COP15 その3 2009年12月20日 寺岡克哉
12月19日に、COP15が閉幕しました。
当初の予定では、最終日が12月18日だったのに、それが19日まで
延びたことがまさに、
COP15における議論が紛糾し、暗礁に乗り上げ、ものすごく難航した
ことを、
如実に物語っています。
しかしそれでも、
「コペンハーゲン協定」と呼ばれる政治合意が、何とか「承認」される
ことになりました。
(全会一致が原則である、正式な「採択」には、なりませんでした。)
世界各国の代表者たちが、意見や主張をぶつけあい、
ものすごく混迷した状況の中から、何とか政治合意の承認にたどり
着いたのですが、
ここでは、その経過(ドタバタ劇)を、一通り見ていきたいと思います。
さて、
COP15における政治合意(コペンハーゲン協定)は、およそ次のような
流れによって、作られてきました。
12月11日 特別作業部会 議長案の提示(政治合意案の正式提示)。
12月13日 44ヶ国による、非公式の閣僚級会合。
12月14日 約190ヶ国による、非公式の閣僚級全体会合。
12月16日 公式の閣僚級会合。
12月18日 首脳級会合。
12月19日 「コペンハーゲン協定」の承認。
以下、これらについて少し詳しく見ていき、その流れを追ってみましょう。
* * * * *
まず、
前回のエッセイで取り上げた「コペンハーゲン合意案」は、デンマーク政府
が事前に作成していた「非公式」なものでした。
なので12月11日に、
「国連特別作業部会 議長案」というのが、COP15に提示されました。
その要旨を以下に示しますが、
これがCOP15における、その後の交渉のたたき台となった「公式文書」
となります。
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国連特別作業部会 議長案
2050年までの削減目標
世界全体で、1990年比50%減、85%減、95%減の3案。
先進国全体で、1990年比75〜85%減、少なくても80〜95%減、
95%以上減の3案。
2020年までの削減目標
先進国全体で、1990年比25〜45%減、約30%減、40%減、45%減
の4案。
途上国全体は、特に温暖化対策を取らなかった場合にくらべて、約15〜
30%減。
先進国の削減義務
各国の批准手続きが必要な、京都議定書の第2約束期間(※)に削減
目標を明記。
米国には法的拘束力がある削減目標を課す。
途上国の削減
削減計画を登録し、それに見合う先進国の資金や技術を仲介する仕組み
を創設する。
※第2約束期間: 2013〜2017年、あるいは2013年〜2020年
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この作業部会議長案には、「隠された意味」として、以下のようなことが
あるみたいです。
「第2約束期間」として、「京都議定書の延長」が明記されている。
中国など、急激な経済成長をしている新興国に対しては、これまで通り
削減義務を課していない。
日本やEUなどが、目標を達成できなかった場合には、罰則によってさらに
重い義務(さらに多い削減量)を負うのにたいして、
アメリカは削減目標を達成できなくても罰則がなく、事実上、法的な義務
の対象外となっている。
途上国について、温室効果ガス削減量の「測定」や「報告」は、先進国から
技術や財政支援を受けて行う削減分のみを対象にしている。
(途上国が自主努力で温室効果ガスを削減した場合、国際機関報告や
検証の対象にならないので、その国が本当にどれだけ削減したのか、外部
から分からない。)
このように作業部会議長案は、「京都議定書の延長」という意味合いが
色濃く出ていて、
もともと京都議定書に参加していた日本やEUには、厳しい削減義務が
負わされています。
その一方で、
世界全体の40%の温室効果ガスを排出しているアメリカと中国にたいし
ては、事実上、法的な拘束力のある削減義務を課していません。
これでは、「世界全体で意味のある削減」が出来るかどうか、はななだ
疑問です。
当然ながら日本とEUは、この「作業部会議長案」にたいして、受け入れを
拒否する意思を表明し、修正をもとめました。
アメリカも、(中国など)新興国の削減義務が無いなどを理由に、作業部会
議長案に反対しました。
しかしながら新興国は、作業部会議長案に賛成し、これに基づいた交渉
の進展をもとめたのです。
* * * * *
12月13日。
交渉の要になっている先進国や新興国など、44ヶ国の閣僚が出席した、
非公式の閣僚級会合が開かれました。
この会合で、日本やEUなどの先進国は、
「京都議定書では、世界全体の温室効果ガス排出量の、3分の1しか
カバーできていない」
「そのような京都議定書の延長では、温室効果ガス削減の実効性が
上がらない」
として、
中国やインドなどの新興国も、一定の削減義務を負うべきだと主張
しました。
それに対し、中国やインドは、
「温暖化の責任は先進国にある」
「京都議定書の延長で対応するべきだ」
として、京都議定書の延長を反映している、作業部会議長案を支持
しました。
* * * * *
12月14日。
およそ190ヶ国の閣僚が参加した、非公式の閣僚級全体会合が
開かれました。
この時点になると、
「京都議定書の延長」と、
アメリカや新興国が削減を進めるための「新たな枠組み」の、
「2本立て」にする案が出てきました。
日本とEUは、アメリカや中国などを含めた、すべての締約国が入る
「新議定書」をつくることを、これまで目指してきました。
しかし途上国側が、京都議定書の延長を議論しなければ、協議を拒否
すると強硬に主張したので、
日本とEUが歩みより、京都議定書の延長についても、議論することに
同意したのです。
小沢鋭仁 環境相は、新聞記者達にたいして、
「議論を進める必要がある。立ち止まってはいけない」
「(京都議定書から離脱した)アメリカがしっかり入り、中国が削減目標
をはっきりさせれば、京都(議定書の延長)を拒む必要はない」
「アメリカが日本と同等の立場で参加し、新興国も入ってくるのであれば、
(2本立ては)次善の策として可能性はある」
というコメントをしました。
また、
EU議長国スウェーデンの、カールグレイン環境相は、
日本とヨーロッパの受け入れ条件が、
「世界の温室効果ガスの半分(40%)を出している、アメリカと中国が
拘束される合意の形成」
だとしています。
日本の交渉関係者も、
「新ルールが、京都議定書のコピー(同等の内容)であることが前提だ」
「アメリカの義務が日本と違うものになり、日本は京都議定書、アメリカは
新ルールという2本立てはありえない」
と、釘を刺しました。
12月15日。
EU議長国スウェーデンの、カールグレイン環境相は、記者会見で、
「われわれはすべての先進国が参加する法的拘束力のある制度を
求める」
と述べ、アメリカが京都議定書と同等の拘束力のある削減義務を負う
ことを要求しました。
それに対して、アメリカのスターン気候変動問題担当特使は、
「京都議定書のようなタイプの次期枠組みに入ることは考えていない」
と述べ、国際的な削減義務を負うことに、否定的な見解を表明して
います。
* * * * *
12月16日。
公式の閣僚級会合が始まりました。
まず最初に驚いたのは、
デンマークの、ヘテゴーCOP15担当相が、とつぜん議長を辞任した
ことです。
その後は、デンマークのラスムセン首相が、議長を務めることになりま
した。
(ヘテゴー氏は、議長特使という形で、各国との非公式の調整にあたる
みたいです。)
新しく議長に就任した、ラスムセン首相は、
「政治合意」につなげるための、「新議長案」を提示する考えを示し
ました。
デンマークの政府筋によれば、
アメリカや新興国が入ることになる「新しい枠組み」と、
日本やEUが入ることになる「京都議定書の延長」の、
2つの枠組みが並立する混乱を軽減するため、両方をつなぐ政治宣言
的な文章が検討されていたようです。
しかしながら途上国は、その「新議長案」が、先進国に有利になりかね
ないことを警戒し、
中国・インドなどの新興国や、一部の途上国は、新議長案を出すこと
自体につよく反発しました。
会議は難航をきわめ、暗礁に乗り上げてしまいました。
いつまでも「新議長案」が示せないまま、12月16日の討議は終了し、
結局12月17日には、
議長国デンマークのラスムセン首相が、「新議長案」を提出すること
を断念しました。
* * * * *
このように、首脳級会合の前日になっても、政治合意案は何一つ
決まらなかったのです。
そこで急きょ、12月17日の深夜から18日の未明にかけて、「非公式
の首脳級会合」が行われました。
これには、主要26ヶ国の首脳らが集まり、
政治合意の草案を、何とかして「エイヤッ」と作り上げたのです。
そして、この草案に対し、
12月18日の午前から始まった「公式の首脳級会合」において、詰めの
協議が行われました。
しかしながら、やはり調整が難航し、18日の深夜になってようやく、主要国
の首脳が大筋で合意しました。
この時点あたりから、その草案は「コペンハーゲン協定」と呼ばれるように
なりました。
12月19日の未明。
「コペンハーゲン協定」が、COP15の本会議(総会)にかけられました。
しかしながら、草案作成のとき、協議に加わらなかった国々から、
「議論の進め方が不透明だ!」など、多数の不満が噴出しました。
このため、全会一致による正式な「採択」は、断念せざるを得ません
でした。
結局、COP15における最終的な結論は、
「”コペンハーゲン協定に留意する”という決定を、容認する」
というような、ものすごく「あやふやなもの」になってしまいました。
これをもって、COP15は閉幕したのです。
日本政府は、この結論について、「事実上の承認」と説明しています。
* * * * *
このたびCOP15で承認された、「コペンハーゲン協定」の要点は、
だいたい以下のようなことです。
まず、
産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるため、
世界の温室効果ガス排出量を、大幅に削減する必要があることに、
合意をしています。
しかしながら、
2050年までに世界の温室効果ガス排出量を、1990年比で50%削減
するとか、
2050年までに先進国全体で、1990年比で80%削減するというような、
「2050年までの具体的な削減数値」は、盛り込まれていません!
そしてまた、
2020年までの先進国の削減目標も、いまは具体的な数字が盛り込ま
れず、
「来年の1月31日までに、付属書に掲載する(国別目標をリスト化する)」
という表現に留まりました。
途上国については、
国内法などによって削減計画を実行することになり、来年の1月中に、
各国の目標をリスト化します。
削減計画の取り組み状況は、2年に1度、国連を通じて公開されます。
先進国からの資金援助によって行われた温暖化対策については、
国際的な監査や検証をうけることになりました。
* * * * *
この、コペンハーゲン協定・・・
温室効果ガスの削減にたいして、何とも貧弱な内容になってしまい
ました。
COP15での交渉決裂を、何とかして回避するのが、精一杯だった
という感じです。
しかしそれでも、
交渉が決裂してCOP15が失敗し、世界中がまったく混乱した状態に
なるよりは、
よほど良かったのだと思います。
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