メキシコ湾の原油流出 3
2010年7月11日 寺岡克哉
7月4日。
流出した原油は、事故現場から800キロ以上離れた、テキサス州の
海岸にまで到達しました。
現在もなお、
最大の見積もりで、1日あたり950万リットルの原油が、流出しつづけ
ています。
ところが、
回収されている原油の量は、1日あたり400万リットルていどなので、
最大で、毎日々々550万リットルの原油が、メキシコ湾に広がり続けて
いることになります。
そんな状況の中、
台湾の企業が保有する、巨大なタンカーを改造した、「原油回収船」
のテストが行われています。
この「大型原油回収船」は、
全長が340メートルもあり、高さは10階建てのビルにも相当する、
とても巨大なものです。
そして1日あたり、7950万リットルもの「海水」を、処理する能力が
あります。
しかしこれは、
あくまでも「海水の処理量」であり、「原油の回収量」ではないことに
注意してください。
ではありますが、原油の回収量も、今までより大幅にアップすること
は間違いありません。
これから「大型原油回収船」の活躍に、大いに期待したいと思います。
* * * * *
ところで私は、
メキシコ湾の原油流出事故について、いま思っていることがあります。
それは、この事故が、
化石燃料に依存している人類への、「警鐘(けいしょう)」ではないか
ということです。
つまりメキシコ湾の事故は、
太陽エネルギーや、風力エネルギーなどの利用による、
「脱 化石燃料化への移行を急げ!」という、
「人類への重大な警告」のように、思えてならないのです。
二酸化炭素の増加による、「地球温暖化」の問題や、
「オイルピーク(石油の枯渇)」などの問題から、
どの道、人類は、
化石燃料に依存した生き方から、脱却する必要があります。
人類が、そうしなければならないのは、まず絶対に確実なこと
ですが、
しかし問題は、その「やり方」なのです。
* * * * *
たとえば、これまで私は、
従来型の「油田」によって、採掘できる石油が枯渇してくれば、
「オイルシェル」から、石油を採るようになるのではないかと、
考えていました。
「オイルシェル」というのは、石油が滲(し)みこんだ岩石のことで、
それを粉砕して、500℃くらいの温度に熱すると、石油の成分が
蒸発してきます。
その「石油の蒸気」を集め、冷却して液体にもどせば、石油が得ら
れるわけです。
世界全体における、「オイルシェル」の採掘可能な究極埋蔵量は、
石油に換算して、3.5兆バレルと言われています。
これは、
従来型の「油田」における、石油の究極可採埋蔵量である2兆
バレルの、
およそ2倍ちかくにもなる莫大な量です。
このように、埋蔵量が莫大なので、
従来型の油田が枯渇してくれば、つぎは「オイルシェル」から石油を
採るようになるのではないかと、
私は考えたわけです。
しかしながら「オイルシェル」は、
岩石を粉砕したり、熱したりする必要があるので、
石油の精製コストが高くなり、石油の値段を上げざるを得ません。
その結果、石油よりも、
太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」の方が、コスト的にも
有利になり、
それらの再生可能エネルギーが、爆発的に普及して行くのでは
ないかと、
そのようなシナリオを、私は心に描いていたわけです。
* * * * *
ところが、メキシコ湾の事故を見ていると・・・
私の考えていた「穏便なシナリオ」では、収まらないような気が
して来ました。
なぜなら石油企業は、
「オイルシェル」から石油を採り出すことよりも、
「深海油田」を開発することの方に、力をそそいでいるからです。
おそらく、その方が、コスト的に有利だと判断したのでしょう。
その結果、
深海へ、さらに深海へと、
技術的にも「ムリ」があるのではないかと思えるような、
すごく深い海底での、油田開発をどんどん進め、
とてつもない原油流出事故を発生させて、
「すさまじい海洋汚染」を招いてしまったのです!
石油企業(および人類)は、
世界中の海を、どうしようもないほど汚しに汚しまくってから、
石油をあきらめ、手を引くのでしょうか?
それは、ものすごく愚かであり、最悪の選択です!
* * * * *
このような危機感をもつのは、じつは私だけではありません。
たとえば、アメリカのオバマ大統領は、
水深500フィート(152.4メートル)よりも深い地点での、
海底油田の掘削を半年のあいだ中止し、新規の掘削を
許可しない
という方針を、打ち出しています。
また、
欧州委員会の、エッティンガー委員(エネルギー担当)は、
メキシコ湾の原油流出事故にたいして、原因究明の必要性を
強調し、
それが明らかになるまで、新規の沖合掘削を禁止するべきだ
との考えを示しました。
この要請は、
石油の採掘権を認可している、EUの加盟国に向けられたもの
です。
現在、オバマ大統領は、
深海油田掘削の凍結措置をめぐる裁判で、苦戦を強いられて
いますが、
ぜひとも、上に挙げたような動きが加速し、
第二、第三の、メキシコ湾のような事故が、絶対に起こらない
ように、してもらいたいと思います。
そして、さらには、
人類の「脱 化石燃料化」を、可能なかぎり最大限に、
早く達成させなければなりません!
それこそが、
メキシコ湾の原油流出事故という最悪の事態を、
「人類への重大な警告」として真摯(しんし)に受け止め、
「人類の貴重な体験」として活かす道なのだと思います。
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