中東情勢の悪化と地球温暖化 2
                          2011年2月20日 寺岡克哉


 前回のエッセイ469で、お話しましたが、

 いま、中東や北アフリカの国々で、暴動や反政府デモが相次いで
います。

 その直接的な引き金となったのは、「食料価格の高騰」であり、

 食料の高騰をまねいた直接のキッカケは、昨年から世界各地で
多発している「異常気象」でした。


 今回は、その続きです。


              * * * * *


 ほんとうに、昨年から今年にかけて、

 世界各地で、「異常気象による災害」が多発しています!



 とくに被害が大きかったものを挙げると、

 少なくても1万5000人が死亡した、ロシアの熱波。

 1600人が死亡し、1700万人が被災した、パキスタンの洪水。

 被災者がのべ2億人に上った、中国各地で起こった洪水や
土石流などがあります。



 そして日本でも、

 昨年の夏は猛暑になり、熱中症の患者がずいぶん出ました。



 さらには、昨年末から新年にかけて、

 オーストラリアで大規模な洪水が起こり、日本の国土の3.7倍
という、ものすごく広い範囲が災害をうけました。

 また、ほぼ時期を同じくして、

 ブラジル、スリランカ、南アフリカなどでも、洪水の被害が発生
しています。



 一方、日本では、昨年末から新年にかけて、

 山陰地方で「記録的な大雪」が降り、たくさんの小型漁船が
転覆したり沈没しました。

 また、この冬は山陰地方のほかにも、日本の各地で大雪が
降っています。


            * * * * *


 しかし、それだけでなく、

 世界各地で起こっている「異常気象」は、上に挙げたものも含め
て、まだ他にもあります。

 これらの異常気象が、「食料価格の高騰」をまねいたキッカケに
なっている訳ですが、

 そのことに関連したものを以下に挙げます。



 まず、

 食料高騰の「直接のキッカケ」となったのは、昨年の夏に起こっ
「ロシアの干ばつ」です。

 この干ばつによって、ロシア全土における作付け面積の、4分の1
が壊滅したと言われています。

 そのためロシアは、小麦など穀物の輸出を禁止しており、これが
世界的な食料高騰をまねく原因になったとされています。



 また、

 オーストラリアで起こった大規模な洪水も、食料価格の高騰に
影響を与えているようです。

 その上、2月3日には超大型のサイクロン「ヤシ」が上陸して、

 オーストラリアで最大のサトウキビ生産地帯が大打撃をうけ、
およそ半数の作物が、なぎ倒されました。

 この影響で、砂糖(粗糖)が約30年ぶりの高値となっています。



 アメリカの穀物ベルト地帯では、

 2月の初めに、数十年ぶりの大雪に見舞われ、穀物や家畜の
出荷がストップしました。

 この大雪で、冬小麦への影響が懸念されています。



 マレーシアでは、

 洪水の影響で、パームオイルが3年ぶりの高値となっています。



 その他、

 カナダの天候不順、南米の降雨不足、黒海沿岸諸国の干ばつ
なども、

 世界的な食料価格の高騰の、引き金になったとされています。


             * * * * *


 そして、その上に・・・

 さらなる食料高騰の懸念材料として、「中国の干ばつ」が挙げ
られます。

 いま現在、世界最大の小麦生産国である中国は、60年ぶり
の干ばつに見舞われていて、

 冬小麦の生育に、大きな被害が出ることが心配されているの
です。



 この干ばつで、

 およそ257万人の住人と、279万頭の家畜の、飲用水が不足
していると言われています。

 とくに被害が大きいのは、山東省、江蘇省、河南省、河北省、
山西省などで、

 これらの省だけでも、この冬に栽培される小麦の、およそ60%
を担っています。



 2月8日。国連食料農業機関(FAO)は、

 「現在(中国で)続いている干ばつは、深刻な問題となる可能性
がある」と、注意を喚起しました。

 同じくFAO(国連食料農業機関)によると、

 「干ばつによる被害は、中国の小麦生産地の3分の2に相当
する、およそ516万ヘクタールに及んでいる」と、しています。



 私は思うのですが、

 前回のエッセイ469で触れましたように、世界的に食料価格が
高騰している要因には、

 中国やインドなどの新興国が、経済の成長にともなって「食料の
需要を拡大させている」と、いうのもあります。



 13億4000万人もの、世界一の人口をかかえる中国・・・

 その巨大な人口が、食料の需要を拡大させていているのに、

 異常気象による干ばつで、世界最大の小麦生産国(つまり中国)
が、大きなダメージを受けてしまったら、

 さらなる食料価格の高騰が起こるのは、もちろんですが、

 「世界的な食糧危機」にさえ、陥ってしまうような気がして
なりません!



              * * * * *


 ところで・・・ 気象の専門家たちは、

 
このように世界各地で異常気象が多発していることに対して、

 「地球温暖化」が、その要因になっているという見方を、

 最近ますます
強くしています。



 1月20日。世界気象機関(WMO)は、

 2010年の世界の平均気温が14.53℃となり、1998年や
2005年とならび、観測史上で最高だったと発表しました。

 この発表でWMO(世界気象機関)は、「地球が長期温暖化傾向に
あることを裏付けている」
と、しています。



 そして、同じくWMO(世界気象機関)は1月25日。

 昨年の夏以降から活発化している「ラニーニャ現象」は、観測史上
で最大規模であると発表しました。

 今回のラニーニャ現象は、

 昨年の夏には、パキスタンでの洪水や、ロシアでの干ばつを引き
起こし、

 最近では、オーストラリアなどで洪水を引き起こす原因になったと、
されています。

 WMO(世界気象機関)は、これらの異常な大気の観測にもとづき、
このたびのラニーニャが「観測史上で最大規模」であると、結論づけ
たのです。



 その一方で、

 昨年の4月までは、ラニーニャとは逆の、「エルニーニョ現象」が観測
されていました。

 WMO(世界気象機関)の当局者は、このようにエルニーニョや
ラニーニャが頻繁に観測されたり、その規模が大きくなったりする
背景には、


 「地球温暖化」が関係していると見ています。




 そして、これは「最新の情報!」ですが、

 カナダやイギリス、日本の国立環境研究所などのチームが、

 「人間の活動によって大気中に排出された温室効果ガス
が、豪雨や洪水が起こる危険性を高めた」


 とする研究結果を、実際の気象観測データを用いた解析
よってまとめ、

 2月17日、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に発表しました。



 これまでにも、コンピューターシミュレーションによって、

 「地球温暖化で豪雨が増える」という指摘は、なされていました。

 が、しかし、

 「実際の観測データ」に基づいて、それを裏付けた研究は、

 これが初めてだと言います。



 この研究でカナダのチームは、

 1951年〜1999年における、世界の6000ヶ所の降雨データを
解析し、

 「北半球の陸地の3分の2の地域で豪雨が増えたのは、温室
効果ガスの増加が主な原因であるとみられる」と、結論づけま
した。


 また、

 「これまでのコンピューターシミュレーションによる温暖化予測
は、
温室効果ガスの増加によって豪雨被害が増える可能性を、
過小評価している恐れがある」
と、指摘しています。



 一方、イギリスや日本の国立環境研究所のチームは、

 2000年の秋にイギリスで洪水被害を引き起こした、「記録的な
豪雨」について分析をしました。

 その結果、

 「温室効果ガスの増加が、洪水のリスクを20%以上増大させた
可能性が高い」という、結論が得られています。



 これらの研究成果により、いよいよ、

 「地球温暖化」と「異常気象」の関係が、コンピューターシミュ
レーションだけでなく、


 実際の気象データ、つまり「観測された事実」として、裏付け
られるようになって来たのです!



            * * * * *


 以上ここまで、前回のエッセイより、お話して来たことから、


 地球温暖化が背景となって、異常気象が世界各地で多発する
ようになり、

 異常気象の多発がキッカケとなって、食料価格が高騰するよう
になり、

 食料価格の高騰が引き金となって、中東や北アフリカの情勢が
悪化している・・・


 という、一連の流れが見えてきたように思います。



 もちろん、

 中東や北アフリカの情勢悪化にたいして、地球温暖化が唯一の
原因であるとか、

 地球温暖化さえ無ければ、暴動やデモは絶対に起こらないとか、

 そんなことを言っているのではありません。



 中東や北アフリカの情勢悪化には、

 独裁政権の長期化、貧富の差、高い失業率、アメリカの影響力
の低下、イスラム原理主義組織などの反米勢力の台頭、そして
イスラム教のシーア派とスンニー派の対立など、

 さまざまな要因が、複雑に絡んでいるというのが真相でしょう。



 しかしながら、

 地球温暖化による被害が、ほんとうに深刻になるよりも前に、
(たとえば産業革命前にくらべて、2℃以上の気温上昇がおこる
よりも前に)

 とくに貧しくて政治の不安定な発展途上国において、争いや
暴動などが起こり、

 それによる人的被害が発生するであろうことは、容易に予想が
できます。



 最近の、中東や北アフリカにおける情勢悪化を見ていると、

 すでに、そのような兆候が現れて来ているのではないかと、

 私には思えてならないのです。



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