COP 16        2010年12月19日 寺岡克哉



 11月29日〜12月11日まで、メキシコのカンクンにおいて、

 気候変動枠組み条約 第16回締約国会議 (COP16)が、

 開かれました。



 ところで、

 昨年のCOP15以後、この会議に向けて行われた「準備会合」
では、あまり議論が進んでいませんでした。

 なので、「COP16でも大きな進展はないだろう」と、始めから
諦めムードで見られていました。



 しかしながら、

 まったく進展が無かった訳ではなく、「カンクン合意」というのが、

 COP16で正式に採択されたのです。



 今回は、

 その「カンクン合意」と、このたびのCOP16について、

 私の思ったことを、お話したいと思います。


            * * * * *


 さて、

 COP16で採択された、「カンクン合意」の要旨は以下の通りです。


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1.発展途上国の温室効果ガス削減を支援する「グリーン気候基金」や、
 温暖化の影響への対応を手助けする「カンクン適応フレームワーク
 (枠組み)」を設立する。

2.京都議定書の第1約束期間と2013年以降の第2約束期間の間に
 空白ができないよう、作業部会はできる限り早く作業の完了と採択を
 目指す。

3.地球温暖化の被害を限定的なものにするためには、2020年までに
 先進国全体で温室効果ガス排出量を1990年比で25〜40%削減
 しなければならないことを認識し、先進国に削減目標の数値を上げる
 よう促す。

4.京都議定書の第2約束期間の基準年は1990年とする。

5.途上国は全体で、2020年に排出総量の伸びを抑制することを
 目指す。

6.途上国の温室効果ガス削減を検証する仕組みをつくる。

7.産業革命以降の気温の上昇を2度未満に抑えるため、締約国は
 緊急に行動する。

8.2050年までの世界全体の削減目標を第17回締約国会議(COP17)
 で検討する。

9.世界全体の排出量ができるだけ早く減少に転じるよう締約国は協力
 する。
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 以上が、「カンクン合意」の要旨ですが、

 これは、昨年のCOP15における「コペンハーゲン合意」と同様に、

 法的な拘束力のある、温室効果ガスの削減義務を、世界各国
(とくにアメリカや中国)に課すというものではありません。




 なので、

 やはりCOP16でも、「大きな進展は無かった!」というのが、

 正直なところでしょう。



 しかしながら、

 昨年の「コペンハーゲン合意」からの進展が、まったく皆無だという
訳ではありません。

 たとえば「コペンハーゲン合意」は、COP15で採択された訳ではなく、
「留意」という中途半端な状態になっていました。

 しかし、このたびの「カンクン合意」は、COP16で正式に「採択」され
たのです。



 また、コペンハーゲン合意では、

 「産業革命以降の気温上昇が、2℃を超えるべきでないという科学的
な見地を認識」と、なっていましたが、

 しかし、カンクン合意では、

 「産業革命以降の気温の上昇を2度未満に抑えるため、締約国は
緊急に行動する」と、なっています。



 さらに、カンクン合意では、

 「地球温暖化の被害を限定的なものにするためには、2020年まで
に先進国全体で温室効果ガス排出量を1990年比で25〜40%削減
しなければならないことを認識」

 と、明言しています。



 つまり、

 産業革命前からの気温上昇が2℃を超えると、地球温暖化による
被害が限定的ではなく、相当な大きさになること。

 そして、それを回避するためには、

 2020年までに先進国全体で温室効果ガス排出量を、1990年比
で25〜40%削減しなければならないこと。

 これらを、国際社会が正式に認めたことになります!



 だから、この「カンクン合意」以降は、

 もしも2020年までに、先進国全体で1990年比25〜40%の削減
が出来なかった場合は、

 地球温暖化による「相当な被害」が出ることを、知った上で(覚悟
の上で)、そうしたのだと言うように、

 後世の人々からの、「歴史的な評価」が与えられてしまうでしょう。



 もはや、後世の人類にたいして、

 「2010年の当時では、温室効果ガスを意欲的に削減しなければ、
地球温暖化の被害がこんなに酷くなるとは、まだ国際社会として認識
されていなかった」

 などという言い逃れは、出来なくなったわけです!


           * * * * *


 ところで、このたびのCOP16では、

 わが国の日本が、ずいぶん批判を受けたみたいです。

 というのは、「京都議定書の延長案」に、強硬に反対したから
です。



 もしも今のまま、「ポスト京都議定書」の枠組みが決まらなければ、

 京都議定書の「第1約束期間」が切れる2013年以降には、

 世界のどの国も削減義務が無くなるという、「空白期間」が生じて
しまいます。



 そのため、

 「第2約束期間」を開始させようという案、つまり京都議定書を延長
する案を、

 おもに中国などの発展途上国が中心になって、つよく主張しました。

 さらにはEUも、京都議定書の延長にたいして、容認する姿勢を
見せました。



 しかし日本は、それに反対したわけです!

 なぜなら「京都議定書」では、温室効果ガスの削減義務が課せられ
ているのは先進国だけであり、

 世界最大の排出国である中国は、途上国扱いになっていて、削減
義務が課せられていないからです。

 そして巨大排出国のアメリカも、京都議定書から離脱しているため、
削減義務が課せられていません。



 具体的に、京都議定書で削減義務が課せられている国は、

 ロシア(5%)、日本(4%)、ドイツ(3%)、カナダ(2%)、イギリス(2%)、
イタリア(2%)、その他(10%)です。

※ ( )内の数字は、2007年における世界全体の二酸化炭素排出量
  に対する、各国の割合。



 つまり、上の国々を足し合わせても、

 削減義務が課せられているのは、世界全体の二酸化炭素排出量の

 たった28%に対してだけなのです。



 一方、それに比べて、削減義務が課せられていない国は、

 中国(21%)、アメリカ(20%)、インド(5%)、イラン(2%)、韓国(2%)、
メキシコ(2%)、その他(20%)です。

※ ( )内の数字は、2007年における世界全体の二酸化炭素排出量
  に対する、各国の割合。



 このように「京都議定書」では、

 世界全体の二酸化炭素排出量の、大部分(72%)にたいして、

 削減義務が課せられていません!





 つまり、中国とアメリカの2大排出国をはじめとした、

 世界の二酸化炭素排出の大部分に、削減義務が課せられていない
ような「京都議定書」を延長しても、

 地球温暖化を抑制できないと言うのが、日本の主張です。



 この主張は、まったくもって正論であり、

 日本の他にも、カナダやロシアなどが、京都議定書の延長に反対
しました。

 しかし、日本がいちばん強硬に反対したため、

 「地球温暖化対策に、空白期間を作ってはならない!」という批判を、

 一身に浴びてしまったようです。


            * * * * *


 (確たる証拠はありませんが)私の思ったことですが・・・


 中国などの発展途上国が、京都議定書の延長をつよく主張するのは、

 「温室効果ガスの削減義務を回避したい!」という思惑が、見え見えで
しょう。



 EUが、京都議定書の延長を容認するのは、

 どの国にも削減義務が無くなる「空白期間」が生じてしまうと、「炭素
取引の市場」が混乱するからでしょう。

 つまり、

 世界のどの国も削減義務が無くなれば、「二酸化炭素の排出権」を
買わなければならない必要性が、まったく無くなるわけです。

 もしもそうなれば、炭素市場が暴落するのは、目に見えています。

 また、その他の理由として、

 空白期間が生じれば、太陽光発電や風力発電などの、新エネルギー
産業が停滞してしまうことを、懸念しているかも知れません。



 日本が、京都議定書の延長に反対するのは、

 削減義務を達成するために、おそらく「二酸化炭素の排出権」を、
また買い取らなければならず、そのための金を使うのが嫌だからで
しょう。

 EU諸国は、二酸化炭素の排出を順調に削減しており、下手をすれ
ば日本だけが大金を取られて、世界中から「カモにされる」可能性が
あります。

 また、

 経済活動への影響を懸念して、「できるだけ二酸化炭素を削減した
くない!」というような、日本経済界の思惑もあるでしょう。


            * * * * *


 上のような「裏の事情」があるにしても、しかしながら、

 中国とアメリカの2大排出国をふくめた、世界の国々の大部分に
たいして削減義務が課せられていない「京都議定書」を延長しても、

 地球温暖化を抑制できないと言うのは、やはり正論です!



 アメリカと中国・・・

 とくに、この先どこまで二酸化炭素の排出が増えるのか、まったく
分からない中国にたいして、

 法的な拘束力のある削減義務を課すことが出来るかどうかが、

 世界の温暖化対策にとって、いちばん本質的な問題です。



 それに比べれば、

 (EUは困るかも知れませんが)「空白期間」が一時的に生じること
など、

 あまり問題ではありません。



 もし、一時的に空白期間が出来たとしても、

 中国とアメリカにたいして、法的な拘束力のある削減義務を課す
ことが出来るならば、

 その方が良いに決まっています。



 しかし逆に、空白期間が生じなかったとしても、

 京都議定書を延長したために、いつまでもズルズルと、

 アメリカと中国にたいして、削減義務を課すことが出来なかった
としたら、

 その方が、一時的な空白期間が生じることよりも、さらにもっと
大きな問題です。


             * * * * *


 このたびのCOP16で、「京都議定書の延長」については、

 ひとまず来年のCOP17まで、議論が持ち越しとなりました。



 COP16の最終日が近づいた、12月9日には、

 石油連盟、日本鉄鋼連盟、電気事業連合会、日本自動車工業会、
日本製紙連合会など、

 産業界の主要9団体が、東京都内で記者会見をひらき、

 「京都議定書の延長に反対する緊急提言」というのを発表しました。



 この提言の内容や、記者会見での発言において、

 「(京都議定書の延長は)極めて不公平かつ実効性が乏しい。」

 「(COP16で)妥協すれば経済が縮小し、取り返しがつかなくなる。」

 「国内製油所の存在すら危うくなる。国の安全性にかかわる重大な
問題だ。」

 「政府は断固、(京都議定書の)延長を受け入れるべきでない。」

 「会議(COP16)の決裂を恐れるべきではない。」

 などの意見が表明され、日本の産業界が、いかに京都議定書の延長
を危惧していたのかが、如実に分かります。



 今回のCOP16で、「京都議定書の延長」が決まらなかったことは、

 いちおう、日本経済界の思惑が、通った形になったのでしょう。



 しかし繰りかえしますが、

 地球温暖化の被害を限定的なものとするには、

 先進国は2020年までに、温室効果ガスを1990年比で25〜40%
削減しなければなりません。

 それは、このたびの「カンクン合意」により、国際社会で正式に認識
されました。



 なので、これから日本が目指そうとしている、

 「1990年比25%削減」は、先進国が果たすべき最低の責任
です!


 もしも、それが守れなかった場合は、

 「地球温暖化による、相当な被害が発生することを、分かって
いて容認したのだ!」


 と、後世の人類から、きわめて強烈な「歴史的批判」をうけても、

 まったく仕方がないでしょう。



 そのことは、肝に銘じておくべきです。



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