メキシコ湾の原油流出 2
2010年7月4日 寺岡克哉
前回では、
メキシコ湾の原油流出事故が、ものすごい大惨事であり、
海の生態系に与える影響が、計り知れないものであることを、
お話しました。
7月1日現在で、原油に汚染された海域は、
東西およそ720キロ、南北およそ200キロの範囲に広がりました。
それを、日本の地図に重ねてみると、
東京から、静岡、名古屋、大阪、岡山、そして広島までの沿岸が、
原油に汚染されたことに相当します。
また、7月3日現在で、
流出した原油の総量は、最大の見積もりで、5億7000万リットル
になりました。
これは、
1997年に日本海沖で座礁した、ロシアのタンカー「ナホトカ号」
から流出した重油、620万リットルの、
およそ90倍の量です。
ほんとうに甚大な災害で、最悪の事態になっています。
この先、どこまで被害が拡大していくのか、
戦々恐々とする思いです。
* * * * *
ところで・・・
今回のような事故は、ある意味で、
「起こるべくして起こった!」という気がして、ならないのです。
なぜ、私がそう感じるのかと言えば、「石油が簡単に採れなく
なってきた」からです。
つまり、
陸上にあって、簡単に採掘できるような油田は、だんだんと掘り
つくされてしまい、
陸上から海底へ、そしてさらには、浅い海底から、深い海底へと、
採掘するのに困難な場所でなければ、石油が採れなくなって
来たからです。
困難な場所での採掘を強行すれば、とうぜん、事故のリスクも
大きくなるでしょう。
今回の流出事故が起こったのは、水深が1500メートルもの深海
です。
人間が直接に潜って作業することは、まったく不可能な水深であり、
原油の流出を止める作業が、困難をきわめています。
水深1500メートルもの深海で、原油を安全に採掘できる技術が、
現時点でしっかりと確立されていたのか?
もしかしたら、たとえば高速増殖炉の「もんじゅ」のように、技術的に
かなり「無理」をしていたのではないか?
という疑惑が、どうしても私の心をよぎってなりません。
もしも、しっかりとした「技術的な基礎」を持たないまま、
まるで見切り発車のように、どんどん深い海底での原油採掘を進めて
来たのだとしたら、
いつか、今回のような「大惨事」が起こってしまうのも、まったく当然の
ことでしょう。
* * * * *
私は決して、
高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム爆発事故を、軽く見るわけでは
ありませんが、
しかしながら、
メキシコ湾の原油流出事故を、海の生態系や、漁業資源への影響
という視点から見ると、
「もんじゅ」の事故とは、比較にならないほどの大惨事であることは
確かです。
それほどの、
「ものすごく巨大なリスク」が、海底油田の開発には存在して
いたのです!
そんなこと今まで、私はぜんぜん意識していなかったので、
メキシコ湾の原油流出事故は、とても大きな衝撃を受けました。
そうして、はたと振り返ってみると、
サハリン沖や、東シナ海などの「日本の近海」でも、
海底油田の開発が行われています。
だからメキシコ湾の事故は、まったく他人事ではないのです!
もしも、
サハリン沖や、東シナ海で、メキシコ湾クラスの原油流出事故が
起こったら・・・
知床の自然遺産や、北海道のオホーツク海側の漁業が、壊滅して
しまいます。
あるいは、
沖縄など南西諸島の、サンゴ礁や、漁場が壊滅してしまうでしょう。
* * * * *
ところで、
石油連盟(日本の石油精製、元売会社における業界団体)は、
来月から、サハリン沖の事故に備えて、
北海道の稚内(わっかない)港に、流出原油を回収するための
機材を、常備するそうです。
これはまさに、
「サハリン沖の海底油田から、原油が流出する危険性がある」
というか、
「少なくても、原油流出の危険性は、けっしてゼロではない」という
ことを、
如実(にょじつ)に物語っています。
石油関連の企業は、
海底油田の開発における「危険性」が、一体どれくらいのもの
なのか、
「定量的な情報」を公開するべきです!
おそらく、
海底油田の危険性については、海底までの水深だけでなく、
流氷の影響や、台風の影響、あるいは海流の影響や、地震の影響、
原油にかかっている圧力、地層や岩盤の状態など、
さまざまな要素があると思います。
それらを含めた「総合的なリスク評価」の結果を、早急に公表する
必要があるでしょう。
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