COP15 その2 2009年12月13日 寺岡克哉
COP15は、世界の温室効果ガス削減にとって、ものすごく重要な会議
です。
だから世界の科学者たちも、COP15にむけて「最新の科学的な知見」
をまとめ、
地球温暖化の「最新状況」をひろく知ってもらおうと、精力的に頑張って
来ました。
たとえば、
IPCCに関与している第一線の科学者たち26人は、2007年の第4次
報告書以降の、最新の研究結果をまとめて発表しました。
それによると、2008年の化石燃料にともなう二酸化炭素の排出量は、
1990年にくらべて40%増加しており、
「このままのペースが続けば、今世紀末の気温上昇が、最大で7℃
になる可能性がある!」としています。
また、南極やグリーンランドの氷床の縮小も、IPCCの最悪シナリオを
上回るペースで進んでおり、
「今世紀末までの海面上昇は、1メートル超か、最悪の場合は2メー
トルに達する!」としています。
また、これより先に、イギリス気象庁のハードレーセンターは、
温室効果ガスの排出が、いまのペースで進んだ場合、
2050年代半ばまでに、世界の平均気温が4℃上昇する可能性
がある!
という、研究結果を発表しています。
さらには、
日本の「海洋研究開発機構」と、カナダの「海洋科学研究所」との、
共同研究チームの調査により、
アラスカ沖の北極海で、貝の殻が溶けてしまうほど、「海洋酸性化」
の進んだ海域が見つかっています!
このように、
地球温暖化の実情は、当初の予想をはるかに超えて、
どんどん悪化しているのです!
そして今月の8日、
COP15の会場においても、国連の世界気象機関(WMO)が、
「この10年間の平均気温は、観測史上最高であったことが、最新
の地球温暖化データから判明した!」
という発表をしました。
2009年の平均気温も、系統的な気温観測が始まった1850年以降で、
5番目の高い水準になることが、速報値として発表されました。
2009年は、寒冷だった北アメリカを除くと、世界の大半の地域で気温が
高くなり、
南アジアや中国、アフリカなど多くの地域で、観測史上最高の平均気温
を観測しているのです。
また、2009年は「異常気象による自然災害」も多発しました。
2月にオーストラリアを襲った熱波では、400件もの山火事が発生し、
8月には、台湾史上最悪の死者を出した、猛烈な「台風8号」が発生
しました。
さらには、アフリカ西部のブルキナファソで、大規模な洪水が発生し、
被災者が15万人以上に上りました。
ところで・・・
近年は、「太陽活動」が停滞期に入っています。つまり太陽活動が、
あまり活発ではありません。
しかし、それなのに、
平均気温の高い状態がつづき、それによる異常気象の自然災害
が、多発しているのです。
このことが正に、地球温暖化がすごく深刻な状況であることを、
明確に物語っています!
* * * * *
そのような現状の中、
COP15の議長国であるデンマークの政府は、何とかして世界における
「政治的な合意」を作り上げるために、
「コペンハーゲン合意案」というのを、非公式にですが、事前に作成して
いました。
その内容は主に、
産業革命前にくらべて、気温上昇を2℃以内に抑えることを目指す。
2050年までに世界の温室効果ガス排出量を、1990年比で50%
削減する。
2050年までに先進国全体は、1990年比で80%以上の削減を
めざす。
2020年までの、先進国における国別の削減目標は、空欄。(合意の
付属書に、それぞれ国の目標値を書き込むことになっている。)
途上国全体の排出量は、温暖化対策をやらなかった場合にくらべて
2020年までに削減する割合や、排出量が削減に転じる年(ピーク年)
を明記する。(そのような段落が設けてある。)
と、いうものです。
しかしながら・・・
これに対して途上国側が、「先進国の考えを代弁し、公正さを欠く」として、
反対の意を表しました。
COP15が始まる前に、中国、インド、ブラジル、南アフリカの新興4ヶ国
は、すでに反対する方針を表明していましたが、
COP15が開かれてからも、
「議長国の役割は、不公平な文書を勝手に出すことではない」
「デンマークの首相は功を焦っている」
(途上国の77ヶ国グループを代表する、スーダン政府代表)
「受け入れ不能」 (インドのラメシュ環境相)
「途上国に対して温室効果ガス排出量の”ピーク年”を設定する部分が
不公平だ」 (中国の代表関係者)
などのコメントが、記者会見で出されました。
しかも、デンマーク政府による「コペンハーゲン合意案」が、事前に提示
されていたのは、
日本をふくむ主要8ヶ国(G8)と、中国やインドなど一部の途上国(新興国)
だけでした。
その結果、「事前に知らされていなかった途上国」からも、不満の声が
上がることになったのです。
そのため、気候変動枠組み条約 事務局長のデブアさんが、
「COP前に各国の意向を聞くために、かなりの人数に配布された
非公式文書だ」
「公式な文書は、COP15の議長らが締約国の要請を受けて提示
するものだけだ」
という声明を発表し、「火消し」に苦労することになりました。
* * * * *
しかしながらまた、
発展途上国側の意見や考えも、けっして「一枚岩」という訳では
ありません!
たとえば、海面上昇で沈んでしまいそうな、小さな島国のツバルは、
政治合意とは別に、一刻も早く「新議定書」への本格的な議論を行い、
温暖化対策の強化を求めています。
そして今までに提出されていた、5つの「新議定書」について議論する、
専門のグループを設置するように要請しました。
このツバルの要請には、ソロモン諸島やクック諸島、セネガル、ケニア
なども、相次いで賛意を示しました。
しかし、それに対して、
温室効果ガスの削減義務を途上国に課していない「京都議定書の延長」
を主張する、
中国やインド、サウジアラビアなどの新興国や産油国によって、ツバルの
要請が拒否され、協議が一時中断してしまったのです。
中国政府は、12月9日の記者会見で、
「国際ルールとしては、すでに条約も議定書もある」
「島民や最貧国の懸念は理解するが、必要なのは新ルールではなく、
先進国の行動だ」
と、述べています。
それらを受けて、ツバル島民の人たちがCOP15の会場に詰めかけ、
デモを行いました。
「島の人々の声を聞いてくれ!」
「島民として、途上国が自分達の国や財政のことしか考えていない
のは残念です」
「こういった国は、島国が生き残れるかどうか無関心です」
などの声が、デモに参加した人々から発せられています。
このように、途上国側の意見や考え方も、
海に沈んでしまう「小さな島国」や、国が立ち直れないほど重大な被害
をうける「最貧国」と、
これからも大きな経済発展をめざす「新興国」や、今後も石油を売り
つづけたい「産油国」とで、
大きく二つに分かれてきました!
* * * * *
ところで中国は、先進国にむけて「批判的な発言」をしています。
中国政府代表団の、蘇偉 副団長は、12月8日に記者会見を開き、
アメリカの2005年比17%削減について、「目立ったものでもないし、
注目に値するものでもない」。
EUについては、
「1990年比20%という削減目標は、自画自賛するほど野心的でも、
実があるわけでもない」。
そして、日本の1990年比25%削減に対しては、
”すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意”という前提条件が、
「実現不可能な条件であり、なにも約束していないに等しい」
と批判しました。
これに対して、EUも記者会見で、
中国の「GDPあたりの二酸化炭素排出量を、2005年比で40〜45%
削減」という目標について、
「いまの高い経済成長がつづくとしたら十分とは言えない」
と、指摘をしています。
また、12月8日の記者会見で、中国の蘇偉副団長は、
先進国がほぼ合意している、2012年までの毎年100億ドル(およそ
9000億円)の途上国支援にたいして、
「途上国1人あたり2ドル未満。デンマークではコーヒー1杯ぶん」
だと、皮肉りました。
このことに関連して、
アメリカのスターン気候変動問題担当特使は、12月9日の記者会見で、
地球温暖化対策としての、途上国への資金協力について、
「中国に(資金が)渡るような、公的基金の拠出は想定していない」
と述べ、最貧国支援が中心であることを強調しました。
* * * * *
このような、まったく混沌とした状況の中、
日本はCOP15で、一体どんな態度を表明するのでしょう?
それについては、12月11日に首相官邸で開かれた「閣僚委員会」
によって決められ、
以下のようになっています。
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産業革命以来の気温上昇を2℃以内に抑えるため、2050年までに
世界全体の温室効果排出量を半減させ、
先進国が80%削減するといった目標を、政治合意に盛り込むことを
支持する。
2020年までに温室効果ガスを、1990年比で25%削減すると
いう日本の中期目標は、
アメリカや中国などすべての主要排出国が意欲的な目標を約束
することを前提条件として、COP15の「政治合意文書」に盛り込む。
排出量が急増している中国などの新興国には、先進国と同様の削減
義務は求めないが、
なにも対策を取らない場合より、排出量を減らすなどの数値目標を各国
が宣言し、実施状況を検証する仕組みをつくることを求める。
アメリカや中国に削減義務がない「京都議定書」を、部分的に修正
したとしても、日本は25%削減をふくむ数値目標を書き込まない。
途上国支援の「鳩山イニシャチィブ」に関しては、交渉の経過を見ながら
発表する。
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これらを決めた、閣僚委員会後の記者会見で、小沢鋭仁 環境相は、
COP15で実現を目ざしている「政治合意」では、25%削減という目標
そのものを(15%削減などに)変える話は「ありえない」
「アメリカと中国が入っていない、(京都議定書の)延長は意味がない」
などの、コメントをしました。
* * * * *
以上、ここまで見て来ましたように、
さまざまな国が、いろいろな意見を主張して、まさに「騒然」となって
います。
こんな状態でCOP15は、一体どんな「政治合意」をするのでしょう?
しかも、最初で話したように、
地球温暖化による影響は、どんどん悪化しているのです!
12月12日には、COP15が開かれているコペンハーゲンで、
温室効果ガスの大幅な削減をもとめる、NGO(非政府組織)などに
よって、
3万〜10万人が参加したと見られる、すごく大規模なデモが
行われました!
一部のデモ隊と、警察官との間で衝突がおこり、およそ1000人の
身柄が拘束されています。
参加者は、
「法的拘束力のある合意を求める!」
「われわれには温暖化問題を解決する力がある!」
「今こそ行動するときだ!」
などと語り、世界の指導者たちに、野心的な削減目標で合意する
ように求めました。
もはや温暖化対策は、ほんとうに「待ったなし」の状態です!
コペンハーゲンで、すごく大規模なデモが起こったのも、
多くの人々がもつ、「とても大きな危機感」の現れなのでしょう。
COP15によって、ぜひとも「意味のある政治合意」がなされるように、
私も心から願ってやみません。
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