宇宙に「意志」は存在するか?
2002年12月1日 寺岡克哉
「宇宙に”意志”は存在するのか?」と、問われたら、
「”人間に意志が存在すること”を認めるならば、現在のこの宇宙の中には、
意志も存在する」と、いうのが、最も反論の少ない回答だと思います。
この地球に住む我々人類は、宇宙の一部です。つまり、あなたも私も宇宙の一部
です。そして、あなたや私が「意志」を持っているのを自明のこととすれば、あな
たや私の「意志」も宇宙の一部です。
だから、「現在の宇宙の中には、意志が存在している!」といっても、それを否定
することは出来なくなります。
しかしながら、「あなたや私の意志が存在することは、自明のことではない!」と、
いう反論も考えられます。それは、次のようなものです。
・・・人間の体は全て物質で出来ており、「人間に意志が存在する」というのは、我々
の思い込みであり、錯覚であるにすぎない。
人間の体は、結局は、電子と陽子と中性子から出来ている。人間の体には、これ
以外のものは何も存在しない。それが全てである。
ところが、電子や陽子や中性子に「意志」など存在するはずがない。だからそれら
を寄せ集めただけの人間にも、「意志」など存在する訳がないのだ!
人間の「意識」や「意志」などと言うものは、我々の幻想や思い込み、あるいは錯覚
であって、実在するものではないのだ!
以上が、「意志の存在」に対する反論です。
これは、余りにも唯物論的で、普通の人の認識からずれています。しかしながら、
この話は論理的に正しいので、なかなか反論することが出来ません。
だから上記の回答に、”人間に意志が存在することを認めるならば”という断りを、
付け加えたのです。
ところで、この私が電子と陽子と中性子の寄せ集めにすぎないのならば、「私の
意志は幻想にすぎないのか?」と、いう話になります。
また逆に、「私に意志は存在する!」と、主張するならば、電子や陽子や中性子
にも、意志が存在しなければなりません。「私」とは、電子と陽子と中性子以外の、
何物でもないからです。
これらは、両者とも、私の認識に反します。
私の認識は、「電子や陽子や中性子に意志は存在しないが、私に意志は存在
する!」と、いうものだからです。これはごく当たり前の認識で、万人が納得できる
異論の少ない認識だと思います。
話をこのようにするには、「個々の電子、陽子、中性子には意志など存在しない
が、しかし、それらがたくさん集まることにより、全く新しい特質として”意志”という
ものが生まれたのだ!」と、考えるより仕方がありません。
そして、これと同様のことは、電子や陽子より上の階層でも起こっています。
例えば、私の「脳」は、たくさんの脳細胞から出来ています。しかし、個々の脳細
胞には、「私の意志」など存在する訳がありません。しかしそれらの脳細胞がたく
さん集まることにより、「私の意志」は確かに形成されているのです。
このように、「個々のものに全く存在していなかった性質が、たくさん集まる
ことによって新しく生じる」ということを、認めなければならないと思うのです。
* * * * *
次に、宇宙の中に「人間の意志」として意志が存在するという話ではなく、「宇宙
そのものが、意志を持っているか?」という問題について、考えてみたいと思い
ます。
エッセイ40でも若干ふれましたが、そのような考え方が出てくる根拠をもう少し
説明すると、大体次のようになります。
・・・・・
我々の住むこの宇宙は、およそ150億年前の「ビッグバン」と呼ばれる大爆発
によって誕生した。
ビッグバンの発生した当初は、莫大なエネルギーのみが存在し、「物質」は存在
しなかった。宇宙の全ての物質は、その莫大なエネルギーを原料にして作られた。
始めに電子や陽子などの素粒子が作られ、それから水素原子やヘリウム原子
などの軽い原子が作られた。
それらの軽い原子は重力によって集まり、核融合反応を起こして輝きだした。つ
まり恒星が誕生した。
恒星の中心部では、水素やヘリウムが核融合し、炭素や鉄などの重い原子が作
られた。炭素や窒素、鉄、カルシウム、リンなどの生物に必須の元素は、恒星によ
って作られたのだ。
そして、一代目の恒星の寿命が尽きて爆発し、そのガスや塵が重力によって再び
集まり、我々の住む太陽系が出来た。だから地球には、生物に必須の色々な元素
が存在している。
生物に必須の色々な元素は、地球の海に溶け込んで複雑な化学反応をくり返し、
アミノ酸や糖類などの有機物を作り出した。
それらの有機物がさらに複雑な化学反応をくり返し、そしてついに、生命が誕生し
たのだ!
以上のように、宇宙には、物質を進化させ、生命を誕生させる作用や働きが存在
する。そしてこの作用や働きは、宇宙自らが行っている「自発的な働き」だ。なぜな
ら、宇宙の外からの働きかけが一切存在しないからだ。
つまり宇宙には、生命を誕生させる自発的な「意志」が働いていると言える。
・・・・・
以上が、「宇宙に意志が存在する」と主張する根拠です。これも論理的には正し
いので、なかなか反論が出来ません。
しかし私は、「元々の宇宙には、生物を誕生させる意志は存在していなかった」
と、思うのです。
地球に生物が誕生する前は、宇宙に存在したのは空間と物質(エネルギー)だけ
です。空間や物質に「意志」など存在する訳がありません。
(しかし、宇宙の個々の物質や、宇宙空間には意志が存在しなくても、それらの全
体で、「宇宙の意志」や「宇宙の意識」を形成している可能性は考えられます。しか
しそれは、空想の域を出ません。)
私は、宇宙に元々意志が存在したのではなく、生物の発生とともに、それまで存
在していなかった「意志」という全く新しいものが、この宇宙に発生したのだと思う
のです。
それこそ、「生物」や「意志」の発生は、ビッグバンの発生に匹敵するほどの、非常
に類い希な、全く新しい現象だと思うのです。
なぜそう思うのかと言えば、生物を実験によって作ることが出来ないからです。
素粒子や原子、分子、そしてアミノ酸などの有機物までは、実験で作ることが出来
ます。しかし生物は、現在においてもなお作ることが出来ません。ここに、大変に大
きなギャップを私は感じるのです。
分子生物学が発達し、DNAの構造が解明されても、単なる物質と生命との間に
は、現在でもなお、大変に大きな隔たりがあります。
現在、確かに言えることは、「この宇宙に、生物の発生を禁止する物理法則は存在
していなかった」と、いう所までだと思います。
生物の発生を禁止するような、時間的、空間的、物質的な物理法則が存在してい
なかった。だから、この宇宙に生物が発生する可能性は否定されていなかった・・・。
ここまでは確かです。しかし、「ビッグバンの当初から、生命を作る意志が宇宙に
存在していた!」とは、とても私には思えません。
例えば、全く同じ初期状態のビッグバンをもう一度くり返せば、素粒子や原子、分
子、有機物までは、当然のように再び出来ると思います。
しかし生物の場合は、全く同じ初期状態のビッグバンを、何千回、何万回くり返そう
とも、再び誕生する保証はどこにもないと思うのです。
「単なる物質」と「生命」との間には、それほどの大きな隔たりを私は感じるのです。
(これもひとえに、生物が実験で作れないから、そう思うのです。)
我々の宇宙に「生命」が誕生したのは、否定の出来ない事実です。
しかし、生命誕生のメカニズムは、とても入り組んでいて複雑です。だから、無意識
的、無目的に生命が誕生したとは、とても思えません。
そのため、宇宙には生命を誕生させる自発的な働きや作用、つまり「意志」が働い
ているはずだと、考えがちになります。
しかし、この宇宙に「生命」が誕生したのは、何千回、何万回のビッグバンをくり返し
ても再現できないほどの、非常に類い希な出来事なのかも知れません。
我々の住む宇宙は、それほどまでに「類い希な宇宙」なのかも知れないのです。
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