オーストラリアの被害状況
                         2010年1月30日 寺岡克哉


 このたびの、オーストラリアの大洪水では、

 日本の国土の3.7倍という、とても広大な面積が「災害地域」
に指定されたので、

 「ものすごく大きな被害」に、なるだろうと思っていましたが・・・



 ようやく最近になって、

 オーストラリアの洪水による「被害の全体像」が、

 だんだんと明らかになって来ました。



          * * * * *


 前々回の「エッセイ465」を書いたとき、

 日本の面積の3.7倍という、ものすごく広い範囲にわたって

 道路や鉄道などが、寸断されたことを心配していましたが・・・



 1月24日までに、明らかになった所では、

 オーストラリアの、クイーンズランド州の全体において、

 9万キロにおよぶ道路を再建しなければならないみたいです。



 なんと「9万キロ」です!

 地球を1周する長さは、およそ4万キロですから、

 クイーンズランド州の道路被害は、地球を2周する以上の距離に
及んでいるのです。


 また、鉄道の路線被害は、数千キロの距離に及びました。


 その他、

 河川に架かっていた無数の橋や、送電線や下水道なども、かなり
の被害を受けています。

 もちろん、住宅や学校などの建物も、たくさん被害に遭いました。



 1月23日。オーストラリアのスアン財務相は、

 今回の洪水による被災者は「310万人」を越え、

 経済的な被害額は、オーストラリアの自然災害では史上最悪
の規模になる。


 という見解を述べています。


            * * * * *


 そして、さらには、

 洪水によって、たくさんの炭鉱が浸水したため、

 「石炭」の生産や、その出荷などに支障が出ています。



 スワン財務相は1月23日、

 「ボーウェン盆地の大炭田地帯では鉱山が閉鎖され、供給チェーン
が寸断された」

 と述べ、そのため石炭の海外輸出に影響がでるとの見通しを示し
ました。



 こんな状態なので、

 鉄鋼用の石炭(原料炭)は、スポット価格(※注1)で、昨年の秋に
くらべて8割ちかく上昇しており、

 火力発電用の石炭(一般炭)も、4割ほど高くなっています。

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(※注1)
 「スポット価格」とは、長期契約によるのではなく、1回ごとの契約で
取引される場合に成立する市場価格のことで、実勢価格に近い値と
なります。
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 ところで、わが国の日本は、

 「鉄鋼用石炭」の多く(5割以上)を、オーストラリアから輸入して
います。

 そのため、上のような状況が、日本の鉄鋼業界に重くのしかかっ
ています。



 1月26日。日本鉄鋼連盟の林田英治会長(JFEスチール社長)
は記者会見で、

 「アメリカやカナダなどから、(鉄鋼用石炭の)足りない分を調達
できた。」

 「新たな洪水被害が出なければ、3月まで(JFEスチールの)
操業に支障はない。」

 と、コメントしています。



 しかしながら・・・

 これから2月〜3月にかけて、オーストラリアは「本格的な雨季」
に入るみたいです。



 また1月25日に、世界気象機関(WMO)は、

 今回オーストラリアに豪雨を降らせた「ラニーニャ現象」は、
観測史上、最大の規模とみられる


 という見解を発表しました。

 ラニーニャは、今後も1ヶ月〜2ヶ月は勢力をたもち、最長
だと5月初めまで続く


 と、WMO(世界気象機関)は予測しています。



 なので、

 オーストラリアが今後、新たな洪水に襲われないかどうかは、

 けっして予断を許さない状況です。



 ちなみに、世界気象機関(WMO)の当局者は、

 このたびの「ラニーニャ現象」が、観測史上最大の規模にまで
活性化した背景として、

 「地球温暖化」が関係していると見ています。


          * * * * *


 とにかく以上のように、

 オーストラリアの洪水による被害は、ものすごく大きなものに、
なっています。


 しかしながら、「不幸中の幸い」とでも言いましょうか、

 「オーストラリアの小麦は豊作になり、
生産量が過去最高の
水準に達する」

 との見方が出ています。



 というのは、

 豪雨が降ったため、つぎの小麦栽培のシーズンに向けて、土壌の
水分が増加したからです。

 また、

 ダムの水位が上昇したことにより、綿花などの灌漑(かんがい)作物
の生産も、増加すると見られています。



 たとえば具体的には、

 オーストラリアの一部地域で、10年間も続いていた「干ばつ」が
終息し、

 オーストラリアの食糧供給の3分の1以上を占める、マレーダーリン
グ盆地では、ダムの水位が大幅に上昇しました。



 ところで最近・・・

 ロシアの「干ばつ」と「穀物禁輸」がきっかけとなって、世界的に食料
の価格が高騰
しています。

 国連食糧農業機関(FAO)の発表によれば、

 先月の世界における主要食料の価格が、食糧危機が叫ばれた
2008年の6月を上まわり、統計を開始してから「最高の値」となっ
ています。


 その上、

 オーストラリアの洪水被害が、この食料高騰に、さらに拍車をかける
のではないかと、危惧されていました。



 そのような状況なので、

 もしもオーストラリアの小麦が「豊作」になれば、食料の価格が抑制
される可能性があり、

 これは、いちおう朗報だと言えるでしょう。



 が、しかし、

 それをもって、「洪水が起こったのは良かった」とは、

 オーストラリアが受けた、被害全体の大きさから判断すると、

 絶対に言えないのは当然です。



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