日本の国家戦略
                              2010年2月21日 寺岡克哉


 前回のエッセイによる、私なりの結論を、もういちど確認しておくと、

 アメリカや中国の削減目標を、「意欲的な目標である」と認めては
ならない。


 しかし日本は、「25%削減」を放棄してはならない。

 と、言うことになるでしょうか。



 これは確かに、

 「すべての主要排出国が”意欲的な目標”で合意すること」という、

 日本が「25%削減」を行うにあたっての、「前提条件」に矛盾して
います。



 しかしながら、

 世界の温室効果ガス排出量を、増加から減少に転じさせるためには、

 日本はそのような態度(国家戦略)をとるのが、いちばん望ましいと

 私は思うのです。



 つまり、

 「日本も頑張るので、アメリカや中国も、もっと頑張ってくれ!」と、

 巨大排出国に対して、温室効果ガス削減の後押しを、やり続けて
行くわけです。



 そしてまた、

 経済的・技術的な、「日本の優位性」を保ちつづけて行くためにも、

 そのような国家戦略をとることが、すごく重要ではないかと、私は
考えています。


 今回は、そのことについて、お話したいと思います。


              * * * * *


 ところで・・・

 「温室効果ガスを削減すれば、日本経済がますます苦しくなる!」

 「削減目標が厳しければ、日本企業が海外に流出する!」

 「そうなれば日本の失業者が、ますます増えることになるだろう!」

 と、このように心配する人も、多いのではないでしょうか。



 たしかに、日本だけしか、温室効果ガスを削減しないのなら、そうなる
でしょう。

 しかし、そんなことには決してなりませんし、事実そうなっていま
せん。


 というのは、

 すでにヨーロッパ諸国では、日本と同等か、それ以上に厳しい削減
目標を、揚げている国があるからです。



 たとえば、

 イギリスは2020年までに、1990年比で34%削減。

 ドイツは2020年までに、1990年比で40%削減。

 スウェーデンも2020年までに、1990年比で40%削減。

 そして、ノルウェーは2030年までに、温室効果ガスの排出をゼロ
にする目標です。

 さらに(ヨーロッパの国ではありませんが)、モルディブは2020年
までに、排出を実質ゼロにする方針を表明しています。



 このように、厳しい削減目標を揚げる国々があるのは、

 現在すでに、地球温暖化による気候変動の被害が、現実問題として
世界各地で起こっているからです。

 熱波、干ばつ、大規模な山火事、サンゴの白化、はげしい豪雨による
洪水・・・ 

 世界各地で起こっている、これら「気候変動による災害」をいちいち挙げ
れば、きりがありません。



 このままだと・・・・

 温暖化による自然災害が、ますます頻発するようになり、かつ大規模
になって行くでしょう。

 だから今後、温室効果ガスの大量排出国にたいして、国際世論が
どんどん厳しくなって行くのは、絶対に間違いありません。



 つまり、これから近い将来、

 低炭素技術による経済活動だけが、世界で認められるようになり、

 二酸化炭素を大量に排出するような、アメリカや中国などの古いタイプ
の経済活動は、認められなくなって行くのです。

 また、そうしなければ、

 経済の発展どころか、「人類社会そのもの」が危機に陥ってしまうで
しょう。


             * * * * *


 日本経済が生きのこる道も、ここにあります。

 というか、日本経済が生きのこる道は、ここにしか存在しません。



 なぜなら、たとえば仮に、

 もしも、「いくら二酸化炭素を出しても良い」というのなら、

 それこそ、日本が今まで培(つちか)ってきた低炭素技術が、

 意味をなさなくなってしまいます。



 さらには、

 「人件費の安さ」から言えば、中国やインド、東南アジアの国々に、

 日本は絶対にかなわないでしょう。



 つまり、

 「いくら二酸化炭素を出しても良い」という国際世論なら、日本経済が
沈没するのは明白です。

 そして事実、いまの日本経済は、中国やインドの台頭に、押されぎみ
になっています。

 しかし、

 「低炭素技術による経済活動しか認められない」という国際世論に
なれば、日本経済にとって、ものすごく有利になることでしょう。

 だから日本は、そのような国家戦略をこそ、とるべきなのです。



 一方、

 中国やインドなどの新興国が、温室効果ガス削減の義務づけに
大反対する真意も、

 今ここで話したような所に、あるのではないかと思われます。


              * * * * *


 しかしながら日本も、

 今までの「技術的な貯金」にあぐらをかいて、ウカウカしている訳には
行きません。



 なぜなら、

 ヨーロッパ諸国が、どんどん低炭素技術を普及させ、低炭素社会を
構築して来ているからです。

 そしてまた、

 アメリカや中国も、温室効果ガス削減の義務づけに、反対の態度を
示しながら、

 その裏でじつは、風力発電や太陽光発電を、大規模に導入している
からです。



 だから、

 日本が世界において、経済的・技術的な優位性を保ちつづけて行く
ためには、

 むしろ、自らすすんで厳しい目標を課し、切磋琢磨して行かなければ
なりません。

 そのためにも、「25%削減」という目標は、よい動機となるのです。


              * * * * *


 以上から、

 「アメリカや中国が意欲的な削減をしないので、日本も25%削減を
する必要がない」と、いうような態度は、

 日本の優位性を、自ら捨てさることであり、まったくの自殺行為です。



 そんなことをしていたら、

 ヨーロッパ諸国に先を越されるどころか、そのうちアメリカや中国に
さえ、追い抜かれてしまうでしょう。

 そうなれば、もちろん日本の企業は衰退し、国内の失業者が増える
ことになります。



 しかし、それ以前の問題として、

 温室効果ガスの大幅な削減に、後ろ向きな態度をとるのは、

 人類のみならず、地球の生命全体を、

 危機に陥れる行為であること以外の、何ものでもないのです。



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