・・ 3月20日に、文部科学省が行った調査によると、

 福島第1原発から北西へおよそ40キロ離れた、福島県の飯館村
で、

 土壌1キログラムあたり、16万3000ベクレルの、セシウム137
が検出されました。



 京都大学 原子炉実験所の、今中哲二 助教 (原子炉工学)に
よれば、

 このセシウム137の量は、1平方メートルあたりに換算して、

 326万ベクレルになると言います。



 ところで一方、

 旧ソ連のチェルノブイリ事故では、1平方メートルあたり148
万べクレル以上のセシウムが検出された地域が、「強制移住」
の対象とされました。


 なので、

 飯館村の326万ベクレルというのは、チェルノブイリ事故で
強制移住の対象になった地域の、2倍以上の放射能汚染に
なっているのです。




 しかし日本政府は、

 4月3日現在においても、飯館村に「避難指示」を出さないで
います。

 なんとも不可解であり、ひどい話のように思えてなりません!



 また、

 国際原子力機関(IAEA)は、飯館村の土壌の「ヨウ素131」
ついて分析した結果、

 1平方メートルあたり2000万ベクレルで、IAEAが定めている
避難基準の、2倍に相当する値だと発表しました。

 ところが、その後の分析で結果が修正され、

 じつは1平方メートルあたり700万ベクレルであって、避難基準
の1000万ベクレルを下回ったとしています。

 しかしこれは、半減期が8日と短い「ヨウ素131」の話であり、

 半減期が30年と長い「セシウム137」については、まったく
言及されていない
ことに、注意するべきだと私は思っています。



 経済産業省の、原子力安全・保安院は、

 飯館村周辺における被曝量を独自に試算した結果、震災以降の
実質的な累積被曝量が、最大でも25ミリシーベルトていどと見られ、
「直ちに避難する必要はない」としています。

 しかしながら、上で話したように、

 旧ソ連が「強制移住の対象」とした2倍以上のセシウム137が、
飯館村で検出されているのに、

 「直ちに避難する必要はない」というのは、「旧ソ連以下の対応」
だと世界中から評価されても、まったく仕方がないでしょう。



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